宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型

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ルナツー入港

マゼラン級 パラマウン

この戦艦の上にザクⅡを着陸させようとしたが、上手く行かず激突してしまった。幸い速度は出ていなかったから良かったが、モビルスーツの動かし方がまだ完全とは言えない事が良く分かった。俺がザク3機撃破出来たのは運が良かっただけだったのだと。

そして、モビルスーツから降りると味方から銃を向けられた。まあ、気持ちは分からんでも無い。敵の兵器を扱ってた人間を信じる奴なんて居ないだろうし。この後直ぐに艦長の場所まで連れて行かれた。

 

「さて、シュウ・コートニー一等兵だったな。あのモビルスーツを何処で手に入れた?そして何故操縦出来た?」

 

「えっと、ルウムでの戦闘でセイバーフィッシュが被弾。その後気を失いました。しかし、ジオン軍の輸送艦を発見。これに乗り込むとモビルスーツが有りました」

 

「ほう、続けてくれ」

 

「コクピットの中にこのメモ帳が有りました。そこに操縦方法が記載されてます」

 

「ふむ。随分と上手い話だな。君の所属部隊も調べた。確かに地球連邦軍第1連合艦隊第27機動戦隊は記録上存在していた」

 

「存在していた?…まさか」

 

「残念ながら、君を残して全滅した。恐らく母艦のコロンブスも駄目だろう」

 

全滅…隊長と仲間達は死んだ。正直信じられない。これが戦争、これが…正義?

 

(戦争に正義なんて無い。有るのは悲しみと憎しみだけだ)

 

一年近く共にして来た部隊が無くなった。しかし、ショックを受けてる暇は無かった。

 

「君によって我々は助かった。だが、君の疑いは晴れた訳では無い」

 

「疑い?一体何の疑いが?」

 

「君がジオンのスパイの可能性があると言う事だ。敵の兵器を扱ってた時点で怪しいのだ。まあ、着艦は上手く出来て無かったみたいだが。それでも暫くは部屋の中で大人しくしておいて欲しい。無論、君に助けられた事は理解している」

 

反論する暇も無くMPが近寄って来る。唯、無理矢理な感じは無かった。まあ、優しい内に大人しくしておくのが利口だな。

 

「御飯はちゃんと来ますか?」

 

「勿論だとも。デザートも付けておこう」

 

「なら大人しくしてます」

 

正直一人になりたかったのはあった。仲間が死んで、所属艦隊の敗北。これから先の見通しが出来無い不安。そして、モビルスーツに乗った時の全能感。圧倒的な力を扱った高揚感。様々感情が渦巻いており整理したかったからだ。

 

(正義と言う言葉に素直に頷けば楽になるんだろうな)

 

そんな事を考えながらMPに連行されて行くのだった。

 

……

 

シュウが居なくなった艦橋で艦長のバリスは深く溜息を吐いた。

 

「艦長、コーヒー淹れましょうか?」

 

「ああ、頼む」

 

「艦長は彼が本当にジオンのスパイだとお考えで?」

 

副長がバリスに聞く。

 

「まさか。スパイにしては雑過ぎる。それに、こんな死に体の艦に乗り込むにはリスクが高過ぎる。彼が着艦する際手こずっていただろ。モビルスーツを操縦した事が無いのだろう」

 

「しかし、彼はモビルスーツに乗りザクを3機撃破してました」

 

「あの動きはセイバーフィッシュの機動とほぼ同じだった。つまり、彼はモビルスーツに乗りながらもセイバーフィッシュと同じ様に動かしていた。まあ、最後の反転攻撃は見事と言えるな」

 

バリスはメモ帳を見ながら呟く。

 

「AMBAC…か。モビルスーツだからこそ出来る機動だな」

 

「ですが、あの動きはかなり危険ですよ。私も昔は空軍にいましたから分かります」

 

「危険?」

 

「はい。身体に掛かるGによる負荷が大き過ぎます。あの高速機動から一転して反転するなど、自殺行為です」

 

副長は自身のパイロットとしての体験から答えを導き出した。

 

「だが、彼は平然としていたが?」

 

「それが分かりません。余程身体と内臓関係が強いとしか言えません」

 

副長は納得出来無い表情で首を傾げる。

 

「兎に角、彼の処遇はルナツーに着いてからだ」

 

バリスは緩くなったコーヒーを飲み顔を顰めるのだった。

 

……

 

艦隊がルナツーに向かう途中数回ジオンと遭遇したが、脇目も振らずにルナツーに向けて逃げていた。そして、遂にルナツーに到着した。ルナツー周辺にはマゼラン級やサラミス級が多数駐屯していたし、セイバーフィッシュやトリアーエズも周辺警戒の為多数出撃して行く。

 

「遂にルナツーに到着か。結局デザートも一日分しか来なかったし」

 

俺は一つの部屋に閉じ込められていた。しかし、この待ってる間暇だった為メモ帳を読んでいた。駄目元でメモ帳を読みたいと言ったら許可が降りたのだ。スパイ疑惑があるのに良いのかな?

ルナツーに着くと早速尋問を受ける事になった。

 

「さて、シュウ・コートニー一等兵。嘘を言えば君の為にはならん」

 

「分かりました」

 

この後尋問は続くが、スパイでは無いので素直に答える。ザクⅡは敵の輸送艦から手に入れた事。そこでメモ帳を見つけた事。ザクⅡに乗ったと言ってもセイバーフィッシュと同じ様に動かすしか無かった事。

 

「成る程な。君の経歴も調べさせて頂いた。だが、怪しい所は無かった。それに、バリス艦長以下数名の者達から署名も来ている」

 

「署名?」

 

どうやら、あの艦隊を助けたのは無駄では無かった様だ。まさかこんな形で助かるとは思わなかったけど。

こうして茶番の様な尋問は終了する。結局俺の処遇は無罪という形に収まった。因みにメモ帳は回収されてしまった。そして、ほんの僅かであるがひと時の安らぎを得る。

 

「これから先、どうなるんだろう?」

 

漆黒の宇宙に浮かぶ多数の戦艦や戦闘機を見ながら呟くのだった。

 


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