あんなモビルスーツが居るなんて初めて知ったわ。
ジオン公国残党軍が撤退して行く中、俺達は味方の救助に移行して行く。しかし、この時残党軍の追撃をするか否かを士官達は決め兼ねていた。
「でしたら、僕達第217パトロール艦隊にお任せ下さい。必ずや敵を撃滅して見せます」フワァ
モニターを通して父親であるスタンリー准将に追撃をする事を伝えるアーヴィント少佐。しかし、話は上手く進まない。
『おお、アーヴィントよ。良く其処まで成長した。父さんは嬉しいよ』
スタンリー准将は満足そうな表情をする。例え今がまだ警戒中で有ろうとも、父親として唯一の後継者が立派になったのは嬉しい物が有る。しかし、スタンリー准将は直ぐに表情が硬くなる。
『先ずは結論から言おう。残党軍の追撃は我が艦隊の一部を差し向ける。第217パトロール艦隊はこのまま先導せよ』
「しかし、このまま敵を見逃す訳には。それに我艦隊にはエースが居ります。必ずや」
続きを言おうとする時、スタンリー准将は手を挙げて止める。
『それだよ。エースは敵にも居る。私はね、その危険極まりない所にお前を行かせるつもりは無い。よって第217パトロール艦隊は当初の任務に付く様に。これは…命令だ』
軍人より家族を取るスタンリー准将。それは軍人として間違っては居る。だが人として、家族として危険な場所に行かせたくは無いと思うのは間違いでは無い。
「父上…了解しました。これより当初の任務を遂行します」
『うむ。だが安心したまえアーヴィント少佐。観艦式が終われば残党軍の本格的な討伐がおこなわれる。その時は貴官の働きに期待する』
そして敬礼をした後、話は終わり通信が切れる。それと同時に溜息を一つ吐くアーヴィント少佐。
「やれやれ、父上の心配性には困った物だね。さて、それでは我々は任務を遂行するとしよう」
アーヴィント少佐は自身の艦隊に先導の指示を出す。考えてみれば観艦式が終わる時、それは残党軍の終わりを意味する。そんな中、今此処で戦力を分散する事も無い。
(しかし、残党軍は何を考えて攻撃を仕掛けたかだ。やはり2号機の核を観艦式に撃ち込むつもりか?しかし…)
若干の不安を覚えつつも艦隊に指示を出して行くのだった。
……
「そうか。追撃の連邦艦隊の一部のみか」
「はい。大多数はそのままソロモンに向かって行きます」
ベルガー少佐はムサイ級の艦橋から宇宙を見つめながら報告を聞く。
「だが、連邦に打撃を与える事は出来た。ならば我々の役目は星の屑作戦の成功に全てを尽くすのみ。各艦に通達しろ。我が艦隊は敵追撃艦隊を迎撃した後、本隊と合流する」
「了解。直ちに通達します」
通信兵が味方に通信を繋げる。しかし、ベルガー少佐は未だ別の事を考えたいた。
(星の屑成就の時、それは貴様も死ぬ時だ。覚悟しておく事だ…シュウ・コートニー)
ベルガー少佐は静かな宇宙を見続けながら内なる憎悪を燃やして行く。
……
「俺達は追撃は無しですか」
「はい、私達はこのままコンペイトウに向かいます」
ルイス少尉から今後の艦隊行動を聞く。てっきり追撃を行う物だと思っていた。
「なら私達は暫く休めるわね」
「そうですね。正直今回の相手はかなりの手練れでしたし。シュウ中尉が居なければどうなってた事やら」
「おいおい、そんなに煽てるなよな」
しかし、そんな中ルイス少尉の様子が少し可笑しい事に気付いた。何やら考え込んでる様に見える。
「ルイス少尉、何やら考えてますがどうしたんですか?」
「あ、いえ。唯…少し気になる事が有りまして」
「気になる事?それは一体」
レイナ大尉が理由を聞く。そして、ルイス少尉の気なる内容は決して小さくは無かった。
「現在ジオン公国残党軍の動きが活発化してます。そして先日のエギーユ・デラーズの宣戦布告。更にガンダム2号機の存在。残党軍の目的は間違い無く観艦式での核弾頭による攻撃です」
ルイス少尉の言う通りだろう。誰もが理解してる事だ。観艦式には地球連邦宇宙軍の大半が参加する。正に地球連邦軍の威信に掛けて必ず観艦式は行うだろう。
「しかし、それは誰でも予想が付きます。ですが、エギーユ・デラーズがそんな単純な事で宣戦布告をするなんて有り得ません」
「エギーユ・デラーズ…どんな人物何です?ルイス少尉が其処まで危険視するなんて余程の人物だと理解出来ますが」
「私も分からないわね。ほら、私士官学校で一番下だったし!」
「いや、胸張って自信満々に言わないで下さい」
そんな俺達にルイス少尉は嫌な顔せず説明してくれた。
エギーユ・デラーズ。元ジオン公国軍所属。階級は大佐。ア・バオア・クー攻防戦では統一軍総帥直属艦隊司令になっていた。優れた戦術家で有り軍政家でも有った。正に知将と評されても間違いは無い程の人物だ。
しかし、そんな彼には別の評価が有る。一部の連邦士官からは【ギレン・ザビの亡霊】と評される程、ギレン・ザビに絶対の忠誠を誓ってる程だ。又狂信的なジオニストで有り危険人物でも有る。
「まあ、狂信的な奴は大抵危険人物だって相場で決まってるよな」
行き過ぎた思想は周りに被害を出す。そして周りや身内から危険視され排除される。
「エギーユ・デラーズが危険人物だと分かりました。しかし、それがどうしたんですか?」
「ウィル少尉、少し考えてみろ。戦術家で軍政家、そんな人物が観艦式に核弾頭を使ってお終いな訳が無い。そうですよね?」
「はい。シュウ中尉の言う通りです。余りにも分かり易い流れに不安を覚えます。まるで、私達は誘導されてる様な気がしまして」
ルイス少尉は不安な表情になる。だからルイス少尉の肩に手を置き話す。
「ルイス少尉が不安なのは分かりました。なら、不安が解決するまで俺が皆んなを守ります」
「シュウ中尉…そ、その」
「だから安心して先の事を考えて下さい。その間必ず俺が守りきりますから」
ルイス少尉を安心させる為に言う。しかしルイス少尉は顔を伏せてしまう。そして、顔を上げると真っ赤になっていた。
「ふ、不束者ですが、よ、宜しくお、お願いしまゃふ!」
そう言って背を向けて何処かに行ってしまう。
「あれ?ルイス少尉…行っちゃった」
「うわー、流石シュウ中尉だ。口説き文句も決まってる」
「口説き文句?別に口説いては…」
しかし、よくよく先程の言い方を思い返すと口説いてる様にも思える。その時、俺の尻に衝撃が走る。其方を見るとレイナ大尉が蹴りを入れていた。
「痛!な、何するんですか!」
「ふん!何だかんだでシュウはルイス少尉に甘いんだから。私にも甘くしなさい!これは上官命令よ!」
「どんな上官命令ですか。それに、別に甘くしては無いですよ」
「ふ〜ん、どうだか。無自覚なら尚更達が悪いわね。やっぱり私にも甘さを提供しなさい!」
余りに理不尽な命令に反論するがムクれてしまう。
「レイナ大尉、貴女は子供ですか」
「ふふん。私の精神面の若さを舐めない事ね!」
「うわー、中尉の言葉が全くもって効果が無い」
俺達は何時もの日常に戻る。大切な仲間達との生活。それはとても心地良く安心する。しかし、それは不安を押し潰す為なのかも知れない。
ジオン公国残党軍はガンダム2号機と核弾頭を強奪した。そして、核弾頭の矛先は間違い無く観艦式だ。しかし、それ以外の目的が有るかも知れないと考えると不安を覚えるのだから。
宇宙世紀0083.11月4日。地球連邦宇宙軍第217パトロール艦隊、地球連邦宇宙軍コンペイトウ所属第45機動艦隊は宇宙要塞コンペイトウに到着。
「此方、地球連邦宇宙軍第217パトロール艦隊。旗艦ロイヤル。入港許可されたし」
『此方管制塔。第18番ゲートを解放します。無事の航路お疲れ様でした』
「うむ、有難う。艦を18番ゲートに」
「了解です」
アーヴィント少佐は艦橋から見える多数の地球連邦艦隊を見る。このコンペイトウ周辺に居る艦隊の殆どは観艦式に参加するのだ。正確に言うなら地球連邦宇宙軍の大半が参加する訳だ。だから、まだ後からコンペイトウに来る艦隊も含めれば途轍も無い数になる。
「アーヴィント艦長、一つ提案が有りますが宜しいでしょうか?」
「ん?ルイス少尉か。どうかしたかね?」
「はい、現在ジオン公国残党軍の動きはエギーユ・デラーズの戦線布告により活発しています。其処で私達は周辺警戒をするべきかと。また我々の殆どは実戦経験者です。臨機応変な対応は他の部隊より優れています」
ルイス少尉の提案に成る程と思うアーヴィント少佐。しかし、恐らくそれは叶わないだろうと考えていた。
「その事に関しては僕も考えなかった訳では無いさ。唯、許可は降りないだろうねぇ」クルクル
現在、第217パトロール艦隊はスタンリー准将の指揮下にいる。そして父でもある人が出撃許可を出すとは到底思え無いからだ。それより観艦式参加を言い渡されるだろう。
「大丈夫です。私の言う通りに言えばきっと許可は降ります」
この時のルイス少尉の笑顔は自信満々で有ったのは間違い無かった。
……
アーヴィント少佐は父親であるスタンリー准将の部屋で話をしていた。
「おぉ…そこまで私の事を思っているのか」
「はい。地球連邦軍を守る事、それは即ち父上を守る事になります」
スタンリー准将は感激の余り両手で目元を隠す。
「私の息子がこんなにも立派になって。うんうん、良かろう。観艦式中の警戒任務を与える。だが、今直ぐにとは行かない」
「それは何故ですか?」
「数日後にワイアット大将率いるルナツー方面軍第二守備隊が到着する。その時私と共に出迎えと挨拶に来て貰う」
「成る程。了解しました」
アーヴィント少佐は少し緊張した表情になる。そんな息子の姿を見て軽く笑みを浮かべるスタンリー准将。
「そう緊張する事は無い。お前の顔を覚えて頂く事が一番の目的だからな」フサァ
そしてアーヴィント少佐とスタンリー准将との会話は親子としての会話になって行く。そしてスタンリー准将はレイナ大尉との関係に付いて軽く聞くが、アーヴィント少佐は中々良い表情を示さない。
「成る程な。私も母さんとの恋物語も中々波乱万丈な物だった。そう、あれは初めて出会った時だった」
(不味いな。これは2時間コースに成りそうだ)
当初の目的を達成したが、まさか自身の親の恋愛話を聞かされるとは想定して無かった。アーヴィント少佐の戦術眼は中々の持ち主だが、父親に対する予想はダメだった様だ。こうして約2時間余りに渡るスケール感抜群の恋愛ストーリーを聞かされるのだった。