「ガルム2よりロイヤル。其方は無事か?」
『此方ロイヤル。幾つか被弾した為、機関を一時停止してます。ですので此方は身動きが取れない状況になります』
「了解した。敵の足止めはする。其方も急いでくれよ」
ルイス少尉と通信してる間にも敵モビルスーツは迫って来る。
『護衛機は1機だけだ。マルク、俺に続け』
『了解。足が速い様だが、たった1機で来るなんて無謀な奴だ』
ドム2機が此方に迫って来る。お互いの武器の銃口が向かい合う。
「艦隊には近付かせ無い。絶対に」
『直ぐに片付ける!』
同時に銃口から火が噴く。
『味方機を援護。しっかり当てて行けよ。撃ち方始めえええ!』
味方艦隊からの艦砲、ミサイル群が敵に放たれる。多数のビームやミサイルからの弾幕を潜り抜け様とするジオン公国残党軍。そして、遂に観艦式が始まる。
地球連邦軍が威信を掛けた観艦式。そして戦いは終盤へと向かう。誰もが自身の思想を具現化させんが為に。
……
各防衛エリアにて地球連邦軍とデラーズ・フリートが交戦してる中、遂に地球連邦軍は観艦式を敢行する。最新鋭と呼べる準ペガサス級、近代化改修を施したサラミス改級、マゼラン改級。そして艦隊戦を重点に置かれて製造され、今回の観艦式にて観閲旗艦を務めるバーミンガム。そして、観艦式の中にはマゼラン改級グレイトも参加していた。
「間も無く観艦式が始まります」
「うむ。しかし残党軍が活発に動いてる様だね」クルクル
「はい。各防衛エリアで小規模ですが多数戦闘が勃発。また、Cエリアでも戦闘が起こってるとの事です」
「そうか。だが、アーヴィントなら無事だ。何故なら優秀な指揮官に成長したのだからね」フワァ
スタンリー・アルドリッジ准将は副長の言葉を聞きながら問題無いと言い切る。そして観艦式が始まるのと同時にグリーン・ワイアット大将の演説が始まるのだった。
《宇宙世紀0079、つまり先の大戦は人類にとって最悪の年であった。この困難を乗り越え、今また三年ぶりに宇宙の一大エージェント、観艦式を挙行できる事は地球圏の安定と平和を具現化したものとして慶びに堪えない》
演説は戦闘中の所にも伝わる。
「畜生!こちとら戦闘中なんだよ。呑気に演説なんてしやがって!」
ドムから放たれたバズーカを宙返りしながら回避。そしてそのままカウンターでロング・ライフルで反撃する。
『な、何ぃ!がっ!?』
此方の反撃に反応出来ずコクピットに直撃する。そしてパイロットはドムと共に爆散する。
「ガルム2よりガルム1。其方の状況は?」
『こっちは今艦隊と合流したわ。今から其方の援護に向かう』
「了解。こっちは敵さんが多いですからね。気を付けて下さいよっと!」
ザクの攻撃を回避しながら反撃する。しかし敵も手練ればかり。そう簡単に当たってはくれない。
『此方機関室。修理完了しました。但し、70%の出力で抑えて下さい』
「良くやった。機関始動、回避行動を取りつつ戦線に復帰せよ」
ロイヤルの機関も直り動き出す。しかし旗艦が動き出すのを黙って居る程ジオン公国残党軍の兵士達は甘くは無い。再び旗艦に狙いを付け始める。だが、そんな彼等にジム・カスタムFbが突っ込んで行く。
「俺の母艦に近づかせる訳には行かないんでな」
そう一言呟きながらロング・ライフルを撃つのだった。
……
《その観艦式は地球暦1341年、英仏戦争の折、英国のエドワードIII世が出撃の艦隊を自ら親閲したことに始まる》
『歴史ある艦隊と名を連なれるつもりか!』
『傲慢な連邦共め。間も無くガトー少佐が貴様等鉄槌を下す。その時迄の優越感に浸るが良い』
演説を聞き不快感を隠す事の無いジオン公国残党兵。その中には黒い高機動型ザクが居た。
「…不愉快だな」
ベルガー少佐は一言呟き通信を切る。そして目の前のジム改をザクマシンガンで破壊する。
『こ、こんな旧式にッ!?』
『たかがザク相手に何梃子摺ってんだよ!』
もう1機のジム改が90㎜ブルパップマシンガンで反撃する。しかし、その攻撃を全て紙一重で回避して行く。
『こ、此奴!何でこっちの攻撃が当たらないんだよ!?』
ジム改は後退しながらシールドを構えて防御姿勢を取る。しかし、ベルガー少佐は機体を加速させビームナギナタでシールドごとジム改を斬り裂く。ジム改のパイロットは悲鳴を上げる事なく散って行く。
ベルガー少佐はジム改を見向きもせず地球連邦艦隊に突っ込んで行く。
『敵1機、艦隊に近付きつつ有り』
『各艦、迎撃用意。砲撃で叩き潰せ』
サラミス改の砲塔がベルガー少佐に狙いを付ける。それに気付いたベルガー少佐はオープン通信に切り替える。
《来い!愚鈍なる連邦共め。この私ベルガー・ディートリッヒが相手になろう!!!》
更にこの通信を聞いたジオン公国残党軍の士気が盛り返す。戦いの中、グリーン・ワイアット大将の演説は続いて行くのだった。
……
スタンリー・アルドリッジ准将はグリーン・ワイアット大将の演説を聴きながら口元に笑みを浮かべていた。
「ふふん。観艦式が成功の暁には何が有るか判るかね?」
「は?そうですね。やはりジオン残党軍の殲滅が行われるかと」
副官の答えにやれやれと言った風な態度を取るスタンリー准将。
「その答えは正解では有るが少し足り無いね」クルクル
そしてスタンリー准将は語り出す。
「この観艦式には大局的な意味が有るのだよ。残党軍を殲滅した後、それは我々地球連邦軍が絶対の正義である事の証明になる」
艦橋から見える艦隊を見ながら語る。いや、彼の目には艦隊等は映っては居ないのだろう。
「残党軍は未だに過去の栄光に縋り続けてる連中に過ぎん。地球圏、引いては宇宙にとって悪となる者共に居場所等無いのだよ」フワァ
スタンリー准将は得意げな表情で自信溢れる言い方をする。
「そうですな。地球圏、引いては宇宙での秩序は我々が守る必要が有りますな」
「その通りさ。観艦式はジオン等と言う下らない思想に縋る連中には良い薬になる。現実を知り己の立場をしっかりと把握して貰いたいものだね」フワッサァ
副官、そして周りに居る士官達もスタンリー准将の言葉に頷く。地球連邦軍の将校達は今後の地球と宇宙の覇権に付いて様々な思想を持っていた。それらの殆どは傲慢とも言える物ばかり。だが、その傲慢と浅はかな思想を一瞬で消し炭にする存在が徐々に近付いていた。コンペイトウの周辺宙域の防衛網は完璧であった。しかし完璧では無かったのだ。それは現場に於けるパイロットの技量の差。数では勝ると言う油断。そして何より確固たる信念を持つ者達とそうで無い者達。これらの様々な要因が戦後最悪とも言える大惨事を迎える。
グリーン・ワイアット 大将の演説が終わり、観艦式は佳境に入って行く。そして地球連邦宇宙艦隊の各艦は自身の位置を確認して、より正確に整列して行く。その時だった。グレイトの艦内に警報が鳴る。
「何事かね?状況を報告せよ」
「はい、モビルスーツ接近。此れは…ガンダム試作2号機です!」
「何だと…?そんな馬鹿な!?何処からだ!!!」
スタンリー准将は信じられないと言う表情をしてオペレーターに怒鳴りながら問う。
「我が艦の正面!真っ直ぐ此方に来ます!」
「撃墜しろ!!!手順は全て無視して構わん!!!防衛部隊は何をしていたか!?」
スタンリー准将には最早形振り構う余裕は無くなっていた。そしてマゼラン改級グレイトから艦砲のビームが放たれる。
「ミサイルの発射はどうなってる!!!急がせろ!!!」
そして近辺に居る艦隊からも順次艦砲射撃が行われる。だが、ガンダム試作2号機には当たらない。
『この様なピケットなぞ!』
ガンダム試作2号機は艦砲による弾幕を抜け艦隊の間に侵入。
「対空砲撃てぇ!!!味方に当たっても構わん!!!」
だが、その間にガンダム試作2号機は艦隊の間を潜り抜けて行く。そして上昇する。ガンダム試作2号機が上昇した時、それは観艦式に参加している地球連邦宇宙艦隊の最後のチャンスでも有り最後の時でも有った。
『待ちに待った時が来たのだ。多くの英霊が、無駄死にで無かった事の証の為に…』
「落とせええぇ!!!早く落とすんだ!!!」
そしてガンダム試作2号機はアトミック・バズーカを展開。その間にも艦砲、対空砲が放たれる。
『再びジオンの理想を掲げる為に。星の屑成就の為に!』
ガンダム試作2号機…アナベル・ガトー少佐は観閲旗艦【バーミンガム】に照準を合わせる。
『ソロモンよ…私は帰って来たあああ!!!』
その瞬間、コンペイトウに居る地球連邦宇宙艦隊は光に照らされる。
「うわあああ!?!?」
「こ、この光はあああ!?!?」
グレイトの艦橋内は最早悲鳴しか無い。そんな中、スタンリー・アルドリッジ准将は呟く。
「アーヴィント…父を……許してくれ」
果たしてその呟きは油断をした結果に付いての謝罪か。それとも先に逝く事への謝罪なのか。だが、その呟きは決して息子には届く事は無かった。そして観艦式に参加して居る地球連邦宇宙艦隊は光に呑み込まれて行く。その光は各防衛エリアに展開している者達を照らして行く。
宇宙世紀0083.11月10日。観艦式に参加していた地球連邦宇宙艦隊は2/3以上が航行不能となる未曾有の大被害を被る。そして多数の戦死者の中にはスタンリー・アルドリッジ准将も居たのだった。
まだだ…俺は、まだ…終わる訳には( ゚∀゚)・∵. グハッ!