宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型
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エギーユ・デラーズの真の目的

俺達第217パトロール艦隊と味方艦隊はC区画での防衛戦を行なっていた。ジオン公国残党軍は手練れは多かった物の、戦力差は此方が圧倒していた。そのお陰か防衛戦は問題無く行えていた。

だが、それは突然だった。C区画に居た者達全てに対し光が照らしたのだ。その光はコンペイトウが有った場所。つまり、観艦式が行われている場所でも有る。

 

「あの光って…まさか」

 

モニター越しに見る光。誰もが戦闘を中断してその光を見る。

 

『そんな、防衛は失敗したんですか?』

 

『嘘…こんな事って』

 

俺達が核の光を見てる間に敵は撤退して行く。

 

『各機、作戦成功だ。これより帰投する』

 

『ガトー少佐はやってくれたんですね!』

 

『だから言っただろ。俺達は勝つってな』

 

意気揚々と撤退して行くジオン公国残党軍。だが彼等に対して追撃をすると言う選択肢は無かった。どの部隊も混乱が生じてしまっていた。そしてロイヤルの艦橋ではアーヴィント少佐が俯いていた。

 

「……父上」

 

誰も言葉を発する事は出来なかった。最早誰もが理解していた。スタンリー准将は観艦式に参加していた。しかし、彼に哀しみに嘆く時間は無かった。

 

『状況を!コンペイトウに居た艦隊はどうなってる!?』

 

『彼処には大量の艦隊が居たんだぞ!こ、こんな事が…』

 

『誰か指示を!俺達はどうすれば良いんだ!?』

 

地球連邦軍の将兵達は混乱の極みに陥ってしまっていた。その声はアーヴィント少佐の耳にも入って来る。そして彼は帽子のツバを掴み位置を整える。

 

「諸君!!落ち着き給え!!」

 

鶴の一声。厳格とした声が混乱して居る味方の思考を抑える。

 

「これより現宙域より離脱。コンペイトウに向かい状況の確認。及び防衛、救助に当たる。全艦コンペイトウに向け進路を取れ!」

 

その声に従う様に味方のサラミス改級がロイヤルを中心にして移動をして行く。アーヴィント少佐は機関室と連絡を取り状況を確認する。

 

「機関室、出力はどうなってる?」

 

『此方機関室。まだ70%が限界です。もう少し時間が有れば修理完了します』

 

「分かった。出来るだけ早く頼むよ」

 

落ち着いた声で言うアーヴィント少佐。だが、受話器を持つ手は震えていたのだった。

しかし、この時誰も予想して居なかったのだ。エギーユ・デラーズの真の目的を。観艦式襲撃とほぼ同じ頃、コロニー再生計画で移送中だった2基のコロニーがジオン公国残党軍シーマ艦隊により襲撃される。更に2基のコロニーを衝突させ、その反動により1基のコロニーが月への落下軌道に入って行く事になる。

 

……

 

コンペイトウの状況は最悪としか言えない状況だった。

 

『第18番ゲートは大破。及びBブロック損害大』

 

『損傷した艦はFブロックに移動せよ。繰り返すFブロックに移動せよ』

 

『此方ナルサス。死傷者多数、又艦の損傷が酷い。誰か救助を』

 

通信からは殆どの部隊は混乱が生じており、泣き声や悲鳴等も聴こえていた。俺達はコンペイトウ近く迄来たが、それ以上先に進む事が出来なかった。何故ならどの港ブロックも損傷した艦で一杯で有り、更に死傷者の数も多く混乱に拍車を掛けていた。

 

「此れが…現実なのか?」

 

この現実を受け入れられない自分が居た。何故ならモニターから見る光景は現実離れしていたのだ。マゼラン改級やサラミス改級は核の熱により溶けていたり、大量の味方艦の残骸が浮いていたからだ。

 

『中尉、俺達どうなるんですか?』

 

「今は警戒態勢を取るんだ。もし敵が此処に来たら更に味方の被害が出る。それを阻止するんだ」

 

『ですが、こんな事って…こんな事って有って良いんですか!?』

 

「落ち着けウィル少尉。お前が錯乱したら誰がこの場を守る」

 

『ッ…。だったら、中尉が守って下さいよ。中尉はエースじゃないですか!だったら中尉が守って下さいよ!?』

 

ウィル少尉は現実離れした光景に耐え切れず叫ぶ。

 

『落ち着きなさいウィル少尉!シュウ中尉だけに全てを任せるつもり?貴方も私達の仲間なのよ。私達は仲間を見捨てない』

 

『じゃあ何の為にエースが居るんですか!エースなら全部任せても良いでしょうに!』

 

その言葉を聞いてレイナ大尉は大声でウィル少尉を怒鳴る。

 

『馬鹿な事言うんじゃないわよ!!!共に戦場に居る以上絶対にそんな事は許さないわ。今貴方が混乱して現実逃避したい気持ちは分かる。だけどね、貴方以上に現実逃避したい人は居るのよ』

 

そう言うとレイナ大尉はロイヤルの方を見る。正確に言うなら艦橋の所だろう。

 

『それでも、仲間の為に現実を直視してるのよ』

 

『大尉…すみません。少し言い過ぎました』

 

『私にじゃなくてシュウ中尉に言いなさい』

 

『はい。シュウ中尉、すみませんでした』

 

「気にするな。お前の気持ちは良く分かってる」

 

ウィル少尉の気持ちは十二分に理解出来る。だから怒る気持ちは無い。俺だって今見てる光景が信じられないのだから。そして俺達パイロットは一度ロイヤルに帰還する事になる。もう何時間もコクピット内に居たと言う事をこの時知ったのだった。

俺達は一度正確な情報が知りたく、艦橋に向かう事にした。その道中、誰も喋る事は無かった。疲労、そして悪夢の様な光景。この状況下で楽しくお喋り出来る余裕は俺達には無かったのだ。艦橋に入室して状況を確認する。暫くするとコンペイトウ司令部より残存艦に対し命令が降る。それはデラーズ・フリートによる月へのコロニー落としの阻止で有った。その為、コンペイトウ司令官ステファン・ヘボン少将率いる艦隊に同行せよとの事だ。

コロニー落とし。これを聞いたアーヴィント少佐は度を超したデラーズ・フリートの所業に握り拳を作る。

 

「奴等は、一年戦争で何も学んでは無いのか。コロニー落としがどれ程罪深い悪行なのか」

 

「コロニー落としですって?そんな事許される訳無いじゃない。絶対に阻止しないと…また、あの悲劇が」

 

アーヴィント少佐は怒りで顔を歪め、レイナ大尉は嘆き悲しむ表情になる。

 

「コロニーが月に落ちたら何万人もの民間人が死んでしまいますよ!」

 

「それだけでは済まないだろうな。だがデラーズ・フリートは俺達地球連邦だけで無く、月に居る人々も敵に回す事になるんだぞ。奴等の目的が理解出来無いな。これじゃあ、唯の殺戮者だ」

 

ウィル少尉は月に居る民間人の安否を心配し、俺は今後の展開を予想するが理解出来ずにいた。

 

「全艦に通達せよ!我々第217パトロール艦隊はコロニー落とし阻止の為ステファン少将率いる艦隊に」

 

「待って下さい!これは罠の可能性が有ります!」

 

アーヴィント少佐はコロニー落とし阻止作戦に参加すると言おうとした時だった。その言葉に待ったの声を掛ける人物が居た。その人は戦術オペレーターであるルイス・エヴァンス少尉だった。

 

「罠?ルイス少尉、それはどう言う意味かね?」

 

「はい。エギーユ・デラーズがその様な単純な事をする筈が有りません」

 

「待って下さい。単純な事って言いましても、現にコンペイトウの被害は計り知れない程出てるんですよ?」

 

「まあ、待てよウィル少尉。先ずはルイス少尉の話を聞こうじゃないか。それから質問でも反論でも好きにすれば良い」

 

俺はルイス少尉の方を見て話を促す。そしてルイス少尉は自身の考察を話し始める。

 

「先ずデラーズ・フリートの目的…エギーユ・デラーズの目的と言っても良いでしょう。それは地球に対するコロニー落としだと推測出来ます」

 

地球へのコロニー落とし。この言葉を聞いた瞬間誰もが顔の表情が強張る。

 

「事の始まりはトリントン基地襲撃によりガンダム2号機と核弾頭の強奪でした。そして私達は誰もが想像し易い方に思考が向きます」

 

「それが観艦式襲撃の事か。だが連中は襲撃に成功し、更にコロニーを月に落とそうと画作している」

 

アーヴィント少佐はデラーズ・フリートの先の行動を予想して言う。だがルイス少尉は首を横に振る。

 

「コロニーは間違い無く月に向かいます。そして、そこから地球に向かうと推測出来ます。いえ、違いますね。地球への軌道進路を取ります」

 

ルイス少尉は確信した言い方だった。だが、それにレイナ大尉が待ったを掛ける。

 

「ちょっと待ちなさい。何故コロニーが地球への軌道進路になると確信出来るの?その根拠は何処に有るの?」

 

「有ります。シュウ中尉はジム・カスタムFbでの機動テストをした際に見えた筈です。私が最悪の状況に行き着いた理由を」

 

「俺が見た?機動テスト中にか?」

 

「はい。月から離れた時見えた筈です。ある装置が…」

 

俺はジム・カスタムFbの機動テスト中の事を思い出す。あの圧倒的な加速。その加速故に身体に掛かるGの重み。嘗ての愛機であった試作ジム改を思い起こす程の素晴らしい。

 

「違います。機体の性能では有りません。周りです。周りに有る施設です」

 

再び思い出す。機体では無く周辺の施設を。格納庫に隕石のクレーターが多数ある地表。そして…大きくて丸い円盤の物と付属している施設。俺もあの施設と装置が何かは知っている。地球連邦軍に所属してる以上重要施設はある程度頭の中には入れていた。だからだろう、ルイス少尉の言葉の意味を理解した瞬間…血の気が引いた。

 

「いや、そんな。だけど、月に内通者が居ると?けど…それ以外は辻褄は合うが」

 

「いえ、内通者は必要有りません。月への落下機動進路を変えるにはアレしか有りません。例え月にコロニーを落としたとしても、私達地球連邦には経済的ダメージを与えられますから」

 

それを聞いて俺は沈黙する。そんな俺に対し更に言葉を続ける。

 

「エギーユ・デラーズ。前にこの男に付いて話しましたよね。それを考えた上で何方にコロニーが行くか理解出来る筈です」

 

全てが理解した。観艦式襲撃も月へのコロニー落としも。全てフェイクだと言う事を。

 

「シュウ、月には何が有るの?教えて」

 

「レイナ大尉、月には…月には」

 

言葉が途切れてしまう。だが、何とか振り絞り言う

 

「推進用レーザー装置が…有ります」

 

その言葉を聞いた全員の表情が一瞬で変わる。そう、誰もが理解したのだ。最悪な状況に有るのだと言う事を。

 

戦いは新たな局面に入る。その戦いの果てに何が有るか。まだ、誰にも分からない。








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