宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型

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夢の中の贖罪

地球へのコロニー落とし。それは現時点では最悪の推測だった。だが、その可能性は非常に高いと言える状況だろう。

 

「ルイス少尉、ステファン少将に通信を繋げてくれ。至急報告したい事が有るとな」

 

「了解しました」

 

そしてステファン少将に通信を繋げる。しかし通信が繋がった時、ステファン少将では無かった。

 

『すまないがステファン少将は現在多忙な状況だ。よって私が話を聞こう』

 

通信に出たのはステファン少将の副官に当たる人物だった。しかしアーヴィント少佐は事の重大差を考え話を進める事にする。

ルイス少尉の推測である地球へのコロニー落とし。そして月と地球の間に艦隊を集結させる事。それらを全て伝える。だが、現実は非情な物で有った。

 

『はぁ、何を言うかと思えば。それは全て推測の域に過ぎん』

 

「しかしエギーユ・デラーズの事を考えれば自ずとこの答えに至ります。全艦隊とは言いません。半数、いえ、1/4の戦力を月と地球の間に配置するだけで構いません。どうかご再考をお願いします」

 

アーヴィント少佐は必至に説得を続ける。

 

『例え地球へのコロニー落としだとしてもだ。現にコロニーは月に向かってる。なら、コロニーが地球に向かう前に破壊すれば良いだけだ。今回のこの与太話は君の名前に免じて聞かなかった事にする。話は以上だ』

 

「お待ち下さ…くっ、これではコロニーを止められん」

 

通信を一方的に切られる。この危機感の違いにより地球へのコロニー落としの推測は俺達だけの話になってしまった。

 

「アーヴィント、此処で私達が止まる訳には行かないわ。私達に出来る事は有る筈よ。それに地球機動艦隊なら話を聞いてくれるかも知れない」

 

「レイナ大尉の言う通りです。今、私達は止まる訳には行きません」

 

「となると…独自の行動をすると言う訳か。それならそれで良いじゃないですか。俺達の命令違反と地球を救う事。何方を選ぶかは考えるまでも有りませんな」

 

俺達の言葉を聞きアーヴィント少佐は目を瞑る。そして数秒間沈黙した後、口を開く。

 

「確かに。シュウ中尉の言う通りだ。こんな時に僕達だけが命令違反するだけで救われる命が有るなら問題は無いか」

 

アーヴィント少佐はニヒルな笑みを浮かべる。

 

「だが、保険は必要だ。僕は全員を道連れにするつもりは無い。各艦に通達、これより第217パトロール艦隊は2つに分ける。ニコラス、アンザック、コロンブスはステファン少将の麾下の元に編入。ロイヤル、レオニードは地球への航路を取る。尚、本艦の機関が不調の為ステファン少将の艦隊に随行出来ないと一言伝えといてくれたまえ」

 

俺達はすぐさま行動を起こす。他の艦にも状況は伝わり命令違反をしたくない連中はニコラス、アンザック、コロンブスに移動する様に命令が伝わる。しかし、ロイヤルとレオニードから退艦する者は1人も出なかった。

 

「やれやれ、どいつもこいつも命令違反したいのかね?お人好しと言うか何と言うか」

 

「そう言うシュウ中尉はどうして退艦しないんですか?」

 

「そうよ。貴方もお人好しなんじゃ無い?」

 

俺の呟きにウィル少尉とレイナ大尉が笑みを浮かべながら聞いてくる。

 

「俺ぐらいのエースなら命令違反の1つや2つ有った方が格好が付くからな。それだけだよ」

 

「流石度胸はエースパイロットね。でもシュウにしては言う事がちょっとキザ臭いわよ?」

 

「これぐらいが丁度良いんですよ。それに命令違反が怖くて戦場に出れるかってんだ。どうせあの将官も後方で踏ん反り返ってただけだろうし」

 

先程のやり取りを思い出す。どう見ても目の前の状況しか見えてないのだろう。将校クラスの人間なら大局を見据える必要が有るだろうに。

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ。そもそも危機意識が違い過ぎる。と言うか、敵を侮り過ぎてるんだよ。観艦式襲撃を防げなかったと言うのに」

 

俺は艦内からコンペイトウの周辺を見る。未だに多数の艦隊の残骸が浮かんでる。この光景を忘れる訳には行かない。

 

「これ以上の悲劇を止める。絶対にだ」

 

俺は1人呟く。そして眼に浮かぶのは嘗ての親友である人物の姿。

 

(これ以上誰にも死んで欲しく無い。アーク…お前が居たら何と言うかな?甘いと言われるか。それとも)

 

「まーた、黄昏てる。シュウにはそう言うのは似合わないのよ!」

 

「ちょっと!人が真剣に考え事してると言うのに!貴女と言う人は!」

 

何故かレイナ大尉が無重力を利用して突っ込んでくる。アンタは子供か!

 

「流石ベテラン勢だ。自分も前を向いて行きます!」

 

そんな俺達の姿に触発されて気合いが入るウィル少尉だった。

 

……

 

『アーヴィント少佐以下乗組員に対し敬礼!どうか御武運を』

 

「其方もな。気を付けてくれたまえ」

 

俺達はお互い敬礼をする。そしてニコラス、アイザック、コロンブスはステファン少将の艦隊の後を追って行く。

 

「さて、艦の修理はどうかね?」

 

「機関の修理は完了しました。又、右舷主砲も間も無く修理完了する為航行可能との事です」

 

「そうか。整備班には無理をするなと連絡してくれ。止まって欲しい時は遠慮無く言いたまえとな」

 

「了解しました」

 

「では我々も行こうか。180度回頭、本艦はこれより地球と月の間に進路を取る」

 

ロイヤル、レオニードは地球への進路を取る為艦を動かす。この時、誰もが同じ事を思う。【コロニー落としの阻止】。例えその場に俺達しか居なくても止める。いや、止めてみせる。

そんな中、俺達パイロットは身体を休める為自室にて休息を取る。これから数時間後には戦闘になる可能性が高い。だから無理にでも休息を取る必要があるのだ。最初は寝れないと思っていた。何故ならコロニーが地球に落ちるかも知れない。そんな中で冷静に居られる筈が無いと思っていた。だが、自分の予想と違い身体は疲れており直ぐに寝入ってしまったのだった。

 

……

 

夢。今夢を見ている。とても懐かしい夢だ。

 

「おっ?どうやらアンタと同室の様だな。俺はアーク。アーク・ローダーだ。これから3年間宜しくな」

 

そう、初めてアークと会った時だ。お互い若干緊張しながらも挨拶をした。そして場面は変わる。

 

「それでさ、彼奴ナンパに成功したんだよ!然も俺を差し置いてよおおぉぉ…」

 

休みの日に別の奴とナンパしに行き失敗した時。この後アークは泣崩れ慰めるのが面倒だったのを覚えてる。

 

「じゃあな。宇宙に行っても元気でやれよ。1年後ぐらいには皆んなを呼んで同窓会でもやろうぜ!」

 

アークは地上、俺は宇宙。お互いの所属が違うから別れる。そして俺達は当時の情勢について楽観視していたのも事実だ。戦争なんて俺達には関わる事なんて無いって。だが、この1年後に戦争が起こった。

 

「此れで…俺もジオンをぶっ潰せる。仲間の仇を取れる。シュウ、やってやろうぜ!」

 

RGM-79ジムが配備された時。あの頃の陽気なアークは鳴りを潜めていた。だが、それは仕方が無い事だった。俺も自分自身の知らん間にアークみたいになっていただろう。

そして、あの場面に移る。俺がもっとしっかりしていればアークが死なずに済んだ筈だった。

 

『此奴!あの時のザクか!』

 

『ガルム3回避しなさい!』

 

黒い高機動型ザク。ベルガー・ディードリッヒが操る機体は瞬く間にアークのジムへ距離を詰めて行く。

 

「アーク…駄目だ。逃げろ、逃げるんだ!!!」

 

俺は声を出す。だが、その声は届かない。所詮は夢。俺は蚊帳の外の存在。

 

『クソッ!こっちに来るのか。なら、やってやる!お前らジオンを全員潰してやるさ!』

 

アークは逃げる事無く戦い続ける。そして相手がヒートホークを抜いた時、アークもビームサーベルを抜く。

 

『舐めるなあああ!!!ジオンの分際で!!!』

 

果敢にも立ち向かいビームサーベルを振るう。だがベルガー・ディードリッヒの方が何枚も上手だったのだ。奴はビームサーベルを持つ右手だけをヒートホークで斬り裂く。

 

『ヤークル…お前への手向けだ。受け取れ』

 

『なっ!?こんなのって!うわあああ!?』

 

アークの居るコクピットに向けてヒートホークが振るわれる。

 

「やめろおおおお!!!」

 

俺が叫んだ瞬間、場面は暗転する。暫く目を閉じてた俺は静かに目を開ける。其処には白い空間の中、地球連邦軍の制服姿の誰かが居た。その誰かは何かを言ってる。だが声は聞こえない。

 

「お前は…アークなのか?」

 

俺はその誰かに問い掛ける。だが返事は無く頷いたかどうかも分からない。それでも俺は言葉を続ける。

 

「許してくれとは言わない。だが、それでも見守っててくれ。俺達のやってる事が無駄にならない様見続けてくれ。例え…コロニーが地球に落ちようとも」

 

そして徐々に視界が歪み暗転して行く。その誰かは何も言わない。だが最後の最後に頷いた気がしたのだった。


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