宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型

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生きる者の義務

地球軌道上では幾つもの戦闘による光が瞬いていた。そして眼下にはコロニーが大気との摩擦により赤く染まって行く。そんな中、2機のモビルスーツは機動戦を行なっていた。

 

「まだ戦おうと言うのか!もうお前達は勝ったんだぞ!」

 

ロング・ライフルで狙いを付け様とする。だが、お互いに高い運動性と機動性を持つ為中々当たる事が無い。

 

『安心するが良い。私の目的は貴様だ。貴様との出会いによって私の運命は大きく変わった!』

 

ザクマシンガンを放棄してビームナギナタを展開し接近して来る高機動型ザク。それに対してビームサーベルを展開して迎え撃つ。

 

「私念とでも言うのか。だが、それはお互い様だ!俺も…親友を貴様に殺された!」

 

『私は仲間を失った!なら、この戦いには意味が有ると言える物!』

 

ビームサーベルとビームナギナタが打つかる。

 

『私の仲間に宜しく言っておいてくれ。直ぐに私も其方に向かうとな!!!』

 

ビームナギナタを回転させビームサーベルを弾き飛ばす。更にロング・ライフルの銃身も切断されてしまう。そのままビームナギナタを巧みに振るい此方に斬り掛かる。

 

『覚悟おおお!!!』

 

「やられて…堪るかあああ!!!」

 

追加ブースターを反転させ距離を取る。それでも追い縋って来る。その間にもう1本のビームサーベルを展開するが間に合わない。ビームナギナタが上段から振るわれた時、左脚を盾にする。そのままビームナギナタは左脚を切断するが、隙は出来た。頭部の60㎜バルカンでザクの頭部を狙う。モビルスーツ相手に威力は心許ないとは言え、至近距離での頭部を狙われれば破損は免れない。

 

『おのれ、やってくれるな』

 

戦いの中、ベルガーの言葉に違和感を感じていた。

 

(此奴、死ぬ気か)

 

恐らく生きて帰るつもりは無いのだろう。だが、其れだけは許す訳には行かない。死ぬ為に戦うなんて間違っている。

 

『どうした!先程から何を迷っている!私を見て戦え!!!』

 

「この…大馬鹿野郎がああああ!!!」

 

機体のリミッターを解除。そして一気に前に向かって加速させる。

 

「お前、何の為に此処まで戦って来た!何の為に仲間が死んだと思ってる!」

 

『何の為だと?それはスペースノイドの真の独立を勝ち取る為だ!』

 

「それが分かっていながら何故死のうとする!」

 

ビームサーベルを振るいベルガーに問い掛ける。

 

「お前が死んだら誰が今後を見届けるつもりだ。俺達は最後まで生きて、この戦いの結末を見届ける義務が有る!それを放棄するのは絶対に許さん!!!」

 

『何を!?世迷い言を言うな!!!』

 

ビームナギナタが右の追加ブースターを切断。それと同時にビームサーベルで高機動型ザクの右脚を斬り裂く。

 

「世迷い言では無い!死に場所求めてる奴より百万倍マシな言い分だ!」

 

『それは子供の理屈だ!』

 

「俺はその理屈は間違って無いと自信持って言える!なら問題無い!!!」

 

ジム・カスタムFbで高機動型ザクに対し体当たりをする。推力では此方が上なのか高機動型ザクを押して行く。

 

『私は仲間の為に此処まで来た。そんな私に生き恥を晒したのは貴様だ!シュウ・コートニー!!!』

 

ビームナギナタが右肩から右腕を破壊する。そのまま右脚まで一気に斬り裂かれる。

 

「生きる方が死ぬより何倍も難しいんだよ!!!死に場所に逃げようとする方が恥なんだ!!!それを理解しとけえええ!!!」

 

左手に持つビームサーベルを逆手に持ちビームナギナタを持つ右肩を貫く。そのままビームサーベルを離し奴の機体を掴む。そして至近距離から60㎜バルカンでザクの頭部を撃ちまくる。

 

「うおおおおお!!!此れで終わりだああああああ!!!」

 

『貴様ああああ!?!?』

 

そのまま高機動型ザクをムサイ級巡洋艦の残骸に打つける。そしてそのまま動きを抑える。

 

『クッ…私の負けか。なら仕留めるが良い』

 

「この頑固野郎が。言っただろうが。この戦いの最後を見届ける義務がお前には有る。例え…生き恥を晒そうともな」

 

アーク、許してくれとは言わんよ。これで良いと思ってる。例え甘い考えだとしても、地球連邦軍とジオン公国軍の立場の人達が見届ける必要が有るんだ。

 

「だから、生きてくれ。生きて…見届けてくれ。頼む」

 

今後の争いを無くす為に。奴からの返事は無い。だが、奴の息遣いは聞こえていた。

 

『…私は』

 

ベルガーが口を開いた時、再び宇宙が光に照らされる。何事かと思い其方に視線を向ける。それは半壊したソーラー・システムⅡが起動していたのだった。

 

……

 

ソーラー・システムⅡのコントロール艦が破壊され、代わりに旗艦マダガスカルが制御を行なっていた。そして、ソーラー・システムⅡの光は射線上に居る多数の敵残存艦隊が存在していた。だが同時に味方艦隊も存在していた。

 

「お待ち下さい!まだ我が艦隊の先鋒が焦点前に!」

 

副官がバスク・オム大佐の腕を掴み静止させようとする。だが、バスク大佐は目の前に居る敵を掃討する事しか頭になかった。

 

「大佐ぁ!」

 

ジオンに対する憎悪と嫌悪が光となって容赦無く放たれる。例え味方が存在しようとしても、ジオンに死あるのみと言わんばかりに。

 

……

 

ソーラー・システムⅡからの光を見た時、俺は状況が理解出来なかった。周りには味方艦隊は存在しているし撤退信号も出てはいなかったのだ。

 

「な、何で…?」

 

身体が動かなかった。此処には俺達が居る。味方が居るんだと言う考えが頭の中に一杯だった。だが光は此方に容赦無く迫る。

 

「ッ!?何だあああ!?」

 

突然機体が動き出す。いや奴が、ベルガー・ディードリッヒがジム・カスタムFbを押しながら動いていた。だが、間に合わない。

光の濁流は俺達を包み込む。モニターには黒い高機動型ザク以外白く映る。そして、更に衝撃が伝わる。それは黒い高機動型ザクはジム・カスタムFbを蹴り飛ばしたので有った。その結果、ジム・カスタムFbは光の濁流から幸運にも脱出出来た。

だが、慣性の法則によりベルガーの乗る黒い高機動型ザクは光の中に戻って行く。

 

『お前なら………の、真実を…』

 

その通信を最後にベルガー・ディードリッヒは光の中に消えて行ったので有った。

 

……

 

気が付けば周りは静かな状態だった。モニターは砂嵐状態が酷く外の様子は分からない。俺はコクピットハッチを開け外の様子を見てみる。

外に出ると周囲には敵も味方も居ない。そして、ベルガー・ディードリッヒの操る黒い高機動型ザクも居ない。そう、誰も居ないのだ。

 

「何だよ…コレ。一体どうして」

 

俺は一人呟く。余りにも理不尽な状況に声に出す。そして何より味方に殺されかけ、敵に命を救われた状況。余りに矛盾に満ちた状況に感情が纏まら無い。

 

「こんな…こんな事って……」

 

だから泣くしか出来なかった。恥も外聞も無く唯泣き叫ぶ。後少しで分かり合えると思っていた。お互いの思いを全てぶつけた。だからこそ、こんな形で終わってしまった事への虚しさが胸の中に残っていなかった。

 

宇宙世紀0083.11月13日0時34分。コロニーは北米大陸の穀倉地帯に落着。公式発表により事故による落下となる。

同日0時34分。地球連邦軍デラーズ・フリート追撃戦開始。

 

あの後、レイナ大尉とウィル少尉によって回収されロイヤルに戻る事になった。だがジム・カスタムFbは大破になってしまった為、元々搭乗していた予備機のジム改に乗る事になっていた。

 

『シュウ、貴方大丈夫なの?顔色かなり悪いわよ?』

 

『そうですよ。無理しない方が良いのでは?』

 

レイナ大尉とウィル少尉は心配そうに此方を見てくる。だが無理も無いだろう。機体は大破で俺の顔色も酷い物だ。だが、今は理由を説明する訳には行かない。

 

「心配してくれるのは有り難いけど大丈夫だよ。それより追撃戦とは言え気を抜くなよ。連中は背水の陣でやって来るからな」

 

ジム改を起動させながら返事をする。しかし未だに俺は戦闘になる事に集中出来ていなかった。それでも戦場に行こうとするのは何故だろうか。

 

「自暴自棄になってるのか?柄じゃ無いんだがな」

 

そして出撃準備が完了する。

 

『シュウ中尉、余り無理はしない様にお気を付け下さい』

 

「ああ、お互いにね」

 

『ガルム2、カタパルトへどうぞ』

 

機体をカタパルトへ移動させる。武装はジム・ライフルとシールドを装備する。しかし、ルイス少尉からも心配されてる所を見るとよっぽど酷いのだろう。だが、此処で逃げ出す訳には行かない。この戦いに参加した時点で逃げる訳には行かない。

 

『進路クリア。発進どうぞ』

 

「ガルム2、シュウ・コートニー中尉。ジム改出るぞ」

 

俺は再び宇宙と言う名の戦場へ飛び立つ。これ以上の争いを終わらせる為に。それでもふと思ってしまう。自分のやってる事に意味は有るのか?そして…地球連邦軍は信用出来るのかと。

 

(いかんな。集中しないと)

 

そして他の味方モビルスーツ部隊と共にデラーズ・フリート追撃戦を開始する。

 

《デラーズ・フリート残存の部隊に告ぐ。最早、君達に戻るべき場所は無い。速やかに降伏せよ。君達には既に戦闘力と呼べる物が無いと言う事を承知している。無駄死にはするな!》

 

地球連邦軍からデラーズ・フリート残存部隊に対して降伏勧告が出される。だが降伏勧告を受け入れる者は居なかった。

 

「アーヴィント少佐、攻撃命令来ました」

 

「うむ。では攻撃始め!敵を殲滅せよ!」バッ

 

右腕を前に突き出し攻撃命令を下すアーヴィント少佐。それに続く様に周りのサラミス改、マゼラン改が砲撃を開始する。

現在の地球連邦軍の戦力は第1地球軌道艦隊とコンペイトウ所属の艦隊で構成されている。それに対しデラーズ・フリート残存部隊は最早風前の灯火で有った。

地球連邦軍の圧倒的な艦砲により次々と落とされるデラーズ・フリート部隊。ムサイ級巡洋艦は集中砲撃を受け次々と爆沈して行く。

 

『おいおい、艦砲だけで終わらせんなよ!俺達の分も残しといてくれよな』

 

『ギャハハ!言えてるぜ。おっ?彼処の瀕死のザクをやろうぜ!集中攻撃だ!』

 

『最初の降伏勧告を無視したんだ。遠慮は要らんぞ。殲滅するぞ!1匹足りとも生かして帰すな!』

 

デラーズ・フリートのザクやリック・ドムⅡに次々と群がる地球連邦軍のジム改。それでも針の穴の隙間を縫って来る奴は居る。1機のザクが此方に接近して来る。

 

『ターゲットロック。発射!』

 

ガルム3のビームキャノンが放たれる。だがザクは回避し此方に接近。

 

『良くやるわね。なら此れで終わりよ!』

 

ガルム1からの90㎜ガトリングガンの弾幕も襲い掛かる。だが、その弾幕も味方のジム改を使い途切れさせる様に回避して行く。

 

『彼奴!味方を盾にしてるつもり?』

 

そんな中、俺はザクの進行上に待機する。そしてジム・ライフルを構えて狙う。だが引き金を引く指が重かった。

 

「此方は地球連邦軍だ。其処のザク降伏しろ」

 

咄嗟にオープン通信を繋げてザクに降伏勧告をする。だがザクはそんな物無用と言わんばかりにザクマシンガンを撃ってくる。それに対し回避しながら再び狙う。

 

(仕方ない。なら腕を落とす)

 

ジム・ライフルでザクマシンガンを持つ腕を狙い撃つ。狙い通り腕を破壊出来たが止まる事は無い。それどころか左手にヒートホークを装備し此方に突っ込んで来る。

 

『今更情けを掛けたつもりか!傲慢な連邦らしいやり方だな!』

 

「そんなつもりは無い!もう争う必要が無いだけだ!」

 

ヒートホークの攻撃をシールドで防ぐ。だがザクはヒートホークを手放し此方の右腕を掴み更に突っ込んで来る。

 

『巫山戯るな!貴様等との戦いが終わる訳が無いだろう!だが覚えておけ。我々の死は決して無駄死にはならないと言う事をな!!!』

 

「だから!簡単に死のうとするな!」

 

咄嗟に60㎜バルカンでザクの頭部を撃つ。そして右足をザクの股に入れて蹴り飛ばす。ザクはそのまま宇宙に舞う。

 

『貴様!クソッタレがあああ!?!?』

 

その瞬間、艦隊からの艦砲とミサイルがザクに襲い掛かりあっという間に爆散する。

 

「ま、まさか…俺は」

 

薄々勘付いていた。あの時、引き金を引くより降伏勧告をした。そして、コクピットより腕を狙った事。俺は、もう…。

 

(戦えない…のか)

 

ザクが爆散した場所を見続けて思う。もう、俺は戦場に出れないと言う事を。

 

宇宙世紀0083.1時5分。アクシズ先遣艦隊撤収。

同日1時19分。アナベル・ガトー少佐は味方の退路の確保の為奮戦するも、多数の攻撃を受け最後にサラミス改に体当たりを行い壮絶な戦死を遂げる。

 

ロイヤルの艦橋内では戦況が順調に進んでいる事が良く判っていた。先程巨大モビルアーマーが味方のサラミス改に体当たりした為、その穴埋めをする為にレオニードと共に移動させていた。

 

「艦長、更に敵モビルスーツが接近。此方に来ます」

 

「やはりこの場所に来るか。レオニード、モビルスーツ部隊に通達。この場所を徹底的に死守するとな。敵モビルスーツに対しミサイル発射!」

 

ロイヤル、レオニードからミサイルが大量に発射される。アナベル・ガトー少佐が開けた穴は地球連邦軍の圧倒的な戦力の前に徐々に埋められて行く。

ザク、リック・ドムⅡ、そしてドラッツェが果敢に弾幕を抜け様とするが次々と潰されて行く。だが、その中にある機体が居た。

 

『あの艦は!?彼奴の仇取らせて貰うぞ!』

 

其処にはMS-21D1ドラッツェ改が居た。それは観艦式防衛戦にて僚機をロイヤルの艦首により串刺しにされたのだ。

 

「敵モビルスーツ、スピードを上げて接近しつつ有ります!」

 

「集中攻撃!撃ち落とせ!」

 

ロイヤル、レオニードから艦砲が放たれる。また他のサラミス改からも次々と艦砲やミサイルが撃ち込まれる。だが止まらない。それらの攻撃を紙一重で回避しながらロイヤルに迫る。

 

『うおおおおお!!!!!!』

 

ドラッツェ改のパイロットは雄叫びを上げる。モビルスーツ隊も攻撃を仕掛けるが右腕を吹き飛ばすに止まってしまう。

 

「敵機更に接近!」

 

「回避機動を取り対空防御!」

 

ロイヤルから対空砲の弾幕がドラッツェ改に集中する。だが止まらない。その時だった。レオニードが突如ロイヤルとドラッツェ改の間に入る。レオニードは艦砲とミサイル、更に対空砲を全てドラッツェ改に向け放つ。

 

『ジイイイク・ジオオオオオン!!!!!!』

 

レオニードの単装砲がドラッツェ改のブースターを吹き飛ばす。だが、ドラッツェ改は止まる事無くレオニードに体当たりに成功。レオニードの右舷ブロックに被害が出てしまう。

 

「レオニード被弾!右舷ブロックに損傷を確認!」

 

「モビルスーツ隊はレオニードを援護!レオニード無事か!」

 

だが、まだ悲劇は止まらない。アナベル・ガトーが作った穴。そしてドラッツェ改の必死の体当たり。それに触発されたデラーズ・フリート残存部隊。レオニードに対し次々と敵モビルスーツが迫る。無論味方部隊も必死の迎撃を行う。

ガルム1の弾幕にガルム3のビームキャノン。だが、これらの攻撃を掻い潜り次々とレオニードに攻撃が着弾。そして、最悪な事にドラッツェ改の体当たりで出来た損壊部分にリック・ドムⅡが放ったジャイアントバズの攻撃が直撃。その攻撃は機関部にも被害が出てしまいレオニードの内部で爆発が起きる。

 

「レオニード内部にて誘爆多発!このままでは!」

 

『アーヴィント艦長、本艦はもう駄目です。どうか…ご健闘を』

 

「くっ!?まだ諦めるな!!」

 

だが、レオニードからの通信が途切れるのと同時にレオニードから爆発が多発。そして遂に爆沈してしまうのだった。


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