宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型
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逃げる者の代償

宇宙世紀0083.11月13日。

 

この日、デラーズ紛争と呼ばれる一連の戦いが一区切り付いた。俺は敵を1機も撃破する事なく帰還した。そして僚艦のレオニードが爆沈した事をこの時知ったのだった。

俺はコクピットの中で自身の手を見つめる。その手は震えており最早満足に戦える物とは言えなかった。その原因が何なのかは何と無く理解出来る。あの時、ベルガー・ディードリッヒと分かり合えたかも知れなかった事。味方から殺されかけ、敵に命を救われた事。この葛藤や矛盾が今の俺の状態なのだろう。

 

「俺は…一体どうすれば良いんだ?」

 

コクピットの中で誰に言うまでも無く口にする。答えなんて返ってこない。俺は暫く自身の手を見続けるしか出来なかったのだった。

 

宇宙世紀0083.11月23日。デラーズ紛争に絡んだ軍事裁判開廷。これによりアルビオン艦長エイパー・シナプス大佐は死刑。コウ・ウラキ少尉は懲役1年となる。

宇宙世紀0083.12月3日。AE社のオリハザン常務の変死体がフォン・ブラウン支社にて見つかる。

 

そして宇宙世紀0083.12月4日。この日、地球連邦軍とジオン残党軍にとって大きな出来事が起きる。俺達ラングリッジ小隊はロイヤルの艦橋に来ていた。何故なら地球連邦軍のバスク・オム大佐が地球連邦軍兵士達に対して演説を行うのだからだ。

 

「一体どんな演説をするんだろうな。やっぱりコロニー落としによる被害に関する事なのかな?」

 

「それは分からないわ。でも私達地球連邦軍全員に通達する程なんだから重大発表なのは間違いないわね」

 

「一体どんな内容になるか見当も付きませんよ」

 

「うーむ、ルイス少尉とアーヴィント少佐は予想出来ます?」

 

俺達の頭だけでは予想出来ないので、より賢いルイス少尉とアーヴィント少佐に聞いてみる。

 

「そうですね。恐らく組織改編の内容になるのでは無いでしょうか。今回の件で地球連邦軍の悪い部分は出て来たと思いますし」

 

「僕もルイス少尉に同意だね。それに今後同じ事を防ぐ必要も有るからね。その辺りの組織編成もされるかも知れないね」クルクル

 

流石頭の良い人達の見解は違う。もし2人の意見が当たっていた場合、地球連邦軍内部はかなり荒れるかも知れないな。それから暫く待つとモニターが変わる。そして遂にバスク・オム大佐が姿を現わし演説を始める。

 

《省みろ!今回の事件は地球圏の静謐を夢想した、一部の楽観論者が招いたのだ!》

 

それはデラーズ紛争を引き起こしたジオン残党軍と一部地球連邦軍上層部に対する宣言であった。

 

《デラーズフリートの決起などはその具体的一例にすぎぬ。また三日前、北米大陸の穀倉地帯に大打撃を与えたスペースコロニーの落下事故を見るまでも無く、我々の地球は絶えず様々な危機に晒されているのだ!》

 

誰もが真剣にバスク大佐の演説を聞いている。その表情に疑いの文字は無い。

 

《地球、この宇宙のシンボルを忽せにしない為にも我々は誕生した。

地球、真の力を再びこの手に取り戻す為ティターンズは立つのだ!》

 

それはジャミトフ・ハイマン准将の提唱により地球連邦軍ティターンズの結成の宣言だった。更にティターンズの主目的はジオン公国残党狩りを行うと言うのだ。

 

「素晴らしい。ティターンズ…この組織が有れば地球圏の平和を維持出来る。いや、それ以上の発展も可能な筈だ!」フワッサァ

 

アーヴィント少佐は興奮した様子でバスク大佐の演説を褒め称える。

 

「凄い。ティターンズが有ればジオン残党軍の暴走を止めれますね!」

 

「そうよ!これは私達がティターンズに入るのは決定ね!」

 

「レイナ大尉の言う通りですね。あ、自分転属願いの用意しときますね」

 

誰もがティターンズに対し好意的だった。だが、それは仕方ない事だろう。何故なら2度も地球にコロニー落としをされた上、コンペイトウでの核の使用。これにより多くの地球連邦軍将兵のジオン残党軍に対する憎悪は更に膨れ上がったのだ。

 

(何の為に俺達は戦ったんだ。死んだ連中は何の為に死んだ!彼奴は…何の為に死んだんだ!?)

 

だが、俺だけが違った。俺以外の連中はティターンズに入るのを決めていたのだ。

 

「ほら、シュウの分よ。アンタもティターンズに入るでしょう?」

 

レイナ大尉が俺に転属願いの用紙を渡して来る。

 

「シュウ中尉がティターンズに入ったらエリート街道は間違い有りませんね。何せエースパイロットであり高機動のジム・カスタムFbを自由自在に操作してましたし」

 

「それはそうだろう。一年戦争であんなピーキーな機体を操作してたのだからね」フサァ

 

「自分も中尉の様なエースパイロットに成りたいですよ!」

 

誰もが笑顔で俺を褒め称える。そしてレイナ大尉の持つ用紙に視線を向ける。

 

「俺、俺は…」

 

だが、俺は言葉が出なかった。この転属願いの用紙を受け取れば、それは地球連邦軍とジオン残党軍との争いの深みに嵌って行くだろう。

 

「……すまない。俺は無理だ」

 

そう呟いた瞬間、周りが一瞬で静かになる。

 

「え…シュウ?何で」

 

「俺は…もう、戦えないんだ。戦闘中で手の震えが止まらないんだ。だから、ごめん」

 

嘘は付いてない。実際戦えないのは事実だからだ。だが、根本の理由を言うのは駄目だ。それは地球連邦軍への不信感を暴露する事になる。

 

「なら、一度軍医に診て貰うと言いだろう。それと長期休暇も必要かも知れんな。恐らくシュウ中尉は疲れてしまってるのだろうな」クルクル

 

「確かに。シュウ中尉は私達の為に囮を何度もこなしてましたからね。一度ゆっくり休んだ方が良いですよ」

 

アーヴィント少佐とルイス少尉は此方を心配そうに見ながら言う。だが違うんだ。そうじゃないんだ。

 

「無理だ。本当に無理なんだ。だから、俺はティターンズには入らない。いや、入れない」

 

俺は静かに拒絶する。

 

「そんな。此処まで来て諦めないでよ。ほら、リハビリとかなら付き合うわよ?私達仲間じゃない!」

 

「今此処でシュウ中尉を見捨てる事なんて出来ませんよ!自分も付き合います!」

 

だが仲間達は諦めるなと言いながら励ます。そんな彼等を見て俺は僅かな恐怖を覚える。何故ならジオン残党軍と言え人間だ。同じ人間なのだ。それなのに、人間狩りを率先してやる組織に入ろうとしている。

 

(此れは罪だ。俺達が作り上げだ罪其の物なんだ。だから何時迄も戦いが終わらないんだ)

 

最初から間違ってたんだ。軍に入った事自体が間違いだったんだ。極め付きには味方に殺されかけ、敵に命を救われる。一体なんの冗談だよ。

俺は一歩後退りする。そして再度伝える。

 

「気持ちは有り難いけど。本当に無理なんだ。アーヴィント少佐、出来れば後方任務か辺境のパトロール任務が出来る部隊への転属をお願いします」

 

「シュウ中尉、今ティターンズには君の様なエースが必要だ。考え直すんだ」

 

「いえ、考えた結果です。それでは失礼します」

 

「あ、待って!」

 

俺はレイナ大尉の制止を振り切り自室に逃げ込む。戦場から逃げ、仲間達からも逃げる。挙句の果てに自身がベルガー・ディードリッヒに言った言葉からも逃げた。

 

(結末を見届ける度胸も無い奴がエースな訳無いな。全く、滑稽だよ)

 

自虐的になりながら自室に戻って行く。だが、突然腕を掴まれる。誰だと思い振り返るとレイナ大尉が居た。

 

「ねえ、本当にティターンズに入らないの?このままだと、私達離れ離れになるのよ?」

 

「レイナ大尉。仕方無いですよ。満足に戦えないんです。仲間にリスクを負わせたくは無い」

 

「そんな事無いわよ。仲間だからこそ見捨てる事なんて出来無いわよ」

 

レイナ大尉の真剣な眼差しを真正面から受ける。だが、俺はそれに耐え切れず視線を逸らす。

 

「それに未だに残党軍は存在している。然も一般市民を大勢巻き込む事を厭わない連中よ。だから私達で守りたいのよ。お願い、力を貸して」

 

そう言ってレイナ大尉は俺の手を握る。しかし、俺は首を横に振った。

 

「なら味方に殺されかけ、敵に救われた俺はどうすれば良いのですか?」

 

「…え?」

 

「鮮明に覚えてますよ。ソーラー・システムⅡが俺の居る場所に放たれたのを。退避命令は来てなかった事も。そして敵味方を関係無く消した事も」

 

俺はレイナ大尉に対し言う。尤も、こんな事を言っても意味は無いのは理解していた。

 

「それは、何かの間違いだったとか?それにミノフスキー粒子が濃かったと思うし」

 

「味方の艦隊と部隊を巻き込む程ジオンを憎みますか。ですけどね、その一度の攻撃で俺は死に掛けた。そんな中、俺は敵に命を救われたんだ」

 

それを言った瞬間、レイナ大尉の表情が硬くなる。だが思った通りだった。

 

「今、自分は味方を信じられません。ですので…すいません」

 

俺はレイナ大尉の手を振り解く。そのまま再び自室に逃げる。そして、レイナ大尉は追い掛けてこなかった。

 

……

 

宇宙世紀0084.1月15日。

 

俺はサラミス改級ロイヤルからルナツー行きのコロンブス輸送艦に乗り込もうとしていた。あの後何度か引き止められかけたが、遂に我慢出来ず味方に殺されかけた事による不信感を暴露。その結果、誰もが腫れ物扱いをする事になった。だが、それは仕方ない事だろう。何故ならジオン残党軍は仲間を大勢殺した悪だ。なら地球連邦軍と言う正義が悪党染みた事をする筈が無いと思う。それに自分達はこれからティターンズに入るのだから尚更だろう。

 

「しかし、寂しいく無いと言ったら嘘だがな」

 

手荷物を持ちながらコロンブス級輸送艦に向かう。序でにロイヤルから乗機であるRGM-79Cジム改も運び込まれる。何故ならこのジム改は俺用に関節部などを改修されている。そんな機体を残しても仕方無いと言う訳だ。

俺は後ろを振り返る事無くコロンブスに向かって行く。その時だった。

 

「ちょっと、背中が凄く寂れているわよ?」

 

「…実際寂れてるんですから仕方ないですよ。レイナ大尉」

 

俺は背後を振り返る。其処にはレイナ・ラングリッジ大尉が此方にゆっくりと近付いていた。

 

「全く、あんな事皆んなの前で言うから避けられちゃうのよ?」

 

「反省もしてますし後悔もしてますよ。正直言うつもりは無かったんですけどね」

 

下手に敵を作る必要は無い。だが、それでも我慢出来無かった。何方かが悪では無い。お互いに悪も正義も無い。だが、それを理解してる連中は殆ど居ない。

 

「それで、何処に行くの?」

 

「ルナツー方面軍に成ります。其処で後方任務かパトロール任務の何方かになるかと」

 

「そっか」

 

それからお互い静かになる。最初に口を開けたのはレイナ大尉だった。

 

「ねぇ、約束して。もう戦場に出ないって」

 

その言葉を言った時のレイナ大尉の表情はとても儚く、今にも泣き崩れそうな表情だった。だからだろう。俺は彼女が求める答えを言う事にした。

 

「大丈夫ですよ。自分の此れからの任務はコクピットシートを温める仕事になりますからね。戦場には出たくても出ませんよ」

 

明るく、陽気に答える。すると先程までの儚さは無くなり笑顔になる。

 

「ふふ、何よそれ。でも、それなら安心ね」

 

「何方かと言うとティターンズの方が危険は多いでしょうに」

 

暫く話をしているとルナツー行きの時間が来る。どうやら此処までの様だ。

 

「それじゃあ、元気でね。無茶しちゃ駄目よ?」

 

「そちらこそ、お気を付けて」

 

お互い敬礼をする。俺は敬礼をしながら思う。きっと俺達は会う事は無いだろうと。だが、最初に逃げたのは俺だ。自分で蒔いた種なら責任を持つべきだ。

何方とも言わず敬礼を止める。そして俺はコロンブス級輸送艦に向かう。背後からの視線を受けながらも振り返る事は無い。

 

(そう言えば、結局自分の思いを伝えて無かったなぁ。俺ってヘタレだなぁ)

 

内心自分のヘタレっぷりに呆れながらコロンブス級輸送艦に乗り込むのだった。

 

……

 

宇宙世紀0084.1月28日。地球連邦軍シュウ・コートニー中尉、ルナツー方面軍第031パトロール部隊に配属される。

宇宙世紀0084.3月10日。デラーズ・フリートによるコロニー落としの真相に関わる【ガンダム開発計画】が公式記録より抹消される。これによりコウ・ウラキ少尉の罪状も消える。

又、ガンダム開発計画に関わっていたRGM-79N-Fb高機動型ジム・カスタムの戦闘記録や搭乗者のデータ等も抹消。デラーズ紛争での戦闘データは全てRGM-79Cジム改に変更される。

 

デラーズ紛争。この一連の戦いでの結果はデラーズ・フリートの壊滅とティターンズ設立と言う形で幕を閉じる。皮肉にも彼等の願いは成就されず、地球連邦軍の一部上層部の手により歪められた形で利用される形になる。

コロニーが地球へと落ちる時、それは漢達の魂の輝きだった。様々な策略、謀略、信念、栄光、憎悪、屈辱の中を駆け抜けた者達。歴史に名が残らなくとも、我々の魂に刻み付けよう。

 

デラーズ紛争で散って行った全ての英霊達に対し敬意を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残る者、去る者と別れる。それは運命と言えるだろう。だが【一年戦争の魔物】は逃げる者を許しはしない。何故なら、人々がそれを願っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0085.2月11日。シュウ・コートニー大尉、戦死と断定。

 

戦いは終わらない。終わりを望む者達が現れない限り永遠に続くのだから。




区切りが良い為一度更新を止めます。理由は活動報告に有ります。まあ、またひょっこり現れるのでその時は温かく迎えて下さいw
それでは(´∀`)





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