宇宙世紀0084.1月28日。
嘗ての仲間達と別れ、俺は地球連邦宇宙軍の宇宙要塞ルナツーに到着した。勿論後悔の感情が無いと言ったら嘘になる。だが、戦場と言う場所から離れる事が出来た事に安堵してるのも事実だった。
俺は挨拶の為ルナツーの司令室へと行く事にした。
「失礼します。シュウ・コートニー中尉です」
「来たか。入りたまえ」
司令官から許可が降りた為、入室する。すると早速盛大な歓迎を受ける事になる。司令官は徐に階級章を出し此方に渡す。
「シュウ・コートニー中尉。貴官は本日付で大尉になる」
「…は?」
その時、俺は理解出来なかった。何故昇進したのかを。だが直ぐに理解出来た。俺は司令官を睨みながら言う。
「口止めですか」
「君がどう思おうとも構わない。だが、今の地球連邦軍は非常に繊細な時期だ。そんな中、無闇に刺激を与えない事だ。それが君の為でもあるのだよ。それから所属部隊は第031パトロール部隊だ」
司令官の警告と素っ気なさ。恐らく厄介者には関わりたく無いのだろう。
「了解しました。それでは、失礼します」
俺は司令室を後にする。着任早々に素晴らしい歓迎に涙が出そうだ。
「はぁ、仕方無いか。自分で選んだ事だ」
溜息を一つ吐きながら与えられた部屋に向かうのだった。
宇宙世紀0084.3月1日。
宇宙要塞ルナツーに着任し1ヶ月程が経過した。そんな中、俺はルナツー方面軍第031パトロール部隊の配属になり任務をこなしていた。
パトロール部隊なだけ有って基本はコロニー間の経路やデブリ宙域の警戒等、所謂現場での任務が主となっている。そして時々海賊と化した武力勢力や反地球連邦勢力との小競り合いが起こる訳だ。以前所属して居た所では、デラーズ紛争が起こる前にも小規模ながらジオン残党軍との戦闘も有った。今思えば中々ハードなパトロール部隊だっただろう。そんな中、第031パトロール部隊は少々特殊なパトロール任務を遂行していた。
先ず敵性勢力との会敵は無い。いや、本当に無いのだ。理由としては別のパトロール部隊が通った経路を辿る様に行くのだ。そしてルナツーでの待機日時が異様に長い。これは第031パトロール部隊が重要な戦力だからでは無い。では何故第031パトロール部隊がこの様な扱いを受けるのか。
その理由は簡単だ。所謂厄介者、問題児、スパイ疑惑等と言った連中で構成されてるのだ。更にティターンズの入門試験に落ちた者も居るとか。因みにその中には心折れた者も付属さている。取り分けスパイ疑惑の影響が大きく、本当に仕事が与えられ無いのだ。然も最上階級者は大尉しかいない。つまり…俺しか居ない訳だ。
そして第031パトロール部隊は通称【掃溜部隊】とも呼ばれてる。因みに区別する方法が031の最初に有る0の数字が付いてるからだ。何故なら殆どの部隊には最初に0とは付かないからだ。
そんな中、俺は今日もパトロール任務を遂行するのだった。
……
サラミス級ポプキンス
第031パトロール部隊の旗艦で有りモビルスーツ部隊の母艦でも有るサラミス級だ。しかし、この艦は改修される以前の状態。つまり、一年戦争時と然程変わらない。
「ジム改の固定は済んでるのか?以前の様になったら厳罰所では済まさんぞ」
俺はやる気の無い整備兵に声を掛ける。以前ワイヤーの固定が甘く3番機のジム改が漂流したのだ。運良く回収出来た物の、無傷のジム改が敵性勢力の手に渡ったらと思うと肝が冷えたのを覚えている。
「あ、大丈夫です。問題有りません」
「後で確認するからな。それでダメだったら艦内の清掃をパトロール中ずっとやらせるからな。それが嫌なら自分の仕事には責任を持て」
俺は整備兵にキツい言い方で指示を出す。だがやる気が無い連中なので、此の位が丁度良いのが微妙な所でも有る。そしてポプキンスの艦橋に向かう。
「お疲れ様です。コートニー大尉」
「ああ、お疲れさん。出撃準備の状況は?」
彼は艦長兼副官に当たるシム・ラーモア少尉だ。落ち着きは有る物の気弱な所が目立ってしまっているが、この中では1番信頼は出来る人物だ。
「後1時間程で完了します」
「たった1隻の巡洋艦を動かすのに其所まで掛からんよ。逆に掛かったら練度の低さが露呈される所だよ。30分以内に終わらせる様通達してくれ」
「わ、分かりました。それはコートニー大尉の命令で宜しいので?」
「それで構わないよ」
と言った感じで自分からと言う命令がイマイチ出せないのだ。彼の階級は少尉な訳だから、もう少し胸張っても良いんだけどね。
そんな彼の態度を知ってるのか周りの雰囲気は緩くなる。その為俺が規律を守らせる様に厳しくする。だが、それ以前に自分を含め全員の中に諦めの感情が有るのだろう。それでも軍人としての責務は果たさせる。
「モタモタするな。これが実戦なら我々全員死んでるからな。誇張でも何でも無いぞ」
再び喝を入れる為厳しめに部下達を叱責する。正直言ってキャラでは無いんだかな。今思えばアーヴィント少佐は他の艦にも指示を出したりしていたし。俺には其所までの能力は無い。だが、手本としては充分だろう。
内心色々思い出しながらラーモア少尉の代わりに部下達に指示を出して行くのだった。
……
ポプキンスがルナツーより出航した後、目的地まで巡航速度で移動する。その間、観測班やレーダー班には少しでも異常が有れば直ぐに伝える様に指示を出して行く。
「あの、コートニー大尉は何時頃から実戦を?」
「ん?あぁ、ルウム戦役からだよ。あの頃は酷かったよ。地球連邦軍の艦隊が次々と轟沈して行くんだからな。正直、二度と見たくない光景だよ」
「一年戦争を経験なさってるんですか?自分より若いのに…」
ラーモア少尉は少し驚いた後複雑そうな表情をする。
「そうじゃないと大尉まで昇進しないよ。それにミノフスキー粒子下では観測班の目が重要だ。この辺りは安全とは言え、今は神経質な位が丁度良いさ。ほら、ティターンズが出来たばっかりだからさ」
「確かに。コートニー大尉の言う通りですね。ティターンズの設立と同時に残党軍も多少なりとも反応はするでしょうし」
「そう言う事だよ。さて、俺は彼奴らの様子でも見てくるよ」
そう言ってラーモア少尉に後を任せて部下の元に行く。そう第031パトロール部隊にも1小隊分のモビルスーツ部隊が有る。その隊長が俺で他2名が居る訳だ。だが、その2名が若干問題が有る連中なのだが。
俺はパイロットの詰所まで来て扉を開ける。中を見れば2人共ちゃんと待機している様で安心した。
「お疲れ様です。コートニー大尉」
「チッ、お疲れ様です」
「ああ、お疲れさん。それと舌打ちは聞えん様にやれ」
「…了解」
この反抗的な奴はジェフ・オールコック上等兵。デラーズ紛争でソーラー・システムⅡ防衛戦が初戦となる。撃墜スコアは無い為、戦果を欲しがる傾向が強い。また、俺をライバル視しており、偶に模擬訓練をお願いされる。反抗的だが向上心は高い為、教え甲斐は有る。
そして礼儀正しい奴がアーサー・ビューマン曹長。彼は一年戦争後に地球連邦軍に入隊。その後小規模な戦闘を何度か行う。デラーズ紛争時も残党軍殲滅戦に於いて2機撃墜している。彼自身の撃墜スコアは合計12機と決して悪い数字では無い。では何故問題児なのか。それは戦果の横取り、又は情報漏洩の疑惑を持っているのだ。彼が以前所属していた部隊は一度壊滅している。しかし、彼自身の機体の損傷は少なかった。また、戦闘レコーダーも何故か故障していた為真意は不明のままだ。
そんな彼等には共通点が有る。それはティターンズへの入隊に落ちた事だ。ティターンズと言えば今やエリートと言える存在だ。その組織に所属したいと思うのは当然と言えるだろう。
「隊長、また意味の無いパトロールに行くんですか?正直やる意味は無いでしょう」
「それでもやるのが俺達に与えられた任務だ。それを遂行して初めて軍人の端くれに名を連ねる事が出来る。ほら、無駄口叩いて無いでシャキッとしろ」
やる気の無い連中に問題だらけの部隊。そんな部隊だからこそ与えられる任務は限られた物ばかり。だが、それしか与えられない状況にしたのは自分達自身だと気付いてるのだろうか?いや、気付いてたら素直に命令には従ってるか。
以前の部隊とは真逆の状況。だが、それを望んだのは自分自身だ。だからだろうか、不思議と後悔の念は出てこなかった。