宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型

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裏切りの時

仕組まれた罠が間も無く動き出す。それは力を持つ者故の宿命なのか。その宿命に対する疑問に意味は無い。何故なら喜劇を望む人々が沢山居るのだから。

 

宇宙世紀0085.2月11日。

 

現在ポプキンスはアモス中佐率いる艦隊と共に行動していた。そして先程ビューマン曹長とオールコック上等兵もポプキンスに戻ってきた。しかし搭乗していた機体はRGM-79Cジム改では無かった。

 

「RMS-179ジムⅡか。まさか新規生産された機体を渡されるとはね」

 

尤も渡されたのは2機のみであったが問題は無い。寧ろ彼奴らがジム改からジムⅡへの慣熟訓練をしてるのかが不安だ。

 

「まあ、いざとなれば俺が囮になれば良いだけか」

 

自分の愛機に近付きバイザー部分を撫でる。此奴とももう少しでお別れだ。そう思うと少し寂しい思いは有る。

 

「この戦いが最後になるだろう。今まで有難うな」

 

ジム改に語り掛ける。何だかんだで1番長く搭乗している機体だ。それ故に思入れは結構強い。ジム改は特別な機体と言う訳では無い。寧ろ誰でも扱える無難な量産機と言えるだろう。それ故に地球連邦軍の主力機として存在していた。

 

「さて、そろそろ出撃だな。最後まで頼むぜ相棒」

 

最後にそう言い残しコクピットに向かう。そして機体の起動シーケンスを行う。

 

「機体チェック。油圧、バッテリー、各部異常無し。武装はジム・ライフルに予備弾倉。後はビームサーベル2本とシールド固定も良しと。何時も通りだな」

 

唯一心配なのはバックパックの不調だろう。だが昨日整備兵と共にバックパックを重点的にチェックしから多分大丈夫だろう。

 

「ヘイルズ1より各機、機体状況を知らせよ」

 

『ヘイルズ2異常無し。いつでも行けます』

 

『ヘイルズ3。俺も大丈夫です』

 

久しぶりの実戦になるのか少々大人しい雰囲気を出している。

 

「お前達、ジムⅡの乗り心地は如何だ?」

 

『ええ、ジム改よりも出力が有りますしビームライフルも標準装備で付いてますから良いですよ』

 

『流石にジム改とは違いますよ。なんと言ってもパワーが違いますよ』

 

「そうか。なら機体慣らしは大丈夫なのか?」

 

『え?え、ええ。多少はやりました』

 

『俺もシュミレーターでやりました』

 

「基本的には実機でやるのが良いんだがな。まあ、時間が無かったから仕方無いか。俺が前衛で囮になる。お前達はビームライフルで敵機を発見次第攻撃をしろ。機体慣らしが出来て無いなら無闇に接近戦をする必要は無いからな」

 

『了解しました』

 

『了解です』

 

気を紛らわす為に話し掛けたが効果はイマイチだな。やはり実戦が不安なのだろう。

 

「安心しろ。お前達は訓練通りに戦えば良い。後は実戦の勘を思い出せば良い」

 

『あの、隊長はエースパイロットだったのですか?』

 

ビューマン曹長が質問して来る。恐らく俺がアモス中佐からティターンズに勧誘された時の話を信じて無いのだろう。

 

「昔の話だ。今はエースでも何でもない唯のパイロットだよ。さて、そろそろ作戦開始時間だ。無駄話なら後からしてやる」

 

『『了解』』

 

暫く待機してるとアモス中佐から通信が来る。

 

『諸君、これよりジオン残党狩りを行う。先ずはコートニー大尉率いるヘイルズ小隊が先遣隊として暗礁宙域に突入。それと同時に艦隊からミサイルを発射を行いミノフスキー粒子散布と爆煙を形成。それに紛れる様に突入し敵戦力の把握を行え。その後我々第25独立部隊が突撃する。各員の健闘を祈る』

 

アモス中佐から作戦概要が簡単に説明される。要は囮になり敵機を引き付けるだけだ。

 

(それくらい慣れてるからな。問題無いんだよ)

 

『ヘイルズ小隊発進準備お願いします』

 

「此方ヘイルズ1了解した。ワイヤー固定解除」

 

ジム改を固定しているワイヤーを解除する。

 

『ワイヤー固定解除確認。発進どうぞ』

 

「ヘイルズ1、シュウ・コートニー大尉、ジム改出るぞ!」

 

一気にブースターを吹かし宇宙へと飛び立つ。そして目標となるジオン残党勢力の強行偵察を行う為に突撃する。

 

『各艦、ミサイル発射用意』

 

『発射用意完了。何時でも行けます』

 

『宜しい。全艦ミサイル発射!』

 

艦隊からミサイルが放たれる。そして前方の暗礁宙域にミノフスキー粒子と爆煙が形成される。それに乗じる様にシールドを構え突入する。

 

「各機、デブリに気を付けろ。何時もの安全第一の速度で突っ込めば敵に狙い撃ちになるぞ。速度を落とさずデブリを避けろ」

 

『ヘイルズ2了解です』

 

『ヘイルズ3了解!』

 

そして高濃度ミノフスキー粒子と爆煙の中に突入して行く。それが罠に掛かる獲物だと気付かぬまま。

 

……

 

アレキサンドリア級重巡洋艦 ブリュッヒャー

 

アモス中佐はブリュッヒャーの艦橋から戦況を確認する。

 

「さて、保険は必要だな。第1小隊出撃用意。それから私の機体も用意しておけ』

 

「了解しました」

 

オペレーターは直ぐに格納庫に連絡を行う。

 

「アモス中佐、今回は上手く行きますかね。他2人は上手く勧誘と言う形で確保出来ましたが」

 

ブリュッヒャーの艦長がアモス中佐に質問する。

 

「完璧に任務をこなすのが私の主義だ。それに、彼女に近付くには多少の度胸は必要だ」

 

「彼女…左様ですか。では自分は艦隊の指揮に当たります」

 

(完璧と言いながら女を想うか。全く…)

 

艦長はアモス中佐の言葉に内心呆れながらも表には出さずに任務に戻る。

 

「頼んだぞ。尤も、不意をついた遠距離狙撃だ。幾らエースパイロットと言えども避けようが無いさ。何せ…」

 

アモス中佐は一息入れて次の言葉を口にする。

 

「味方から狙撃されるのだからな」

 

仕組まれた作戦が間も無く彼に襲い掛かろうとしていた。

 

……

 

ミノフスキー粒子の戦闘濃度とデブリや岩石の影響は凄まじい物だ。唯でさえ通信し難い状況に障害物により味方とのレーザー通信が困難な状況になる。

 

「ヘイルズ1よりヘイルズ2、3応答しろ。ビューマン曹長、オールコック上等兵!返事をしろ!」

 

更に悪い事にミサイルの爆煙を抜けたら2人が居なくなっていた。デブリにぶつかって損傷したならまだ良い。最悪戦死したなんて笑い話にもならない。

 

「隊長失格だな。無理にでも後方に待機させて置くべきだったか」

 

自分の判断ミスに嫌気を感じながら頭を切り替える。最悪作戦終了後に2人の探索をしなくてはならない。なら、やるべき事は一つだけだ。

 

「サッサと強行偵察を済ませさて貰うぞ。残党軍に構ってる余裕は無いからな!」

 

機体をデブリの陰から出し移動させる。勿論スピードは落とさずに突っ込んで行く。

 

「待ってろよ2人共。俺が任務を終わらせるまで死ぬんじゃ無いぞ」

 

意識を集中させてデブリの中を飛んで行く。部下達を死なせない為に、要らない思考を全て切り捨てて。

 

……

 

シュウ大尉が暗礁宙域の奥へ進んでいる時、ビューマン曹長とオールコック上等兵は予定通りの行動をしていた。

 

『此処だ。武器が設置されてる場所だ』

 

『早く準備するぞ。隊長にバレたらヤバいぜ』

 

彼等は機体をコンテナの近くに寄せる。そして暗唱コードを入力して目的の武器を手に入れる。コンテナから姿を現したのは、ジム・スナイパーカスタムの基本装備の一つ【BR-S-85-L3スナイパー・ビーム・ライフル】だった。

 

『OS、FCSの同期開始。シュミレーション通りだ。其方はどうだ?』

 

『こっちも今やってる。同期は直ぐ終わるぞ』

 

『なら隊長…いや、“元”隊長を探そうか。けどミノフスキー粒子が散布されてる所から出るなよ』

 

『そんなヘマはしねえよ。それよりサッサと終わらせようぜ』

 

2人は元隊長のシュウ・コートニーを探す為に機体を移動させる。

 

『でも、態々スナイパーライフルで狙撃するとはね。それだけコートニーの奴が強いって訳か。正直言って信じられ無いけど』

 

『言えてる。確かに機動戦は中々の物だとは思うけどな。でも任務中でエースらしい姿は見た事無いけどな』

 

シュウ大尉は真面目に任務を遂行していた。例え意味の無い事でも手順を守りやり続けていた。その姿は軍人として正しい姿なのだろう。だが、彼等にとっては滑稽其の物に見えていた。

だが、それは人として当然の感情だ。自分達に出世の機会は殆ど無い。そんな中で真面目にやった所で意味は無いのだから。

 

『でもさ、オールコックはコートニーから訓練受けてただろ?』

 

『あんな無茶なの訓練じゃねえよ!唯の嫌がらせかストレス発散してたに違いねえぜ。その分の借りもキチンと返さねえとな』

 

オールコック上等兵はシュウ大尉との模擬訓練を思い出す。機動戦は当たり前で、常に中〜近接戦を行っていた。然も理由がミノフスキー粒子内では接近戦が多数発生するからだと言う。

だが接近戦ではビームサーベルでの戦闘以外にも手足を使って来るからタチが悪い。更にデブリに隠れたと思えば背後からの奇襲は平然として来る。

 

『腕は確かかも知らねえけど。あの野郎、戦い方が一々卑怯臭えんだよ。もっと正々堂々と戦えっての』

 

『まあ、こっちはジム改なんて旧式よりずっと上の機体なんだからさ。例え狙撃に失敗しても正面から行けば機体性能の差でやれるよ』

 

『ふん。機体性能と俺の腕が有れば勝つのは俺だ。あんな卑怯者に負ける訳が無いね』

 

そんな彼等はシュウ大尉を探し続ける。彼等に与えられてる時間は多くは無い。そしてミノフスキー粒子の影響によりレーダーは使えない。そんな状況では自分自身の眼で探す事は至難の技だ。だが幸運の女神は彼等に微笑みかけた。何故ならシュウ大尉のジム改がデブリの陰に隠れながら止まっていたのだ。

 

『っ!…見つけた。前方2時方向、距離6000』

 

『こっちも確認した。狙撃態勢に入る』

 

ムサイ級巡洋艦の残骸の上に着地をしてスナイパービームライフルを構える。

 

『オールコック、手筈通りだ。同時攻撃で俺が右腕でお前が何方かの脚を狙う。殺すなよ』

 

『分かってる。動いて無いなら外しはしねえよ』

 

2人は照準をジム改に合わせる。

 

『隊長、アンタがティターンズに何をしたのかは知りません。けどね、俺達の踏み台になって頂きます。カウント、3、2、1』

 

トリガーを引く指に力が入る。そしてジム改が此方を振り向いた瞬間。

 

『撃て!』

 

ビューマン曹長は一言呟きながら攻撃命令を出す。そして二条のビームが宇宙に放たれたのだった。


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