宇宙世紀と言う激動の中で。   作:吹雪型

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アインス、ツヴァイ、ドライ

宇宙世紀0085.11月4日。

 

前哨基地では各部隊が慌しく出撃準備を整えていた。旧式と化した61式戦車や戦闘ヘリに装甲強化型ジムやジム・キャノン、更に数は少ないが量産型ガンタンクも出撃準備を行なっていた。

その中に最新鋭機のハイザック4機、ティターンズカラーのジム・クウェルに酷似した機体が3機が居た。

 

「ブラックモア博士、強化人間の調整はどうだ?」

 

『順調です。数値も規定内で安定してます。問題無く中佐の指示通りに動かせます』

 

「だと良いがな。間も無く出撃だ。アインス、ツヴァイ、ドライ、貴様等の存在価値を此処で示せ。でなければジオンはより多くの人々を殺すだろう。そう、お前達の家族や仲間が殺された様にな」

 

『ジオンは全て殺さないと。また沢山の人達が…』

 

『殺す殺すコロスコロス。ジオンは俺が全て潰す』

 

『……』

 

「ツヴァイ、返事はどうした?貴様は何も感じんのか?」

 

アモス中佐は返事のないツヴァイに問い掛ける。ツヴァイは少し間を置き答える。

 

『…ジオンは敵』

 

「ふん、まあ良い。ブラーサ小隊、ロックフォーゲル小隊間も無く出撃だ。表向きはジオン残党の殲滅だ。この意味を十二分に理解せよ」

 

それから15分後にアフリカ大陸前哨基地付近のジオン残党狩りが開始されるのだった。

 

……

 

地球連邦軍前哨基地から数十キロ離れた場所に廃墟と化した街があった。だが其処には活気があった。人々の生活の営みが有り子供や若い男女がチラホラいるのだ。

だが建物の影にはジオン残党軍のMSであるザクやドムが擬態された状態で鎮座している。建物の上には多数の対空砲、対空ミサイルが設置。更に自走砲やマゼラ・トップも存在している。

無論パッと見ではバレる状態ではない。遠目から見れば只の廃墟にしか見えない。そしてそんな廃墟に住み着く住人がいるくらいにしか見えないのだ。

廃墟から離れた森の中には大型のレーダーが周辺警戒を行なっていた。だが監視してる兵士は呑気に雑誌を読んでいる。何故なら今は平和な状態にしているのだ。自分達は生存し、地球連邦軍は軍費を常に国民から徴収出来る。更にお互いに被害が無ければ尚更良いだろう。

しかしレーダーを写すモニターに多数の反応が現れる。それと同時にアラームが鳴る。

 

「ん?何だ何だ?輸送機の大群か?いや…これは、そんな…まさか!」

 

監視員は直ぐに隊長に緊急で報告をする。

 

「どうした?何があった」

 

『はっ!レーダーに多数の感あり。後10分程で第一陣が来ます』

 

「何?見間違えでは無いのか?」

 

『間違いありません!確認出来てるだけでも1個大隊規模です。戦闘ヘリ、61式戦車、更にMSも多数接近中です』

 

「馬鹿な。ええい、全軍に緊急出撃!連邦め、何をトチ狂っているんだ。直ぐに連邦軍の司令官に連絡を繋げろ」

 

そして廃墟に警報が鳴り響く。それと同時にジオン残党兵は慌ててMSに乗り込むか戦闘配置に着く。そして僅かな兵士達が女子供などの民間人達を避難させる。

 

『連邦軍が攻めて来たって本当かよ』

 

『今更何しに来てんだよ。目的は何だ?』

 

『俺が知るかよ。まさかティターンズか?』

 

『それこそ無いだろ。こんな僻地に何の用が有るんだよ』

 

旧式とは言え現地改修済みのMSは非常に扱い易い機体となっている。例え数年間のブランクがあったとしてもそれは地球連邦軍も同じ事だ。

 

但しティターンズを除いて。

 

『間も無くミサイルの射程圏内です』

 

「向こうの司令官との連絡は?」

 

『ダメです。連絡取れません。尚ミノフスキー粒子は依然低いままです』

 

「チィ、仕方ない。此方も犬死するつもりは無い。ミサイルが射程に入り次第攻撃開始だ」

 

そして両軍の持つミサイルが同時に射程に入った瞬間火蓋が落とされる。仮初めの平和はアッサリと崩れる。

誰も望まぬ戦いは一部の者達による実験場へと変わったのだった。

 

……

 

地球連邦軍とジオン残党軍との戦いは徐々に過激化が増して行く。元々お互い憎しみ合った者同士。誰かが殺されれば仇撃ちする為に反撃する。その繰り返しにより被害が徐々に増えて行く。

ジム・キャノンの砲撃により砲台が吹き飛ぶ。ザクの持つザクマシンガンから放たれたの多数の弾丸が61式戦車を次々と破壊。戦闘ヘリのミサイルと機銃が建物に隠れてる兵士や民間人を潰す。対空砲が戦闘ヘリをはたき落すが爆発の衝撃で更なる被害が出る。ジム改がシールドを構えながらドムに向かって射撃をするが建物隠れられ当たらない。代わりにお返しだと言わんばかりにバズーカの弾が迫る。

最早何方も引くに引けない状況となる。そんな中地球連邦軍のビックトレーの艦橋内ではアモス中佐の副官が全体の流れを常に報告していた。

 

「そろそろだな。我々は右翼から攻める。ビックトレーの砲撃支援は10分後に行え」

 

『了解しました。直ぐに通達します』

 

「聞いての通りだ。これがロックフォーゲル部隊の初陣だ。無様な姿だけは晒すなよ」

 

『『了解』』『……』

 

一人分の返事は無かったが無視する。ツヴァイは安定してはいるが非常に無口だとブラックモア博士から言われているからだ。

そしてアモス中佐率いるブラーサ小隊とロックフォーゲル小隊はジオン残党の右翼側に付く。それと同時にビックトレーと量産型ガンタンクからの支援砲撃が開始される。

圧倒的な爆炎と爆風が全てを薙ぎ払う。其処にあった生活の営みも何もかもをだ。そして爆煙の濃い中でアモス中佐は命令を下す。

 

「ロックフォーゲル小隊攻撃開始。ジオン残党を殲滅しろ」

 

『『了解!』』『…了解』

 

3機のRGM-79Qジム・クウェルの改修機であり強化人間仕様でもある【RGM-79Q-NTジム・アルト】が遂に実戦に挑む。武装はシンプルにジム・ライフルを装備。腰にはハイパー・バズーカが懸架されている。

パイロットが催眠や薬物強化などの処置を施されていたとしても卓越した戦闘センスは簡単には腐る事は無い。更にジム・アルトにはZEシステムも搭載されている。またこの時代に於いては破格の機動性を実現しているモンスターマシンとも言えるのだ。

突然の砲撃と爆煙の中から突如現れたジム・アルトの姿にジオン残党兵の動きが一瞬止まる。だが直ぐさま迎撃を開始する。

ザクとマゼラ・トップが咄嗟に攻撃をするがアッサリ避けられる。代わりにジム・ライフルから放たれた弾が次々と被弾して爆散する。ザクタンクが両腕に持つザクマシンガンが弾幕を形成。しかしジム・アルトの異様な高さの機動性により距離を縮められビームサーベルでコクピットを貫かれる。

其処から先はジム・アルトの独壇場だった。ジオン残党軍の攻撃が見えてるかの様な動きで避けられ、的確な攻撃を受け次々とMSが撃破される。機動性の高いドムが果敢にも接近戦を挑む。

 

『その色合いとエンブレム。貴様等ティターンズか』

 

『自分達も続きます。コイツらはエースです』

 

『生き残ってる部隊はティターンズに攻撃を集中しろ!コイツらを見逃せば全てを失う!』

 

3機のドムがジャイアント・バズやザクマシンガンを撃ちながら距離を縮める。対してジム・アルトは散開してお互いの距離を取り始める。最初から連携を取るつもりは無いのか。

 

『馬鹿が。散開した時点で負けだ。各機左右の敵に牽制を!先ずは貴様からだ2番機!』

 

02と右肩に書かれた一番近くに居たジム・アルトに向けてザクマシンガンを撃ちながら距離を詰める。そして現地改修機故に背中に使い捨てのブースターが火を噴く。その瞬間ドムは更なる加速をして一気に距離を詰める。そしてドム特有の武装でもある拡散ビーム砲で目眩しをしようとした時だった。

ジム・アルトのバイザーが一瞬赤く光るのだった。

 

……

 

ツヴァイは特に何かを感じる事なく敵を撃破して行く。それが装甲車だろうとビルに隠れてゲリラ戦を仕掛ける兵士だろうと気にする素振りは無い。寧ろ僚機から入ってくる通信が少し煩いなと思うくらいだった。

 

『ハッハッハッ!死ねジオンが!お前らは地球に巣食ってる虫けらなんだよ!』

 

『死ね死ねシネシネ!家族の苦しみはこんなもんじゃないんだぞ!』

 

任務は順調に遂行出来ていた。機体の性能も非常に良い為旧式のMS相手では梃子摺る事が無いなとも思っていた。

そんな時だった。ロックアラームが鳴ったと同時に足元に爆発が起こる。見れば3機のドムが迫って来ていた。僚機はさっさと散開して距離を取る。ツヴァイ自身も直ぐに後退をして距離を取ろうとする。だが目の前のドムが急加速をした瞬間危機感を感じたのだ。

 

《ZEシステム 起動》

 

その瞬間ツヴァイの見る世界がゆっくりになる。それでもドムは徐々に距離を詰めてくる。ドムの持つ拡散ビーム砲が光り始める。其処に向けてジム・ライフルで照準を付ける。そして一発だけ発射。弾丸は吸い込まれる様に拡散ビーム砲に当たり機能を止める。だがドムは止まる事は無くヒートサーベルを振り被る。此方も左手にビームサーベルを抜き展開しながら振り被る。

2機が交差した瞬間、ヒートサーベルを持つドムの右腕が宙を舞う。その間に右手に持つジム・ライフルで後続のドムのモノアイに向けて狙い撃つ。モノアイが破壊されるが、そのまま突っ込んで来るドムに対してビームサーベルを突き立てる。1機はコクピットに直撃。最後のドムは通り過ぎた所を背後から撃つ。

そして動かなくなったドムから離れて少したって2機のドムが爆散する。最初のドムはそのまま通り走り去ってしまう。流石にあのスピードには追い付けれないなと思っていると世界が元に戻って行くのを感じるのだった。

 

……

 

ブラックモア博士と他の研究員はモニターに現れる情報を逐一纏めていた。まだ全てが決まった訳ではないがアインス、ツヴァイ、ドライがZEシステムの使用率はアインスとドライが高くツヴァイは低いものだった。

 

「やはり感情の欠落は痛かったかも知れんな。ツヴァイの使用頻度が低いままだ」

 

「仮想シュミレーターではそれなりの使用率を出してましたが。尤もツヴァイの適合率は一番低かったですが」

 

「適合率は此方で調整すれば良い。だが逆に使用頻度が高いのも問題だ」

 

「一番多いのがドライですね。続いてアインス。やはりアインスのデータを元に纏めた方が良いのでは?」

 

「まだ時間はある。もしかしたらツヴァイ、ドライが適合するかも知れん。アインスとて使用する度に脳にダメージを受けてるからな。それではダメなのだ。このシステムを量産化するにはパイロットの脳負荷をある程度抑える必要がある」

 

ZEシステムは相手より圧倒的に優位に立てる。だが代わりに脳へのダメージが深刻なのも事実だ。ブラックモア博士はまだまだ実戦データが必要だと感じながらもモニターを食い入る様に見つめるのだった。


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