ハリー・ポッターと古王の帰還   作:ハリムラ

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じゃじゃ馬姫

「あぁ…乾く、乾いた…喧騒、血飛沫、断末魔、悲鳴、死臭、阿鼻叫喚の世界」

 

革張りの王座にふてぶてしく座り黒髪の少女は一人呟く、いや…辺りには死んだ様な瞳で俯き、膝を折り動かない黒いローブに身を包んだ者たちがいた。

 

「なぜ…何故なのですか我が王よ、我が絶対の王、あなたの為に私はこの身を捧げてきた、あなたの為なら日に焼かれようとも喜んであなたの隣を歩く。

あの黒トカゲや弱い赤鬼、木偶の坊に青馬よりもあなたを慕っている…なのに、なのになのになのになのになのになのに!

私を側に置いては下さらなかったのは何故!!!!!!!!」

 

突如として地面から紫炎が吹き出しす、黒ローブ達は僅かに体を震わせる。

紫炎は王座から這う様に床に広がる、何人かの黒ローブが炎に包まれた、声にもならない断末魔をあげ瞬間灰に変わった。

 

「あぁ、足りない、足りない足りない!!!!!!!」

 

瞬間、紫炎が王座の後ろに描かれた肖像画に触れ、それをほんのすこし焦がした。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、熱くありませんでしたか?お怪我はございませんか?申し訳ありません、私の命にて償わせていただきますうぅぅぅぅ!!!」

 

紫炎の消えた肖像画に縋り付きひたすらに謝罪を繰り返す、肖像画は何も言わずただ微笑むだけ

 

「あぁ、私は何てことを、私の王を燃やすとは…」

 

少女は腰に携えた黒刀を抜くと躊躇わず腕を切り落とした、飛び散る血飛沫が雨の様に降り注ぐ。

少女が自身の血で赤く染まった頃部屋の大扉が開いた。

 

「…はぁ、今度はどうしましたお嬢様?」

 

「グレイ、私…炎で王の写し身を焦がして…もう死ぬしかないわよね」

 

黒いタキシードに身を包んだ男グレイはチラリと巨大な肖像画を見た。

あぁ〜…縁の方は確かにほんの少し焦げている、しかし大事な御身には焦げ跡どころか傷一つない。

 

「ご覧下さいお嬢様、王の身には塵一つ付いておりません…むしろ王の猛々しいオーラが下の焦げ跡から滲み出る様ではありませんか!」

 

「…本当?」

 

潤んだ瞳でこちらを見上げてくる小さき少女

 

「えぇ!私はこちらの肖像画の方が断然凛々しく!力強く!何より美しく見えます!」

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫です!」

 

「王はお怒りにはならない?」

 

「きっとなりません!」

 

「そっかぁー」

 

「そうですとも!」

 

少女は愛すべき王の肖像画に身を委ねた

 

「…王に…会いたいなぁ」

 

「そうですな、彼の君は突然いなくなられましたね」

 

「もう一度だけで良い、あの方に触れられなくても良い…ゴーストでも構わない、あの人のお姿をもう一度だけでも…」

 

少女は肖像画に頭を押し付け涙を流す、グレイはそれをただ眺めることしか出来なかった。

何年も何十年も何百年も見続けていた、そして今日もただ少女を見ることしか出来なかった。

 

「…クソッ」

 

自分の不甲斐なさが嫌になってくる、主人が悲しんでいるのに気休めしか言えない…。

主人が探す彼の君の痕跡を死に物狂いで探したが、私ごときでは霧に閉ざされた森に入る事すら叶わなかった。

いや、例え入る事が出来たとしても彼の君を守る魔竜ギルバート殿に阻まれ御目通りは叶わないだろう

 

「何故にお姿を隠されたのですか、ルシアーナ様!」

 

《ッッッッツ!!!!!!!》

 

突如グレイの体を何か目に見えない巨大で鋭い物が貫いた、いや実際には起こってはいないが、そう錯覚するほどの衝撃が走ったのだ。

 

「こ…これは…」

 

グレイは思わず部屋のバルコニーへ出た、遥か西…何かは分からないが巨大な魔法が行使されている。

夜の闇に閉ざされることのないその真紅の瞳でも、見通す事の出来ないほど遠くから感じる果てしないプレッシャー

グレイはそれを見に染みて味わった事がある。

 

「…カッカッカッ」

 

後ろから聞こえてくる一定のリズム、黒髪の少女がヒールを響かせグレイの隣へ来たのだ。

その表情は恍惚として久しく見ていない妖艶な笑みをはらんでいた。

 

「黒トカゲが暴れているわねぇ〜、それも本気の様よ…」

 

「黒トカゲ…国崩し《ギルバート》ですか!!」

 

巨大な四翼の翼を持つ今は亡きルシアーナ様の愛竜にして、魔法界の均衡を保つ者。

太古のドラゴン狩りで絶滅したとされる龍王種の最後の生き残り。

 

「あやつが本気を出すとなれば、巨人族の長《凶棍のサレバス》巨鬼族の長《紅鬼神デューク》とケンタウロス族の長《神弦者デンホルム》の二人、後は…我が主人、吸血鬼族の姫長《喑血姫ティーナ》様位では?」

 

「フンッ、私とただの木偶の坊のサレバスを同率にしないで欲しいわね!アイツなんて魔法耐性が高くて馬鹿力なだけでしょ!

それにデュークとデンホルムなんて二人でじゃないと何も出来ない只の雑魚だしね」

 

あれ?確かサレバス殿とは引き分けている筈では…デューク殿とデンホルム殿には確かに勝ち越していた気はするが…?

 

「あ?なんか言った?」

 

グルンと勢いよくこちらを振り向くティーナ様に、より早いスピードで首を横に振る。

 

「まぁ良いわ、あのトカゲが本気を出すと言ったら数は絞られるし…」

 

ティーナは未だ床に伏せる何人もの黒ローブ達に向かい、高らかに命令を下した。

 

「さぁ、私の可愛い下僕たち…西へ向かいトカゲが何と争っていたのかを調べて来なさい」

 

その命令と共に跪いていた黒ローブ達は一斉に部屋の窓から外へ飛び出した、先程紫炎に焼かれていた者も何人か立ち上がり後を追う。

 

「黒い翼はためかせ、夜の貴人は空で舞う…赤い血潮をその身に浴びて、我が望むは世の混沌」

 

ティーナはグレイが用意したバルコニーでの夜を過ごした、ワイングラスに注がれた赤い液体をクルクルと回し、乾いた喉へ流し込み明るく煌めく月を見ていた。

 

ワイングラスに注いだ後、月を見ながらグレイはひたすらに我慢していた……いや!窓からじゃなくて扉から出てけよ!!!

 

 

 

〜数週間後〜

 

「ティーナ様、朝です起きて下さい」

 

グレイは朝早くティーナの寝室へ向かった、ティーナを起こすのもグレイの大切な(命懸けの)仕事なのだ。

グレイがノブに手を掛けた瞬間、激しい衝撃と共に扉もろとも吹き飛ばされる。

 

「〜ッ!まだ眠いのー!」

 

ガラガラと崩れた壁と扉の間から這い出るグレイ、そこには何百年何百回と繰り返されたからこそ立てるプロの姿があった。

 

「眠くてもダメです、だから昨日夜更かししないように言ったんじゃないですか!」

 

「だって昨日の夜は眠く無かったんだもん…」

 

「いいから起きて下さい!」

 

グレイが部屋に入った瞬間、目の前を覆い尽くす紫の閃光。

 

「ック!」

 

咄嗟に左へ飛び避けた。

しかし、そこにはこちらに逃げる事を予見したかの様な設置型魔法陣が…

 

「…死んじゃえ〜〜」

 

「死ぬかボケェ!!!!!!!」

 

魔法陣を踏む瞬間、グレイは足は全力の魔力操作を行った。

起爆と同時に爆発した威力と同等の魔力で相殺する。

 

「ちぇ、また死ななかったか…」

 

グレイは激しい土煙の中から、ゆっくりとした足取りで出てきた。

 

「…ティーナ様、毎回申し上げていますが何故私を殺そうとするのですか?」

 

「だから〜、ひ・ま・つ・ぶ・し!」

 

黒髪の少女はベットの上で少し傾げながらウインクを飛ばす、グレイの深い溜息と共に今日もつまらない1日が始まる。

 

「ねぇグレイ、今日の予定は?」

 

「はい、先ずお昼に東方妖魔連合の方々との会食があります。その後夕方から領地内の視察を行い、帰城後書類の整理等がございます」

 

どこから取り出したのか分からない黒いメモ帳を片手に、グレイはスラスラとスケジュールを読み上げた。

 

「ふぅ、今日も来るの妖魔連の奴等…」

 

「奴等も必死なのでしょう、ギルバート殿の逆鱗に触れ一度は壊滅まで追い込まれてましたから」

 

「あれはアイツらが悪いわ、事もあろうにフランディール様の御身が眠られているという森へ兵を差し向けるなんて暴挙を行なったのだから」

 

「そうですね、奴等としても彼の君が持っていた奇跡の数々がどうしても欲しいのでしょう。」

 

そう、彼の君が恐れられて来たもう一つの理由。

天才という言葉では片付けられないほどの魔道具開発能力、それさえ手に入れられれば今の世界など根本から変えることのできるほどの力。

 

「はぁ、私が王の力を妖魔連如きに渡すはずが無いとは思わないのかしらねぇ?」

 

「東方では人外と魔法省の戦いが続き、その被害は妖魔連の方が甚大との事ですから。

何かしらの反抗策が欲しい、と言うのが願いでしょう」

 

「そんなたわいも無い戦いに我が王の力を使おうとは、いっそ私が滅ぼしてやろうかしら‥?」

 

ティーナは眠そうに瞼を擦りながら不穏な事を口走る。

まぁ、そんな事をしようものなら、国崩し殿が黙っている筈が無いため未だ実行には移していないが‥。

ギルバート殿の役目は魔法界の均衡を保つ事、東方の戦いに干渉するのは自然の摂理に反する。

彼らは自分達でこの戦争を止めねばならない、それが出来ず戦火を広げようものなら本当に国崩しが動くだろう。

 

「まぁいいわ、所で黒トカゲが何と争ったかは分かったの?」

 

ティーナは興味を失ったのか、最近の習慣になっている質問をして来た。

 

「はい、放った影達の報告では彼の君がいらっしゃるとされた霧の森から国崩し殿が消えたとの事です。

同時に辺りは地面がガラス化する程の破壊痕があったと、それと同じ場所から銀色の髪が何本か見つけられ、争ったのはこの銀髪の方かと推測されております。」

 

瞬間、グレイの背筋が凍った。

ティーナが怪しい笑みを浮かべている。

 

「へぇ〜、黒トカゲと争った謎の銀髪

それと同時に姿を消した黒トカゲ‥‥、何か面白そうな事が起こっているわね」

 

あぁ、これは悪い癖が出ているな‥

 

「あと、あくまでも情報に過ぎませんがイギリスの方ではぐれ人狼のコロニーが目に見えて少なくなっていると。

それと同じく、人狼の暴走事件が激減しているとも聞きます」

 

「ん?はぐれ人狼の激減?仲間同士での殺し合いでもしているのかしら‥」

 

私も最初はそう思った、だが

 

「人狼のいなくなったコロニーを確認した所、人狼族以外に多くの足跡を発見しました」

 

ティーナの顔が思案に入った、1分程だろうか俯いていた顔を唐突に上げた。

その顔は自分でも疑問に思っているような雰囲気だ。

 

「‥でもそんな事、誰かがいる?あいつらを纏められるような者が?

情報が足りないわね‥。

グレイ今残ってる中で、最大規模のコロニーはどこ?」

 

「は、おそらく惑わしの森に住む者達のコロニーかと思われますが‥?」

 

その答えを聞き、姫は楽しそうに微笑んだ。

 

「よし!じゃあ今夜そこへ行くわよ、誰が何の目的で人狼を狩っているのか確かめないとね!」

 

やはりこうなったか‥。

目の前で、ニコニコと楽しそうに微笑み続けている主人を見て、グレイは頭を抱えた。

 

「もしも、魔法界に仇なす存在ならば、暗血姫ティーナの名において滅ぼさなくちゃね!」

 

貴方はストレス発散したいだけだろ!

忠実な執事は、そんな気持ちをそっと胸の奥に仕舞い込んだ。

まだ見ぬ人狼襲撃者達に襲い掛かる不幸を確信しながら。

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