目を覚ましたら、森の中でした。……はい?
どことも知れない場所に私はいた。土や草の匂いが私を包んでいる。独特な獣臭もする……気がする。
いやほんとに何処ですかここ? 森なんて学校行事の林間学校ぐらいしか覚えが無い。誘拐されるほどお金持ちなわけでもないし……。いや誘拐だったら森に置き去りはないよなー。
熊とか野犬に襲われたらどうしよう。そういえば、山で迷ったら川に向かえ。川に辿り着いたら下流に向かえば村があるとかなんとかテレビで言ってたな。とりあえずここから移動、と思って立ち上がる。
その瞬間、ガサガサと茂みが揺れた。
「……ピキ」
今まで聞いたことがない鳴き声。いやなんだピキって。そんな声を野生動物が出すなんてしらないぞ私は。
揺れたあたりから、青い何かが飛び出してきた。ぽよん、ぷるんと弾力があるそれには、くりくりした目とにっこり笑顔な口があった。
ぴょこぴょこ動く青い何かが、ぐーんと伸びて、私に向かって跳んで。
「ピッキィィーー!」
「ぐふっ!」
お腹にダイレクトアタック! 勢いに負けて地面にどさっと音を立てて倒れこむ。
いきなりぶつかってきたそれは、私にぐりぐり体を押し付けるようにして、ピキュー、ピジュー、と泣いていた。……泣いて?
「よかったぁ……生きてたぁ……」
ぐじゅ、と鼻をすするような声とピキピキ声が重なって聞こえる。私に向かって突っ込んできたそれは。
「……スライム」
なんでスライムの言葉わかるんだ、とかここ結局どこなの本当にドラクエなの、とかいろいろ謎が出てくるけど。
「とりあえず、どいてくれないかな……」
「……ピギィ!?」
そう言われてやっと今の状況に気付いたスライムはぴょんと地面に降りる。ウルウル目でこっちを見上げるスライム。
「うう、ごめんね。僕、悪いスライムだ」
「いや誰も悪くないからねこれ。泣くほどじゃないって」
「けが、痛くない?」
「大丈夫。怪我なんてないから」
ほら、と肩を回して元気アピール。それを見てスライムはやっと落ち着いたようだった。
「治ってた、よかった! ベホマラー一回だけしかかけてなかったから」
ベホマラー。ドラクエの回復魔法の中でもかなり高位の呪文。それをスライムが使った……? いや、治ったって言わなかったかさっき。
「私、怪我してたの?」
「うん! びっくりしたよー。空から落っこちてきたから」
「えっ」
空から落下!? なんかとんでもないこと起こってたぞ私の体。
「大変だーってなって、すぐにきたんだ。みんなは、人間なんかほっとけって言ってたけど……」
「みんな……って」
いやな予感が頭をよぎる。
「んーとね、ライオンヘッドとか、おおねずみとか、じんめんじゅとか……僕以外全員!」
それは明るい声でいう事じゃないと思う。このスライム以外味方ゼロ。他の魔物は人間に対して嫌悪感しか持ってないっぽいなこれ。早く他の人に会って衣食住と安全を確保しないとやばい。
「みんなね、人間は獣王さまがやっつけてくれるから大丈夫だって。でも、大丈夫だよ! 僕が、ヒーローが守るから!」
「…………え」
獣王ってまさか、と尋ねようとしたその時だった。
ウオオオオォォォーーーーン……。
森がざわめく。鳥たちが空へ飛び立ち、動物たちは尻尾を撒いて逃げていく。私達の背後の木がめきめきと音を立てて倒れた。背中が寒気立ち、反射的に振り向く。
百獣魔団団長、獣王クロコダインがそこにいた。
「貴様……この獣王クロコダインの縄張りに入ってきてただで済むとは思うな……!」
拝啓、お父さんお母さん。いままでありがとうございました……。
時間がゆっくり過ぎるように感じる。これが死ぬ前の感覚ってやつか知りたくなかったな、モノホンのクロコダインやっぱりでかいなー、なんて余計なことを考える自分がいる。そんな私を見てスライムはわたわたしていた。
「わああ、しっかりしてー!」
「グワッハッハッハ! たかが人間一人とスライム一匹、大した敵ではないわ……む?」
クロコダインがその両目で私たちをとらえる。上から下までしっかりと確認して。ぱちぱち、と目を瞬かせる。
「女……だと? なぜこんな所にいる?」
それは私の方が聞きたいです。そういえば、隻眼になってないってことはまだダイとは戦っていないのか。とにかく、ここはなんとかごまかしておきたい。ザボエラの策にのっていた時を除けば、彼は武人としての確かな誇りを持っている。戦う手段のない女子供に手を上げる人ではない。
そう結論を出すと時間の感覚が戻って来た。私が何か言おうと口を開くと、スライムが私の前に出てきて。
「んーとね、マスターね、空から落っこちてきたの」
答えちゃったよこの子!
「そうかそうか、……もっとまともな嘘をつけ」
「うそじゃないもんホントだもーん! 『ライデイン』!」
「へぁっ!?」
「何だと!? ぬぐあっ!」
スライムが呪文を唱えると、クロコダインに稲妻が落ちる。完全に不意打ちだった。まともに喰らってしまった獣王はその場に膝をつく。
「今のうちに逃げようマスター!」
「へ、あ、うん。わかった!」
呆然としている私を急かして走り出すスライム。数瞬遅れてそれを追いかける私。
「逃がさん! うなれ、真空の斧!!」
「ピキー!?」
「うわぁっ!!」
風に足を取られて二人ともすっころぶ。背後からずしん、ずしんと足音が迫る。
「そのスライム……まさかライデインを使うとはな。貴様も何か切り札を隠しているのか?」
いいえ持ってないですJOKERもこの世界にはいないですおそらく。
そして、クロコダインがスライムをつかみ上げこっちを睨む。
「マスター……とか言われていたな。貴様も来てもらうとするか」
「…………ハイ」
とりあえず、一つだけ言わせてほしい。どうしてこうなった?
わかりにくかったですが、スライムの名前はヒーローです。