ここは地底魔城、の牢屋。なんで私達がここにいるのかひとまず整理してみよう。
最初に、クロコダインが悪魔の目玉を通じて私たちの事を速攻で魔軍司令ハドラーに報告。でっかい組織だしホウレンソウ大事だもんね、仕方ないね。
そんで、「ライデインを使えるスライムだと!?」ってハドラービックリ。小物時代の象徴、鼻水は出たんだろうか。
そのスライムを調べれば魔王軍の増強に使える! ついでにマスターとか言われてるその人間は人質にしよう! でもわけわかんない奴をいきなり鬼岩城に連れて行くのもあれだし、てなわけでちょっと判断する時間がいる。なら監禁だー、ってなるのはさすが魔王の部下。じゃあ誰にしよう、って悪魔の目玉を介してプチ会議開始。悪魔の目玉はスカイプとしても使用可能なのかー。
まず、フレイザードは無し。任せたらその日の内に難癖付けられて私達丸焦げか氷像になるよね。
次、ザボエラ。あの野郎がおとなしく監禁だけ、てのは信用できない。それは私も同感です。
ミストバーン。そもそも喋らなかった。ミストバーンがよく喋るようになるの、原作始まってからなんだよなー。
クロコダイン。部下が人間の世話に向いてない。そもそも魔の森に牢屋が無い。
何……だと……ぐわあぁぁっー! 私の心の中の一番希望がけっこうまともな理由で切られたー! おっさんの所にいたらダイ達と出会うのがすぐ終わるのにー! 魔王軍に捕まっていたの大変だったでしょう、て流れで保護されたかもしれないのにー!
そんなこんな話し合って、ヒュンケルに押し付けた……もとい、任せた。
え、けっこうまともそうなバランさん? ハドラーがなんとか理由つけて候補から外したよ。超竜軍団をこれ以上強くしたら魔軍司令の地位が、って小物なハドラーは考えたんでしょうよ。たぶん。
……なに? まずどうやって地底魔城まで来たかって?
「空の旅たいへんだったー」
そう、私達はガルーダにわしづかみされて空輸されたのです。私を助けてくれたスライム、ヒーローはトベルーラを使えないとのこと。つまり飛行中に何か抵抗したら地面に真っ逆さま。移動中、生きた心地はしなかった。
やっと地面に降り立ったと思えば地底魔城のある死火山の火口だったし、目の前には鎧の魔剣装備したヒュンケルが待ち構えていたし。ヒエッて声出たよ。
まあ声零した瞬間ヒーローが私の前に出て、ヒュンケルとにらみ合ったかと思うといきなり「ついてこい」だったからね。わけがわからないよ。普通の人は目で会話できないからね!?
あ、食事も衣服も寝床も用意してくれているのはすごくありがたいです。一文無しなので。このまま原作に入るまで監禁ライフを過ごさせていただきましょうか。
「ねえヒーロー」
「なーにマスター!」
時間だけはたっぷりあるので、気になったことをいくつか質問してみる。
「その……なんで私をマスターって呼ぶの? 私の名前優香なんだけど……」
「えー、マスターはマスターなの。僕よくわかんないけど、空から落ちてくるの見て、あの人がマスターだってこう、びびっと」
「びびっと」
このスライムは一体私の何を感じ取ったのだろうか。私は何も戦闘能力のない一般市民です。それに。
「そのマスターって呼び方、なんか変な気持ちになるからやめてほしいなー……」
だって言葉として聞こえるヒーローの声がピュアな男の子って感じなの! そんな声でマスター呼びはいろいろ危ない! 主に私の精神が。
「普通に名前でいいからさ」
「……いいの?」
ヒーローは心配そうな顔で見上げる。何処をどう心配しているのかこっちにはわからないけど、スライム的に問題はあるのかな?
「マスターがそう言うならいいけど……フケイじゃない?」
「そこまでの権力もってないので問題ありません」
「……うん。わかった! よろしくね、優香!」
「こちらこそ、ヒーロー」
手とスライムボディをこつんと合わせ、二人で笑う。この感じなら大丈夫かな。触感とかちょっと気になったので椅子に座って、ひょいっと抱きかかえる。おお、見た目通りのぷにぷに感。ほっぺを突っついてみる。
「んむ、くすぐったいよー」
かわいい。まんざらでもなさげな声。うりうりといじくっていると、ヒーローの目がとろんとしてきた。
「んみゅ……」
「あふ……」
二人とも同時にあくび。トリップしてからずっと気を張り続けてたからか眠い。私は森で目を覚ましてから流されるままだったけど、ヒーローはどうしたらいいかずっと自分で考えて行動してたんだよね。
「……ありがとね」
「くぴー……」
ありゃ、寝ちゃったか。それに、私ももう限界かな。
「おやすみー……」
二人のいる牢屋には寝息しか聞こえなくなった。
「…………」
扉の横で耳をそばだてていた剣士は、音をたてぬようそっと歩いて行った。
「あ、ミイラさん。ありがとうございます」
「ありがとー!」
「……あ、ああ……」
朝ごはん持ってきてくれたミイラにまず感謝。私はこれからどうするか、考えた結果がこれ。ありがとうって言ってくれる人に悪い気は起きないでしょうよ。これをずっと続ければ私達に敵意は無いって伝わるはず。届けこの思い!
で、ご飯の内容はパンにスープとまさに洋食。定番だね。だがすまんミイラよ、私はご飯派なんだ……。でもこの世界にお米ってあったっけ? まあ出されたものはきっちり食べますがね。文句は言わない、言うのは感謝。
パンをちぎってスープに浸してパクリ。うん美味しい。
「おいしー」
「ねー」
ほやほやしている私達。ヒーローなんか後ろに花が舞っているように見える。ここ牢屋じゃなかったっけ? あれ? って顔で私たちを見るミイラ。
「……お前ら、ここが牢屋だってことわかってんのか……?」
「もぐもぐ……わかってるー!」
「……そうか」
あ、ミイラが頭抱えだした。そりゃ敵のアジトでのんきにご飯食べる人なんてそうそういないからね。
「あ、心配しなくても(今は)脱走しませんから」
「…………そうか」
ミイラは、俺何であんなに警戒してたんだろうって感じのオーラを背中に漂わせながら、扉を閉めて出て行った。
「悪い事しちゃったかなー……」
「え、なにがー?」
「……何でもないよ」
ヒュンケルに私たちの事どうやって報告するんだろうか、あのミイラ。変な事言わないよね……?
ミイラ「……ヒュンケル様」
ヒュンケル「どうした、何か問題でも?」
ミイラ「あの二人の事ですが……。朝食を運んできた私に、ありがとう、と」
ヒュンケル「……」
ミイラ「そこまで警戒する必要は無いのかもしれません。……これは私の主観ですが。以上です」
ヒュンケル「……そうか」