長かったバスでの移動も終わり、旅館に着く。1日目は学校からの移動だけで、各自旅館で自由行動をとることになっている。私は玲君達と一緒に旅館にあるゲームセンターで夕ご飯まで時間を潰していた。
「そいやぁ!!」
勇吾の力のある1発。その一撃は弱いはずもなく、パンチングマシーンに叩きつけられた。
「おぉ?」
「得点は?」
134点。男性の平均と比べると、中間辺りの点数だ。
「どやぁ...!」
「すっご...」
「んじゃ、次。奈夜な」
「お、おう...おらぁ!」
107点。勇吾には及ばず、男性としては弱めの記録だった。
「うわぁ...」
「もっと運動しろって、そんなんだから去年持久走でしたから5位だったんだよ」
「うっさい...じゃあ次、玲ね」
「よしきた」
腕を自信満々に振る玲の後ろで、勇吾達は小声で、
「なぁ...玲の記録。どれくらいだと思う?」
「うーん...見た目結構細いし、俺と同じくらい?」
(この前、鍛えてるって言ってたけど、どうなんだろ...)
「ふんっ!!」
ドゴォ!!
181点。その点数は、勇吾の記録を圧倒的に上回っていた。
「...嘘だろ?」
「181点て...」
「ふふーん。どやぁ」
「なんかムカつくなそのドヤ顔!」
「日頃からの筋トレの違いだよー」
「ホントお前何者だよ...」
「人」
「わかっとるわ!!」
ホントに玲君って何者なんだろ...男の娘だし、体は傷だらけだし、力はやたら強いし...。
「ん...もうこんな時間か...夕飯行こっか」
「バイキングだし、腹壊すぐらい食べないと損だよな」
「腹壊した時点で色々損すると思うけど」
「あはは...」
何食べようかなー...お寿司とか、ラーメンとかステーキとか。折角の食べ放題だしね。
__________。
「玲君はなにか食べたいのあるの?」
「僕? 僕は...沢山あるし決められないかなぁ...」
そう言えば、玲君の好きなものってなんだ...? お昼もいつも購買のパンとかだったし...知らないことばかりだな...
「あれ? 都神?都神じゃん!」
「...?」
「あ」
急に話しかけれ、私達が振り返ると、そこには2人の男子がいた。片方は黒い肌の金髪で、もう片方も黒い肌をしていた。どっちも不良という漢字二文字が当てはまりそう。
「霧生と茨木...」
「まさか修学旅行で出会うとはなー。元気してたか?」
「...少なくともそっちにいた時よりは楽しいよ」
「ひっどい言いようだなー。こっちはこっちで楽しかっただろ?」
「別に」
「あっそ...にしてもお前、いい女連れてるじゃん。今度紹介しろよ」
そう言って彼らは私の方を見る。少し怖くなって身震いする。二学期になって落ち着いた方ではあるが、『あの目』で見られるのが私は怖かった。人を性的に見るいやらしい目。
すると、玲君がすーっと私の前に立った。私が見られないように。
「悪いけど、君たちに紹介する女の子なんていないよ」
「へぇー。じゃあ後ろの子は?」
「僕の彼女...手出したら、許さないから。」
...もう2週間になるけど、急に言われるとやっぱり恥ずかしいな...。
「お前の彼女!?ぶはっ!! お前に彼女とかできんのかよ! そんな女みたいな顔で!」
「少なくとも、君のように2股とかはしないから」
「あぁん?」
「あぁ、間違えた。最高記録6股だったっけ」
「てめぇ...黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって...!」
霧生と呼ばれた人が玲君の襟を掴もうと手を伸ばすが、すぐに手首を掴まれる。
「ぐっ...相変わらずスゲー馬鹿力」
「また、腕の骨を全部折ってあげてもいいんだよ? 」
「くそが! 離しやがれ!」
「玲君!」
もう1人の茨木と呼ばれた男子が玲君に殴りかかる。それを見越した玲君は、握っていた腕を引っ張り、霧生を盾にし、玲君へと突き出された拳は、霧生の頬に突き刺さった。そのまま、
「ごふっ...」
「がっ!」
二人の顔へと強烈な一撃。それをまともにくらった2人は、しばらくは起き上がらなかった。
「...」
「な、なぁ...玲?」
「ん? どうかした?」
さっきまでの軽蔑の眼差しとは違い、いつもの優しい目にもどる。その優しい目に、私は癒される。最高だろあの目。
「さっきのヤツらと知り合いなのか?」
「んー...まぁ、知り合いかな。 あんなのを知り合いとは呼びたくないけどね」
「玲君...あの人たちと何かあったの?」
「あぁ...それが転校の理由かな」
『えぇ!?』
「まさか、いじめられてたのか?」
「まさか? あんな奴らにいじめられるほど僕は弱くはないよ」
「そう...」
私の質問に、何気無く返す玲君。その返答に嘘は感じられなかった。
________。
「うぅ...腹痛い」
「流石に食べ過ぎだっての...」
「あはは...」
夕食も食べ終わり、風呂に入る時間に。この旅館には大浴場が2つあり、それぞれ男湯、女湯である。あと何故か男子と女子が一緒に入れる混浴風呂があるらしい。あわよくば玲君と...。
「じゃあ、僕達は行くね」
「あぁ、うん...」
まぁ、そんなの叶うわけないか...一緒に入ろうなんて言ったらがっついてると思われそうだし...
「...なぁ...玲?」
「ん...?」
「楠さんと一緒に入らないのか?」
「んー...自分の裸が見られるのが恥ずかしいって言うか...」
「俺だったらがっつり見せるけどな」
「...今すぐ外行って見せてくれば?」
「捕まるわそれ」
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「____ふぅ...」
「いやー、にしても心奏、でかい胸を持ってるねぇ」
「アンタには言われたくないわね...」
今、女子の皆と風呂に入ってます。気持ちよすぎます。この風呂。日頃の疲れがどっと抜けてく感じ。
...やば、気持ちよすぎて寝そう。
そんな時、隣の大浴場、男湯の方から声が聞こえてきた。
「玲!どうしたんだよその体!」
「すっげー痣だぞ!」
「何があったんだまじで...」
どうやら、玲君の体を見て驚いてるらしい。何があったんだろ。
「ちょ! 勇吾、奈夜! 静かにして!心奏にバレる!」
向こうからしたら、小声で言っているのだろうが、壁に耳をつけていた私は、その声を聞き取ってしまった。
「...」
「心奏?」
「...何でもなかったよ」
「そう...」
玲君のあのセリフを聞いて、何だかとてもやるせない気持ちになった。
玲君のことは知らないことばかりだけど、隠し事もしていたとは思わなかった。
それはもちろん、隠し事だってすることもあるはず。だけど、それを知らずにはいられなかった。
...玲君は、私に何を隠しているの?