チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
今回、ちょっと短いけどほのぼのしてます。
*
真由美先輩の素晴らしいリュドミラ・パヴリチェンコ張りの狙撃を見た後、僕は昼食を取ることにした。
スピード・シューティングの準決勝と決勝は午後に始まるとのことで、カ口リーメイトとヘ○フ○シ・コーラを飲んで観客席で暇をつぶす。流石に灼熱地獄もびっしょりな汗をかいてしまいそうだったので適度に日光を逸らしている。全部逸らすと凍え死んでしまうし、僕の姿が見えなくなってしまうから。
「いよぅ! 青、来るなら言ってくれりゃよかったのに。お前も応援に来てたんだな」
人が少なくなった観客席でカ口リーメイト(エキシビション味)*1の余りの不味さに驚きながらぼけーっと雲の形を眺めていると、僕の肩を叩く衝撃と声があった。
来てたんだな、って……こっちのセリフなのだが。
「
レオ君だ。
応援。……あ、そうか、レオ君たちは達也君が九校戦に出るからその応援に来たのかな。
ということは……。あぁ、やっぱり。エリカちゃんとメガネおっぱいちゃん(まだ名前知らない)と細身の子(クラスメイト)と深雪ちゃんが一緒にいる。ほんと仲良いなぁこの子達。
「なんで疑問形なんだよ。それともまさか、本当に写真撮りに来ただけって事はねぇよな?」
「……おう」
いえ、写真撮りに来ただけです。
でも、そうか。達也君だけでなく、真由美先輩や摩利先輩も出るんだから、普通は応援の為に来るものなんだよな。学校対抗の運動会とか、妹の彼氏君に言われるまでほとんど興味なかったから……暑いし、外出るの面倒くさいし。
なんてことを正直に言うわけにも(言えないし)いかないので同意しておく。
そうだよなぁ、自分の学校の先輩や同級生を応援しに行くって……凄いなぁ、青春じゃん。
「溜めが長えよ……。ったく、とりあえず一人で応援するくらいなら、俺達と一緒に見ねえか? もうすぐ、スピード・シューティングの準決勝が始まるみたいだからよ、別に無理して会話しなくてもいいから、な?」
何この性格イケメン。眩しい! 太陽より眩しい! レオ君を直視できるなら太陽も直視できるはずだ……うぉっ、眩しっ!
しかし……後ろの四人。特にエリカちゃんと深雪ちゃんの視線が……。メガネおっぱいちゃんもあからさまに怯えているし……。細身の子はよくわからないが。
「あー……」
「遠慮すんなって。構わないよな?」
「別に、私は構わないわよ。人避けにもなるし」
あぁ! ナンパ対策! そうだね、ヤンキーだからね、人も寄って来ないね。
でもエリカちゃんは寄ってきたナンパ片っ端から撃退しそうだなぁ……。
「私も、構いません。どの道もうすぐお兄様も帰ってくるでしょうから……」
どの道ってなんだろう。あ、アレかな。僕が深雪ちゃんとフォーリンラブする道かな。
でもごめん! 名前を呼べない人はもう恋愛対象外なんだ……その気持ちは嬉しいがごめん!!
うわっ、冷たい目線。魔法かってくらい冷たい。目線で太陽凍らせられそう。今なら太陽も見えるはず。うおっ、眩しっ!
太陽曰く、落ちろバルス。軽い気持ちで太陽に近づくと破滅の呪文で蝋の翼を落とされるってイカロス君が教えてくれたのだ。
「あ、だ、大丈夫です」
「僕も、構わないよ。一応話すのは初めまして、だね。僕は吉田幹比古。上の名前はあまり好きじゃないから、幹比古って呼んでくれ」
「ミキでいいわよミキで」
「あー……追上、青」
よろしくな、って言えないから握手を要求する。ミキちゃんか……。あ、ミキ君か。
ミキ君は意外そうなものを見る目で僕の手を見たあと、少しだけ微笑んで握手を返してくれた。
「僕の名前は幹比古だからね。幹比古、だからね」
「お、おう」
あれかな、丸い鼠耳のアレを思い出すからミキって仇名苦手なのかな。
ハハッ。
「よし! じゃ、こっち来いよ。もうすぐ達也も帰ってくるだろうからさ」
「……ああ」
伸ばされた手を掴んで立ち上がる。ほんと、良い子だなぁ。
そして、後列上段に座った彼の後ろに腰を下ろした。レオ君の隣でもよかったのだが、エリカちゃんの隣は僕が怖い。ちなみに反対側には深雪ちゃんがいるのだが、もう「お兄様のためにキープしてます」感が凄まじかったのでやめた。あそこは不味い。それくらいは僕でも分かる。
ところでさっきまでは気が付かなかったのだが、後列(というか隣のメガネおっぱいちゃんの横)に、いつか実習室で見たロリィ二人組がいたようだ。平たいロリと大きなロリである。まぁ二人ともロリってほど小さくはないのだが。雰囲気がね……。
とりあえず仲間に入れてくれたお礼というわけではないが、エリカちゃんの言った人避けとして周囲の人の視線を散らしつつ、日光も散らす。この光逸らしは「波」の「軌道」を逸らしているので、僕達の居る場所をカメラに収めようものなら凄まじい歪みが発生する事間違いなしだが、僕らを向くカメラの画角が無い事は確認済みなので問題はない。
流石に衛星写真には歪みが映ってしまうだろうが、そこまで綿密に見る事はないだろう。
「あれっ?」
「……ん?」
メガネおっぱいちゃんと幹比古君が同時に顔を上げる。幹比古君、とても暑そうにしていたから心配だったのだが、大丈夫だろうか。
「ん、どしたの美月、ミキ」
「なんか見つけたか?」
エリカちゃんの発言でようやくメガネおっぱいちゃんの名前が判明した。美月ちゃんか……。美しい月。うんうん、二つも美しい満月を持っているから、まさに名は体を現す、だね。
「いえ……いきなり暑さが和らいだような……」
「僕も、そろそろキツいかもしれないと思っていたんだが……良かった、これくらいの気温なら観戦を続けられそうだ」
わぁお、素晴らしい感覚の持ち主なんだね、二人は。確かに赤外線他諸々を散らしたが、あくまでバレないようにだったのに……余程そういう変化に敏感なのかな?
「……」
そしてポカーンと口を開けて僕を見ているのは大きなロリィちゃん。僕というか、僕らの頭頂付近を半開きの口と共にガン見している。
……もしかして光とか見えちゃう子? 君が見ているそこ、まさに僕が逸らしている部分なんだが。内緒にしておいて欲しいなー、なんて……。
大きなロリィちゃんは僕の視線に気が付くと、物凄い勢いで何度も頷く。おお、伝わったのかな?
「暑い事には、変わらない」
「まぁ、昼前から気温が下がってきたってんならいいんじゃねえか? 夜にかけて涼しくなっていくだろうし」
「それを祈るばかりね~」
そしてもう一人。
深雪ちゃんもまた、僕をガン見している。やだなぁ照れるじゃないか。
……冗談はさておいて、深雪ちゃんもまた光が見えちゃったりするのだろうか。それとも別の何かかな?
わからないが、この優秀な子達の前であまりチート染みた力の方を多用しない方がよさそうだと思いました(小学生並の感想)。
*
「達也くん、こっちこっち!」
「ティータイム」を終えた達也が観客席に戻ると、スタンドは既に満席だった。
その人ごみの中で達也がメンバーを探していると、先に達也を見つけたエリカから声がかかる。
群衆を掻き分けて彼らの元へ向かえば、既に達也以外の全員がいた。
追上青も。
「……」
「……」
追上と達也の視線が交差する。
そこに、敵意は無い。昼間七草真由美の試合を観戦していた時と同じく、観客としてここにいるのだ、という想いが伝わってきた。
「何突っ立ってんだ、達也? もう始まるぜ?」
「ああ……そうだな。しかし、凄い観客の数だな……」
「会長が出場されるからですよ。他の試合はここほど混んではいません」
レオの言葉に頷き、エリカの隣に座りながら呟いた独り言に、反対側にいた深雪が答える。
なるほど。
「そこのヤンキーと同じ理由ってワケ。昼間っからよく飽きないわよね~」
「……まぁ、時間帯も違えば構図も違ってくるだろうからね。下でガチャガチャ機材を組み立てている人たちの気持ちもわからなくはないよ」
「えー、ミキ、アンタまでソウイウ目当てなワケ?」
「い、いや! わからなくもないってだけで、っていうかソウイウ目当てって……」
話題に上がった追上は情報端末を構えているのだが、やはりそのレンズの向く方向はクレーの射出されるフィールドではなく選手自身。その目的は明らかだろう。
達也が戻ってくるまで追上と共に居たのだろう深雪に視線を向けてみるも、深雪は顔を振るばかり。動く気配も無く、本当に観戦しているだけ、ということだ。
「……ふぅ」
なんだか気を張り詰めているのが馬鹿らしくなって、達也も試合に集中する事にした。
勿論見るのは選手ではなくクレーの方だが。
競技開始のシグナルが鳴った。
*
今回はそんなカ口リーメイトの味を全てミックス! お口に広がる地獄を召し上がれ。