チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第十話タイトルは「太陽礼拝」でした。うおっ、眩しっ!

また三千文字と短いですが、よろしくお願いします。
今回もほのぼのです。動くのは次の話かな?

それでは。


あいいぅういいあ あうおうういおう

*

 

 

 

 九校戦二日目。

 妹の彼氏君から貰った(?)ビジネスホテルの予約は三泊四日なので、このホテルとは今日でお別れ。さぁ帰り支度をと荷物をごそごそしていると、プルリプルリと電話が。

 発信元は妹。

 

「あい?」

 

「あ、青兄。もしかしてもうホテル出ちゃってたりしてない?」

 

「ううん、ああいうお?*1

 

「良かったー、もうすぐそっち着くから、チェックアウトしたらロビーで待っててくれる?」

 

「え、うん。ああっあ…*2

 

「じゃあーにー」

 

 そう言って切れてしまった。

 ……こっち来るって、どういうことだろう。

 

 

 

*

 

 

 

「あ、青兄! 三日間、大丈夫だった?」

 

「おう」

 

 ビジネスホテルのロビーなので母音ーッンだけではない、普通の切り替えしで会話する。

 僕を見つけて駆けてきたのは、なんだか余所行きの装いをした妹。元の場所には母親と……知らない男の子がいる。あれが妹の彼氏だろうか?

 

「うん、私の彼氏。紹介だけでも、する?」

 

「ううん。いい。あい」

 

 妹の兄がヤンキー(コレ)で、しかもまともに喋れないというのは例え彼が聖人の様な人でも気を遣わせてしまうか、悪感情を抱かせるだろう。触らぬ神にタタタタタ。

 情報端末を妹に渡す。これでお願い達成、かな?

 

「……そっか。うん、じゃあ私から言っておくね。ありがとう、青兄!」

 

「ん。おう」

 

 妹は少しだけ寂しそうな顔をした後、トテトテと走って彼の元へ行った。

 彼は二、三妹と言葉を交わし、遠巻きながらもしっかり僕に向かって礼をする。

 僕は片手をあげて「気にしないでいい」という感じに手を振っておいた。

 

 妹の彼氏君と妹の笑顔が見えた所で、そういえば何故二人がここにいるんだろうという疑問が湧いてきた。母親は妹の付添だとしても、何故に?

 

 僕が首をひねっていると、それを察したらしい妹が母親から何かを預かってから、またトテトテと此方へ駆け寄ってくる。可愛いが、ごめんね。そっちにいればよかったね、ほんと。

 

「航君、お姉さんが九校戦に出場してるんだって。けど、昨日まで用事があって……だから青兄に代理で撮影を頼んだの。一切ブレなく、綺麗に撮れてるって喜んでたよ」

 

「ん」

 

「で、今日からは用事が無いから来れるようになったって。お姉さんが泊まってる宿舎は軍用だからダメだけど、このホテル九校戦の最終日まで二部屋予約したから、是非くつろいでいってください、って」

 

「……いいおえあ?」

 

「良いお部屋?」

 

「ううん」

 

「ミリオネア?」

 

「うん」

 

「んー、どうだろ。多分? 詳しくは聞いた事ないし」

 

 偶に、こういうアクセントもイントネーションも母音も似ている言葉は妹でも分からない時がある。まぁ仕方のない事なのだが。

 しかし……ビジネスホテルとはいえ、九泊って……。僕の泊まらせてもらった部屋は一泊3,300円だったから、4人を泊まらせるのに単純計算で118,800円(連泊プランを利用する可能性もあるが)。十二万だよ十二万。

 彼女の為にそこまで出せるって、確実に大富豪(ミリオネア)だろう。

 

「おいうえ?」

 

「そう、私は追上! ……ごめんごめん。ううん、年下。小学校六年生」

 

「うあぁ……」

 

「うわぁってなにさー!」

 

 いやまぁ、妹も中学一年生だから特に問題はないんだが……。

 あ、まって。

 あ、これ確実に大富豪の家の子だよ! 小学生で十二万……ヒエエエエ!!

 

「お父さんが魔法競技が好きで、お姉ちゃん共々連れまわされてる内に七草真由美さん? のファンになったんだって」

 

「Oh…」

 

 魔法競技は他のスポーツより安全性を高めなければいけないために観戦料金が高い。そこに子供を連れまわせる時点でヤヴァイオカネモチだ。

 

「って、そうだ! そんなことより早く会場に行かないと、その人の競技が始まっちゃうって!」

 

「あぁ、うん」

 

 確かクラウド・ボールにも出るのだと、レオ君が言ってたね。

 

Before(ィオゥ) going(オーイン).」

 

「先に行け、って? もう……じゃあ先行くけど、青兄もちゃんと見に来てね? 友達、いるんでしょ?」

 

「えっ」

 

「午後の部の方の動画、さっき見たけど……青兄の名前呼んでた男の人の声、あれ友達でしょ?」

 

「ああ、うん。Leo(ぇお)

 

「へぇ、あの声の人がそうなんだ。っとと、時間無いんだった。じゃあまた夜にね。部屋は408と409で、青兄は409の方だから。はいコレカードキー。

 いい? 折角できた友達なんだから、絶対行ってね?」

 

「あいあい」

 

 トタタタッと駆けて行く妹。

 今更だが、中一にもなってロビーで走るってどうなのさ。ほら、航君はあんなに落ち着いているのに。可愛いから許す。……ハッ。

 さて、一応母親にも手を振って、まとめた荷物をよっこらしょ。

 妹達の荷物はホテルスタッフに預けたようだ。

 

「……」

 

 まぁ、何はともあれ。

 九校戦、最後まで見られるようになったのだから……ちゃんと応援して行こうかな。

 

 

 

*

 

 

 

 魔法を一切使わずに、ただのローラースケートとして履いたアイオーンで滑る事数十分。迷わずに会場に辿り着く事が出来た。

 というのも、当たり前だが僕の泊まったビジネスホテル含めて九校戦会場近辺のホテルは観戦客が沢山泊まっている。それを受けてか、大会運営スタッフだろうか? そんな恰好をした人たちが九校戦会場はこちらですよー、というプラカードを上げていたり、至る所に電光掲示板があったりするのだ。

 そう言う部分は時代が変わっても人力なんだな、とは思うが、同時にこういう木端のアルバイトが小銭稼ぎには丁度いい事も知っているので特に同情はしない。

 

「いあ~……炎威(えんい)炎威(えんい)

 

 会場に入ると、もう分け目があるんじゃないかってくらい気温が違った。

 人ごみの熱や、平らな地面の水を掃いてしまうその作りが熱を生んでいるのだろうが、打ち水とかしないのだろうか。スプリンクラーで四、五mくらいの場所から水を撒くだけでも気温は下がるというのに。

 

 そんな人ごみの中を歩く。流石にアイオーンは使えない。視線と進行方向の軌道をズラす、なんてことも出来なくはないが、普通に危ないのだ。僕に当たらずとも僕の周囲で転倒者が出る可能性は否定できないのだし。

 

 ちょーっとばかし熱狂拍子というリズムゲームに集中してしまったせいで出てくるのが遅れてしまった。そのため、恐らく午前の部の最初の方だとレオ君が言っていたクラウド・ボール女子の部、真由美先輩の出番は終わっているだろう。テニスウェアのメロンパンナちゃんは見たかったが、仕方ない。

 HEADの「上昇希望」って曲が難しくて難しくて……。

 

 とりあえず適当にご飯を食べて、桐原先輩が出るらしい男子クラウド・ボールの観客席に先に座っていよう。僕の様相は目立つのでレオ君たちも見つけやすいだろうし、なんだったら彼らの視線を集めても良い。

 そんなことを考えながら、僕は場内マップも見ずに適当に進むのだった。

 

 

 

*

 

 

 

 当然、地図も読めない奴が地図さえも見ずに歩き回れば迷う。

 ようやくたどり着いた男子クラウド・ボールの観客席は疎らも疎らで、試合がすでに終わっている事をありありと伝えてくれた。

 

「ん……あぁ、確かお前……追上、っつったか? 意外だな、観戦来てたのか」

 

「うい」

 

 せめて試合結果だけでもどこかで見られぬものかと会場周辺をぐるぐるしていると、一人歩く桐原先輩を見つけた。

 どうやら僕の事を覚えていてくれたらしい。

Ah(あー)won(ウァン) ?」

 

「……いや、お前……なんで英語……っつか、試合見てないのか?」

 

Yeah(イェア)

 

「いやだから……。はぁ~……あぁ、惨敗も惨敗だよ。二回戦で早々敗けちまった」

 

Oh(オーゥ)…」

「オーゥって、お前その見た目で……ブフッ、クク……じわじわ来るな……っ」

 

 突然桐原先輩は笑い始める。

 ナニガオカシカッタノカワーカリーマセーン。

 

 一頻り笑い終えた後、何を思ったか桐原先輩は持っていたジュース缶を僕に放ってきた。

 ナイスキャッチ!

 

「いやぁ、いいわお前。追上だな。よし、ちゃんと覚えたぜ」

 

「うい」

 

「あぁ、笑ってスッキリした。うっし、とりあえずこれで壬生に心配されずに済みそうだ。助かったぜ」

 

「……ああ!」

 

 ポンと手を打つ。

 あの剣道部(?)の!

 

「完全に忘れてた、って顔だな……。まぁ、お前はアイツとそれほど接点がないのか」

 

Yes(イエゥ)

 

「そのキャラ、まだ続けるのか……。お前、絶対見た目で損してると思うぜ。……っと、そろそろ戻らねえと。お前も、遅くならない内に帰れよ? その見た目でこの近辺の深夜徘徊は、一校的に不味いからな」

 

「うーい」

 

 そう言って桐原先輩は去って行った。

 桐原先輩に貰ったジュース缶を見る。

 

 『(サイ)ダー(オン)』と書かれた、炭酸飲料。

 ……つめた~い。

 

 

 

*

 

*1
ううん、まだいるよ?

*2
え、うん。わかった……





さむ~い

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