チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第十二話のタイトルは「有効活用」でした。
この話に勘違い要素はほとんどありません。魔法科二次のテンプレをしているだけです。



あいいぅうあんあ おえぃうーうおうあああいえ

*

 

 

 

「隣、空いてる……みたいね」

 

「アラ、深雪。まぁコイツのおかげで男共は寄ってこないからね。ほら、座って座って」

 

 九校戦も四日目。本戦を一休みして、新人戦。

平たいロリィちゃんのスピード・シューティング観戦。いつも通り視線外しと視線逸らしを行おうと思っていたのだが、熱烈なチラ見(チラッ! チラッチラ!!)をしてくる大きいロリィちゃんの目線が、僕が「曲げている部分」を完全に捉えているようなので、多用は出来ない。仕方がないのでエリカちゃんや大きいロリィちゃん、美月ちゃんに近づこうとする不逞の輩にガンを飛ばすだけにしておいた。

 

 なんでも午後はこの大きいロリィちゃんことほのかちゃんのバトル・ボードがあるらしい。これは是非見に行かねば。だってこの大きさであのピッチピチなスーツ着るって……そりゃあ見に行きますとも!

 

 ただまぁ、今は平たいロリィちゃんに集中しよう。真由美先輩の百発百中も凄かったが、平たいロリィちゃんの認識能力も十二分に凄い事は知っている。

 

 そして協議開始のブザーが鳴った。

 

 射出されたクレーと、射出を待機しているクレーの軌道が全て見える。

 それらが見える通りの軌道を通って範囲エリアに入ったその瞬間――、

 

「……おぉ」

 

 クレーが粉砕された。

 すごいな。これ、僕には対応できない魔法だ。

 「放射状」なら対応できるのだが、「球状」になると軌道も何もなくなってしまう。全面攻撃は言うなれば周囲全域が軌道だから、逸らそうが曲げようが関係ないのだ。

 同時に思うのは、「これ僕でも使えそうだな」という感想。

 なにやらやたら詳しい深雪ちゃんやほのかちゃんの話を聞く限りでは、この魔法式に必要なものは変数だけ。しかもあらかじめ設定されているポイントを設定するだけでいいと来た。

 アイアンやエアのように音声認識で起動式さえ起こせれば、あとは数字を選ぶだけでいいのだ。「選ぶだけ」なら僕は数字を「選ぶことが出来る」。

 もっとも、使い所はあんまりなさそうだが。僕、直接蹴って行くタイプの戦い方だしなぁ。

 

 そうして、平たいロリィちゃんはパーフェクトで予選を通過した。

 後ろの電光掲示板のおかげで、ようやく平たいロリィちゃんの名前がSHIZUKU KITAYAMAである事が判明した。雫ちゃんね。

 

 この後何人かの予選があって、それが終われば準々決勝が会場をそのままに行われるらしいので、大人しく待つ事にする。

 

 お……妹と……確か航君だったかな? が、結構遠い位置に並んで座っている。後ろには母親もいるね。

 そういえばお姉さんが九校戦に選手として出ているって言っていたっけ。もしかして、今からの予選に出るのだろうか。

 妹の彼氏だ。彼には、喜んで帰ってもらいたいなぁ。

 そのためにも、未だ名も顔も知らぬお姉さん! 頑張ってくれ!

 

 

 結果、第一高校は一位、二位、三位を独占すると言う快挙を成し遂げた。

 妹が航君に抱きつく様にして喜んでいたので、恐らく雫ちゃん以外の二人のどちらかがお姉さんなのだろう。まぁ、そもそもこのスピード・シューティングは好きで観戦しに来ただけで、お姉さんの競技とは何ら関係の無い場合もあるのだが。

 

 あんなラブラブデート中にそれを聞くのは野暮だろう。それくらいはわかる。

 

 兎にも角にも角煮にも、雫ちゃん、優勝おめでとう!

 

 

 

*

 

 

 

 さて、次はほのかちゃんのバトル・ボード予選だ。

 ほほぅ、ふむふむ……ほうほう……。

 良い……実に、良い……。

 

 あのスーツ考えた奴誰だよ(グッジョブ)

 

 レース開始のブザーが鳴る。

 うおっ!? 眩しっ!?

 

 双眼鏡の原理をチート染みた力で再現してほのかちゃんのウェットスーツをじろじろ見ていたら、フラッシュバンをくらった。

 観客席のみんなの話を聞くに、ほのかちゃんの魔法らしい。

 僕が視力の回復を図っている間にほのかちゃん一位でゴール。

 これが天罰か……。

 

 

 

*

 

 

 

 九校戦五日目。時が過ぎるのは早い物で、もう運動会の五割が終了したと言う事実にびつくりぎうてんである。

 アイス・ピラーズ・ブレイクは深雪ちゃんの巫女服が良かった(小並感)。

 

 

 

*

 

 

 

 九校戦六日目。

 一昨日と同じようにジロジロみつつ、水面から来るだろうフラッシュグレネードの光を除外していたら、来なかった。

 アイス・ピラーズ・ブレイクはこれまた恐ろしい、という感想でいっぱいだ。雫ちゃんの放ったフォノン・メーザーは僕のチート染みた力で逸らせるが、深雪ちゃんのニブルヘイムは無理。というかアレは僕自身を吹っ飛ばして効果範囲内から逃げる、くらいの対処法しか思いつかない。何故戦う前提で考えているのかはおいておいて、深雪ちゃんは怒らせたらダメだな、と。

 正直に言って達也君より怖いな、と。

 そう思いました。

 

 そんな感じで六日目が終わり、七日目。

 それは唐突だった。

 

「来い」

 

 達也君はそれだけ言って、歩いていく。

 まぁ、特に用事もないので、着いていく事にした。

 

 

 

*

 

 

 

「あー……really(ィアィー)?」

 

「追上。お前達が本当に敵対する意思を持っていないのなら、協力しろ。何、ディフェンスだけでいい。遊撃は俺達がやる」

 

 モノリス・コードに出ろ。

 そう言われた。

 いやいや、無理だろう。

 僕、普通のCAD使えないし。

 

「使う必要はないだろう?」

 

「……you(ウー) know(ンォー) well(ウェァ).」

 

 よく御存じで。

 先日はあれ? バレてない感じかな? とか思ったが、やっぱりバレていたらしい。

 確かに僕のチート染みた力はアイオーンだろうが競技用CADだろうが関係なく使う事が出来る。モノリス・コードは魔法以外の直接戦闘攻撃が出来ないからアイアンは無用の長物だし、空を飛ぶこともないだろうからエアはいらない。他にもいくつか入ってはいるが、どれも戦闘用……それも蹴りに重点を置いた魔法ばかりなので、この競技には向かない。

 それさえも知っていて僕を選んだと言うのなら、達也君は慧眼すぎてもう魔眼だ。僕なんかよりよっぽどチートだと思う。

 

「一応レギュレーションとしてCADは渡しておく。入れておきたい魔法はあるか?」

 

「いあ、いい」

 

「だろうな」

 

 しかし……何故僕なんだろうか。

 僕、自分で言うのもなんであるが、達也君から避けられ気味だったと思うのだが。

 初めて会った時、ガン飛ばしたもんなぁ……。そんな奴普通避けるよなぁ。

 

「お前の実力を考えての事だ。現時点において、お前は第一高校の誰よりも経験がある。勝つために起用するのは当然だろう」

 

 さっきから考えている事を読んでいるような……?

 すごい! その読心術(?)があれば僕は喋らなくていいじゃないか!

 CADの調整技術と言い、達也君には是非ともお近づきになりたいものだ。勘違いしないでほしい。そう言う意味は断じてない。僕は大きい果実を持った子が好きだ!!!

 

 しかし経験ってなんのことだろう。まぁ精神年齢的に考えれば……?

 

「俺は幹比古のCADの調整に行く」

 

「うい」

 

 僕に当てる時間が無くて済んだから、幹比古君のCADをより丁寧に調整できると言って達也君は去って行った。もう一人は幹比古君なのか。

 レオ君が良かったなぁ、なんて思わなくもない。

 渡された何も入っていないCAD(カード型)で放ってはキャッチを繰り返す遊びをしながら、時が過ぎるのを待った。

 

 

 

*

 

 

 

 九校戦八日目。

 

「森林ステージか……。八高相手には不利なステージよね」

 

「普通なら、だがな。あいつが普通でない事くらいわかっているだろう?」

 

 新人戦・モノリス・コード。第一高校対第八高校の試合が始まった。

 試合の様子はモニターに映されていて、三人の様子が良く見える。

 

「追上青くん、か……。達也君が連れてきたのなら実力に問題はないのでしょうけど……」

 

「私はアイツが校内でCADを無断使用していた所をしょっ引いたくらいの関わりしかないが……お前は知っていたのか?」

 

「私も、入学式の前に中庭で、仮想型ディスプレイでゲームをしていた所を諌めたくらいの関わりしかないわ。でも、確かあの子……春の一件の時も協力してくれたのよね」

 

 一瞬、二人の脳内に「それはもうつまり非の打ちどころしかない不良生徒なのではないか?」という疑問が浮かびかかけたが、思い出したように放たれた真由美のフォローによってその疑問は飲み込まれた。

 そんな件の追上は、ディフェンスとして一高の本陣……それもモノリスの真ん前に陣取っている。手に持ったカード型のCADを放っては掴み、放っては掴み。

 そんなことをしていれば咄嗟の時にCADを使えないのだが、それを気にする素振りも見せない追上の姿に、二人は一抹所ではない不安を抱くのだった。

 

 

 八高のフォーメーションはディフェンス一人、オフェンス二人という構成だ。

 その内、八高のオフェンスの一人が一高の本陣へ辿り着いた。

 

「ああん、達也君早く!」

 

「……え?」

 

 一高のモノリスは観客席から見える地形にあり、追上と八高の選手が邂逅したのが見えた。だが、それだけだった。

 八高の選手は追上も、モノリスさえも素通りし、歩いていく。

 完全に見えていない。傍から見てもそうわかる素振り。

 さらに追上は緩慢な動作で弄んでいたCADを八高の選手に向け、

 

「うぐっ!?」

 

 たったそれだけで、八高の選手は地に伏せた。酷く気分を悪そうにして、口元を押さえている。

 

「ん? なんだ? 何が起きた?」

 

「……多分、私と同じ光波振動系の魔法です。視認ではわかりませんでしたが、モニターの映像が一瞬歪みました」

 

「眼球に入ってくる光を歪めた、ということでしょうか……」

 

「うわ、考えただけで気分悪くなるわね……」

 

 ほのかと美月の考察に、深雪だけが思いつめた顔をしていた。

 

 

 

*

 

 

 

 追上、達也がそれぞれを一人ずつを熨し、幹比古は残る一人を精霊魔法『木霊迷路』で翻弄、達也がモノリスにコードを打ち込んだことで一高が勝利した。

 そして三十分後、すぐに二高との戦いが始まる。

 

 vs二高戦は屋内。

 八高戦と同じくディフェンスは追上一人で、幹比古と達也が遊撃だ。

 

「うぷっ……くそがっ!」

 

「おいおい……」

 

 視線逸らしの応用、視線グルグル(平眼球)を受けてなおモノリスに走り寄ってくる二高の選手に溜息を吐き、その足取りの軌道を逸らす。

 結果、足がもつれて転倒する二高選手。今度は逆回転。酔いしれたかい?

 

 廊下に軌道。走り抜けようとしている選手の視線を逸らし、廊下の壁にぶち当たらせる。伊達にチート染みてはいないよ、この力は。深雪ちゃんのアレみたいな全面攻撃でない限り、対人戦じゃあ中々負けない自負がある。視界に頼っている人間なら、という冠がつくが。

 音だけで周囲を判断する達人ならまだいいのだが、「気配」とかいうよくわからないものを察知して来られると正直どうしようもない。気配って軌道あるんですかねぇ。

 

「このっ!」

 

 流石にヘルメットとプロテクターを付けていたからか然程ダメージを受けていないらしい二高の選手がCADを操作する。浮かび上がった瓦礫が僕目掛けて勢いよく飛んできた。

 それを~僕は~右手で受け流す~。

 

「はぁ!?」

 

 軌道を曲げるポイントに手を置いただけだが、二高の選手からは飛来する瓦礫を横合いから押しただけで弾いた、とでもいうような結果に見えた事だろう。

 流石に監視カメラがこれほど回っている場所でノーモーションのチート染みた力を使う気は無いので、八高の時もそうだったが必要のないモーションを取り入れているのだ。CADを操作するフリや、今のような手を使って逸らしたフリ、なんかを。

 

「くそっ!」

 

 二高の選手は、ならば数をと言わんばかりに複数の瓦礫を僕に射出する。

 しかーし! 見える、私にも見えるぞ!!

 

 ちょっとカッコつけてー、後ろ回し蹴り!

 瓦礫の軌道を全て蹴りの軌道上と重なるように調整し、体幹のブレも同じように調整してくるりんぱ。

 結果、まるで僕の素晴らしい蹴り技で瓦礫が全て砕かれたようにみえるという……。

 プロテクターしてなかったら弁慶の泣き所が死んでいただろうが。

 

 魔法攻撃以外の直接戦闘が禁止で良かった。アイオーンが使えない以上、もし戦闘アリだった場合は直接殴る蹴るをしなくてはいけない。殴るのも蹴るのも、自分が痛いので嫌なのだ。

 

「なら……!」

 

where(ウェー) are(アー) you(ゥー) going(ォーイン) ?*1

 

 僕を無視して走り去ろうとした選手の足を先程と同じようにもつれさせ、視界ぐるぐるの刑に処す。

 母音ーッンしか喋れないなりに母音ーッンで通じる言葉はそれなりに覚えているのだ。ちゃんと発音できるとは言っていない。

 

 二人纏めてグールグル。グーグルではない。ヘルメットを取って戦闘不能にする。

 さ、後は頼んだよ達也君、幹比古君。

 

 

 

*

 

 

 

 試合終了のサイレンが鳴った。

 追上が二高のオフェンス二人を拘束・撃破し、幹比古と達也がディフェンス一人を相手に連携、撃破したことで、試合終了。

 

「危なげない勝利だったわね……」

 

「ああ。それにしても、司波といい追上といい、とんでもない身体能力だな」

 

「飛来する瓦礫を回し蹴りで防ぐ……反射神経や動体視力もそうだけど、追上くんも戦い慣れているわよね。彼もどこか凄い先生に教えを受けていたりして」

 

「それは……どうなんだろうな。特に『型』のようなものは見受けられなかったが……」

 

 二人の話題は、達也と追上でいっぱいだった。

 一切話に上がらない幹比古が可哀そうになる程に、いっぱいだった。

 

 

 

「あの少年……特尉の見立てでは、西EU(フランス)の間者……だったか」

 

「はい。とはいえ、家族構成も特に怪しい点はなく、フランスとの関係性は極めて希薄……正直、これだけ探して何も出てこないとなると、『特尉の勘違い』という可能性の方がまだ信じられるといいますか……」

 

 観客席で声を潜めて会話をしているのは、独立魔装大隊が山中軍医少佐と藤林少尉だ。

 彼らは一頻り達也について話し合ったあとに、件の少年、追上青の話題を上げた。

 

「もしくは、我々でも辿り着けないような闇が背後にいる可能性、か……」

 

「……考えすぎでは? まぁ、先程の技術に惹かれるのはわかりますが……」

 

「技術。果たして先程の『受け流し』は、本当に技術だけのものか……」

 

 追上が魅せた回し蹴り……ではなく、その前の受け流しの事。

 人の頭ほどの大きさがある瓦礫を素手で、しかも手のひらを一切傷付ける事無くその軌道を逸らしたあれが、山中には技術のみの行為であるようには思えなかった。

 余りにも綺麗に曲がり過ぎていたし、余りにも腕に反動が乗っていなかったのだ。

 まるで、手で軌道を逸らしたのではなく、逸らした軌道に手を乗せただけのように。

 

「……まぁ、彼が『プリンス』や『カーディナル』相手にどのような『技術』を見せてくれるか、勝手に楽しみにさせてもらうとしよう」

 

 まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように。

 山中は、意味ありげに笑うのだった。

 

 

 

*

 

*1
何処へ行こうっていうんだい?




※平眼球の使い方がおかしい


おや……?

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