チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第十三話のタイトルは「ボディスーツを脱がさないで」でした。分かるかっ!
感想欄で一条対策はしていないと言ったな!
あれは(半分)嘘だッ!
はい、三高戦です。

追記 タイトル入れ忘れててごめんなさい


あいいぅうおんあ あおううあい☆いいいお

*

 

 

 

 vs九高戦。

 場所は渓谷ステージ。

 

 ここは幹比古と青の独擅場(どくせんじょう)だった。

 幹比古が試合開始早々「霧の結界」の古式魔法を使い、渓谷ステージを霧で埋める。

 それだけで既に一高のモノリスへと近づく事が出来なくなっていた九高選手の近くに小石を放り、翻弄し続けた挙句転ばせる青。小石が有り得ない軌道を辿っていたが、観客からは霧に阻まれて視認する事は出来なかっただろう。

 転んだ後はまた視界回しで意識を刈り取り、悠々とヘルメットを取りに行くだけ。

 ディフェンダーは幹比古の霧によって視界を阻まれ、飛んでくる小石に気を取られ続け、気付いた時にはモノリスが開いている結果に。振り返った時に達也はもういない。

 そしてすぐにコードが打ち込まれ、一高の勝利となった。

 

 青の誤算は、幹比古の使った「霧の結界」が幹比古自身の「眼」となる事を知らなかった事だろう。

 だが同時に、それを追及する気には幹比古は成れなかった。摩利の事故検証の時に聞いた単語から、深く踏み込まない方がいい事を察していたのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 三位決定戦が行われている間、僕はとある人物に呼び出されて人気のない場所に来ていた。一応、視線外しによる人払いもしている。

 まぁ「とある人物」なんてかっこつけて言ってみたのは妹なのだが。

 

「青兄、九校戦出るってなんで言ってくれなかったのさー!」

 

「いあ、いぅいぉいあっあおおああああ*1

 

「そうなの? ふーん。じゃ、そこはいいや」

 

「いいんあ*2

 

「うん。それより、色々言いたい事があって……そう、あの回し蹴り! かっこよかった!」

 

「いえーい!」

 

「いぇいいぇーい!」

 

 超絶可愛い妹に褒められればそりゃあ嬉しい。

 彼氏君、すまないな……妹を「妹」として扱えるのは、兄である僕だけなんだ……。

 

「正直青兄が魔法科高校行くって()()()時は止めようかと思ったけど……友達もいっぱいできたみたいで、本当によかったよ」

 

「……いんあいあえあっあ?*3

 

「せーだいにねー。でも、もう大丈夫そうだから、いいの。それよりそのファッションもうやめたら? 友達出来たんなら、人を遠ざける意味ないでしょ?」

 

「うっ……いあ、えおあ。いいあいあんいーあうううおあっおういえいああ、おう……えんいぁん?*4

 

 イメチェンどころの騒ぎじゃない。

 僕、自分で言うのもなんだなのだがかなり童顔だから、この髪色・髪型をやめるとほぼほぼ別人なんだよね。

 

「んー、でも変な勘違いされて、また絡まれるよりはよくない? というか青兄のためを思って正直に言うけど、青兄かなり浮いてるよ? 第一高校の人達すっごく真面目そうな人ばっかりだからか、物凄く浮いてる。ヘリウムガスくらい」

 

「おいぁあ、うっおうういえうえ……*5

 

「夏休み入ったら、イメチェンしてみない? 航君がね、夏休みに一緒に別荘に来てくれないかーって。航君のお姉さんはお姉さんの友達を呼ぶみたいだから、青兄も一緒にどうかな、ってさ。そこで真面目青兄のお披露目! みたいな?」

 

「んー? えーっお、あうああううんおおええあんあ、あえあお? おうおいっえういお?*6

 

 クラスメイトだからって全員が全員友達というわけじゃない。というより、厳密に言えば僕が「友達だ」って断言できるのはレオ君だけだ。……言ってて悲しくなってきた。

 だからまーったく知らない人の友達と僕が行っても、僕は良いのだがその人達が楽しくないんじゃないか、という……。

 

「へ? 結構近くに座ってたじゃん。北山雫さんだよ。ほら、スピード・シューティングの」

 

「えー……。えぁっ?*7

 

「ウル○ラマン?」

 

「いあいおえあん(いやヒト○マン)」

 

 へぇ~、それは知らなかったな。

 平たいロリィちゃんこと雫ちゃんの弟が、妹の彼氏と……。

 世界狭っ!!

 

「あぁ、えっおうおいいえいいあいあいいあうあいあえいえあいいあいお*8

 

「じゃあ決まりね! 青兄のイメチェンは妹の私が責任を持って担当しまーす! 青兄背、高いからねー、色々似合いそう!」

 

「うーん、あぁういいいえお*9

 

 レオ君はなんか、イメチェンしても友達でいてくれそうだし。

 他の子達はわからないが……一人いれば十分かな。

 

「じゃあさ、青兄!」

 

「うん?」

 

「優勝してね! 私、応援してるから。勿論お母さんも、ね?」

 

「……ん。I will win(アイウィゥウィン)!」

 

「その意気だー!」

 

 ハイタッチする。と言っても、僕は胸前だが。

 んー、やる気出た。

 超絶可愛い妹に応援されたら、兄のパゥワーは無限大だよ!!

 

「じゃ、青兄。私は戻るねー」

 

「ん、おうっえうお?*10

 

「青兄もうすぐ試合始まるよー? 戻らなくていいの?」

 

「うぇっ? うあ、おんおあ! あうあっあ!*11

 

 ……かっこ付かないなぁ。

 

 

 

*

 

 

 

 三位決定戦が終わり、ついに決勝。

 一高vs三高のステージは草原ステージに決まった。

 

 その事に三高の天幕で歓声が上がる傍ら、一条将輝と吉祥寺真紅朗もまた、歓声こそ上げないが笑みを浮かべていた。運はこちらにあると。

 気を付けなければいけない要素を再度ピックアップする。司波達也は言わずもがなだが、残りの二人も気を付けなければいけない。

 

「ヤツの相手は俺がする。遊撃の吉田という選手もジョージが制圧しうるだろう。だが、あの後衛の男は……」

 

「確か光波振動系の魔法で視界を回して平衡感覚を乱す、という手法を使う相手だね。他にも魔法無しの身体能力がズバ抜けているようだけど……格闘戦は禁止なんだからそちらに気を配る必要はないかな。

 対処法は、視界が歪む兆候が見えたらすぐに目を閉じる。これだけでいいはずだけど……」

 

「ヤツを相手に一瞬でも目を閉じなければならない、か。なるほど、厄介そうだな」

 

「速めに僕が後衛の彼を倒せばいいさ」

 

「あぁ、任せたぞジョージ」

 

 将輝は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。

 

 

 

*

 

 

 

 新人戦モノリス・コード、決勝戦。

 出てきた選手たちを見て、観客は大いに沸いた。同時にどよめきと、一部で笑いが起きる。

 一高の選手の一人が、時代錯誤極まりない「ローブ」を身に付けていたのだ。

 無論、笑っているのは一高の応援生徒である。

 

 

「うぅ……なんで僕だけ……」

 

「前衛の俺がそんな動き難いものをつけていては仕方がないだろう。追上には必要ないものだから、必然的に幹比古だけが付けることになる」

 

「ん? おう」

 

 僕の視線外しは完全に達也君にバレているらしく、相手選手が使うらしい「不可視の(インヴィジブル)弾丸(ブリット)」が「対象を視認しなければいけない」という条件を持っている事を加味してか、僕にローブを渡す事は無かった。

 割とかっこよくて付けて見たかった感はある。MALICI○USしたかった。

 

「追上」

 

「おん?」

 

「後ろは任せる」

 

「……おう」

 

 おお、なんか達也君に頼られているような……!

 いやぁ正直相手選手の「爆裂」って魔法は最大の苦手分野だったが……任された以上、例え達也君と幹比古君が撃破されてもどうにか守り抜いてみよう!

 僕じゃあコードは打ち込めないから、三人を撃破すればそれで終わりなわけだし。

 ……それに。

 

「あー……おい」

 

「なんだ」

 

「――We will(ウィーイゥ) win(ウィン)

 

 僕達で勝つぞ、の意味を込めて。

 達也君と幹比古君に、拳を突きだす。

 

「……ああ」

 

「死力を尽くすよ」

 

 達也君は微かに、幹比古君は頼もしく笑って、拳を返してくれた。

 一高のため――二割。

 妹のため――八割。

 正直二人よりやる気の動機が不純なのは認める。

 

 だが、手を抜くつもりはない!

 

 

 

*

 

 

 

 試合開始と共に、達也と将輝の「撃ち合い」が始まった。

 二人は堂々と歩を進めていく。

 

 その傍らで、吉祥寺が動きを見せる。

 だが、すぐに蹈鞴を踏む事となった。

 

「これがッ……!?」

 

 右の眼球が脳に送る景色と、左の眼球が脳に送る景色が混ざり合い、ごちゃごちゃになり、気付けば倒れている。目を瞑る暇などない。兆候なんてものはみえない。

 だが、落ち着いて倒れてから眼を瞑った事で、気分の悪さはすぐに引いた。やはり目を開けなければ効果を為さないようだ。

 吉祥寺は冷静にCADを操作し、片目だけで追上を視認する事で追上の身体に加重系魔法をかけようとする。

 だが、そこに追上はいなかった。

 

「なッ、どこに……?」

 

 代わりにいたのは、もう一人の選手・吉田幹比古。

 それを知覚した瞬間、吉祥寺の身体は宙に浮いた。突風。古式魔法だろうことはすぐにわかった。

 慣性減衰魔法でわざと吹き飛ばされる事でダメージを緩和した吉祥寺は、すぐさま「不可視の弾丸」の照準を幹比古に合わせようとする。だが、幹比古のローブへと焦点を合わせようとした途端、吉祥寺の遠近感は定まらなくなった。

 また追上の光波振動系魔法か。

 

 幹比古が何かを操作しているのはわかったが、このぼやけた視界では何が来るかわからない。

 吉祥寺は(きた)る衝撃に耐える為に目を瞑り――、

 

「がぁっ!?」

 

 幹比古の苦悶の声に、目を開けた。

 幹比古は吹き飛ばされるような形で横たわっていた。

 その魔法の痕跡は、彼がよく知るモノ。

 

「将輝!」

 

 吉祥寺は救い手の名を謝辞を込めて呼びかけた。

 

 

 

*

 

 

 

(大きく左に逸れた……?)

 

 一方で、名を呼ばれた将輝は疑問を残していた。

 意識を刈り取るつもりの距離で放ったはずの空気圧縮弾は、その圧縮点を将輝の想定の遥か左方に設定され、幹比古を吹き飛ばすに終わったのだ。

 まるで、今の今まで幹比古がもっと左方にいたと勘違いしていたかのような――、

 

「ッ!?」

 

 そしてその疑問は、「隙」と呼ぶに相応しいものだった。

 彼我の距離を一瞬で詰めた達也に、その恐怖への直感に。

 

 彼はレギュレーション違反の威力を持つ圧縮空気弾を十六連発、その「恐怖」へと撃ち放ってしまった。

 

 

 

 上空に。

 

「は?」

 

 

 

*

 

 

 

 凄まじいまでの轟音が遠く離れたスタンドまでもを揺らす。

 ……凄まじい指パッチンを見た。彼には是非ともサラマンダーの革手袋をしてほしい。そして大佐になってほしい。

 

 達也君の指パッチンで将輝君は崩れ落ちた。

 幹比古君のダメージは大きくは無いだろうが、小さくも無いだろう。

 残る相手はジョージ君ともう一人だけ。

 

「吉祥寺、避けろ!!」

 

 相手の選手が叫ぶ。

 何かと思えば、なんと幹比古君が復活しているではないか。咄嗟に視線ごと逸らして直撃を外させたとはいえ、細身の彼にはキツい衝撃だったはずだ。なのに彼は、意志の力で意識を回復させ、なおかつ攻撃に出ている。

 男前だなぁ。

 なら、その男前……少しだけ、お膳立てしようか。

 

「くっ!」

 

 幹比古君の作り出した雷撃が不自然に逸れる。避雷針でも作ったのだろう。

 だが、「逸らす」のは僕の十八番だ。

 雷の軌道を「逸らし返す」。

 

「うあっ!」

 

 結果ジョージ君に雷は直撃し、彼の身体は弛緩して倒れた。

 さらに幹比古君は地面を掌で叩きつける。それだけで地面が揺れ、ジョージ君は苦悶の声を上げた。

 

 ――何アレかっこいい。

 

「この野郎!!」

 

 残る一人の選手が幹比古君に向かって土を掘り起こし、盛り上がった土砂が津波のように幹比古君へ向かう。

 幹比古君は動けない。達也君は遠くにいる。

 そして僕は、幹比古君にこれでもかと感化されていて……要は格好つけたかった。

 

 だから僕は、ずっとここにいた。

 

「えっ!?」

 

「なんだと!?」

 

 魔法以外の直接攻撃は禁止されている。

 魔法への直接攻撃は禁止されていない。

 

 敵を欺くにはまず味方から。幹比古君の視線も、三高の選手の視線も完全に僕から外し続けて、今姿を現したのだ。

 三高の選手と、幹比古君の合間に。

 それは勿論、の土砂の津波の進行ルートで――、

 

「ォォォオオオオオアアアア!!」

 

 天高く振り上げた足を思いっきり振り下ろした。

振り下ろした地点で股裂きになるように相手の移動魔法の軌道を操る。移動(軌道のある)魔法で良かったよ。

 あの魔法は、まるで僕の震脚によって霧散したかのように見えた事だろう。

 だが、まだ僕のバトルフェイズは終わっていない!

 

Taming(エイインッ)!」

 

 逸らされ続けた土砂の津波は二つに分かたれ、そしてぐるりと進行方向を変えて――術者の元へ、挟むように帰る!

 まるで僕が魔法を飼いなら(テイム)したかのように!!

 

 避けようとしたのか、はたまた魔法を解除しようとしたのか。

 真実は定かではないが、関係ない。彼の視界を回す。

 

「う、がっ……」

 

 狂った平衡感覚と双方からの衝撃に倒れる三高の選手。

 

 全員、戦闘不能。

 つまり、僕らの勝ちだ。

 

 試合終了のブザーが鳴った。

 

 

 

*

 

 

 

「影印、か……。試合結果を額面通りに受け取るのであれば、その名の通り『相手の魔法を写し取る魔法』と言った所だろうが……」

 

「……ですが、彼がCADを操作した様子はありませんでした。それに、そんな魔法は……」

 

「私も知らない魔法だ。だが、BS魔法だと言われれば納得も行く。特尉の見立てでは彼は精神干渉系魔法のBS魔法師。『視線を外す』だけしかできない方が不自然だとは思わないか? そう、例えば――『相手の心を操る』という、如何にも超能力者(ESP)のような。

 それならば、あの三高の選手が『自身の魔法も解除せずに、自身へ魔法を向けた』などという馬鹿げた事態にも納得が行くだろう」

 

「……全て、憶測の域を出ません」

 

「そう睨むな、藤林少尉。少尉の言う通り、全て憶測だ。それに、この試合は九島閣下も見ている。彼が本当に間者(スパイ)なら、そう簡単に手の内を……それも高校生の戦い(こんな場)で晒すとも思えんからな。

 本来の目的は私達や九島閣下に『そう思わせる事』かもしれん。

 いやはや、彼くらいしか見るべき選手はいないと思っていたが、中々に楽しいじゃないか。これなら来年も来たくなるというものだ」

 

「あくまで、彼が『普通の少年』ではないと?」

 

「逆に問うが、私や藤林、九島閣下だけでなく、特尉の眼まで欺ける魔法を持った者が『普通の少年』だと?

 流石にそれは、世界の終末を感じるがね」

 

「ですが、証拠がありません」

 

「やけに肩を持つな、藤林。何か気に入る点でもあったか?」

 

「いえ……ただ、罪もない少年が少佐の実験に付き合わされかねない事を憂えているだけです」

 

「……私はそこまで人格破綻者ではないつもりだがね?」

 

「そうですか。それなら、安心ですね」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

*

 

*1
いや、急遽決まった事だからさ

*2
いいんだ

*3
心配かけちゃった?

*4
うっ……いや、でもさ。いきなりヤンキーが普通の格好して来たら、こう……へんじゃん?

*5
そりゃあ、すっごく浮いてるね……

*6
んー? えーっと、まず航君のお姉さんは、誰なの? 僕の知ってる人?

*7
へー……。へぁっ?

*8
まぁ、別荘と聞いて行きたいか行きたくないかで言えば行きたいよ

*9
うーん、まぁ好きにしてよ

*10
ん、送ってくよ?

*11
うぇっ? うわ、ほんとだ。助かった!




……

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