チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
さて、今回の話はちょっと特殊な勘違い、かも?
*
生徒会長があーちゃん先輩に決まったらしい。
生徒総会に出なかったために”らしい”であるのだが、まぁ出なくても周囲のみんなが勝手に口々に口走ってくれるので、情報を取り込むのは簡単だった。
さて、生徒総会という強制参加の会合を蹴ってサボっていた僕は、珍しくソレを名目に呼び出されて、実験棟のとある一室にいる。
「あぁ、お待たせしました。……と、市原君に……ええと?」
「廿楽先生、追上君です。追上青君」
「あぁ……あぁ、君が。なるほど……そうか、それは……困ったな」
僕を呼び出した(強制的に連れ出した)のは市原リンちゃん先輩。もっと正確に言うのなら、呼び出したのが景子先輩で首根を掴んで引き摺ってきたのがリンちゃん先輩だ。
景子先輩は何か焦っているようで、「ごめんね?」とだけ言われてバイバイした。
そんな僕とリンちゃん先輩の前に現れたのは、中年のおじさん……もとい、廿楽先生である。今名前を知っただけで、先生にこの人がいたこと自体知らなかった。
「どうされたのですか?」
「……ううん、これは市原君に話せる内容ではありませんからね。市原君、一応……一応、彼に事情を説明してあげてくれますか?」
「……? はい、わかりました」
廿楽先生は難しい顔で僕を見る。
そういえば先生という存在自体滅多に近づかないから、とても珍しく感じるなぁ。
そんな事を考えながら呆けている僕に、リンちゃん先輩は説明を始めた。
「追上君。平河小春、という三年生を知っていますか?」
「いえ」
「でしょうね。
……平河さんは九校戦ミラージ・バットに出場した小早川さんのエンジニアを務めていた生徒です。そして恐らくは、ですが九校戦が原因で体調を崩し、現在休養している生徒になります」
へぇ。
景子先輩のエンジニアねぇ……。
それが僕と何の関係があるのかな。
「平河さんが体調を崩している理由は心因的な物。なんでも、小早川さんのCADに
「もうすぐ迫った論文コンペに平河君は参加予定だったのですが、どうもそれどころじゃない、と言われてしまいまして。参加を辞退してしまったのです。そこで、小早川君にどうにか説得を頼めないかとお願いした所、その
「それで、あなたを呼び出したわけです。知らない誰かではなく、当校の生徒が行った事だとわかれば、問題解決の糸口になるかもしれません。と、いうよりは、もしあなたの魔法が原因であるのならば、責任を持って平河さんを説得していただきたいのです」
「……あー……」
あちゃー。
うわ、完全に僕が原因じゃないか。
なんでそんなに落ち込むのかは僕がエンジニアって人種じゃないからわからない。
しかし、自分が完璧に描いた絵に誰かがアレンジを加えて、そこが評価されてコンクール入賞、なんてした日にはそりゃあ落ち込むよなぁ、って事くらいはわかる。多分、少しくらいは掠っているだろうこの例え。
そりゃあ、うん。
完全に僕のせいだよね。結果的に景子先輩がどうなったとかじゃあなくて、説明せずに隠し通した僕の責任だよ。うん。
「お願いできますか?」
「んー……うーん……」
でも、ねぇ。
無理なんだよねぇ……説得とか、僕が一番不得意とする所だし……。
さて、それをどう説明したものか……と、僕が悩んでいると。
「市原君。説明してもらって申し訳ないのですが、追上君に任せる事は出来ません。そして、ここからの事は君に聞かせるわけにはいきませんから、席を外してくれますか。えーと、確か司波君でしたか? 彼を呼び出しておいてください」
「どういう……、いえ、わかりました」
相手の意思なんか聞いていないという口調で話す廿楽先生。その態度に、一度は聞き返しかけたリンちゃん先輩は頷き、こちらへ一度会釈をして部屋を出ていった。
扉が閉まる。
ふぅ、とため息をつく廿楽先生。
「……盗聴の心配も無し、と。
あぁ、楽にしてくれていいですよ、追上君。いや、まさか君だったとは思いませんでした。大丈夫、君の障害の事は聞いていますから、君に説得なんて無謀な事を押し付ける事はありませんよ」
「え……あ、あぁ。うい」
素で驚いてしまった。
あぁ、そうだった。学校にはちゃんと伝わっているんだった。全く接触してこないから完全に忘れていた。遥ちゃんも知らなかったし。
「老師からの直々の推薦と忠告……いやはや、本当に今年の一年生は粒揃いですね」
「おうい?*1」
「……今のは『老師?』かな。なるほど、確かに話には聞いていましたが……中々、大変そうな症状だ。く……いえ、Ninesと名乗っていらっしゃる医師の事です」
「あぁ、オイイァアア*2」
学校へ症状を伝えてくれたのもオイシャサマだったし、学校関係者なのだろうか。
参ったな……じゃあ、僕の不良行為はオイシャサマの面汚しになるのか。知らなかった。
これからはもっとまじめにやろう。
「一応聞いておきますが……小早川君の窮地を救った、という魔法を使ったのは、追上君で間違いないですか?」
「あい*3」
「ええ、それを聞く事が出来れば十分です。君のその先天性スキルには興味も惹かれますが、今は良しとしておきましょう。私の得意魔法とも掠る部分がありますから、いつか魔法大学へ来た時は是非とも私の元に来てほしいのですけどね」
廿楽先生は芝居がかった口調で言う。ウィンクもしてきた。
中年のおっさんにされてもなぁ……。女性? 女性ならウェルカム!
「君の言葉を翻訳する装置を作れるかもしれませんよ?」
「えい*4」
「……今のは『是非』、かな? うん、正解という顔ですね。なるほど、老師は軍に欲しがっていたようですが……君の進路は、君が決めるものですから」
……中年のおっさんでも、まぁ、かっこいいのだが。
あー、というか、第一高校に来てから初めて「先生」という人種に触れた気がする!
僕の記憶にある高校の先生……あっ、前はそもそも高校じゃなかったような……けほん。
「さて、話が長くなってしまいましたね。呼び出しておいてすみませんが、今回の件で君にできる事は恐らくありません。本当は君だと分かった時点で帰しても良かったのですが、それだと市原君が納得しませんからね」
「あー、あいあい*5」
「……はいはい、かな?」
違うが、まぁいい。
翻訳機欲しいなぁ、なんて思いは強くなる一方だが、軍には入りたくない。
大学、どうにかして頑張れないものかなぁ。
……無理だろうなぁ。
そんな感じで、僕は下がった。
*
言うまでも無い事なのだが、魔法の正当な理由の無い私的利用は犯罪である。拳銃のようなものなので、バレたらお縄である。
それでも僕がアイオーンでビュンビュン飛び回っているのは単にバレないように細工しているからで、今日はそれが役に立った、と言えるだろう。
「!?」
ソイツは、高いビルの上に寝そべっていた。
驚いた事だろう。いきなりソイツが一発撃ち終えたモノの上に、男が立っていたのだから。
「おんいいあ、えんあいあんおうあい?*6」
「……You are wrong, Japanese. Correctly it is "The Only Neat Thing to Do".*7」
……?
何が?
え、「たった一つの冴えたやり方」を知っているって、この男何歳だ? というか、なんで今それ?
「I have heard of you. Don't you stop interfering with our work? *8」
「
仕事。
仕事、ねぇ。
僕が乗っているコレ、空じゃあなくて地を向いているのだが。
さてはて、これでやる仕事とは何か。
コレの先から出ている軌道が向いているのは、なんなのか。
「If you do not retreat, we will kill you, too.*9」
「ウァーオ」
怖い事言うなぁ。
って、うわ。拳銃取り出してるし……というか、僕の事は聞いているって、どういうこと? 何、僕有名なの? もしかしてアレかな、有明の一件のメンインブラックがかなーりヤバイヤーツだった?
いやいや、顔は隠していたし、今金髪ヤンキーじゃないのだが……。
「Darn, The target realized here !!*10」
――瞬間、ナニカが来た。
ナニカ――そう、ナニカとしか表現のしようがないソレは、どこかあのクルーザー上で感じていたソレと似ていて。
僕はその悪寒に、咄嗟にそれを逸らした。
それその物に軌道はなかったので、視線を無理矢理逸らしたのだ。
直後、ソイツの横にあった装備一式が消える。
忽然と、世界から揺らぐように。
「What happened!?*11」
「
視線はまだこちらを――コイツを探している。
正直な所街中をソレ――ライフルで狙っているような奴を助ける義理は無いのだが、目の前で不可解な現象に殺される人間を見逃すほど僕は人間をやめていない。何より僕の寝覚めが悪いし、この視線はクルーザーの時も僕を狙っていたのだから、もしかしたら僕と接触した事でコイツが狙われているのかもしれないのだ。
どこの誰かは知らないが、僕のせいで命を狙われるのだとしたら、その命を守る責任は僕にあるだろう。
「why are you protecting me!?*13」
「あいおんぉういあおうあ!*14」
この視線の持ち主の狙いが僕であるのなら、コイツを消した後に僕も狙うだろう。
つまり、どちらにせよココでこの視線を撃退しなければ、僕もコイツも消されてしまうということ。
「” I only know that.”……*15」
「あぁ!?」
視線と揺らぎの頻度は凄まじく高くなっていて、後ろで小さな声で呟かれても聞き取れない。視線と揺らぎのタイムラグはほとんど無いも等しいので、集中しなければ消されてしまうのだ。
……自分で言っていてなんだが、消されるって……怖すぎるだろう。
「A pickup car will come soon. Can you protect it? *16」
「Yeah!」
と、ソイツの言う通り、高層ビルの下に一台の乗用車が来た。
相手も気付いたのだろう、そちらへも視線が向かうが、それも逸らす。下は町中だ、変な所へ逸らすわけにはいかないが……。
「I will definitely return this gratitude! *17」
そう言って、ソイツは高層ビルから飛び降りた。
身軽に壁を伝い、勢いを殺しながら下りて行く。忍者かな??
しかしイデアから直接覗かれているのだから、距離を稼いだ所で意味は無いだろう。どこまで捕捉できるのかは謎だが、クルーザーに乗っている間かなりの距離を追跡してきたことを考えても10kmや20kmではないだろう。
しかたない。
それがどこに繋がっているかは見えないが、先程のアイツが狙っていた軌道は覚えている。アイツは「気付かれた」と言っていたし、アイツが狙っていたのはこの視線の持ち主なのだろう。
ならば、こちらからも打って出る事にしようか。
小石を拾い、
自分から逸らす事、車から逸らす事、そして小石を真っ直ぐ飛ばす事。
僕の処理能力はそこまで高いとは言えない。処理速度は確かに早いかもしれないが、容量的にはそこまででもないのだ。その脳が、オーバーヒートでもするかのように熱くなっていく。
だが、なんだろうね。
己の性能限界を知る事は――快い。
まだまだ、先があるように感じられる。
思い出すのは、スピード・シューティング。
いや、もっと昔かな。
あの、高速の、鉄の鳥を――。
「
左の女性をモチーフにしたアイオーンで小石にエアをかけながら蹴り飛ばす。
調整された小石の軌道は真っ直ぐに、落ちる事無く目標にまで飛んでいき――消し飛ばされた。
反応速いなぁ……。
だが、今のショットを機に車への視線が止んだ。もしかしたら、アイツがまだここにいると勘違いしたのかもしれない。
だというのなら、あとは僕が逃げ遂せれば万事解決だろう。
逸らす範囲を広げていく。
僕を囲う球体から、視線を包む細長い楕円形に。
視線は楕円の中で逸らされ続け、やがては――己を見る。
これを普通の視線外しで行うと、目の前に自分が見える事に成るのだが、さてはて
僕に視線が集中しているからこそできる事で、先程のように逸らす対象がいくつもあると使えない。いや、出来るのだろうが僕の脳の処理が追いつかないのだ。
ディスコホールのライトアップを両手に持った鏡でミラーボールに同時に返す、みたいな……うん、分かり難い例えでごめんね。
とにかく、これで大丈夫だろう。
今は、だが。
これからは競争になる。
僕が視線に気づく方が早いか。
視線の持ち主が僕を消す方が早いか、だ。
……恐ろし過ぎない?
僕が何をしたって言うんだ……。
*
こんにちは、天体観測かい?
おんいいあ、えんあいあんおうあい?
Only one. end the night one of way.
って聞こえていたみたいですよ?
開示TIPS
青の詳細をしっかり知っている教員
つづらせんせい
あすかせんせい