チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
ちょっと残酷な描写ありです。お気を付け下さい。
プロット上ではあと終わりまで3話予定……だけど話が膨らんだら4話か5話になる……カモ?
それでは。
*
少しばかり不可解なオイシャサマとの通信を終えて、改めてみんなの元へ向かう。ごちゃごちゃとした陸路より、空路の方がいいだろう。またああいった小型ミサイルが飛んでくる可能性もあるから、発見がしやすいし。
エアで手頃な建物の上へと飛びあがり、辺りを一望する。
その辺から火の手や粉塵が上がっており、悲鳴や怒号まで聞こえる。なるほど、一方向からではなく全方位から襲撃されているのか。
厄介だな。そう思う。
確かに僕のチート染みた能力は距離を関係なく軌道の視認・操作が出来るのだが、だからと言って全方位、ここら一体全ての軌道を把握しきれるかと問われれば、それは無理だ。
勿論僕なんかが行かなくてもここに集う魔法師や国防軍が何かしら対処をするとは思うのだが、凡そ銃器というものに限定するならば僕のチート染みた力が最善の対応策のはず。万一が無いとは言い切れない戦場において、絶対という言葉がどれほど魅力的か。
シェルターに向かった組は学生と先生方。まだ親の庇護下にある子供が、殺される前に殺す、を実践できるかどうかなんてわかりきっていることだ。だから、応援に行くならあそこが最適なのだろう。そもそも殿を任されていたわけだし。
だが、地下シェルターの直上辺りにいる戦車みたいな奴も見過ごせない。
あれこそ僕が対処すべき敵じゃないのか?
って、あの戦車なんで砲塔下に向けて――ッ!
暴発しろ!
そして、直行!
*
なんかトラ○スフォーマーみたいな奴がいる。
戦車だと思って急行したその場所にいたのは、ちょっと重機臭さはあるものの、男の子ならみんな憧れる可変戦闘車両……的な物だった。
平時であればじっくり細部を見てみたいのだが、生憎と今は平時ではない。
さらに言えば、そんなトランスフォ○マーと対峙しているのが真由美先輩や深雪ちゃん達だと言うのだからいただけない。というか達也君どこ行ったの。深雪ちゃん置いて、もしかして僕と同じで迷ってる?
とりあえず加勢しようと適当な弾丸の軌道を曲げ――ようとしたその前に、トラン○フォーマーは穴だらけになってから真っ白に凍りついた。
氷……深雪ちゃんだろうか。あれ、もしかして深雪ちゃんって、物凄くヤバイ子?
というか、ここは加勢とか要らなそうだね……。
他の場所……まずはさっき大きな爆発があった駐車場の方へ行ってみよう。
*
「――ん?」
意識外からの狙撃などを考えて視線逸らしを纏いつつ空を跳んでいると、前方に黒い人影がある事に気が付いた。人影――人影だ。そうとしか表現できない。フライングマン?
人影は僕の様に跳んでいるわけではなく、どちらかといえばそう――飛んでいる、という表現が似合う速度でこちらに向かってきている。
だが、その軌道は微妙に僕の軌道とズレていて、その速度や体勢からして人影が僕に気付いていない事がわかった。
とりあえず、避けておく。もしかしたらアレは吉田君の使うと言う精霊なのかもしれない。僕に当たってそれが雲散霧消してしまったら申し訳ないし、こっちにどんな影響があるかわからないし。
ただ、そう、一瞬――うすら寒い物が、背筋を伝ったような。
うーん、スピリチュアルスピリチュアル。
人影との邂逅は一瞬の事で、その後すぐに僕は目的の場所である駐車場に着いたのだった。
*
「……お前は」
一条将輝は自らの家の秘術「爆裂」を使って侵入者を撃退していた。
「爆裂」――対象物内部の液体を瞬時に気化する魔法。対人、いや、対生物戦においては、無類の強さを発揮する攻性魔法。
その魔法の凄まじさは、彼の周囲に広がる赤い花が物語っている。
鮮烈に鮮血を撒き散らして咲いた花弁は、全て侵入者の物。クリムゾン・プリンスという名が伊達ではない事を証明する、子供ではなく戦士である事の象徴。
そんな、真赤な花畑に。
ローラースケートを履いた眼鏡の男が降り立った。
司波達也に所在こそ確認したが、だからといって不審である事に変わりの無かった長身の男。この血まみれの大地を見ても眉一つ動かさない辺りにはどこか納得している自分もいるが、同時に警戒も最高にまで引き上げる。吉祥寺真紅朗の知らない魔法を使う、空から降りてきた男。
何が目的なのか。敵なのか、味方なのか。
「……
「何?」
小さな声で呟かれたソレ。
将輝はそれを聞きのがさなかった。
聞き逃せるような内容ではなかった。
将輝も今回の敵が外国の、それもすぐ近くの勢力であるという事は気付いている。そうであろうということは、敵の武装や人種、使用言語からわかっていた。
そして確かに、事が事ならソレもあり得るということも。
即ち、世界大戦。
「ッ、待て!」
再び飛び立とうとする男に牽制として空気弾を放とうとする将輝。しかし、どこか覚えのある感覚によってその矛先を逸らされ、次の瞬間には男の姿を見失っていた。
憶えの或る。それは、あの苦汁を散々なめ啜った九校戦で。
「……追上、青……だと?」
あの男が追上だとするならば、何故今朝司波達也がそれを言わなかったのか。
否、あのような移動魔法を持ち得ているのならば、なぜ九校戦の時にそれを使わなかったのか。真紅朗と話していた仮説は違う。何故なら、現に奴はモノリス・コードというとても目立つ競技に出ていた。
いや、だから、そうか。
「隠す必要が、無くなった……ということか」
今の将輝の考えがあっているのなら、それは確実に起こってしまう事なのかもしれない。
全世界を巻き込んだ、最悪の事態が――。
*
駐車場は真赤だった。
ヒトだった物の残骸が絨毯の様に敷き詰められたそこに降り立つ。むせ返るような血臭は懐かしさを覚えるが、何も思わないという事はない。
「あうあいあうぅ……*2」
やっこさんが敵でも、死体は死体。
凄惨な死に方をしていればしているほど、そして血液とはいえその死体を踏んでしまったのだからこそ、お祓いの意味も込めて。
恐らくこれを起こしたのだろう下手人はすぐ近くにいて。
それはなんと、あの九校戦で戦った三高の将輝君で。
絶対に恨みを買っている。そう思った僕は、一目散に逃げる事にした。
予想通りすぐ近くに視線が飛んできたので咄嗟に逸らして、エア。
あと数瞬逸らすのが遅れていれば、僕も仲良く真赤なカーペットに仲間入りだったかもしれない。
もう一生第三高校には近づかないようにしようと、心に誓ったのだった。
*
先程のトランスフォー○ーより動きの良いト○ンスフォーマーを見つけた。
どうやら何か――いや、誰かと交戦中らしい。
あの質量の相手に、少年少女――レオ君とエリカちゃんが剣で対応している。
時代錯誤……一周周って現代らしい光景。
あの二人は大丈夫だろう。多分、あれほどの火力と機動力があれば、鈍重な戦車の一つや二つは相手にならない。それより、少し先の方に見えているヘリの方が心配だ。
蝗害と称するべきだろうか。
黒い蝗の大群がヘリに群がっている。奈落の王か、赤い蛇か。
凄まじい量の蝗は一匹一匹に軌道があり、乱雑で、とても把握し難い。
僕は火を出したり相手を凍らせたりする魔法を持っていないので、直接蹴りに行くのも悪手だろう。
深雪ちゃんをあそこに投げ込めば……なんてあほらしい考えが出てくるくらいには焦っていた――その瞬間だった。
ジュ、と。
先程からヘリに乗っていたのだろう魔法師が発していた白い光とは違う、もっと恐ろしいチカラで。
蝗害そのものが蒸発するように、消滅するように消えて行ったのは。
そしてその黒い暗雲が晴れた場所にいたのは――あの、黒い人影。
拳銃を構え、無機質な居住まいで空を跳び、瞬時に蝗害を消し飛ばしてしまった。
僕はその魔法に覚えがあった。
スナイパーと僕が狙われた時の、あの魔法だ。
あれは、あの人影の魔法だったのか!!
「ウッ……」
怖気づく。戦争は正直慣れている部分もあった。血腥い事もある程度は耐性があった。
だが、こうも恐ろしい相手と対峙した経験など欠片たりとて持ち合わせていない。
対抗手段が逸らし続ける以外にない相手。先程の軌道の乱雑な、あやふやなものでさえ消滅させてしまう相手にどう立ち向かえばいいというのか。
しかし、僕が勝手に怖気づいて一歩下がった所で、人影はどこかへとその拳銃の矛先を向けて、何かをしている様だった。僕等、もう眼中にない……そういうことだろうか。
良かった。そう、これが「今は見逃してやる」でない事を祈りつつ、逃げるようにその場を去った。
追いかけては、来なかった。
*
ヘリに着かず離れずの位置を保って哨戒していると、目的の場所に着いたのだろう、ヘリからロープが下ろされていくのが見えた。下にいるのは摩利先輩達だ。
丁度いい頃合いなので、合流する。わざとアイオーンの音を響かせれば、一瞬の警戒の後に桐原先輩がこっちに気づき、手を挙げてくれた。
「お前、何処に行ってたんだ? シェルター組と一緒じゃなかったのか?」
「あー……、えー」
どう言い訳した物か。
素直に迷いました、と言ってもいいのだが、言える口が無い。
迷いました、って英語でなんて言うんだっけ……あぁ、英語じゃ言えない。どうしようか……という、普段は心中にすら出さない考えを表出させていたのは、偏に味方と合流出来た、という安堵から来るものだったのだろう。
その油断は、余りにも致命的だった。
「危ないっ!」
ゲリラ――その恐ろしさは、魂に刻まれるほどにわかりきっていたはずなのに。
その摩利先輩の声に、紗耶香先輩と啓先輩へ向かう軌道を目視して、チート染みた力を行使した。
みんなが集まっている場所だ。横方向のどこに逸らしても危ないし、上にはヘリがいる。下は跳ねる可能性がある。
なら、何処が一番いいか。
それはもちろん、僕の後ろだろう。
何故なら僕は今しがたみんなの所へ来たばかり。僕の後ろには瓦礫しかない。
計算は完璧だった。真っ直ぐに二人へと向かっていた弾丸は急激なカーブを描いて僕の元へ来て、残念ながらそれ以上曲げるには至近距離すぎたが、狙い通り僕の脇をかすめて背後の瓦礫へと着弾する軌道になった。
「ぐっ……」
余りにも不運なタイミングで、リューカンフーに傷付けられた腹筋が傷まなければ。
僕は一瞬だって硬直なんかせずにいられたのだろう。
実際は二発の銃弾に左肘を両側抉られて千切られるという、なんともまぁ無様な結果に終わったのだが。
「追上!?」
目の前にいた桐原先輩と、奥にいた摩利先輩が驚愕に目を見開く。
前者は目の前で起こった事実に、後者は恐らく弾丸の軌道に、だろう。
全身が潰れる痛みは16年前に味わった。
だからといって、痛みに慣れているかなんて言われたら答えはNOだ。
叫び出したいほど痛い。だが、それよりも先にやらなければいけないことがある。
右手のコンバットナイフを投擲。勿論発砲者へ向けて、真っ直ぐに。
それは吸い込まれるようにして発砲者の肩口へと突き刺さり――直後、世界が凍りついた。
わかる。
その、恐ろしさが。
あの発砲者は、精神を凍らされた。
僕はその恐ろしさが、よくわかる。
「お兄様!!」
その下手人だろう、深雪ちゃんが叫ぶ。
お兄様。達也君か。
その声に反応して降り立ったのは――なんと、あの黒い人影だった。
はは。
兄妹揃って、なんて恐ろしいんだ。
精神を凍らせる妹と、全ての物を消滅させてしまう兄だって?
そんなのチートだよチート。
「お兄様、お願いします!」
出血からだろう、ぼやけていく視界の中、達也君の顔をした黒い人影は僕に拳銃を向けた。
集中力が足りない。視線は真っ直ぐに僕を貫いていて、もう逃げられない事を悟る。
「――」
そうして、僕はこの世から消え――。
*
佳境ですねぇ