チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
この話は一応の導入となります。とても短いです。
このssは一旦終わりということで、これ以降(来訪者編以降)を更新するかどうかはわかりません。気分次第になります。
それでは、長い間ありがとうございました。
*
「ぐぁー、わっかんねぇ!」
「叫ぶな、鬱陶しい!」
豪邸も豪邸。
屋敷と表現する他にこの家をあらわす単語が見つからないような、そんな北山さん家邸宅に僕、レオ君、エリカちゃん、美月ちゃん、ほのかちゃん、幹比古君に達也君、深雪ちゃんはお邪魔していた。ぺこりと会釈をくれた航君は良い子だと思う。彼になら妹を上げても良いぞなもし。
「なぁ、涼しそうな顔してるけどよ、青も結構やばいんだろ? 定期試験」
「あー……うん」
結構、なんてレベルじゃあないが。
やばいかやばくないかで言えば――どちらかと言えば、超絶ヤバイ。
ミクロちゃんが使えるのはあくまで家の中だけで、学校での僕は普通に今まで通りだから。
無論勉強はしているし、なんだったら満点を取る自信だってある。――母音ーッン以外を書ければ、の話だが。
「……そういえば」
そんな緊迫――というほどでもない空気の中、ポツりと。
雫ちゃんが、呟いた。
「実はアメリカに留学する事になった」
「
「ごめん雫もう一回言ってくれる?」
理解が及ばなくて、雫ちゃんに聞き返す僕とエリカちゃん。
「実はアメリカに留学する事になった」
一字一句違わずに雫ちゃんは言う。
僕とエリカちゃんの頭上には、疑問符が浮かんでいる事だろう。
いや、単語の意味も文の意味もわかるのだが、意味が解らないのだ。
いや、意味はわかるのだが。
魔法師というのは国の資源だ。
それも軍事資源。表面上は手を組んでいるものの、競争相手といっても過言ではないアメリカへ魔法師を渡らせるなんて、政府が許すはずもない。
だが、雫ちゃん曰く交換留学だから許可が下りた、とのこと。
プラマイゼロ、ってこと?
まさか。
検索が出来るようになった僕は、雫ちゃんの家柄……つまり北山家の事もある程度は調べている。こう言っては何だが、雫ちゃんにもしものことがあっても、雫ちゃんを人質にとっても、雫ちゃんがあちらで何か粗相をしても、日本とアメリカの両方に損しかない。
それとも、それほどに価値のある人材が日本に来るということだろうか?
「じゃあ、送別会をしないとな」
達也君が言う。
……素晴らしい案であるはずなのに、こうも違和感を覚えてしまうのは、やはりあの黒いヒトガタが彼自身であった事実が焼き付いて離れないからだろうか。
何故かあの十月の事件以降は、あの変な視線を一切向けて来なくなった彼。
助けてくれた事には感謝しているし、青君の身体を治してくれた事は言葉が尽きない程に礼を言いたい。
だが同時に、僕をこの世から滅そうとしていたのも彼なのだ。
「いえんあああぁ……*1」
まぁ、乞い願わくは、彼が僕への興味を失っている事だろうか。
*
「When we up…*2」
その小さな呟きを、達也は聞き逃さなかった。
アメリカ。そして、青の目的。
また一波乱あるのだということは火を見るよりも明らか。
横浜の一件では、俺の戦いが終わった、という旨を青が話していたことを妹から聞いている。
だが、達也は気にしない事にした。
彼らの目的がアメリカにあり、自身や深雪の妨害をしないというのなら、九島烈の懐刀と呼ばれているこの長身の男に深く関わるべきではないと、そう判断したのだ。
そしてそれさえ気にならなくなれば、この男は幹比古やレオ達と同じ、単なる学友でしかない。
此処で初めて、達也は追上青を学友であると認識したのだった。
*
2096年の元旦を、僕は――家で過ごしていた。
より正確に言うならば、家の中のこたつの中で、ミクロちゃんに寄り添われながら仮想型ディスプレイを付けていた。
「音声メッセージを再生いたします。
『青兄、今年くらいは初詣行こうよー、去年はゼッタイ厄がついてまわってたんだから、神様に取ってもらった方がいいってー』
再生を終了いたします」
「んー、おうあいああいあいああああー*3」
なんせその名前のついた作戦で死んだモノでして。
何よりその
一年E組の誰か。というか、達也君の周りの誰かにねばっこく憑いているのだと思われる。だから、僕の厄を取っても無駄なのだ。
「2件目の音声メッセージを再生いたします。
『これ聴いてるって事は、来なかったんだね……。はぁ、お母さんがお雑煮作ってくれてあるから、暖めてそれ食べてね。おせちは冷蔵庫だから』
再生を終了いたします」
「うんー、あええうあええう。えっいぁおいいい*4」
みょーん、とお箸でお餅を伸ばしながら、行儀悪く答える。
どうせ誰も見ていないのだからよいのだー。
「3件目の音声メッセージを再生いたします。
『あと、何回も何回も言うけど、茜ちゃんって呼ばないで。折角メール打てるようになったのに、文面でも茜ちゃんはや・め・て。やめなかったら今度から青兄の事兄貴って呼んでやる! やさぐれてやるから!!』
再生を終了いたします」
「うんー、ああっあおああえいぁんー*5」
兄貴呼びもいいものだ。
まぁ、どうせ茜ちゃんは自分で自分に耐えきれなくなって、元の呼び名に戻すのだろうが。過去も兄貴とか、なんなら青君なんて呼び名にしようとしたこともあったが、悉くが失敗している。失敗している事を覚えていないのか、無かったことにしているのかはわからないが。
「4件目のメッセージを再生いたします。
『青君、物は相談なんだがアイオーンを改良してみないか? ようやく翻訳機を通して君の言葉が聞けるのだし、折角だから移動系等の魔法を強化したり、他の魔法を増やしてみたりしたいのだが……どうだろうか。もし都合が付くのであれば、私のメールアドレスに日にちだけ送ってくれたまえ』
再生を終了いたします」
「ん? いあお、あえああ?*6」
「
「あー」
僕のアイオーンを作ってくれた魔工技師さんだ。
いつもはこんなテンション高くないから、わからなかったや。
「いいあう、いうあえー*7」
学校が始まる前に行っておきたい。
あの学校、すぐテロとかに会うからね!
「送信いたしました」
「うん、あいあおー*8」
あぁ~……炬燵って、いいなぁ。
平和だなぁ……。
*
このssやってて一番心に残った事は、
膝枕と司波達也の母音が一緒だという事――ッ!!