チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない 作:飯妃旅立
気のせいでなければ三月なんですが、前回の更新から三か月も開いている気がしますが気のせいですね。
ごめんなさい!
*
あるとき
だけど
確かに声が聞こえたはずなのに。
*
「宿主を全て消してください」
静かな声だった。
感情的でも、冷淡でも、努めて普通にしているわけでもない。
単純に、プロジェクトの締めとして報告書を出してください、とでもいうかのような、当たり前の「けじめ」を、電話の向こうの女性は言う。
「捕縛、ではありませんので?」
電話の向こうの女性へ問うのは、男性。
「ええ、抹殺です」
「しかし現在の宿主が死ぬと、パラサイトはほかの宿主を求めて飛び去ってしまうようですが。新たな宿主を突き止めるにはいささか時間が……」
話している内容は物騒も物騒。
だというのに、二人の間に流れる空気は──日常的、と言えるものだった。
「構いません。死亡した宿主からパラサイトがどのように抜け出すのか。情報体の状態でどの程度の距離を移動できるのか。新たな宿主と一体化するのにどれほどの時間が必要で、活動再開は如何程の時間が経過した後なのか」
あぁ、そう。──そう、女性は続ける。
「宿主に宿り続けられる時間はもうわかっています。ええ、十六年間も宿る事が可能なのであれば、長々と観察して待つ必要はありません」
「……例の、”大物”ですか」
「はい。あぁ、”大物”には手を出さないように。彼に貴方の毒蜂は通じませんし──なにより、アレに手を出すと
「……ああ」
「それでは、宿主の抹殺。任せました。消去が終わったらまた報告してください」
「明後日までお時間を頂戴いたしたく」
「それで結構です。くれぐれも、”大物”には悟られないように。アレは星をも操る怪物ですから」
電話が切れた。
*
夜。深夜というには深すぎず、しかし夕方というには帳の落ち切った、そんな時間。
僕は一人、非行……というにはヤンキースタイルをやめてしまったが、まぁ、夜の街をシャーっとアイオーンで駆けていた。
一応有無を言わせない迫力があったとはいえ、達也くんの「お前は一人で追えるな?」という問いかけに頷いてしまったのだ。発言責任は果たさなければならない。
一人で追える、という部分はまぁ、間違っていない。
というか、もうほぼ全てのUSNA軍を発見している。あとは追い詰めるだけ。
だが、少々奇妙な事になっているのだ。
先ほどから──USNA軍だろう化成体の軌道が、突然パタと消える。
達也君の軌道そのものを粉々にしてしまうアレや、深雪ちゃんの精神を凍り付かせるアレが見えていない辺り、彼らではないと思うのだが、だとしたら誰か。
エリカちゃんや幹比古君は、申し訳ないがUSNA軍を相手にしてこれほど上手く立ち回れるとは思えない。仮にも軍人だからね。
考えられるとしたら、生徒会の人たち。あとは日本軍の人たちか……。
「あっ」
まただ。
また、すぐ近くの化成体の軌道が消えた。
この距離ならすぐにでも行ける……かな?
「
路地に入って、ジャンプして、壁を蹴って……まぁ、三角跳びの要領。
そして向かった先に。
そいつはいた。
地に倒れ伏す男の隣で、何やら端末を見ている、その男が。
そしてその周囲に幾人かの人間を従えて。
「……
「……”大物”──?」
「あん?」
中心の男は何か驚いた表情で──有り得ないものを見たという声で、僕を”大物”と言った。
大物。レアリティ? ふむ。
「……お前たちは先に行け。宿主から抜け出した精神体の追跡を怠るな。最終的に見失うのは仕方がないが、可能な限り追い続けろ」
男が周囲の人間に指示をだす。
それを聞き、周囲の人間はまるでNINJAのように散開した。あ、この間シノビにあったし、本当にNINJAだったかもしれない。
「ボス、しかし”大物”との接触は……」
「いい。大丈夫だ。だから行け」
「……ハッ」
いやボスて。
NINJAの親分がボスって……そこは! そこは!
「おぅおぅあぉ……*2」
「……!」
男はなにか、また。
驚いた顔をした。
「……君との接触は禁じられている」
「あ?」
「君が彼らを”仲間”だというのなら……いや」
男はそれだけ言って。
何をしてくるわけでもなく──闇へと姿を消した。
いや、軌道は追えているのだが、まぁ追わなくてもいいか。
普通なら殺人犯だ、と騒ぐところだが……倒れているのがさっきまで化成体の入っていた人間だし。
やっぱりアレは世を忍ぶNINJA……?
気のせいでなければ武器も針のようなモノだったっぽいし。
「あぁ?」
まただ。
また、うるさくなった。
幻聴……ちょっとイライラするなぁ。ホント。
「あっいいえ!*3」
ん。
聞こえなくなった。
ミッションコンプリート!
*
「
ポツ、と少年が呟いた言葉。
それは心から惜しむような言葉だった。
少年──ご当主様の言う”大物”。
この世界に来たばかりの十二の分裂した”デーモン”とはまた違う……十六年もの間この世界に潜んでいた、紛れもない本物。
霊子を奪う必要がない代わりに、無辜の少年の魂を食いつぶし、我が物顔で少年の家族と生活を送る
この世界に来たデーモンが分裂出来る事は先の件でわかっている。
ならば。
ならばこれほどの知能を持つデーモンが、その身を分けたら。
我々人間はそれに、抗うことが出来るのか。身近な隣人が、ある日突然悪魔によってなり変わられているかもしれないというのに。
「……しかし」
また独りになるのか、という言葉が耳朶を打つ。
そこまで知能の発達した「異生物」を、果たして、病の類のような扱いをすることが正しいのかどうか。
甘い考えだった。それは、紛れもなく。
だがそういう面も持ち合わせているのが男──黒羽貢だと、そうも言えるのだろう。
そして、それでも。
黒羽の目の前で、死んだ宿主から抜け出る化成体の逃亡の手助けをしたのは、やはりアレなる存在の位置付けを再認識できる行為だったといえるだろう。
物凄い勢いで飛んで行く化成体。あれでは追う事もままならないだろう。
「……」
そして少年は、暗闇且つ超遠方にいる貢を一瞥し、その場を去っていく。
星をも操る化物──自らの主の言葉が脳裏をかすめた。
*
二月十四日の朝。
もう、早朝も早朝。
僕の家に来た達也君から一言、「来い……いや、来てくれ」という珍しいにも程がある殊勝な態度を受けて、僕は寒い中もそもそと彼の後を追った。
着いた場所は寺。
八雲寺。八雲さんの寺なんだということはわかった。だが何故忍びが寺を?
そんな説明は一切されないまま。
ちなみに茜ちゃんはまだ起きていなかった。と、いう事にしておく。
何故って、チョコレートを湯煎していたようだったからね。そういうのは気付かないが華でしょ。
「やぁ、よく来たね。追上青くん。君に少し手伝ってもらいたいんだけど、いいかな」
「えー……あ、うい」
そりゃあもうにっこにこと。
ニッコニッコニーと顔を綻ばせて近づかれては、流石の僕も一瞬断ろうかと思ってしまったのだが、そこはなんとか踏みとどまって、了承。
僕の了承を得るなり、いきなり八雲さんはその手の上に揺らめく炎みたいなものを纏う六角錐を出現させた。
「うお!?」
「あ、大丈夫大丈夫。これは君を傷つけるものではないからね。
……しかしやはり、君には普通にこれが見えるんだね?」
「あん? おう」
普通に、って、どういうこと?
他の人には見えないの、これ。
「……師匠、いちいちこっちをチラチラ見なくていいですから、続けてください」
「あっはは、ごめんごめん。
それじゃあ青クン。この水晶をちょっと操ってみてくれないか。こう、中空でぐるぐる回す感じで」
「うい」
ぽい、と放り投げられたそれの軌道をクイクイと変えて空に持ち上げる。
そのままくーるくーるくーるくーると回転させる。
この程度ならお茶の子さいさい。大道芸人にはなれるかもしれない。演目は言えないが。
「さて、じゃあここからだ。
達也君。追上君の浮かべているアレを落としてみようか。追上君は達也君にそれを壊されないようにしてほしい」
「はい。わかりました」
「うぃー」
あー、なんだろ。
達也君の修行、みたいな感じなのかな? 的当てゲームみたいな。
そのために僕を呼んだから、だからあんなに殊勝だったと。
ほう。
なら、こっちも全力で応えてあげたほうが良いよね……!
*
師匠の手から離れた孤立情報体が、弧を描いて落ちる──寸前に
そのまま宙へと浮き上がり、境内の上空4mほどの所で旋回を始める孤立情報体。
「……いくぞ」
「おう」
追上は薄く笑う。
押し固めたサイオンの砲弾を形成。
それを1/32sの速度で少しずつ座標をズラして配置していく事で、疑似的な砲弾として扱い、追上が旋回させている情報体にぶつける。
いや、ぶつけようとした。
──それは、急激に加速した情報体に避けられてしまったが。
追上は薄く笑っている。
いや、笑みを少しだけ深めた。
師匠が何かを言う気配はない。もともと、勝負らしさを出させるような言葉を吐いていた辺り、こうなることは想定済みだったのだろう。
望むところではあった。
何せ敵であるパラサイトはその場を一切動かない、なんてことはないし、なんであれば意思を持つが故にこちらの砲弾を避ける可能性だって十二分にあるのだ。
今この場で、そのシミュレーションが出来るなら、それに越したことはない。
サイオンの砲弾を再度形成。
今度は偏差的にそれをズラす。
今度は急激に遅くなった情報体に避けられた。
次のサイオンを形成。
その時点で既に、旋回していた情報体は不規則な軌道を描き始めている。遊んでいる事は完全にそうだろうが、追上もまたこちらの考えを読もうとしているようでもあった。
「……」
「
形成するサイオンの弾にも変化をつける。
面を重視するもの。小さく、細長くしてズラす位置を変えるもの。
動きにもバリエーションをつけ、さらにその先、その先へ。
消耗が激しいのは事実だが、おそらく八雲とだけでは辿り着かなかった──試行錯誤の先にまで手が伸びている事実は、ありがたいものだったといえるだろう。
そしてその全てを避け切った追上に、仄かに。
対抗心のようなものが浮かぶ。
「おいおい……」
こんなものか、とでも言いたげに肩をすくめる追上。
そういった挑発に乗るようには心の仕組みが出来ていない達也だったが、形だけでも乗る事を選択する。
その光景は、果たして。
*
「いやぁ、青春だねぇ」
「……お兄様がひどく消耗しています。先生、そろそろ……」
「いやいや深雪くん。これは達也くんと青クンの戦いだからね。水を差すような真似は、いやいやいやいやいや」
明らかに楽しんで──微笑ましそうに彼らを見ている忍びにはもう、青春の一コマにしか見えなかったとか。
*
もうそろそろで、この小説は終わります。
区切りじゃなくて終わりです。
プロットがそこまでしかないから、というのもありますが、そもそもこの小説の構想自体(魔法科一巻を「え? あぁ……おう!」だけで乗り切ってみる短編ではない方の構想)がweb版の頃に練られたものだからです。
だからそこで終わる事はもう目に見えていたというか。
何はともあれ、残り3、4話で終了いたしますが、もう少しだけお付き合いの程よろしくお願いいたします。
投稿遅れて本当にごめんなさい!