チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第三十五話のタイトルは「青春爆発」でした。
体調不良で長らく更新できていませんでしたが、一応まとまったので更新です。
また少しだけ次話まで期間が空く可能性があります。
物語も佳境……というより終わりが近いので、まぁ。

気長に見てくだされば。


あいあんいぅうおうあ おいええあいあああいあいえう。

*

 

 

 

 達也君との熾烈なバトル……という名の光球遊びは、そこまで時間をかけずに終了した。結果から言えば、圧勝。何故って僕は達也君の放つ想子弾の軌道も見えているわけだから、ソレを避けるなんて容易い容易い。

 ただまぁ恐ろしい成長速度というか、軌道が見えても弾速までを完璧に理解できるわけじゃない僕に対し、加速度的に想子弾の速度を上げてくるのはどうかとも思った。所々危なかったし。

 最終的には達也君がへばって、僕の勝ち。またやろうか、と言おうとも思った。でも、まぁ。

 

 次があるとは、思っていないし。

 

 翌日になって、いつも通りに登校。相変わらずノイズのように聞こえる幻聴に顔を顰めながらも眠ったふりをしていると、達也君たちが入ってきた。まぁ朝の時間なのだからいない人間が登校してくるのは当然至極、至極当然。なのだが。

 

 ……見える。

 いや軌道が、とかじゃなくて……いやなんだろうね。

 僕もね。男だから。いやね。

 

 なんだろうねあの桃色空間。

 

 発しているのはほのかちゃんだ。

 ぽけーっとして。ほへーっとして。髪につけた髪飾りを触ったり離したり触ったり離したり笑みを浮かべたり触ったり顔に手を当てたり触ったり離したりしている。

 浮かれている、という言葉をジェスチャーで表しなさい、というお題が出たら、真っ先にアレになるだろう、ってくらい。

 

 反対に達也君は……なんだろう、少し疲れている。

 昨日の修業が無理を祟ったのかな、とは多少気になった。でもアレは頼まれたことだしなぁ、と言い訳。

 その肩を叩きに行くのはレオ君で、流石輝くイケメン、達也君の表情の陰を忽ち取り除いてしまう。イケメンすぎやしませんか。

 

 なんだなんだ、と思っていると。

 

「あ、これ……青さん」

 

「え?」

 

 肩をぽんぽん、と叩かれて。

 コト、と。小包が僕の机の上に置かれた。

 

 ん。え。あ? お?

 母音ーッン語で話す必要のない心中で母音ーッン語のみになってしまうくらいの動揺。

 

 何これ。プレゼント? 僕美月ちゃんに何かしたっけ?

 

「……?」

 

「バレンタインです」

 

 ……あぁ!

 あぁ! そういう……そういうことね! ほのかちゃんと達也君のアレはそういうことね!

 完全に忘れていた。だって縁のないイベントだから。

 いや……っていうか、ええ、僕が貰っていいの?

 確かにレオ君も幹比古君も達也君ももらっているようだから友チョコなんだろうけど、いや、うん、まぁ。

 

 

「あぁ……えー」

 

「大丈夫です。気持ちは伝わっていますから」

 

 さすがに公衆の面前。ありがとう、と言えない口を恨む。

 それをわかっているのだろう、美月ちゃんはそう言ってくれた。

 

 天使かよ。

 

「うい」

 

 今一度頭を下げると、美月ちゃんは自分の席へ戻っていく。

 ……うわ、嬉しい。茜ちゃんも毎年くれるし、上尾さんもなんだかよくわからない形のチョコをくれはするけれど……うわ、嬉しい。

 

 うわぁ。

 

 ……でも。

もう。

 

 

 

*

 

 

 

 放課後になると、もう完全にお祭りムードだった。

 別世界でも何十年経っても日本人はバレンタインを勘違いしたままなのか、という呆れも多少含むため息を吐いて、この学校の片隅にあるガレージの方を見る。

好きです

「えんおうあえおおいおいあっあ……*1

好きです

 中高生かな? と思って、そういえばココ高校だったな、と思い直す。

 達也君とか幹比古君とか十文字会頭なんかが例外で、一応、みんな高校生だったんだ。そりゃ浮かれもするか、というもの。

 

 なんというか、いつにもまして視線の飛び交う日だ。温度こそわからないが、所謂おアツイ視線。

 中には僕へ向かうものもあることにかなーり驚いた。桃の木レベル。でも美月ちゃんのように僕のことを理解してくれているわけではない女の子たちだ。たちっていうか一人しかいないのだが。

 なので、非常に心苦しいが、視線を外させてもらった。非常に心苦しい。人の想いを無碍にするのは本当に。

 

 というか青君、真面目な恰好すればモテるんだなぁ、とも思った。

 

 それにしても、だ。

 

 上を見上げる。

 視線──というか、画角というか。

 そこにある。あるのがわかる。かなり遠い──恐らくは宇宙空間。だから多分、衛星。

 

 その衛星……カメラでもついているのだろう監視衛星が、先程からこの第一高校に向けて視線を送っているのだ。当然僕の周囲は逸らすとして、他……例えば達也君や深雪ちゃん、はいいとしても*2他の学生のプライバシーはどうなるのだろうか、と考える。

 だって高校生の青春だよ?

 誰が誰を好きで、誰が誰にチョコをあげて、誰が誰に断られて……そんな青春の一ページを、衛星を使ってまでデバガメしようっていう輩がいる。

 

 ……うん、許せないね。

 

 というわけで、大規模な軌道逸らしを行っている。多分ほのかちゃん辺りは気付いてしまうだろう。でも君を、君たちの恋路を守るためだ、許してほしい。

 

 もしカメラの画角、あるいは視線を視認できる人間がいたら、驚いてしまうかもしれない。

 第一高校の上空に出来た円形の空白──僕の軌道操作範囲の7分の1くらいの規模の操作は、情報体で象られたUFOのようなものに酷似していたから。

 

 UFOなんて見た事はないのだが。

 

 

 

*

 

 

 

「どうした?」

 

 部下の身体に走った緊張をバランス大佐は見逃さなかった。

 モニターから目を離してこちらへと振り向いたオペレーターは、言葉が出ない様子でモニターを指さしている。

 仕方ないので自らモニター前にまでバランス大佐が赴くと──そこには、一目見てわかる異常が広がっていた。

 

「……なんだこれは」

 

 筋金入りのリアリストであるバランスを以てしても、それをしっかり受け止めることが出来ない。

 

 モニターに映る、真黒の円形。

 円の縁にある景色は潰されたように歪み、その空間が捻じれていることは明白だった。

 

「Unidentified flying object……いや、この規模は地上が騒ぎになっていないはずがない」

 

「現在、そのような情報は確認されていません」

 

「幻影の類の可能性もある。第一高校に仕掛けた盗聴器が何か拾っていないか」

 

 バランスの問いに、ようやく再起動をしたらしいオペレーターが音声関係のツマミを回す。

 一瞬、ノイズ。そして。

 

『And worldwide, all wants our…….*3

 

 聞こえた。若い男の声。

 直後、グシャ、と。盗聴器が壊されたらしき音。その後、通信が断絶する。

 

「……」

 

「……」

 

 両者沈黙。

 通信の断絶と同時に、モニターに映っていた黒円も姿を消した。

 

 それが誰の──何からのメッセージだったかなど、考えるまでもない。

 

「……シリウス少佐の元へ向かう。引き続き第一高校の監視を。何か異常があれば、すぐに知らせろ」

 

「はい」

 

 ならば一層、しなければならないことがある。

 灼熱のハロウィン。それを引き起こした術者、あるいは術式の確保。

 目先の敵対宣言に囚われて、最優先事項を逃すわけにはいかない。ただ同時に、最大限の警戒を割く。

 

 それがバランス大佐の選択だった。

 

 

 

*

 

 

 

 翌日。

 なんだか騒がしい校舎に興味もなく、いつも通りぐーすかぴーすか眠っていた時のことだ。

「貴方のものになりたい」

 ガツン、と。

 頭を殴られたかのような──感情の奔流。それは決して僕に向けられたものではないにもかかわらず、僕の感情にまで影響するほどの「祈り」。

 複製されたそれがそこまでの純粋さを持つなど、考えられないほどに──ん?

 

 なんだ、複製された、って。

 

「う……」

 

 ぐ。

 ぐ、う、う、う。

 顔を顰めざるを得ないレベルの頭痛。違う。痛いのではない。

 何か。何かを思い出そうとしている。

「貴方に従属したい」

 まただ。感情の嵐。純粋すぎて鋭利。

 それが、幻聴として聞こえてくる。響いてくる。

 

 思い出せない。

 違う。知っている。憶えている。

 

 だから、忘れていない。

 

「青……青……あぁッ!」

 

 ただ──意識していなかっただけ。

 

 僕は覚えている。二度転生したことも、前に兵士だったことも、その前に高校生だったことも。

 だから、こっちへ来るときに何をしたのか、何があったのか、すべて、全て。

 僕は許容容量が大きいから、覚えている!

 

「……ああ」

 

 ふらり、と。

 席を立った。

 

 達也君たちのいない教室では、誰も僕に興味を示さない。

 そのままの足で保健室へ向かい、安宿先生に体調不良を訴える。廿楽先生と同じくある程度は母音ーッン語を理解してくれる彼女は僕の体調不良に頷き、早退届を書いてくれた。まぁ僕の訴えがなくとも、明らかに顔面蒼白だったようではあるのだが。

 

 アイオーンを返却してもらい、しかし履かずに歩いて帰る。

 

 足取りは重く、遅い。

 ふらふらと高熱に浮かされたように、帰路を行き、ようやく家について、すぐに部屋のベッドへと倒れ込んだ。

 

「……いうおあん、おいあいぁあえ、えーうおえあい*4

 

 ミクロちゃんを起動して、内容を言う。

 そんなに長くはない。

 

 ただ。

 ありがとうございました、と。その旨を。

 

「……あお、えっえーいお*5

 

 家族と──もうすぐ来るだろう、あの子への。

 

 

 

*

 

 

 

 追上が学校を休んでいる、という事実は多少気になる事ではあったが、それよりも知への欲求が勝る。

 達也は第一高校の実験棟で、先日パラサイトが宿ったヒューマノイド……呼称ピクシーに訊問を行っていた。パラサイトの生態、実態、原理などを。

 

 その過程で、驚くべき……あるいは、すでに分かっていた事実を聞くことになる。

 

「仲間はこの国に何体いる?」

 

『このボディに宿る直前の時点で八体。自分を含めて九体でした』

 

「パラサイト同士で交信は可能か?」

 

『Yes』

 

「交信が可能な範囲は?」

 

『国境の内側であれば可能です』

 

「他のパラサイトの居場所は?」

 

『このボディに宿ってから、仲間との接続が切れています。現在位置不明……一体を除いては』

 

「一体はわかっているのか。それはどこだ?」

 

 ピクシーは、顔を動かす。ある方向。

 それはかつてブランシュの屯していた廃工場があった方向──並びに、彼の家がある方向だ。

 

『返信はありませんが、こちらからの交信は可能です』

 

「その必要はない。()は……パラサイトなんだな」

 

 それは疑問ではなく、確認。

 

『正確には、上位存在です。サイキックも思考能力も、我々では及びません』

 

 だから、達也がいつしか行った推察はあっていたのだ。

 ソーサリーブースターのような化成体を持つ、というのは。その時は別方面からのアプローチではあったが、結果は同じ。

 

「お前たちと奴の目的は同一か?」

 

『判別は難しいですが、同一ではないと思われます。上位個体と同調した形跡がないため彼の個体と意識の共有はされていませんが、幾度か上位個体は我々、あるいは彼らの前に立ちふさがっています』

 

「……なるほど」

 

 そうだ。

 吸血鬼を相手にした時も、目の前にいるピクシーの中の魔物を相手にした時も、決して同調する素振りは見せず、むしろ敵対していた。

 一体化しすぎて宿主の意思に完全に同化している、ということだろうか。あるいは、全く別の目的があるのかもしれない。

 

 少なくとも対パラサイトにおいては味方とみていいのだろう。

 そう達也は思案を完結させ、次の質問へと移る。

 

 静かに、すべてが動き始めていた。

 

 

 

*

 

 

 

 一つになれ、と。

 戻ってこい、と幻聴が言う。

 

 そのすべてを振り払って、歩き出す。

 

 大きく伸びを一つ。

 

 向かう先は──青山霊園。

 

 

 

*

*1
幻聴まで桃色になった……

*2
どうせ気付いているだろうから

*3
そして世界中で、あらゆるものが私達を望んでいる

*4
ミクロちゃん、オイシャサマへ、メールお願い

*5
あと、メッセージも




Take you back from the end of the sky.

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