チート染みた力を持っているけど母音ーッンしか発せられない   作:飯妃旅立

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第四話のタイトルは「輝く貌のレオンハルト」でした。
これねー、母音だからやろうと思えばなんにでも対応してしまうので、問題としては不適切でしたね。
さて、展開が遅いと指摘されたと言うのにまだ! まだ! テロリスト来ません!
それでは、どうぞ。


あいおあ ああいおあえおいうえあ

*

 

 

 

『全校生徒の皆さん!』

 

「うおっ!?」

 

 授業が終わった、放課後。

 突然の大音量がスピーカーから放たれた。

 ハウってるハウってる。

 

『――失礼しました、全校生徒の皆さん』

 

 どうやら音声調整ミスのようだ。あるある。

 

『僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

 じゃあなんで全校生徒に言ったんだろう。

 生徒会と部活連に言えばいいのに。

 とは思ったものの、クラスメイトのみんなは何やら不安がって一度席を立った人も戻ってきている。この後その交渉とやらが成功するにせよ失敗するにせよ、その旨を伝えるためには生徒が多くいた方がいいってことかな? わからんが。

 

 とはいえ僕には特に関係の無い話だ。

 残念ながら僕への差別はどうやったって撤廃されないからね。人と違う、ってだけで差別ってしちゃうもんだよ。区別じゃない分マシかな。区別だと、対等な立場なのに出来ないっていうもうどうしようもないレッテルが貼られちゃうからね。

 

 そんな感じで席を立つと、一瞬で視線が集まった。

 

「あ?」

 

 いつも通りの単音。

 サッと目を逸らすみんな。この便利ワード、是非とも流行語大賞にしてほしいよね。

 じゃあそういうことで、とでもいうかのように手を振って教室を出ようとしたその時、肩をガシッと掴まれた。痛い痛い握力強い強い。

 

「――何処へ行く気だ、追上」

 

「家」

 

 簡潔に答えて、振り払う。

 僕もそれなりにガタイがいいから、振りきれない事はないのだ。それにしたって強いが。

 

 達也君が追いかけてくることは無かった。

 

 

 

*

 

 

 

 翌日、僕は普通に登校した。

 当たり前のように僕の席付近には誰も近づかず、誰も話しかけてこないストレスフリーの状態でみんなの会話を聞く。

 クラスメイトの話(盗み聞き)によれば、明日は講堂で公開討論会なるものを開くらしい。昨日の有志同盟とやらと生徒会・部活連の交渉の結果(?)だとか。へぇ、やるじゃないかと思いつつ、もしやそれは強制参加なのかとうんざりもしていた。

 僕にはクッキーを大量生産し続けるという崇高な使命があるというのに、だから昨日もこの一週間もいち早く家に帰っているというのに、僕からその時間を奪うのかい!?

 母音ーッン語すら使わなくていいクリックゲーは僕の心の癒しなんだよ……ッ!

 

「君、少しいいかな」

 

「あン?」

 

 そんな身勝手な敵意を有志同盟とやらに向けていたら、後ろから声を掛けられた。

 振り向いてみれば、優男。あ、いや、チャラ男と優男を足して二で割った挙句四乗したような、そんな男。青と赤で縁取られた白いリストバンドの様な物を付けている。なにそれ、フランス国旗?

 

「そう凄まないでくれ。僕は君に良い話を持ってきたんだよ」

 

「……」

 

 うわっ、怪C!!

 というか胡散臭っ。良い話を持ちかけられて良い話だった試しがある人ってどれくらいいるんだろう。

 胡散(うさん)(しゅう)がプンプンするぜッ!

 

「おえっ」

 

 こういう奴が持ちかけてくる話題って、基本薬物やらないか? とかだよね(偏見)。

 見た目ヤンキーだからそう言うのに誘いやすそうってのはわかるが、薬物、ダメ、ゼッタイ。ぺっぺっ!

 

 僕が吐き気を催す、とでも言いたげな顔で鼻をつまみながらそう言うと、怪しい人はピクピクと青筋をヒクつかせる。本当に優しい人だったら謝るが(謝れないが)、どう見ても怪しいでしょこの人。

 

「……僕は親切で君にこの話を持ちかけている。その恰好を見るに、君も受けて来たのだろう? 数々の差別を」

 

 あ、この人有志同盟の人だ。

 今の学校で差別って言葉使うの同盟の人達だけだろうし。

 ってことはアレかな。僕も同盟に引きずり込もうとしているのかな?

 

「いえ」

 

「……何?」

 

 なら、お断りだ。この学校に来てから差別なんか一度も受けていない。元々僕は自分の事情を隠しているのに、みんな普通に接してくれているじゃないか。遠巻きとはいえ。

 撤廃する差別なんか、見当たらないね。

 伝わらないだろうが、しっかりとこの気持ちを母音ーッン語で伝えよう。

 

「あえうあんあうええあい」

 

 差別なんか受けてない。

 あーあ、これで僕が母音ーッン語しか喋れないのバレちゃったかな。

 折角隠していたのに。

 

「ッ! 失礼するよ」

 

「うい」

 

 そのまま、怪しい人は去って行った。

 これ。これが嫌いだから隠していたんだよ。

 「あ、こいつ話通じないな(察し)」っていうこれが嫌いなんだ。

 

 あ~、やだやだ。

 今日はもう教室から出ないようにしようっと。

 僕は天を仰ぎ見ながらため息を吐いて教室に戻った。

 うぉっ、眩しっ。

 

 

 

*

 

 

 

 美月が剣道部主将の司甲に絡まれていた所を助けた直後のことだった。

 達也は、第一小体育館の裏という絶好の勧誘スポットでその二人を目撃したのだ。

 

 その二人とは、先程見た司甲と――件のヤンキー、追上青。

 達也はその身体能力を駆使して体育館上に上がり、気配を殺して二人の様子を窺う。

 耳を澄ませば、やはり会話の内容は勧誘。

 差別がどうこうと言って相手を引き込もうとする同盟の常套手段。

 

 だが、意外な事にも追上は「差別を受けて来たのではないか」という甲の問いに対して、「いえ」と簡素に答えた。

 差別を受けたからこんな恰好をしているわけではないと、そう言ったのだ。

 確かに入学当初からあの恰好だったから、魔法科高校で差別を受けたわけではないのだろう。よくよく思い返せば意外な事でもない。

 

 だが、次に続いた言葉は意外――いや、埒外の言葉と言えただろう。

 

「――Are you want a way tonight ?」

 

 アンタは今夜のやり方を本当に望んでいるのか?

 特徴的な訛りのある英語で、司甲にそう問い質したのだ。

 達也もまた、この男が餌を撒く側……つまり何かを「やらかす側」だと推測していた所。

 追上はそのさらに先、今夜何かをやらかす事を察知したと言うのか。

 

 明日は公開討論会の日。明日何か仕掛けてくるならば、今日が決断の日と言えるだろう。

 

「ッ!」

 

 目が、あった。

 まるで「やれやれ」とでも言いたげな表情の追上と、達也は確かに目が合った。

 未熟。忍術使いに教えを受ける身として、気取られる事のなんと未熟な事か。

 

 丁度いい。達也はそう思う。

 司甲の件で九重八雲の所へ行くつもりだったのだ。アポイントメントは取るつもりだが、自身の細心がどれほどであるかの試しのため、気配を消して忍び込んでみよう。

 その「企み」がどうにも八雲と似ていることに、終ぞ達也は気付かなかった。

 

 

 

*

 

 

 

「エガリテにブランシュねぇ……もちろんその程度の事は調べられるけど」

 

 「企み」を「企み返された」達也は、本来の目的である司甲についてを師匠・九重八雲に相談していた。相変わらず飄々としたこの男は、その程度「朝飯前」であるとあっけらかんと言い放ったのだ。

 達也の軍属に関する話でからかいを入れてきた八雲を躱し、やはりとうに調べてあったらしい司甲に関する情報を話し始める。達也の依頼を予知したかのようなその言動に深雪が目を丸くした。

 プライバシーもへったくれもないその情報量に、やはりと舌を巻く達也。

 からかいを交えて二人をおちょくる八雲に少し剣呑な雰囲気(・・・)を醸し出し始めた達也。その雰囲気を真に受けて、深雪が慌ててブランシュと司甲の関係を八雲に聞く。

 

 腹の探り合いの無いその可愛らしさに場が和んだところで、八雲はまた語り始めた。

 司甲の兄がブランシュ日本支部のリーダーである事を、あっさりと。

 だが、肝心の部分はわからないと。

 十分だと言う達也に対して、八雲は細い目をさらに細めながら言う。

 

「それより気になっているのは、追上青君、だろう?」

 

「……彼の事も、掴んでいると?」

 

 確かに依頼したかったが、昼間の一件から見て追上がブランシュと関わりがある、というようには思えなかった。何らかの情報を掴んでいる事は確かで、達也や深雪を嗅ぎまわっている事も確かなのだろうが、ああいう問いかけをするという事はブランシュそのものの関係者ではないだろう。

 だが、それは関係が無いと八雲は言う。

 縁があれば、それが良縁であろうと悪縁であろうと調べるのが忍びだと。

 

追上(おいうえ)(あお)。両親、祖父母、妹の誰にも魔法的な因子の発現は見られず。

先程の司甲君と同じ、いわゆる『普通』の家庭。司甲君と違うのは、どれほど遡ってもどこかで血が混じったという兆候が見られない事。司甲君が先祖返りなら、追上青君は突然変異か取り替え子(チェンジリング)だね。

 幼少の頃は病院通いで、脳に何らかの異常があった事もあるようだ。今は問題ないようだけど、その異常が魔法的な因子に繋がっていると僕は見ているよ。

 ただ、今回の件には彼、関係ないと思うよ? これほど洗っても関係性が出てこない辺り、少なくとも(・・・・・)エガリテやブランシュのような末端組織には、ね」

 

 その言い方はまるで、それらの上位組織とならわからないよ? という言外に言っているようなものだと達也は思う。隣で聞いていた深雪でさえそう思った。

 だが、それを今ここで明言しないのは達也の依頼から外れているから、だろう。

 依頼は果たすが、依頼外の事はしない。なるほど、忍びである。

 

「そうそう、もう一つ。彼が君達に使った視線外しについてだけど……」

 

 それを受けた事実まで知っている事に、流石に内心で驚く達也。深雪の方は顔に出して驚いている。

 

「僕達忍びの使う幻術とは程遠い……ような気がするんだ。全容が掴めたわけじゃないけれどね」

 

「あの技術は、古式魔法ではないと?」

 

「うん。どちらかといえば超能力……君達に倣っていうならBS魔法という奴じゃないかな。先日追上君が叩きだしたという処理速度から見ても、その線は濃厚だと思うよ」

 

 確かに、あの処理速度は古式や現代魔法では考えられぬものだった。

 いや、CADの性能さえよければ匹敵するであろう存在が達也の隣でピトっと寄り添っているが、十師族でもない追上があの速度を叩き出すにはBS魔法師であると言う理由が一番しっくりくる。八雲が調べた幼少期の何らかの異常。これも関係しているのだろう。

 

 であるならば、あのローラースケートのCADを使った時こそ、その処理速度の真骨頂が見えると言う事になる。コンマ一秒を割る世界は達也も散々経験してきているが、それに追随しうる同年代というのは中々いない。

 明確な敵か、第三者か。少なくとも味方である可能性は薄いだろう。

 

「……そういえば師匠。『合縁、良い縁? 応援』という言葉を聞いて……何か思い浮かべる事はありますか?」

 

「うん? 合縁、良い縁、応援。……うーん、パッと考え付くのは西EUかな?」

 

「……西EU、ですか」

 

「欧州連合……日本じゃEUだけど、現地(フランス)じゃUnion Européenne.だ。A、I、Oと揃っているんだから、UとEもないと寂しいだろう?」

 

 要は言葉遊びだよ、と八雲は笑う。

 だが、どこかそれを単なる言葉遊びとして捉えられない達也。

 思えばブランシュもエガリテもフランス語だ。例えば追上がフランスからの間者で、ブランシュやエガリテ等と言った存在を快く思っていないのだとすれば。

 深雪や達也に自身の存在を知らせ、且つブランシュやエガリテと敵対する事によって、その隔たりを証明できると考えるのではないだろうか。

 

「パッとしない答えですまないね」

 

「いえ、参考になりました」

 

 思考は加速する。

 それが真実であるか、勘違いであるかは闇に包まれたまま――。

 

 

 

*

 








「あえうあんあうええあい」

 差別なんか受けてない。

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