いろいろな意味で日常に戻った誠一郎たちだが、それでも、やることは多かった。
「俺個人のやることが増えたな……」
「お兄ちゃん。今回で散々暴れたもんね」
「しかも、デュエルするとなれば基本的に手は抜きませんからね……」
ここ数日でかなり目立った誠一郎。
実力があるのは確かだし、大会荒らしまでやったのだ。
しかも、明らかに手を抜いていたことが分かるステージでのデュエルを除けばすべてパーフェクトである。
いろいろなところから呼ばれるのも確かだし、スポンサー契約を済ませておきたいという会社も多い。
言ってしまえば内定が確定しているといえる。
「しかも、その影響が私たちにもあるのよね……」
彩里がそうつぶやいた。
誠一郎の妹である刹那、従者であるフォルテ、交際中の彩里も例外ではない。
誠一郎の実力の一端を持つと言われているのだ。
とはいえ、やろうと思えば、誠一郎が持つ精霊力を詰め込んだデッキを作ることも可能であり、それを使うだけでもそんじゃそこらの奴には負けない。とは言え、癖の強い感じになるのは避けられないが。
「それにしても、天音ちゃんも強くなったね」
彩里はタブレットに映る天音の記事を見ている。
誠一郎に敗れた天音だが、そこからの戦績は良かった。
ステージの回数も多くなったそうだが、誠一郎と回ったような自由時間も多くなったらしい。
振り回されるスタッフには合掌である。
「そうだな」
誠一郎はその記事を見て、人はカードで変われるものだと思った。
「さて、そろそろ行く時間だな」
誠一郎は立ち上がると、全員が立ち上がって、学校に向かって歩きだした。
★
放課後。
誠一郎にもいろいろと人脈はある。
今日は、その中の一つに寄っていた。
学校から少々離れたところにある研究所。
出入り口には二人の警備員が立っているが、誠一郎を見ると、即座に道を開ける。
研究所の所長の知り合いであり、さらに言えば、資金的に言ってもスポンサーである誠一郎を止める理由はないし、仮に暴れたとしても誠一郎を止めることなどできないので、即座に開けるのだ。
受付に行って、女性に確認する。
「
「第三研究室にいます」
「わかった」
「こちらがパスになります」
それだけで会話終了。
誠一郎はカードを受け取って、研究所の中を歩く。
途中で白衣を着た研究員が歩いているが、誠一郎を見ると軽く礼をしている。
誠一郎の影響力と言うのは、大きいところでは本当に大きいのである。
第三研究室と書かれたドアの前に立つと、パスを当てて開錠した。
自動で開いていく扉の向こうには、様々な計測器がおかれている。
そして、三台並んでいるディスプレイの前で、ボサボサの黒髪と白衣が特徴の少年が唸っていた。
「晶。来たぞ」
「……………………………ん?」
かなり長い沈黙があったが、少年はこちらを向いた。
目の下に隈がある顔で、最近あまり寝ていないのがよく分かる。
かなり痩せているが、いつも通りだ。
「ああ。誠一郎か。と言うことは前から二週間たっているんだな」
「相変わらずお前の時間の認識方法はいかれてるな……」
「ほとんどの工程に『待つ』と言うことを要求される実験が多いものでね」
今いる研究所の研究員の一人で、デュエリストとしては、誠一郎の弟子の一人。
現在は、ノースセントラルに通っている。
いや、在籍しているだけでほとんど通っていないか。
「で、分かったことはあるか?」
「リアリティ・テーゼが狙っているカードのことだったな。資料はそこにまとめてる」
そういって晶が指差した先には、大量のお菓子の袋があった。
「……」
誠一郎はその山を崩していくと、ファイルが出てきた。
しかもファイルも大量にあった。
「……」
誠一郎は少しイライラしていた。
そのファイルも、何も目印がない。
全て無地なのだ。どうやって見分けろというのだろうか。
中身を確認しながら開いていき、三つ目が該当書類だった。
「お前、これ、いつ作ったんだ?」
「……さあ?」
時間の感覚が違う奴に対して『いつ』という質問をした誠一郎もある意味で間違っている気がしたが、この男も大概である。
「……『神のカード』か」
「具体的には、『抜け殻の神の再生』と言ったところだろうね」
五枚存在するらしい『神のカード』は、そのすべてが、三つの強力な効果を持っている。
「三種類の強力な効果を分割して封印しているのが、このデュエルスクールエリアの役割のようだ。リアリティ・テーゼはそれを狙っていて、それぞれに存在するデュエルモンスターズの名家がそれを防ごうと動いている。というのが、『裏』での動きらしい」
「晶はどう思っているんだ?」
「どんなカードだったとしても君は倒してしまうんだ。調べても無駄」
それを言うと物語が終わってしまう。
「……」
「ただ、リアリティ・テーゼは君を回避して動く可能性もあるだろうし、止める意味はあるだろうね」
「まあ。言いたいことはよくわかった」
誠一郎は近くの椅子に座った。
「そう言えば、晶はどれくらいデュエルしてるんだ?」
「腕が錆びない程度に」
「要するに上達はしていないのか……」
「それよりも研究だからね」
晶の言い分に、誠一郎は溜息を吐いた。
「まあいいや。だが、デュエルを一回だけやろうぜ」
「ん?ああ、そうだね」
晶は近くのアタッシュケースからデュエルディスクを取り出した。
近くにおいている。と言うことは、最近触っている。ということだ。
晶はそういう人間である。
誠一郎は少しうれしくなった。
晶は、研究所『DEラボ』の中では主任研究員として多くのプロジェクトに参加しているが、デュエルの回数は少ない。
研究員の中でも、デュエルを見たいと言う人間は多かったようだ。
「あまりギャラリーが多いのは好きじゃないんだけど……まあいっか」
だるそうにデュエルディスクを構える晶。
相変わらずだが、それでも、デュエルの腕は下がっていないだろう。こいつはコイツでプライドが高いのだ。
誠一郎もデュエルディスクを構える。
「さて、師匠。一戦やろうか」
「ああ」
お互いにカードを五枚引いた。
「「デュエル!」」
誠一郎 LP4000
晶 LP4000
「先攻と後攻。どちらがいい?」
「師匠に先攻を渡したくないなぁ。僕のターンからだ」
晶は一枚のカードを手に取った。
「まずはフィールド魔法『バクテリアラボ』を発動」
デュエルコートが、一転して研究所のような雰囲気になる。
「ほう……」
「発動時の処理として、デッキから『バクテリアコロニー』一体を特殊召喚できる」
バクテリアラボ
フィールド魔法
①:このカードの発動時の処理として、デッキから「バクテリアコロニー」一体を特殊召喚する。
②:自分スタンバイフェイズ時に発動する。デッキから「細菌兵装」カード、または「覚醒水」カード一枚を手札に加える。
③:一ターンに一度、自分の墓地、または装備カード扱いになっている「バクテリアコロニー」一体を、自分フィールドに特殊召喚することが出来る。この効果は、このカードの①の効果を使ったターンに発動出来ない。
バクテリアコロニー DFE0 ☆1
出現したのは、水色に集まる細菌たち。
見た感じ強そうではないし、実際に強くはないが、ここからの汎用性が真骨頂。
晶のデッキのキーカードである。
レベル1で、攻守0の通常モンスターだが、サポートカードが豊富だ。
バクテリアコロニー
レベル1 ATK0 DFE0 水属性 水族
小さな細菌たちの集合体。
集まっても小さな力しかないが、水に溶け込んだり、機械に侵入することで、その力を発揮する。
「カードを一枚セットして、ターンエンド」
「俺のターン。ドロー」
さてと……。
「俺は手札一枚を捨てて、『星王兵リンク』を特殊召喚」
星王兵リンク ATK1700 ☆4
「そして、墓地の『星王兵テーゼ』の効果発動。自分フィールドに星王兵モンスターが存在する時、墓地から特殊召喚できる。まあ、この効果で復活したテーゼは、フィールドを離れる時除外されるけどな」
星王兵テーゼ ATK1600 ☆4
「リンクとテーゼを守備表示にすることで、リンクの効果を発動。デッキから、レベル8以下のオーディナルモンスター一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは、『クリムゾン・ワイズマン』だ」
晶の表情が変わった。
さすがに、誠一郎のエースを警戒しないわけではない。
「そして、闇属性のリンクとテーゼをシンボルリリース。黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ。オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」
クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7
誠一郎 SP0→2
「さて、晶。どこまで食らいつけるか試してやる。魔法カード『序数賢者のナイフスキル』を発動。ライフを1000ポイント払う必要があるが、それを踏み倒して、相手モンスター一体を破壊する」
序数賢者のナイフスキル
通常魔法
①:1000ポイントのライフをはらい、相手モンスター一体を対象にして発動できる。そのモンスターを破壊する。
「通さないさ。罠モンスター『細菌兵装シャワーユニット』を発動。バクテリアコロニーを装備しつつ。このモンスターを守備表示で特殊召喚する」
細菌兵装シャワーユニット DFE2000 ☆4
シャワーが付いた箱が出現し、バクテリアコロニーが入って行く。
すると、起動し始めた。
「これで、ナイフスキルの効果は不発になる。そして、シャワーユニットがバクテリアコロニーを装備している時、相手フィールドのレベル5以上のモンスターは攻撃できない」
細菌兵装シャワーユニット
永続罠
①:自分フィールドの「バクテリアコロニー」を一体を対象として発動できる。このカードは発動後、効果モンスター(機械族・地属性・星4・攻0/守2000)となり、モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚する。その後、対象の表側表示モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードは罠カードとしても扱う。
②:このモンスターが「バクテリアコロニー」を装備している時、相手フィールドのレベル5以上のモンスターは攻撃できない。
「2000のライフコストを踏み倒して、魔法カード『序数賢者の慧眼』を発動。デッキからカードを二枚ドローして、その二枚が、モンスター、魔法、罠の三種類で見て同じ種類のカードだった場合、ターン終了時まで、自分フィールドのオーディナルモンスターは相手のカード効果を受けない」
序数賢者の慧眼
通常魔法
このカード名の効果は一ターンに一度しか使用できない。
①:2000ポイントのライフをはらって発動できる。デッキからカードを二枚ドローし、カードの種類(モンスター、魔法、罠)が同じだった場合、ターン終了時まで自分フィールドのオーディナルモンスターは相手のカードを効果を受けない。
「二枚ドロー。俺がドローしたのは『序数のバリア -オーディナルフォース-』と『序数賢者の領域』。どちらも罠カードだ。これで、俺のワイズマンは、シャワーユニットの効果を受けない」
「な……」
「クリムゾン・ワイズマンで、シャワーユニットを攻撃。『クリムゾン・ビジョン』!」
ワイズマンの攻撃で、シャワーユニットが破壊される。
「俺はカードを二枚セット、ターンエンドだ」
「僕のターン。ドロー!スタンバイフェイズ。『バクテリアラボ』の効果が発動。デッキから『覚醒水ブレイジウム』を手札に加える」
「ほう……」
「そしてメインフェイズ、バクテリアラボの効果で、墓地のバクテリアコロニーを特殊召喚」
バクテリアコロニー DFE0 ☆1
「そして魔法カード『覚醒水ブレイジウム』を発動。自分フィールドのバクテリアコロニーは、炎属性になる。そしてこのターン。炎属性のバクテリアコロニーオーディナルモンスターを、デッキからオーディナル召喚できる」
「バクテリアコロニーの真骨頂だな」
覚醒水ブレイジウム
通常魔法
「覚醒水」と名の付いたカードは一ターンに一度しか発動出来ない。
①:自分フィールドの、全ての「バクテリアコロニー」の属性は炎属性になり、この効果を使ったターン終了時まで、デッキのオーディナルモンスターをオーディナル召喚できる。
「僕は炎属性のバクテリアコロニーをシンボルリリース。オーディナル召喚!レベル5『バクテリアコロニー・ブレイズ』!」
バクテリアコロニー・ブレイズ ATK0 ☆5
晶 SP0→1
「ブレイズの効果発動。相手モンスター一体を対象にして、そのモンスターを攻撃力と同じにする」
バクテリアコロニー・ブレイズ ATK0→2500
バクテリアコロニー・ブレイズ
レベル5 ATK0 DFE0 炎属性 水族
オーディナル・効果
炎属性×1
このカードは「覚醒水」魔法カードが発動されていないターン中、オーディナル召喚はできない。
①:このモンスターは戦闘では破壊されない。
②:一ターンに一度、相手モンスター一体を対象にして発動できる。このカードの攻撃力は、そのモンスターの攻撃力と同じになる。
『SP1』
「なるほどな。バクテリアコロニーオーディナルモンスターは、戦闘で破壊されない共通効果を持っている。だが、分かっているよな」
「さすがの僕も、伏せカードを警戒しないわけではない。魔法カード『ハーピィの羽根箒』を発動。魔法、罠を全て破壊する」
「やるなぁ……」
全て破壊された。
「バトル。バクテリアコロニー・ブレイズで、クリムゾン・ワイズマンを攻撃」
「……だが、その程度では俺のワイズマンは越えられない。墓地の『序数賢者の領域』の効果を発動。墓地のこのカードを除外することで、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘、効果では破壊されない」
序数賢者の領域
永続罠
①:このカードが表側表示で存在する限り、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘では破壊されない。
②;墓地のこのカードを除外して発動できる。ターン終了時まで、自分フィールドの魔法使い族オーディナルモンスターは、戦闘、効果では破壊されない。
ブレイズは燃え上がった何かを放出するだけで終わった。
お互いに戦闘で破壊されないのだから当然である。
「僕はカードを一枚セットして、ターンエンド」
「俺のターン。ドロー……一応言っておくが、このターンで終わるぞ」
「!」
晶が気を引き締める。
だが……。
「俺を相手に気を抜かない方がいいのは、今に始まったことじゃないんだがな。SPを1つ使って『ゼロ・クライシス』を発動。ブレイズの攻撃力を0にする」
「しまった……」
バクテリアコロニー・ブレイズ ATK2500→0
「そして、『一騎加勢』『サイクロン』を使い、攻撃力を上げて、セットカードを破壊する」
クリムゾン・ワイズマン ATK2500→4000
「あっけなかったな。クリムゾン・ワイズマンで、バクテリアコロニー・ブレイズを攻撃、『クリムゾン・ビジョン』!」
晶 LP4000→0
一ターン長くなっただけ、ほぼワンショットキルだ。
「なんか。あっさり負けちゃったな」
晶はうなだれているが、誠一郎のデュエルはシンプルなものだ。
ただし、マストカウンターは決まっているが、仮に止めたとしても反撃してくるのが誠一郎と言う男である。
「まだまだ精進することだな」
「……わかったよ。師匠」
晶は溜息を吐いて、誠一郎は微笑んでいた。