気になることは後回しにすればいい。
誠一郎の基本的な考え方はそれである。
誰が相手になったとしても、それを正面から戦ってつぶせばいいのだ。
と言うことで、放置している。
「雄一郎さん。お久しぶりです」
「ん?
誠一郎が廊下を歩いてどこに行こうかとふらふらしていたとき、水谷聡子が歩いて来た。
学校の中なのだが、何故か着物姿である。
まあ、いつも通りと言えばいつも通りなのだが。
「今日は彩里さんは一緒ではないのですね」
「転校初日からクラスのほとんどを支配したいとか言いだして、そのまま放置してきたからな」
彩里の存在感と言うのは圧倒的であり、それでいてコミュ障と言うこともないので、必然的に人は集まりやすい。
それに、人心掌握もそこそこできる上に、デュエルも基礎に関しては誠一郎仕込みなのでかなり強いからな。
「で、どうしたんだ?」
「ええ、一戦ほど、デュエルをしたいと思いまして」
聡子はデュエルディスクを取り出した。
誠一郎は溜息を吐きながら言う。
「今はそういう気分じゃないんだがな……」
「フフフ、気になっていることがあるのでは?」
「例えば?」
「才馬宗達。と言えばわかりますか?」
そう言えば、水谷家はこう言った情報網に関しては四名家の中では一番上だったな。
「そうだなぁ……ただ、結果は分かり切っていると思うんだけどな。まあそれはそれとして、刹那。隠れてないで出て来い」
誠一郎が言うと、曲がり角から刹那が顔をひょこっと出した。
だが、その顔には若干の恐れがある。
誠一郎に対してではない。聡子に対してだ。
「あら、刹那ちゃん。お久しぶり」
包容感あふれる母親のような笑顔で刹那に手を振る聡子。
刹那は一刻も早く逃げ出したい。という思考を隠そうともしない表情だった。
そして、一目散に後ろに向かって走りだす。
「!?」
走りだした先には……両手を広げた聡子が!
意味が分からない。一体何があったのだろう。
とはいえ、かなりの脚力を使って走りだした刹那は急には止まれない。
必然的に、聡子の胸に顔面から飛び込むことになる。
聡子は遠慮なく刹那を抱きしめた。
「んんーーーー!」
「あらあら。良い子ですね~。私の胸に飛び込んでくるなんて」
別に飛び込みたかったわけではないが、まあ、追及するのは野暮と言うものだろう。
巨乳の少女二人が百合百合しているのは悪くはない光景だからな。
誠一郎は壁の花をすることにして、ほとぼりが冷めるのを待っていた。
★
「zzz……」
近くのベンチまで連行され、結果的に聡子の膝枕ですやすやと眠っている刹那。
無論、マフラーもポニーテールもそのままであり、寝ずらいのではないかと思わなくもないが、本人は寝ているのでいいとしよう。
「ふふふ。かわいいですね~」
母親のような笑みを浮かべて刹那の頭をなでる聡子。
実のところ、包容感あふれる雰囲気と体つきをしている聡子は、母性も強い。
外見的にもそれは出ており、特に誠一郎たちのような母親のいない子供にとっては本能的に甘えたくなる時があるのだ。
え、俺?俺は逆に年寄りクサいって言われるくらいだからな。別に飛び込んだりはしないよ。
「前よりも寝るまでが早くなっていますね」
「まあ、彩里と言うと疲れるからな」
いろいろな意味で相性が悪いのだ。いろいろな意味で。
「……何やってんの?あんたら」
聖が呆れた表情でやって来た。
「聖か。そうだな……なんていえばいいんだろう」
「私は刹那ちゃんの膝枕ですよ」
そういいながら撫でている聡子。
「ん……」
刹那は本当に気持ちよさそうに寝ている。
「……だんだん意味が分からなくなってきた」
「まあ、それが普通だ」
「あんたがいうんだ……」
俺を何だと思ってるんだ?
「そう言えば、イーストセントラルの序列三位の水谷聡子よね」
「ええ。そうですよ」
「……強いの?」
「それはもう。強いですよ」
「やってみれば分かるぞ」
聖は溜息を吐きながらデュエルディスクを取り出す。
「それなら、一戦だけ」
「いいでしょう」
丁度、刹那が起きたようだ。
そして、状況を把握したようだ。
「フフフ。刹那ちゃん。私の膝枕は気持ちよかったですか?」
「……うん」
顔を真っ赤にしながら答える刹那。
まあ、この年になって……みたいな感じだろう。
ベンチから聡子は微笑みながら立ち上がり、聖の反対側に立つ。
お互いにデュエルディスクを構えて、位置についた。
「水谷家のデュエルはある程度情報を集めてるけど、デュエル出来るっていうのなら、そっちの方がいいからね」
「ふふふ。かかってきなさい」
気合を入れる聖に対して、その微笑みを崩さない聡子。
まあ、その自信もわからないわけではないがな。
「「デュエル!」」
聖 LP4000
聡子 LP4000
先攻は聖。
「私のターン。手札から魔法カード『トレード・セット』を発動。手札二枚を捨てて、その後、カードを二枚ドローする」
手札交換からのスタートか……。
トレード・セット
通常魔法
①:手札を二枚捨てて発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。
「そして、墓地の『凍結恐竜プテラ』の効果を発動。墓地から除外して、墓地の『ブリザード・エッグ』を一枚発動できる」
聖たちのフィールドにブリザード・エッグが出現した。
「墓地に送ってそのまま発動ですか……なかなかやりますね」
聡子は余裕を崩さないというより、褒めている感じはする。
ただ、なんだろうな。すごく……母親的な目線である。
「む……私はブリザード・エッグの効果で、一ターンに一度、手札の凍結恐竜モンスターを特殊召喚できる。私は『凍結恐竜アンキロ』を特殊召喚!」
凍結恐竜アンキロ ATK1000 ☆4
「そして私は、水属性の凍結恐竜アンキロをシンボルリリース!今解き放たれる凍り付いた記憶、その本能を解放させて盾となれ!」
アンキロがシンボルになる。
「オーディナル召喚!レベル5『凍結恐竜フルガード・ステゴ』!」
凍結恐竜フルガード・ステゴ ATK2000 ☆5
聖 SP0→1
「一ターン目からオーディナル召喚ですね……それで、どうします?」
「私はカードを一枚セットして、ターンエンドよ。さあ、見せてくれるかしら。序列三位の実力」
「いいですよ。私のターン。ドロー」
デッキからカードを引いても、笑みは変わらない。
優しい表情だ。
(聖……それだと、このターンで負けるぞ)
悪くはないフィールドを整えた聖と、微笑んでいる聡子をみて、誠一郎はそう思う。
「私は、自分フィールドにモンスターが存在しないことで、魔法カード『包容の鍵』を発動し、それにチェーンして、手札の『トレランスリキッド・リバイブ』をコストにして、速攻魔法『トレランス・ドロー』を発動し、さらに、チェーンして速攻魔法『サモン・チェーン』を発動しますよ」
一気に三枚のカードを発動する聡子。
「え……」
「何もなければ処理に入ります。まず、サモン・チェーンの効果に寄り私はこのターン。三回まで召喚を可能にします。そして、トレランス・ドローの効果によって、デッキからカードを二枚ドローして、包容の鍵の効果で、デッキからレベル4以下の『トレランスリキッド』モンスター一体を特殊召喚できます。私は二体目の『トレランスリキッド・リバイブ』を特殊召喚」
トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2
水っぽい小さなモンスターだ。スライムと言っても別に不思議ではない感じがする。
包容の鍵
①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合発動できる。デッキからレベル4以下の「トレランスリキッド」モンスター一体を特殊召喚する。
トレランス・ドロー
速攻魔法
①:「トレランスリキッド」モンスター一体を手札から捨てて発動できる。デッキからカードを二枚ドローする。
「トレランスリキッド……」
「水谷家が代々受け継いできたモンスターたちです」
聡子は四枚ある手札のうち、一枚を手に取った。
「私は水属性のトレランスリキッド・リバイブをシンボルリリース。
激流が吹き荒れる。
「オーディナル召喚。レベル6『トレランスリキッド・ドラゴン』」
トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6
聡子 SP0→1
「!」
一気にフルガード・ステゴの攻撃力を上回るカードを出してきたからだろう。聖が警戒している。
「遅いですよ。墓地の『トレランスリキッド・リバイブ』二体の効果を発動。自分がオーディナル召喚に成功した場合、墓地のこのモンスターを特殊召喚することが出来ます。この効果で特殊召喚されたこの子たちは、フィールドを離れる時に除外されます」
トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2
トレランスリキッド・リバイブ ATK300 ☆2
トレランスリキッド・リバイブ
レベル2 ATK300 DFE0 水属性 水族
①:自分がオーディナル召喚に成功した場合に発動できる。墓地のこのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「待って……あと二回召喚を……」
「その通り、私はこの子たちを、それぞれシンボルリリース。あと二体のトレランスリキッド・ドラゴンをオーディナル召喚しましょう」
トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6
トレランスリキッド・ドラゴン ATK2400 ☆6
聡子 SP1→2→3
「一ターンに……オーディナル召喚を三回……」
「まずは『サイクロン』でセットカードを破壊します。トレランスリキッド・ドラゴンの効果を発動。一ターンに一度、SPを一つ消費して、相手モンスター一体の効果をターン終了時まで封じるか、相手の墓地のカードを除外するか、相手の魔法、罠を破壊するか、そのどれかを選ぶことが出来ます」
「く……」
「当然、三体いますから、三回使えますよ。フルガード・ステゴの効果を無効にして、墓地のアンキロを除外、そして、ブリザード・エッグを破壊します」
トレランスリキッド・ドラゴン
レベル6 ATK2400 DFE1800 水属性 水族
オーディナル・効果
水属性×1
①:一ターンに一度、シンボルポイントを一つ消費して、以下の効果から一つを選択して発動できる。
●相手モンスター一体の対象にして、硬貨をターン終了時まで無効にする。
●相手の墓地のカードを一枚対象にして除外する。
●相手フィールドのの魔法、罠を一枚選択して破壊する。
『SP1』
「うう……」
「フルガード・ステゴには、シンボルポイントを使って、攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる効果がありますが、これで関係はなくなりました」
凍結恐竜フルガード・ステゴ
レベル5 ATK2000 DFE2000 水属性 恐竜族
水属性×1
①:相手モンスターの攻撃宣言時、シンボルポイントを一つ消費して発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了する。
『SP1』
「バトルフェイズ。私のトレランスリキッド・ドラゴン三体で、一斉攻撃」
ドラゴンたちがブレスを放出する。
「き、きゃああああああああ!」
聖 LP4000→3600→1200→0
(……予想通りになったか。まあ、エリアSだからなぁ。これくらいの差があるのは当然といえば当然なんだが……まあ、聡子も強くなってるし、そういうもんかね?)
「うぅ……まさか瞬殺されるなんて……」
「カード一枚で勝利する俺よりはマシだろ」
「まあそうだけど……」
聖がうなだれている時に、聡子は聖のところにやってきて頭をポンポンと叩く。
「フフ。まだまだこれからですから、頑張ってくださいね」
ポンポンと叩いた後にそのまま撫でる聡子。
聖は全く抵抗していなかった。
誠一郎はチラッと刹那を見ると、羨ましそうな表情だった。
「あ。そうでした。誠一郎さん。データは送信しておきますね」
聡子はとりだしたスマホを操作すると、誠一郎の方にデータが送られてきた。
「……ぶっちゃけ、デュエルは余興だったのか」
「エリアDのデュエリストなら、普通はドラゴンを三体も出してはいませんよ」
「でも全く歯が立たなかったし……」
「それはいいのですよ。これから頑張ればいいのです」
聡子は微笑んだまま刹那の方を見る。
「刹那ちゃん。聡子お母さんに撫でてほしいのですか?」
「……」
刹那はプイッと顔を逸らした。
が、まあ、バレバレである。
というか、聡子も自分のことをお姉さんとは言わない。お母さんと言うのだ。この天性とも言える母性である。
★
で、結局。
「zzz……」
「zzz……」
刹那も聖も、二人とも聡子の膝枕で寝てしまった。
誠一郎が座っているとスペースが足りないので誠一郎は立ち上がったが。
「なんていうんだろうな。この状況」
「私はみんなのお母さんですからね」
水谷聡子個人としての話だが、いろんな孤児院にも寄付をしているし、たまに遊びに行くこともあるようだ。
子供の扱い方と言うものが分かっているのだろう。
誠一郎は溜息を吐きながら送られたデータを見ていた。
「才馬宗達……ふむ、最終学歴は中卒だが、高校には通うことすら考えていなかった感じか。忠臣が二人いて、色々嗅ぎ回っている見たいだな」
彼もまた、誠一郎たちのように、とある組織を追っているようだ。
「私たちと彼がおっている組織ですが、火野家の周り……いえ、最近は元素四名家すべてに入ってきています。組織の名前は『リアリティ・テーゼ』のようですね」
「よくそこまで調べているな……」
「ですが、目的までは分かりません。ですが、とあるカードの研究をしている。と言うことは分かっています」
「とあるカード?」
特定のカードについて、戦術的観点から調べている組織は多いが……。
「オーディナルモンスターであることは分かっているのですが、逆に言うと、それ以外は掴むことができませんでした。そうですね。情報規制がうまいというより、副産物が多すぎる。と言う方が正しいでしょうか。全体像の把握がかなり困難です」
「……リアリティ・テーゼを相手にする時に、聡子が『自分のデッキ』を使うかどうかだがな……」
「フフフ。それはどうでしょうね」
他の四名家、特に風間家の当主をはじめとした、イーストセントラルで上位の四人はそうだと思うが、自分のデッキと言うものを持っている。
使用するカテゴリが同じだったとしても、当主としてのデッキと、個人のデッキは大きく異なるのだ。
まあ、風評とか体裁の話である。
「俺が本気を出せるくらいには強いといいんだがな……」
「本気で戦ったことがあるのですか?」
「あるぞ。負けたがな」
誠一郎のその言葉に、聡子は驚愕を隠していなかった。
「あなたに勝ったのですか?」
「接戦だったと思うが、紙一重で負けた」
誠一郎は思いだす。
とある事故である場所に行って、そこであった、黒の魔術師と、巨神兵と、天空竜と、翼神竜を操る、王を。
誠一郎自身も、自分のそばにいる紅の魔術師も、本気だったし、全力だったが、勝つことはできなかった。
一回しかデュエルしていないし、今やるとどうなるのかは知らないし興味もないが、あのデュエルは楽しかった。
「ま、聡子がどんなに調べてもわからないことだし、俺もしゃべる気はない。話を戻すぞ」
「……まあいいでしょう。あなたに勝ったデュエリストも気になりますが、今はそれを調べる時間を割くのは得策ではないでしょうから」
それに、聡子も、本音の部分を言えば、本気で情報を隠す誠一郎を相手にしたくはないのだ。
「聡子。一応聞いておくが、どうなると思う?」
「荒れるでしょうね。ですが、水谷家の人間としても、水谷聡子という一人のデュエリストとしても、この幸せそうな寝顔を護れるように努めるだけです」
「……そうか。まあ、一番後ろには俺がいるんだ。何かあれば頼ればいい」
「最初からそのつもりです」
何の悪びれもなくそういう聡子に対して、誠一郎は苦笑した。