遊戯王 Replica   作:レルクス

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八話

 ハーベリアがデュエルディスクを構える。

 

「さて、始めましょうか」

「ずいぶんと自信があるようだな」

「フフフ。それはこちらのセリフです」

 

 ほう、そう言うのなら見せてほしいものだ。

 誠一郎もデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!」」

 

 誠一郎   LP4000

 ハーベリア LP4000

 

「私の先攻。私は『ホワイトブランク・コア』を特殊召喚!」

 

 ホワイトブランク・コア ATK0 ☆1

 

「あのモンスター。やっぱり使って来るのはホワイトブランクモンスターなのね」

 

 彩里が呟いている。

 フォルテもうなずいた。

 

「ですが、誠一郎様ですから、何も問題はないでしょう」

「うん。お兄ちゃんなら大丈夫」

「というか、私はこのあたりで止めておいてもいいと思うけどね。あまり動きすぎるとワンカードキルされるし……」

 

 なかなかの評価である。

 ハーベリアは余裕そうだ。

 

「ずいぶんと信用されているようですね。まあいいでしょう。私は光属性のホワイトブランク・コアをシンボルリリース!」

 

 コアが二つのシンボルになる。

 

「オーディナル召喚!レベル8『ホワイトブランク・フェニックス』!」

 

 現れたのは、半透明な体を持つ不死鳥。

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000 ☆8

 ハーベリア SP0→2

 

「更に私は手札一枚をコストに、手札の『マッドネス・ホログラム』の効果を発動。このカードは相手フィールドに特殊召喚するモンスターです」

 

 ハーベリアが一枚のカードを手に取ると、誠一郎のフィールドに特殊召喚された。

 

 マッドネス・ホログラム ATK2000 ☆4

 

「フフフ。そのモンスターは戦闘で破壊された時、コントローラーに1000ポイントのダメージを与えます」

 

 

 マッドネス・ホログラム

 レベル4 ATK2000 DFE1000 闇属性 悪魔族

 ①:このモンスターは通常召喚できない。

 ②:手札を一枚捨てて発動できる。このカードを手札から相手フィールドに特殊召喚する。

 ③:このカードが戦闘によって破壊された時、コントローラーは1000ポイントのダメージを受ける。

 

 

「……なぜ、先攻一ターン目で出してくるんだ?」

「このカードを使うためですよ。私は魔法カード『ネーム・ネットワーク』を発動。相手モンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のモンスターを自分のデッキから一枚墓地に送り、そのモンスターの攻撃力分、自分フィールドのモンスター一体の攻撃力を上げることが出来るのです」

 

 

 ネーム・ネットワーク

 通常魔法

 ①:相手モンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のモンスターを自分のデッキから一枚墓地に送る。そのモンスターの攻撃力分、自分フィールドのモンスター一体の攻撃力をアップする。

 

 

 なるほど、送りつけるカードを使って狙ったコンボと言うことか。

 通常、モンスターカードとなると、どんなデッキにも入る定番なモンスターと言うのは少ないし、それに、それがフィールドにいるかどうかなど狙えるものではない。

 

「私はマッドネス・ホログラムを墓地に送り、ホワイトブランク・フェニックスの攻撃力を2000ポイントアップさせます」

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK3000→5000

 

「攻撃力5000……」

「フフフ。私の最高のコンボはいかがでしょうか。私はこれでターンエンドです」

「そうか」

 

 手札の消費枚数は多いが、確かに、攻撃力5000と言うのは脅威だ。

 とはいっても、誠一郎は途中から、自分の手札の一番左のカードしか見ていなかったが。

 

「伏せカードはなしか……まあ、手札もないしな。俺のターン。ドロー!」

 

 ドローしたカードを見る。

 

(なんだ、そろそろ暴れたいのか?まあ、仕方がないか)

 

 誠一郎は溜息を吐いた。

 

「どうやら、この状況を打開するカードは引けなかったようですね」

 

 誠一郎は手札の一番左のカードを墓地に送りながらモンスター一体を場に出す。

 

「黙っていろ。俺は手札の『星王兵リンク』の効果を発動。手札を一枚捨てて特殊召喚することが出来る。来るんだ。星王兵リンク!」

 

 星王兵リンク ATK1700 ☆4

 

 現れたのは、星々をかたどったアクセサリーを付けた漆黒の兵士だ。

 

「星王兵……」

「お兄ちゃん。本気のデッキなんだ」

「それにしても、兄妹揃って戦士族デッキなのね……」

 

 そう言われるとそうだな。まあ、多分刹那が誠一郎の真似をしようとでもしたのだろう。別にそれは構わないし否定もない。

 

「フフフ。そんなモンスターでは私のホワイトブランク・フェニックスには遠く及びません。ところで、そのモンスターは手札一枚をコストに特殊召喚ですか。一体何のカードを捨てたのですか?」

「『強制転移』だ」

 

 誠一郎は事実を淡々と告げる。

 

「ほう、強制転移……な、なんだと!?」

 

 ハーベリアは驚愕している。

 そして、聖は首をかしげる。

 

「どういうこと?」

 

 答えたのは彩里だ。

 

「ハーベリアは、伏せカードも手札もない。マッドネス・ホログラムの特殊召喚コストで墓地に捨てたカードは分からないけど、そこまで相手の行動を止めることができるカードは多くないから、誠一郎はこのターンは比較的自由に動けるし、攻撃しようと思ったら、多分、普通に通せる」

 

 続けるのはフォルテ。

 

「強制転移は、お互いにモンスター一体を選択し、そのコントロールを交換するカード。星王兵リンクを特殊召喚しなかった場合、誠一郎様のフィールドにはマッドネス・ホログラム一体のみ、ハーベリアのフィールドにはホワイトブランク・フェニックス一体だけですから、お互いにそのモンスターを選択するしかありません」

 

 最後に刹那。

 

「その後、そのままバトルフェイズに入って、ホワイトブランク・フェニックスでマッドネス・ホログラムに攻撃すれば、3000ポイントのバトルダメージが相手に発生する。その後、マッドネス・ホログラムのデメリット効果があれば……」

 

 聖もわかったようだ。

 

「戦闘で破壊された時に、コントローラーに1000ポイントのダメージを与える……ちょ……ちょっと待って、それじゃあ」

 

 彩里は頷いて答える。

 

「誠一郎はこのターン。たった一枚。『強制転移』を発動するだけで勝っていた」

 

 聖は背筋が凍った。

 もちろん。カードの効果をしっかりと把握したし、理解も出来た。

 だが、聖は誠一郎のデュエルを見ているが、そのすべては、たった一枚のカードを使って勝つというワンカード・キルだった。

 今回も、やろうと思えば可能だったのである。

 

 異常としか言いようがない。

 たった一枚でデュエルに勝つ。

 すごいといえるだろう。すさまじいとしか言いようがない。

 

 『強制転移』というカード自体も、コントロール変更カードによくある一時的なものではなく、永続的にコントロールを変更できる優秀なカードだ。もちろん、使い方にもよるが。

 だが、そのカード一枚で、デュエルに勝てるかどうかとなると、そう言うものでは全くない。

 むしろ、奪ったモンスターを別のことに利用することを普通は考える。

 

「もちろん、ハーベリアがマッドネス・ホログラムを誠一郎のフィールドに特殊召喚していなかった場合、この状況にはなってない。ただ……聖の言う通りだったわね。動きすぎるとワンカード・キルされるって言ってたわよね。ホワイトブランク・コアで止めておくのは問題はあるけど、フェニックスで本来は止めておくべきだった。それは間違いはない」

 

 もともとおかしいのだが、状況を素早く理解するというより、この状況が整えば、聖だって強制転移を使っているだろう。聖のデッキに入れていないが。

 

「動きすぎると、誠一郎の前だと自殺行為になるってことなのね……」

 

 思えば、火野正也は一ターンで攻撃力4000というモンスターを呼んできたし、後のバトルロイヤルルールのデュエルでは、相手が三人で、さらに、たった一つのミスがあったものの、普通なら容易に突破できるものではない。

 

 ワンカード・キル。

 一枚のカードのみを使用して勝つというものだが、この戦術は、相手の実力が高くないと機能しないのだ。

 一ターンで、手札がなくなってしまうとしても、攻撃力5000のモンスターを出せるというのは、カードパワーに任せていたとはいえ、『強い』といえるだろう。

 

 意味が分からない。

 相手が強ければ強いほど、楽に勝つデュエリストなど。

 

「ただ、ここまで考えておいてなんだけど、誠一郎は今回、強制転移を捨てた。これは事実よ」

「ですが、一体どうしてそのようなことを……」

「多分、お兄ちゃんも最初は、強制転移で勝つつもりだったと思う」

「あり得るわね。だとしたら、ドローカードで気分が変わったのかも」

 

 誠一郎はいろいろと考えているのを聞いていた。

 が……。

 

「なあ、続けていいか?」

 

 誠一郎は一応聞いた。

 彩里は無言でうなずく。

 誠一郎もうなずくと、ハーベリアの方を見る。

 ハーベリアは誠一郎を睨んで言う。

 

「あなたは、一体何を考えているのですか?」

「まあ、ただの私情だし、お前が気にすることではない。それより、見せてやる。俺は闇属性のマッドネス・ホログラムと、星王兵リンクをシンボルリリース」

 

 二体が黒いシンボルとなる。

 

「黒き七つの星々よ、閃光の果てに一つとなりて、賢者の宝玉を紅に染めろ」

 

 現れる。

 

「オーディナル召喚!レベル7『クリムゾン・ワイズマン』!」

 

 紅の賢者が。

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK2500 ☆7

 誠一郎 SP0→2

 

「く……クリムゾン・ワイズマン」

 

 聖は、ワイズマンの異様な雰囲気にのまれている。

 そしてそれは、慣れているはずの三人も同じだ。

 

「これが誠一郎のエースモンスターよ」

「そして、最初から共に戦い続けてきた相棒でもあります」

「お兄ちゃんがクリムゾン・ワイズマンを使うからこそ、最強」

 

 さて、続けよう。

 

「さて、さっさと倒すとしよう」

「フン!オーディナル召喚をしたところ悪いが、私のモンスターの攻撃力は、貴様のモンスターの攻撃力の倍!一体どうやって倒すというのだ?」

「見たところ効果に対する破壊耐性はなさそうなんだが……上から叩き潰そう」

「何!?」

「俺は魔法カード『フォース』を発動して、フェニックスの攻撃力の半分を奪い、クリムゾン・ワイズマンの攻撃力に加える」

 

 ホワイトブランク・フェニックス ATK5000→2500

 クリムゾン・ワイズマン     ATK2500→5000

 

「攻撃力が一瞬で逆転した……」

「そして、魔法カード『星王の継承』を発動。墓地のレベル4以下の星王兵モンスター一体を除外して、自分フィールドのオーディナルモンスター一体は、そのモンスターの攻撃力分、ターン終了時まで攻撃力がアップする。リンクを除外して、攻撃力を1700ポイントアップ!」

 

 クリムゾン・ワイズマン ATK5000→6700

 

 

 星王の継承

 ①:墓地のレベル4以下の「星王兵」モンスター一体を除外し、自分フィールドのオーディナルモンスター一体を対象にして発動できる。ターン終了時まで、選択したオーディナルモンスターの攻撃力は、除外したモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

「ば……バカな」

「ワイズマンのポテンシャルを活かすデュエルを全くしていないんだが……まあいいか」

「わ、私には本気を出すまでもないと?」

「違うな。本気を出す相手は、お前じゃないって言うだけの話だ」

 

 そして、誠一郎は指示を出す。

 

「バトル!クリムゾン・ワイズマンで、ホワイトブランク・フェニックスを攻撃!『クリムゾン・ビジョン』!」

 

 ワイズマンが杖を構えると、その先に魔力で出来たエネルギー弾を生成し、そのままフェニックスに向けて射出した。

 

「う。うわああああああああ!!!!!」

 

 ハーベリア LP4000→0

 

「……なんか、回り道しても一瞬だったわね」

「誠一郎だからこれくらいは当然ね」

「うん。お兄ちゃんはめんどくさがり屋だから、基本はワンターンキル」

「結局、フェニックスの効果は何だったのでしょうかね……」

 

 そう言えば見ていないな。

 次の機会だ。

 で、近くでドラゴンがブレスを放出して、相手を二人ぶっ飛ばした。

 

「ふああ……ん?宗達。遅かったじゃないか」

「……悪かったな」

 

 まあ、いいけどな。

 

 ハーベリアが起きた。

 

「く……こうなったら……撤収!」

 

 普通に背を向けて走りだした。

 ずっこけそうになるが、あえて誠一郎は何もしない。

 

「あなた達も早く逃げるのです!」

「「は、はい!ってええええええ!?」」

 

 彼らが驚いたのは、彼らに迫る影があったからだ。

 そしてそれは……。

 

「刹那ってローラースケート上手すぎ……」

 

 聖が呆然としているが、彼女が言っている通り、すごいスピードで、手錠を持った刹那がローラースケートのシューズを履いて突撃していたからだ。

 

「く……」

 

 ハーベリアがカードシューター……主に印刷されていない不良品見たいなカードを射出するための専用銃を取り出す。

 

「フォルテ」

「はい」

 

 誠一郎はフォルテに指示を出すと、フォルテは正拳突きを遺跡の地面に叩きこんだ。

 

 すると、グラッと揺れた。

 

「「「うおっ!?」」」

 

 逃走中の三人が驚く。

 まあ、そうだよな。ワンパンチで遺跡を揺らせるなんて聞いたことが無い。

 だがな。今回なんて別に気にするほどのものじゃないぞ。雪山でやった時は雪崩が来たからな。人間やめてる……。

 

 そしてさらにすごいのは、容赦なく揺らしたのに、刹那が何も問題なく進んでいたことだ。

 

「ちょっと、安定感凄すぎでしょ」

「刹那はバランス感覚も修正速度もすごいからな。一日中バランスボールの上で生活出来るぞ」

「ヤバ過ぎ!」

 

 だが、ハーベリアは最後の意地なのか、刹那に向けて銃口を向ける。

 

「くらえ!」

 

 カード射出。

 

「はぁ……仕方がないわね……シッ!」

 

 聖がポケットに手を突っ込むと、白紙のカードを出した。

 そしてそれをそのまま手首のスナップだけで飛ばす。

 飛ばされたカードは、先に射出されたはずのカードに直撃した。

 

 うお、すげぇ……忍者かよ。

 

「聖、あんたもすごい特技があるのね」

「宴会芸にしかならないけどね」

 

 さらに三枚飛ばして、三人とも構えた銃の精密な部分をぶっ壊して、そのまま銃が使い物にならなくなった。

 なんの障壁もなくなった刹那が、流れるように手錠で三人を拘束する。

 

「さて、宗達。尋問は任せるぞ」

「了解した。しかし……何なんだお前たちは」

「知らんな」

 

 あえて、それに答えるのは止めにしておいた誠一郎であった。


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