セキのポケモン道中職探し   作:くろでん

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弱肉強食

 訓練三ヶ月目。

 これはもう訓練と称するべきだろうオ―キド研究所でのポケモンたちの世話はいよいよ本格的なサバイバルに突入した。

 朝・昼・夜、一日の全てを裏庭の敷地内で生活。敷地と言っても施設諸々合わせて面積100ha以上あるので移動範囲も並じゃない。

 雨が降ろうが風が吹こうが勿論野宿。一度だけ博士にビバークの注意点について尋ねたら「海の底だろうが雲の上だろうが環境に適合すれば問題ない」とのお言葉を頂いたので実用的な方法は全てシゲルに訊くことにしている。ポケモンのこと以外言葉が通じない大人は早々に研究所へと帰って行った。

 二週間も経てばテントの設置も野営調理もすっかり手慣れたものだ。ポケモンたちの手入れも大分様になってきたのか死にかけることも少なくなり、今も何匹か夕飯の支度をするセキ達の足元で餌があたるのを待っている。

 

「二人は最初のポケモン何貰うか決めたか?」

 

 鍋を掻き混ぜていたリョクが完成のサインを出しながらセキ達の方に顔を向ける。本日のメインディッシュが出来上がったようだ。

 

「どちらにしようか熟考中てところかな」

 

 シゲルの言葉にセキも頷き同意を示す。

 

「そう言うリョクは?」

 

「俺はもう決めてるぜ。ヒトカゲだ」

 

 アルミ皿にご飯をよそってリョクに手渡す。つやつやの白米の上にとろりとしたカレーがかけられ、食欲をそそる匂いが空腹を煽る。この時油断していると待ち構えていたポケモン達に襲いかかられて無理矢理強奪されるので警戒を強めなければいけない。今までに何度も夕飯を奪われひもじい夜を過ごした。

 

「へえ、てっきりリョクはフシギダネにすると思っていたよ。イメージカラーで」

 

「色で旅立ちのポケモン決める馬鹿がいて堪るか」

 

 セキの脳裏に母の笑顔が思い浮かぶ。凄くやりそうな馬鹿が身近にいますと教えてやりたい。

 

「何と言ってもヒトカゲの最終形態が最高だろ。炎・飛行タイプのリザードン! 強力な炎タイプの技と飛行タイプの機動力。未来のチャンピオンである俺の相棒に相応しいポケモンだ」

 

「リョクらしい選び方だね」

 

 この二人はいつまで喋ってるのだろうか。目の前でこんなにも芳しい香りを放つカレーが鎮座しているというのに。ポケモン達も今か今かと涎を垂らしている。このまま焦らせばセキ達まで食べられてしまいそうな気迫だ。

 

「当日になって揉めないようにセキとシゲルも決めといた方がいいぜ。ヒトカゲは譲らないけどな」

 

 いっそ僕だけ食べ始めてもいいか。折角のカレーが冷めてしまうのは勿体ない。ちらりと横を見ると肉食獣の眼をしたプリンが臨戦態勢に入っている。

 

「それならボクはゼニガメを選ぶよ。ヒトカゲかゼニガメにしようと思っていたんだ」

 

 炊きたてほかほかのご飯ととろみのあるブレンドカレーのコラボレーションは米文化の極み。子供から大人まで大好きな食べ物と言えばまさにカレーだろ。これぞ食の至高。自分の分を腕の中に引き寄せ、リョクとシゲルのカレーにポケモン達の狙いを移す。

 

「セキはフシギダネで問題ないかい?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「その台詞は死亡フラグだぞ」

 

 カレーを抱えて今年一番の決め顔を見せたのに何故か呆れた視線を向けられる。

 

「ゼニガメとフシギダネで悩んでたからどっちが残っても大丈夫。それより早く食べよう。カレーが冷める」

 

「最初のポケモンよりカレーの方が大事かお前は……」

 

「何とでも言え。カレーは温かいうちにが鉄則だ。ついでに言うとリョクのカレー喰われてるぞ」

 

「そっちを先に言え!」

 

 リョクとプリンの死闘を横目にセキとシゲルは穏やかな夕食を味わう。ハードな生活の中で食事は一番の楽しみだ。トレーナーたるもの常住坐臥。気を抜いていた愚か者はこの様に日々の糧を失うのである。

 

 トレーナーを志望する子供達は生まれ年によって十歳の年の前期・中期・後期と振り分けられパートナーポケモンを得る日が決定される。

 昔は律儀に誕生日に合わせて初心者用ポケモンを用意していたらしいが、人口密度の高い地域では不可能だとポケモン養育機関から苦情が殺到し、六十年前にカントー地方地域条令に制定された。お蔭でポケモンを選ぶことも出来ずに近場で捕まえた間に合わせのコラッタやビードルで旅立ちを余儀なくされる子供の数が格段に減ったという。

 子供が少ないマサラタウンではわざわざ振り分けを行う必要性も然程なく、親たちの意向で幼馴染四人は同じ日にポケモンを受け取ると勝手に決定されてしまったので条令の有難みを実感する機会は無いだろう。

 

 そもそもセキはチャンピオンだのマスターだのを目指す予定はないので、パートナーとなるポケモンが残り物だろうが弱かろうが一向に構わない。

 社会経験としては全く役に立たない前世記憶を唯一有効活用できそうなのがゲームでハマっていたポケモンに関連する仕事だった為、とりあえずトレーナーになってポケモンを一匹育ててみようという志が高いのか低いのか判断のつきかねる志望動機だ。

 

(大人しい性格の育てやすいポケモンだといいな)

 

 間違っても挨拶代わりに十万ボルトピカチュウやトレーナーガン無視リザードンみたいな性格は遠慮したい。見ている分には楽しいのだが自分の手に負えるとは到底思えない。

 

「自分で好きに選べるならロトムが欲しかったけど、こればっかりは仕方ないか」

 

 前世でセキが熱心にやり込んでいたのはシンオウ地方と、海外に舞台を移したイッシュ地方。初代赤時代からプレイはしていたが厳選と呼ばれる育成法を始めたのはイッシュからとかなり遅く、値といった要素も知ってはいるが詳しくない。

 詳しかったとしても実際に生きている動物でゲームと同じことが出来るのかと言われれば首を横に振る。

 

「ロトム? 聞いたことのないポケモンだな」

 

 セキが零した名前に耳聡くシゲルが反応する。

 

「シンオウ地方に生息している珍しいポケモン。ゴーストタイプだから悪戯好きだけど、見た目も可愛いしちょっと変わった性質も持っていて面白いんだ」

 

「シンオウ地方!?」

 

「相変わらずセキは変なことだけ知ってるな。世話は俺達の中で一番下手くそなくせにポケモンの名前はオ―キド博士より沢山言えるし、お前の勉強法偏ってるんじゃないのか」

 

「オ―キド博士の孫であるボクよりも先にポケモンを言い当てていくのには驚いたけど、実際に触るとなると僕達に押し付けて逃げようとするしね」

 

「……ばれてたのか」

 

「「当然」」

 

 セキの編み出した大型ポケモン回避法はすっかり見破られていたらしい。明日は二人ともニドキングやサイホーンといったポケモン達をどんどんセキに回してくるだろう。……逃げようかな……

 

「「逃げるなよ?」」

 

 いつの間に食べ終わったのか、リョクのカレーを平らげたプリンがセキの背後に立っている。逃げ場は無かった。

 

 

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