セキのポケモン道中職探し   作:くろでん

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癖は直らないから癖なのだ

 サバイバル生活を初めて幾月もの日々が過ぎた。そろそろ半年を迎える頃だろう。セキは現在一人で凍った森の中を移動している。

 四ヶ月目に入った辺りでセキ達三人は残りの日数を己の力だけで過ごそうと敢えて別行動を選択した。交代で分担していた作業も一人でこなさなければいけなくなり大変だったが、旅に出ればどうせ一人なので慣れておいて損はない。シゲルの提案に誰も異論を唱えなかった。

 生活拠点が重ならないようにリョクは南、シゲルは西、セキは北をぞれぞれ目指して散開。南はポケモンたちの生息種類が多く広い視野を求められ、西は昼夜を問わず活動するポケモン達に対応できるだけの判断力が磨かれる。セキが選んだ北は厳しい環境に適応する体力と、たまに遭遇する大型ポケモンは皆腹を空かせて凶暴なので最も警戒が必要だ。

 北に進めば進むほど気温は寒さを増していき、僅かな熱も身体から逃がさぬようセキの動作は極力最小限に抑られたものへと変わり、ポケモンたちとのコミュニケーション以外口を開く必要もなく表情筋も控えめになりつつある。山頂で朝日を眺め、沢の水で顔を洗い、土に埋めた木の実を掘り出し、星の形で方角を確かめ、夜はポケモン達の巣に加わって眠る。トレーナーというよりも世捨て人に近い。

 

 この生活がトレーナー修行なのかホームレス修行なのか解らなくなり始めたセキの心境を見計らったかのように、懐かしい人が現れた。

 

「こんな所にいたのか! セキ!」

 

 驚いた表情のオ―キド博士が転げるように駆け寄ってくる。忘れかけていたが此処はオ―キド博士が所有する庭の敷地だ。見渡す限り凍りついた樹氷しかないけれど。

 

「怪我はしとらんのか。お母さんも心配しておったぞ、早く無事な姿を見せてやりなさい」

 

 オ―キドの博士の言葉にセキは小首を傾げる。裏庭でセキがポケモン達の世話をしていることは母親も了解している筈である。疑問を感じたが、さあ早くと急かすオ―キド博士に促され手早く焚火を始末して山を降りる。

 研究所の影が見える場所まで来ると前を歩いていたオ―キド博士が急に立ち止まり声を上げた。

 

「おーい、見つかったぞー!」

 

 すると、あちらこちらから見覚えのある顔が続々と集まって来た。

 

「本当か!? おお! セキ坊!」

 

「良かったなあ、無事だったか」

 

「オ―キド博士が見つけたぞー! みんなこっち来―い」

 

「オ―キド博士、遭難者に怪我はありませんか?」

 

 わらわらと集まってくる御町内のおじさんおばさん、だけではなく何故だかジュンサーさんと警察の方々も大勢いらっしゃる。

 皆口々にセキの無事を喜んでくれている様だが、一体何があったというのか。

 

「オ―キド博士、どうしてこんなに人が?」

 

 セキの疑問に博士は怪訝そうな表情で答えてくれた。

 

「お前さんの捜索を手伝ってくれていたのじゃよ。裏庭は広いからのう」

 

「………」

 

 どうやら彼らはセキを探していたのだと言う。隣でいまいち状況が掴めていない様子を察したのかオ―キド博士がセキの正面にまわり、真面目な顔で問い掛けてきた。

 

「セキ、お前今日が何月何日か分かっとるか?」

 

「……正確な日付は覚えてないけど、裏庭に入ってから大体半年くらい」

 

 確認をとるような博士の口調に違和感を覚えながらも素直に答えると、博士の口から呻くような声が漏れた。

 

「一年以上経っておるわ、大馬鹿者」

 

 オ―キド博士の返答をセキは数秒間理解できなかった。

 

「この半年間お前は行方不明扱いじゃ。警察に捜索願も出ておるわい」

 

 博士を見上げた姿勢のまま、僅かに口を開けた間抜けな顔で呆然と言葉の意味を咀嚼する。理解した瞬間、周囲の人々と自分の置かれた状況を把握して滝の様な汗が流れ出す。

 

「オ―キド博士、……僕の出発日は?」

 

「半年前に過ぎたのう」

 

 返された答えは無情なものだった。

 

 衝撃の事実にセキの硬直も解けぬまま白バイクのサイドカーに押し込まれ、念のためジュンサーさんに連れられて軽い検査を受けた後ひとまず家に帰りなさいと言われて自宅に送られる。

 玄関扉を開けた瞬間に出迎えてくれた母親に抱きしめられた。

 

「おかえり、セキ」

 

 不可抗力に近いとはいえ半年もの間心配をかけてしまったことに罪悪感が募る。安堵を浮かべて見つめる母に何と謝ればいいのか迷っている内に先手を打たれてしまった。

 

「お腹空いてない? 今晩はカレーよ」

 

 カレーの単語に反応してセキの言葉より早くお腹が鳴った。母親の軽やかな笑い声が響く中、恥ずかしさのあまりセキは俯いて「ただいま」と告げるのが精一杯であった。

 

 こうしてセキの過酷なる裏庭修業はようやく終わりを迎えた。

 

 夕餉の食卓に並んだのはサバイバル生活ではとてもお目にかかれない御馳走の数々。母親が腕を奮った手料理の美味にセキは感動で打ち震え三度もおかわりをしてみせた。カレーの味がやけに懐かしく感じるのは知らぬ間に延長していたトレーナー修行の弊害だろうか。裏庭で過ごしていた日々のことを母親にあれこれ話している内に夜は更けていく。

 

「そろそろ寝なさい。オ―キド博士にも凄い迷惑をかけたんだから、明日はしっかり謝ってきなさい」

 

「町内ぐるっと頭下げて回るよ」

 

 神妙な顔で項垂れるセキを母親が笑う。まだトレーナーになってもいないのに行方不明。土地の所有者であるオ―キド博士は勿論、町の保護者方も一報を聞いた時にはさぞかし肝を冷やした。ポケモンを持っていない身で遭難した場合自力での帰還はほぼ望めないとジュンサーさんに言われれば皆顔色を真っ青にして捜索隊に名乗りを上げた。母親の話にセキは益々申し訳ない心地に駆られる。

 心配をかけた分明日はきとんと謝って、探してくれた御礼を言おう。セキを探して庭に集まっていた顔ぶれを思い返して、ふと友人達の姿が見当たらなかったことに気付いた。

 

「そういえばリョクとシゲルは?」

 

「二人ともちゃんと半年前の予定日に出発したわよ」

 

「……なんて友達甲斐の無い奴らだ」

 

 セキが来ないことを不審に思わなかったのか。それともパートナーポケモンに夢中でセキのことなど忘れていたのか。どちらにせよ幼馴染達はセキを探しもせずに一足先にマサラを旅立っていたらしい。

 

「薄情者め。旅先で会ったら覚えてろよ」

 

 恨みがましく幼馴染達へ怒りの矛先を向けるセキに、母親が目を丸くした。

 

「あら、やっぱりセキも旅にでるのね。遭難したからもう行かないって言い出すかと思ったわ」

 

 セキとしても本音は行きたくない。やっと家に帰って来たのだからこのまま温かい食事と柔らかなベッドに囲まれていたい。しかし……

 

「このまま此処に居ても無職になると思うと、行かざるをえない」

 

 悲しいかな現実は甘くないのだ。前世の二の轍を回避する為にもセキは社会に出て職を探さなければならない。

 

「それなら明日オ―キド博士のところに行ったら、そのままポケモン貰って出発しなさい。こういうのは早い方がいいでしょう」

 

 母親の発言に今度はセキが目を見開く。

 

「いいの!? 僕帰って来たばっかりだよ!?」

 

「いいわよ。元々旅に出る予定だったんだから、半年ばかり早く旅してきたと考えれば何てことないわ。実際は半年遅いんだけどね」

 

「うわあ予想外……」

 

 まさかこんなにあっさり許可が出るとは思わなかった。

 行方不明になっていた間の心労を慮ると旅に出たいなど当分言い出せないと思っていたが、母の方から言われてしまえば従うより他は無い。

 

「そうと決まれば今夜はたっぷり寝ないとな」

 

 次にベッドで眠れるのは一年後かもしれないのだ。セキは久しぶりのベッドを心行くまで堪能しようと固く拳を握りしめた。

 

 

 翌日、半年間もの留守で目覚まし時計の電池が切れていたことに気付かず、陽が傾いてから慌ててオ―キド邸へと走るセキの姿が見られた。

 

 




ここまででプロローグが終了。そのうち暇を見て一話に纏めます。
次話からようやく本編スタート。
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