上空数千メートルの日本へと向かう旅客機の中で、青年は
それは荒唐無稽過ぎて誰にも信じてもらえないだろうが、自分が主要な人物が全て女性になっている三國志の時代に行った時の事。そしてその後の事。
始まりは目が覚めたら見知らぬ荒野に居て賊に襲われるという現代日本では考えられない出来事。
その出来事に現実感のないまま青年は困惑する事になった事。
助けがあったおかげで命は長らえる事は出来たが、自分の状況は不明なままだった。そんな青年に近付いてくる軍。その軍を率いていたのは一人の少女。青年はその少女に拾われた。
青年を拾った少女の名前は――曹操孟徳――
青年の知っている歴史では後の魏の武帝となる人物だった。突然のタイムスリップ?の様な現象に戸惑いを隠せない青年。少女はそんな青年に華琳という真名――本人に認められた人物しか呼ぶ事を許されない名前を預け、青年に自分の覇道の為に協力する様に告げる。
華琳は自分と違う世界から来た青年の知識を利用する為、青年は行き場のない状況からなし崩しに……
初めは打算から始まった関係だったが、お互いの事を知る内に二人は惹かれ愛し合う様になる。
それと同時に華琳の配下である少女達とも青年は絆を結んでいく。
夏候惇、夏候淵……春蘭、秋蘭の姉妹
荀イク……桂花
許緒……季衣
典韋……流琉
楽進……凪
李典……真桜
于禁……沙和
程イク……風
郭嘉……稟
張遼……霞
張角、張宝、張梁……天和、地和、人和の三姉妹
その皆も青年にとって愛し合った欠けがえのない大事な仲間だった。青年はその少女達と共に華琳の望みを果たすべく天よりの遣い。天の御遣いとして乱世を駆け抜けた。
時には自分の知っている歴史をねじ曲げる行為を行う事も躊躇わなかった。歴史を変える度に自分に襲いかかる謎の苦痛。
歴史を変える事と原因不明の苦痛の関係に薄々、気付きながらも青年は歴史を変える事を辞めなかった。その苦痛に耐えてでも青年は華琳の望みを叶えてあげたかったのだ。
青年の尽力もあって華琳の望みは果たされた。しかし歴史をねじ曲げた代償は決して安いものではなかった。
……その代償は青年の消滅
謎の苦痛は青年の消滅の前兆だったのだ。
蜀と呉、二つの国に勝利し、大陸の平定を果たした満月が輝くその夜に青年は華琳のすぐ近くでその世界から消えてしまった。
「……さよなら。愛していたよ、華琳」
その言葉だけを言い残して……
青年が再び目を覚ました時、そこは見慣れた……そして久しぶりの自分の部屋だった。
青年が慌てて自分の携帯で今日の日付を確認すると、そこに写しだされていた日付は自分があの世界に行った日の次の日の日付。
夢だったのか……そう考えた青年は暫し呆然とした後、何を思ったか、突如、自分の部屋から飛び出した。飛び出した青年の手には一振りの木刀。
青年が少し息を乱し、たどり着いたのはマンションの建設予定だったが建設会社の倒産によってそのまま放置された空き地。
その空き地の中に入って、青年は乱れた息を整え、木刀を構え振るう。袈裟、逆袈裟、切り上げ、胴抜き……
夢中で剣を振っている内に気付く。明らかに剣の鋭さが前日の剣道の部活の時に比べ上がっていた。そう今の青年の振るう剣は春蘭に叩きのめされながら鍛練した末に腕を上げた剣だったのだ。
それを確認出来た時……青年は泣いた。
恐らく、今までの自分の人生でこれ以上にない位に泣いた。そして
……必ずまた、あの世界に戻ってみせる。と……
決意した青年は、その日から動き始めた。古書店や図書館を巡り古い文献を読み漁り、少しでもあの世界への手掛かりを得る為に
だが、どれだけ探しても手掛かりらしい手掛かりを得る事が出来ない日々に青年は焦りを募らせていた。
それでもいくら焦りを感じても青年に諦めるという選択肢はない。学校のある日は放課後、休日は丸一日、時間を使って文献を読み続けた。
……そして遂に見つけた。
古ぼけた古書店の隅に置かれていた触るだけでもバラバラになりそうな年月を感じさせる古書の最後のページに記されていた一文。
……満月の夜、銅鏡を月に
この一文を見た時、青年の胸に熱い物が込み上げる。やっと見つけた手掛かりだった。勿論、わからない事もある。銅鏡は何処にあるのか?外史とはなんなのか?
それでもこの情報は自分にとって大きな一歩だったのだ。
次の日から青年の日常は古書店、図書館巡りから古物店、博物館巡りに変わる。銅鏡自体は古物店ですぐに見付ける事は出来たが、青年は違和感を感じていた。
……恐らくこの銅鏡ではあの世界に行く事は出来ない。
それは確信に近い予感。試しに買って、満月の夜に翳してみたが、案の定、何も起こらない。
落胆はなかった。行ければ運が良いという位の気持ちで試したのだ。そしてわかった事もある。恐らく決められた銅鏡でなければあの一文の通りにはいかないのだろう。それがわかっただけでも成果はあった。
青年はポジティブにそう考えた。だが、それは銅鏡への手掛かりが失われた事も意味していた。
そしてこのまま、闇雲に探しても銅鏡が見付からない事は青年も気付いている。ならば、どうするか?
青年の出した答えは中国に行く事だった。あの世界も舞台は過去の中国。銅鏡も発祥は中国だ。
銅鏡その物がすぐに見つかるとは考えていなかった。けれども手掛かり位は見つかるかも知れない。そう考えた青年は間近に迫った夏休みを利用して中国に行く事を決めた。
両親の反対を押し切り、ありったけの貯金を持って、青年は単身、中国に飛んだのだった。
この後に待ち受ける過酷な運命を知らないままに……