真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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女の為の厄介事

交州へ向かう旅の途中、一刀と凪は山道を歩いていた。本来、この山道は通る予定のない道。それなのに二人がこの道を歩いている理由は前日に遡る。

 

 

 

二人の旅は順調だった。一刀が荊州で荒稼ぎした路銀もあってか、野営もほとんどする事もなく、旅と言うより大陸観光って言っても良いくらいに快適な旅だった。

 

一刀が荊州で稼いだお金は自分と凪、二人が生活するだけなら二十年は保つ金額。それに一刀には元の世界から持って来た切り札がある。

 

お金に余裕もある事によって、宿に泊まる度に、夜にモジモジしながら一刀の部屋を訪れる凪の姿を見ると、頬が緩むと同時に交州に着いたら、凪と結婚して、子供を作って、のんびり農業でもしようかなと、本気で考え始めていた。

 

因みに宿代がもったいないので、四度目から一部屋しか取らなくなったのは余談だ。

 

そんな豊富な資金を生かした快適な旅の最中、二人はある村に立ち寄る事になる。

 

……その村は貧しかった。村人は布きれとあまり変わらない服を着て、痩せ細っている。

 

一刀は気の毒だと思うが、自分には関係のない事と割り切り、さっさと村を発とうと考えていた時、隣から視線を感じる。

 

 

 

 

……凪が期待の視線で一刀を見ていた。

 

 

 

 

一刀は関わりたくはなかった。心底関わるのは嫌だった。だって自分には関係ないから。

 

 

 

……でもそれ以上に凪の期待を裏切るのは無理だった。

 

 

 

一刀は心の中で大きなため息を吐きつつ、持っていた食料を村人に分け与えた上で、近くの森で野鳥をレオナルドから教わった礫で仕留めてそれも村人に分け与える。

 

村人は一刀の鬼の面に驚いていたが、渡される食料を見て、涙ながらに感謝の言葉を一刀達に送っていた。そんな一刀達の姿を見ていた村長が一刀達を自分の家に招こうとする。

 

一刀は断って早く村を発ちたかった。厄介事の匂いしかしない。自分が死地で磨き上げた先読みがガンガン警鐘を鳴らしている。

 

 

しかし、隣を見ると、凪の期待の視線。

 

 

 

 

一刀、六刻(一時間半)ぶり、本日、二度目の大きなため息だった。

 

 

 

家に入った一刀達に村長は頭を下げて礼を述べる。

 

「お二方のおかげで村人が久しぶりに満足に食事を取る事が出来ました。心よりお礼を申し上げます」

 

「気にしなくていい。俺達も偶々、食料に余裕があっただけだからな。それじゃ、俺達はこの辺で……」

 

「村長、どうしてこの村はこんなにも困窮しているのですか?」

 

 

……凪ぃぃ!

 

 

「それは……暫く前から近くの山で五十人ほどの賊が住み着きまして。抵抗しなければ命は取られないのですが、食料やお金を奪われるのです」

 

「官軍は賊退治には来てくれないのですか?」

 

「……凪、此処が何処か忘れたのか?」

 

「……あっ!」

 

そう、今居る所は荊州の外れ、領有権争いをしている土地で勝手に軍を動かせるはずがない。

 

「申し訳ありません!」

 

「いえ、気にしてはおりません。仕方のない事ですから……」

 

「では、賊は野放しなので?」

 

「たまに、旅の武芸者が賊退治を引き受けてくれるのですが、意気揚々と向かっては討ち取られるか、逃げ帰ってくる有り様で……どうやら賊の頭目の腕が立つ様なのです」

 

村長が諦め切った顔で事情を話し終える。しかし、その顔から何か胡散臭さが漂っているのを一刀は見逃さなかった。

 

「……隊長」

 

凪から向けられるのは、本日、三度目の期待と懇願の視線。

 

 

……本心を言えば、面倒くさかった。自分はヒーローじゃない。昔の自分なら助けられる人は自分の安全マージンを取った上で助けようとしただろう。

 

けれど、今の自分は違う。無関係の人間がどうなろうと知った事ではなかった。

 

これが、例えば、凪やラキの為なら命を賭けて、いや、自分の命くらいくれてやっても良かった。二人は自分にとって自分自身より大事だからだ。

 

一刀は心中で二刻(三十分)ぶり、本日、三度目の大きなため息を吐く。……そろそろ幸せが逃げそうだった。

 

 

やるしかない。自分にとって、凪に失望の目で見られる事は死んだ方がマシな苦痛だからだ。

 

「その賊退治、俺達が引き受けよう」

 

一刀がそう言った瞬間、凪の視線が喜色と尊敬の眼差しに変わる。……一刀も男だ。自分の女に格好良いと思われたかった。

 

「よろしいのですか!?」

 

「村長、俺を見くびるなよ。最初からそのつもりだったろうが」

 

一刀の言葉で村長の表情が驚愕の物に変わる。

 

「えっ、そうなのですか?」

 

「凪、お前はもっと人を見る様にした方がいい。愚直さはお前の良い所だが、それ故に人に利用されやすい。まぁ、俺が近くに居る限り、致命的な失敗はさせないがな」

 

「……はい」

 

「村長、俺が賊退治に行くのは、お前達の為じゃない。俺の女がそれを望むからやるだけだ。それから、俺は人に利用されるのが嫌いだ。恐らく、二度と会う事はないだろうが、次は許さん!」

 

一刀が軽く気を放ってそう脅しつけると、村長は壊れた人形の様に首を上下に何度も振る。

 

「凪、行くぞ」

 

「はい!」

 

村長の家を出た二人は、村の近くで野営の準備を始めるのだが、凪の様子がおかしい。ずっとうつ向いたまま、何かを言っているのだ。

 

一刀が耳をすませると聞こえてきたのは

 

「俺の女。俺の女。俺の女……」

 

「凪?」

 

「は、はい!」

 

「どうした?」

 

「いや、その、隊長が自分の事を俺の女と言ってくれた事が嬉しくて……その……」

 

「何言ってるんだ?凪は俺の女だろう?」

 

「……隊長ぉぉぉ!」

 

そう言って心底嬉しそうに一刀に抱き付く凪。一刀はそんな凪を優しく受け止めて、やっぱりコイツは可愛いなと一人、悦に入るのだった。

 

 

そして冒頭……

 

二人は賊を退治する為に山道を登る。今の所、何事もなく、一見平和に見える様子。しかし、凪は気付いていないが、一刀は気付いていた。

 

 

山道を入ってからすぐに、自分達が見張られている事を……

 

「凪、見張られているぞ」

 

「隊長、本当ですか?」

 

「あぁ、前方に五人、左右に三人、後方に四人かな。どうやら俺達を逃がすつもりはないらしい」

 

一刀の言葉に凪が構えをとる。

 

「凪、心配しなくていい。すぐに終わる。と言うよりもう終わっていると言った方が正しいか……お前達!そろそろ出て来たらどうだ?」

 

一刀の言葉に賊達がぞろぞろ出て来る。

 

「俺達に気付くとは、中々やるじゃねえか。俺達は華賊団!死にたく」

 

「……死ね」

 

一刀は周囲にあらかじめ張り巡らしておいたワイヤーに気を流し込む。そして軽く左手を引くと……

 

瞬く間に、あらゆる所が切断された十四の肉塊が出来上がる。

 

「なかったら……えっ?」

 

話していた賊の男はあまりの事に呆然としている。

 

「後はお前だけだな。お前はどうやって死にたい?」

 

一刀のその言葉でようやく、男は自分の状況を把握した様だ。

 

「ひっ!たす、助けてくれ!」

 

「お前には二つの選択肢がある。此処で死ぬか、他の仲間の居場所を俺に言って此処から逃げるか。……さぁ、どっちにする?」

 

「話す!話すから助けてくれ!」

 

「俺は素直な人間が好きだ。お前が正直に全てを話してくれる事を願うよ。……嘘なんて吐かれたら悲しくてお前の指を一本づつ落とさなくてはいけなくなってしまう」

 

「わかった!嘘なんて吐かない!」

 

「それじゃあ、質問だ。お前達の本拠地は何処だ?」

 

「この山の山頂付近の裏手に洞穴がある。そこが俺達の本拠地だ」

 

どうやら、嘘ではなさそうだ。

 

「では、お前達の本拠地には後、どれくらいの人数が残っている?」

 

「三十人ほどだ。嘘じゃない!」

 

確かにこれも嘘ではなさそうだ。村長の話とも一致する。

 

「最後の質問だ。お前達の頭目はどの様な人間だ?」

 

「……髭面の大男だ」

 

……ダウト

 

一刀はサバイバルナイフで男の左手の小指を切り飛ばす。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!俺の指がぁぁ!」

 

「嘘はいけないって言ったじゃないか。……もう一度聞くよ。お前達の頭目はどの様な人間だ?」

 

「お、女だ!銀髪の大きな斧を持った女!」

 

「名前は?」

 

「し、知らない。俺達は(あね)さんと呼んでいる。噂では昔は何処かの国の武将だったらしい」

 

「ふむ、どうやら嘘は吐いてない様だな。わかった。行っていいぞ」

 

一刀の言葉に男は慌てて駆け出す。

 

「あぁ、そっちには」

 

「ぎゃ!!」

 

「ワイヤーが張ってあると言うのが遅かったかな」

 

十五m先で死んだ男の亡骸を一瞥してそう呟く。……初めから生かして帰すつもりはなかった。俺達の事を仲間に知らされては困る。

 

「……隊長」

 

「これが鬼と呼ばれていた由縁だ。凪、俺に失望したか?」

 

一刀の言葉に凪は穏やかな笑みを浮かべ

 

「自分は隊長の全てを受け入れると言いました。それに隊長がやりたくてやっている訳ではないと理解しています」

 

「凪、ありがとう」

 

……本当に良い女だった。自分にはもったいない程に。

 

「……ところで凪、頭目の女の特徴に覚えはないか?俺は頭の隅で引っ掛かる物があるんだが……」

 

「隊長もですか?自分も何か覚えがある様な気がするんです」

 

二人は頭を悩ませるが、どうにもピンと来ない。

 

「とりあえず、此処で悩んでいても時間の無駄だ。賊の本拠地に向かうぞ」

 

「わかりました」

 

そう言って二人は賊の本拠地に歩を進めるのだった。




思ったより長くなりそうなので二話に分けます。
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