真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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望まぬ名声

一刀はひれ伏す村人達の前に立ち、内心ウンザリしていた。

 

「高長恭様のおかげで賊の脅威から、この村は救われました。本当にありがとうございます!」

 

「気にしなくていい。お前達が無事で何よりだ」

 

村人達の礼に心にもない返答をする一刀。浮かべている顔は仮面で見えないが、口元は引きつっている。

 

こんな有難迷惑な状況の一刀は交州に来てから、そろそろ一年が過ぎようしていた。

 

半年前に士燮が病で亡くなってから交州の状況は悪化の一途を辿っている。

 

原因は士燮の親族の専横だ。己の欲を満たす為に税を上げ、それを払えなくなった民は餓死するか、人買いに売られるか、賊になるかの究極の三択を迫られる。

 

その治安の悪化は士燮のお膝元で一刀達が居る交趾の周辺もその例外ではない。

 

言ってみれば、今の交州の状況は、黄巾党以前の大陸の状況を縮小した様な物だ。

 

そんな状況でも一刀は平常運転。自分は関係ないと素知らぬ顔を決め込んでいた。

 

いっその事、交州から抜け出して、西に行き、シルクロードを渡って羅馬に行くのもいいな。なんて事も考えていた。

 

だが、一刀にそのつもりはなくても、周りはそうではない。特に劉巴……叡理(えいり)と凪がこの状況に憤りを感じていた。

 

一方、晶の方は何処か冷めている。目の前の事なら手助けしても良いが、自分の目の届かない所での事は興味ないらしい。

 

一刀は晶にその話を聞いた時、晶に今まで以上の親近感を覚えた。……もっと言うなら目の前の事もスルー出来る様になってくれると言う事ないのだが……

 

凪はともかく、叡理が憤りを覚えているのが、一刀には意外だった。理由を聞いた所、士大夫の家系の者として守るべき民が虐げられているのは忍びないとの事。

 

言っている事は立派だと思う。……思うのだが、こいつがナチュラルに民を見下す癖がある事を一刀はわかっていた。……正確には民ではなく、学のない人間をだが……

 

凪と晶に対しては助けられた事もあって、丁寧な態度で接しているが、やはり何処か二人を見下していた。

 

二人が気付いているかはわからない。しかし、一刀は気付いていた。昔の自分は人の感情を察する能力が不足していたが、あの地獄で尋問、拷問などをした経験から人の感情や心理を察する能力が他の人より鋭くなっている。

 

恐らくは本人に悪気はないのだと思う。この大陸の良い所の生まれならば当たり前の考えなのかも知れない。

 

それでも、一刀は良い気はしなかった。凪も晶も一刀にとって大事な人間だ。特に凪は……

 

そういう事もあってか、叡理から真名を預けられたが、一刀は叡理を身内とまでは思っていない。世話にはなった分、困った事があるなら手助けはしても良いかなぐらいの気持ちだ。……叡理が自分に惚れているのがわかっていても、それは変わらない。

 

因みに叡理と凪、晶は真名の交換はしていない。やはり二人も何か感付いてはいるのだろう。

 

一刀はその事に口を挟むつもりはない。それは彼女達の問題だからだ。

 

そういう事情から始まった賊退治の日々だが、当然、一刀は気乗りはしない。それでも凪がやると言っている以上、付き合わない訳にはいかなかった。

 

と言うより賊の数十人、凪と晶で充分だと思う。それでも万が一の事もある。それで二人に何かあれば悔やんでも悔やみ切れない。

 

二人を失う可能性がある位なら、賊退治に付き合う方がよっぽどマシだ。

 

叡理も来たがっていたが、はっきり言って足手まといだから交趾に置いて来た。

 

賊退治に付き合うのは、凪が望むなら良い。自分の女のやりたい事に付き合う位の甲斐性はあるつもりだ。

 

それはいいのだが、凪は賊退治の手柄を全部、俺に渡すのは止めて欲しい。

 

……今もそうである。

 

「楽進様もありがとうございました!」

 

「いえ、自分は隊長の指示に従っているだけなので……」

 

凪、俺はそんな事望んでない!

 

けれど、凪の満足そうな顔を見ると、止めろとは言えはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……凪は俺の心がわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、まぁ、わかられても困るんだが……

 

そう、俺はこのまま、凪に対しては格好を付け続けるしかないのだ。

 

それが、例え、どれだけプレッシャーが掛かろうと、どれだけ自分の望まぬ道に進む事になろうとも……

 

全てを捨てて自分に着いて来てくれた凪が誇りを持てる北郷一刀であるべきだった。

 

だが、その代償は決して安い物ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

……漆黒の鬼面龍

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、今、交州全土で広がっている、一刀の異名にして名声。

 

 

 

……まさに望まぬ名声だった。

 

 

 

その異名を聞いて無邪気に喜ぶ凪や晶を見て一刀は思う。

 

 

 

……どうしてこうなった!?

 

 

 

いや、答えはわかっている。自分の自業自得だろう。不本意だが、甚だ不本意だが、超絶に不本意だが今の名声は受け入れる。

 

 

 

 

……だから、これ以上、おかしな事にはならないでくれ!

 

 

 

北郷一刀の切なる願いだった。

 

そんな何処か世捨て人思想を持つ一刀だが、別に全てに置いて後ろ向きで距離を取りたい訳ではない。

 

ある事柄に置いては凪と同様に、いや、凪以上に積極的に行った行動もあった。それは

 

 

 

 

……人買いの殲滅である。

 

 

 

 

自分の身内以外はどうでもいいと思っている一刀が人買いに対してはあからさまに嫌悪感を示したのだ。

 

人買いを慈悲もなく殲滅していく一刀に晶は驚きの表情だったが、理由を知っている凪は人買いを惨殺する一刀の姿を悲しげな瞳で見つめていた。

 

一刀自身は別に人買いに拉致された事がトラウマになっている訳じゃない。只、どうしようもなく不快なのだ。

 

そんな一刀の気持ちを知ってか、知らずか、先程の村からの帰り道に今、居る場所から少し離れた集落を人買いが賊と手を組んで襲おうとしているとの情報を手に入れた。

 

一刀はその集落に急行する事を決める。他人がどうなろうと知った事ではないが、自分を不快にする連中を生かしておくつもりもない。

 

六刻(一時間半)後、集落の近くにたどり着いた一刀達が見たのは目標の集落から上がる火の手。

「間に合わなかったか……」

 

一刀はそう呟くが、元より集落の人間の生死に興味はない。一刀の頭の中にあったのは、自分を不快にする連中を殺せるかどうかだけ。

 

そんな一刀の耳に聞こえてくる悲鳴と断末魔の叫び。それらに心動かされる事なく、冷静に集落の状況を確認する一刀。

 

だが、冷静で居られたのは、そこまでだった。

 

逃げ惑う集落の人々の中に居たある女性の姿を見た途端

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀は疾風の如く集落へと駆けた。

 

 

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