真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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プロローグ 地獄の始まり

中国に着いた青年は、早速、銅鏡の情報を集める為に大陸各地を移動する事になる。

 

銅鏡自体は少し探せばいくらでもあったが、日本で見つけた物と同じ様に何かを感じる事はなかった。

 

自分の求める銅鏡の情報に至っては何の情報も集まらない。それはそうだと青年は思う。

 

あの世界では何故か通じた日本語は当然ながらこの中国では通じない。更に中国は同じ中国でも言語が違う地域があるのだ。

 

それに青年の求める銅鏡がどんな物なのかも現地の人間にはさっぱりわからない。青年本人もわかっていないのだから他の人間がわかる訳がない。

 

……はっきり言って現在の状況は詰んでいた。

 

そんな状況でも青年は気落ちはしていない。確かに銅鏡の情報を集めるのは難しくなったが、青年にはもう一つ中国でやろうと考えていた事があったからだ。

 

 

……それは、華琳達と駆け抜けた地域の足跡を辿る事。

 

かつて、陳留があった地から青年の旅は再び始まった。華北、徐州、揚州、荊州、洛陽、長安、涼州と巡る中でその地であった仲間達との思い出を思い出して青年は胸に込み上げる物を感じていた。

 

長い旅の末にたどり着いたのは華琳の覇道が果たされた地。……そして青年の終焉の地。

 

成都。夜にその地の近くの川のほとりに着いた時、青年の瞳から雫がこぼれ落ちる。

 

「華琳、俺は君に逢いたい」

 

ここ暫く、がむしゃらにあの世界に行く方法を探していた青年から初めて溢れた弱音。いや、渇望。

 

自分以外に誰も居ないその場所で、あの日と同じ頭上に満月が輝く中、青年は一晩中、川を眺めていた。

 

 

 

翌朝、青年は目の下に隈を作った顔で日本へと帰る為に行動を開始していた。後、一週間で夏休みが終わってしまうのだ。

 

銅鏡の手掛かりは得られなかったが、青年はどこかすっきりしていた。

 

彼女達との思い出の地を巡り、昨夜、心の内を吐き出したからだろう。勿論、あの世界に再び行く事を諦めた訳ではない、今までの様に焦って方法を探すのを辞めて、気持ちに余裕を持って探す事に決めたからだ。

 

……きっと、何時か、また会える。

 

何の根拠もないが、青年はそう思い定める事が出来た。

 

 

満たされた気持ちでの帰り道。日本行きの飛行機が出ている空港へ向かう青年にアクシデントが起きる。

 

空港まで後、二十キロの地点で路銀が尽きたのだ。思わぬアクシデントだが、青年に焦りはなかった。

 

帰りの飛行機のチケットの代金は既に払っている。空港まで距離は歩いてでも行ける距離。一つ問題なのが現在の時刻だった。

 

西の空に輝く夕日。そう、今夜の宿代がないのである。

 

青年は暫し考える。このまま夜を徹して歩くか、それとも適当な所で野宿するか。

 

 

暫くの思考の後に、青年が出した答えは野宿する事だった。学校の二学期の始業式まで、まだ、四日あった事が青年に焦りを感じさせなかったのだ。

 

何より、あの世界で夜営経験を積んでいた事が、青年の野宿に対する拒否感を軽減させていた。

 

だが、青年はその決断を数時間後に後悔する事になる。この地は治安の良い日本ではない。外国で見張りも居ない野宿をする事がどれだけ危険か青年は理解していなかった。

 

連日の旅の疲れか、野宿であるのに、熟睡している青年に忍びよる数人の男。

 

そして男達は、一斉に熟睡している青年に襲いかかった。青年は何が起こったかもわからないまま、手足を縛られ、目隠しと猿ぐつわを噛まされて男達に拉致される。

 

混乱の極致にいる青年に唯一わかったのは、自分の下から聞こえるエンジン音と感じる振動から、今、自分は車の中に居る事だけだった。

 

暫く時間が経って、混乱から立ち直った青年に次に沸き起こった感情は恐怖。そして後悔。

 

何故、こんな事になったのか?野宿なんてしなければ良かった。

 

悔やんでも悔やみ切れないが、だからといって現状が変わる訳ではではない。それでも悔やむのが、人間の(さが)なのだろう。

 

どれ位、走ったであろう。目隠しをされていて外の様子は伺えないが、青年の体内時計では間違いなく数時間は経っていた。

 

そんな事を考えていた青年の目隠しがいきなり外される。状況を確認しようとした青年の首筋にナイフが突き付けられた。

 

ナイフを突き付けた男が、何かを言っている。青年の知らない言語だった。男のボディランゲージで騒ぐなと言っている事だけは青年にも理解出来た。

 

青年が頷くと、ようやく首筋からナイフが遠ざかる。そしてナイフの代わりに男から突き出されたのは、食料だった。

 

青年はおっかなびっくりにその食料を口に運ぶ。

 

……不味かった。

 

けれど、それ以上に空腹だった。

 

青年は何とかその食料を食べ終えた。それを確認した男は再び青年に目隠しを被せる。

 

そこから数日は同じ事の繰り返しだった。車で数時間走った後、食事を与えられ、また車で数時間走る。

 

自分が何処に居るのかすらわからない。不安はあったが、恐怖自体は薄れて来ていた。今の状況に慣れて来た為だろう。

 

……自分が拉致されてから何日経ったのかな?

 

自らの体内時計では、数えるのが不可能になった頃、青年の目隠しが外される。

 

一瞬、食事か?と思ったが様子が違う。いつも、自分に食事を渡す男が車から降りろと手振りで伝えてきた。

 

男の指示に従い、車を降りた青年は眼前に広がる光景に唖然とする。

 

……明らかに自分が一ヶ月の間、旅をして来た中国の風景ではなかった。

 

青年の近くには、自分と同年代から歳上の男達が百人程、整列している。そして整列した男達の前に立つ二人の男。

 

その二人の男は鍛えぬかれた身体で、あの世界の武将クラスの凄みを漂わせていた。

 

そして二人の男の内の一人が青年に話し掛けて来る。男が話している言語は英語だった。

 

青年は安堵(あんど)する。英語なら多少はわかるからだ。

 

男から今の自分の状況を英語とボディランゲージで説明される。少し時間はかかったが、自分の置かれた状況を理解した時、青年は腰から崩れ落ちた。

 

青年が今、居る所は、中東の大統領が独裁政治を敷いている某国で、自分は反政府軍の兵として……簡単に言えばゲリラにさせる為に売られたのだ。

 

ここに居る百人程の若者達はゲリラになる為の訓練をする為に集まっているらしい。二人の男は元はアメリカ特殊部隊グリーンベレーの腕利きで若者達の教官として反政府軍に雇われている様だった。

 

余りの事に座り込み愕然としている青年に対して教官の男は

 

「明日からはお前も訓練に参加しろ」

 

そう言い残してその場から去って行く。その言葉は青年にとって無慈悲な宣告だった。

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