真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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触れてはいけないモノ

民達の自分を求める声、凪達の期待の視線を受けて、一刀は思う。

 

 

 

 

 

 

 

……もう、逃げられないな。

 

 

 

 

 

こういう状況になって考えるのは、静かに生きたいなんてやはり都合が良すぎる話だったという事だ。

 

自分は今まで、散々、その身を血に染めて生きてきた。そんな自分が安穏を望むのは、どうやら居るかどうかわからない神とやらが許してはくれないらしい。

 

ならば、自分は覚悟を決めるだけだった。

 

 

だが、それにしても腑に落ちない事がある。

 

 

 

 

……情報が出回るのが、余りにも早すぎるのだ。

 

 

 

何故、これ程の民が、今日、自分が交州を出るのを知っている?

 

交州を出る事を知っているなら、出る原因になった士徽を自分が殺した事も知っていると言う事になる。

 

それが既におかしいのだ。自分は証拠など一切残していない。目撃者は全て始末している。なのに一体、何処から漏れた……

 

この事を知っているのは、自分と仲間の数人だけ……

 

一刀はハッとして隣に居るある人物に目をやる。

 

 

 

 

……そこには、口元を微かに歪ませている風の姿。

 

 

 

 

「……お前の仕業か、風」

 

「ぐぅ~」

 

「寝た振りで誤魔化そうとするなら、お前を此処から突き落とすぞ」

 

「おぉ!お兄さんの非情な発言に眠気も覚めてしまいましたー」

 

「それは良かった。で、どうなんだ?」

 

「どうと言われましてもですねー」

 

「お前が民を煽動したのかと聞いている」

 

一刀のその言葉に風は心外そうな表情を浮かべ、

 

「お兄さんは風がそんな事する女に見えるのですかー?」

 

「あぁ、見えるな」

 

「おうおう、兄ちゃん、それはあんまりな言葉じゃねえか?」

 

「そうですよー。風は煽動なんてしていません」

 

「じゃあ、この騒ぎは何だ?」

 

「何でしょうねー?風はお兄さんが此処の城主を討った事とお兄さんが今日、交州を出る事を皆に教えてあげただけなんですけどねー」

 

 

 

……やっぱりお前じゃねえか!

 

 

 

一刀の苦々しい顔を見て、風はニヤリと笑い、

 

「後は凪ちゃんにお兄さんの事を相談しただけですよー」

 

 

 

……こいつ、よりにもよって凪を引き込みやがった!

 

 

 

してやられたと言うしかない。流石は魏の誇る三軍師の一人。的確に一刀の弱点を突いてくる。そして、三日でこの舞台を作り上げた手腕。

 

……あぁ、見事だよ!おかげで俺の逃げ場はなくなった。此処で立ち上がらない選択肢なんか選んだ時点で俺の株はガタ落ちだ!

 

別に赤の他人にどう思われようが知った事ではないが、期待に満ちた目で俺を見てるこいつらを裏切る事は出来ない。

 

そこまで考えての策なんだろうな。ムカつく程に風は今の俺を良く見てる。でも

 

 

 

 

 

 

 

……これが人間のやる事かよぉぉ!

 

 

 

 

 

「今のお兄さんに人としての所業を突っ込まれるのは、流石に風としては心外なのですよー。晶さんにした事、ご本人から聞いてますよー」

 

風が他の皆に聞こえない様にそう呟く。

 

……ぐうの音も出ない正論だった。と言うか心を読むな。

 

「良かったですねー。晶さんがお兄さんの詐術に気付く前にその心をげっとしておいて……」

 

風の俺を見る目が冷たい。それより、晶はあの時の事を気付いているのか?

 

一刀が後ろに立つ晶に振り向くと、晶はいつも通り男前な立ち振舞いで一刀の背後を守る様に控えている。

 

目が合うと微笑みを返して来る晶を見た時、一刀は悟った。

 

 

 

……全部バレてる。

 

 

 

「晶さんに対して責任を取らないと、いくら心の広い風としてもお兄さんには幻滅するでしょうねー」

 

「……わかってる。元よりそのつもりだ」

 

「それなら良いのですよー。あっ、風の事も宜しくお願いしますねー」

 

……便乗すんな。もちろん責任は取るけどな。

 

「さぁ、お兄さんの言葉を待っている民に声を掛けてあげて下さい」

 

……えっ、もう立ち上がるの確定!?いや、もう覚悟は出来てるのだが、このまま風の思い通りになるのは面白くない。

 

そう思った一刀は足掻けるだけ足掻こうと試みる。

 

「なぁ、風、俺が天の世界での事は語らないと言っといて何だが、俺は天の世界で国を一つ建ててからこの世界に戻ってきたんだ」

 

「おぉ!お兄さん、風達の前から姿を消している間、そんな面白そうな事をやっていたんですねー」

 

……これっぽっちも面白くなかったよ!!むしろ、地獄だったよ!!

 

しかし、それを風に言った所で意味はない。

 

「でだ、俺は自分で言うのもあれだが、偉業を成し遂げた訳だ。だから、残りの生はのんびり過ごしても……」

 

「国を一つ建ててきたお兄さんなら、州の一つ位余裕ですねー」

 

一刀の言葉に被せる様に風が言い放つ。

 

 

 

「……どうあっても、俺を担ぎ上げたいのか?」

 

「そうですよー。風は暫くの間、お兄さんを観察していましたけど、昔のお兄さんと違い、今のお兄さんなら一国の王として楽にやっていけるだけの器量はあると判断しました」

 

「それは買いかぶりだ」

 

「天の世界で国を建国されたんですよねー」

 

風がニヤニヤしながら一刀に突っ込む。

 

……いらない事を言わなければ良かった。

 

「……それに、今のお兄さんからすれば、州牧や王の地位に就く事なんて余興と変わりはないじゃないですかー」

 

風のその言葉は一刀以外には聞こえなかったが、一刀の心の奥底に突き刺さる。

 

「……どういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味ですよー。……今のお兄さんはどんな事にも怖れない。それが例え自分の死であってもお兄さんは鼻唄混じりで死ねると風は思っています」

 

風の目が妖しく光る。

 

「そんなお兄さんが地位や立場で臆するなんて有り得ないのですよー。今、そうして狼狽えてたりするのは演技だと風にはわかります」

 

「……」

 

「皆さん、気付いていないのか、気付いていて何も言わないのか風にはわかりませんが、はっきり言わせてもらうなら、恐怖という感情や生への欲望を失っているお兄さんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人として壊れています』

 

 

 

 

 

 

 

……あぁ、本当に今の俺を良く見ている。

 

 

 

 

 

 

思わず殺意が湧いてしまいそうになるくらい……

 

 

 

 

一刀の全身から凄まじい殺気が滲み出る。その殺気に周囲の空気が凍り付く。

 

「隊長!どうなされたのですか!?」

 

「一刀様!これは一体何が!?」

 

「兄さん!」

 

一刀と風の会話を聞かない様に距離を取っていた凪達が一刀の殺気に気付き駆け寄って来た。

 

一刀の殺気を直に受けた風はその場に座り込んで冷や汗をかいていた。一刀はそんな風を見下ろしながら憤怒を込めた言葉を発する。

 

「……風、人には触れられたくない領域という物がある。どうして俺がこうなったか知りもしないお前が、物知り顔で俺を語るな!」

 

「……お…兄…さん」

 

「風、お前だからこうして警告している。これが今此処に居る人間以外がお前の言葉を言ったなら、即座に首を撥ね飛ばしている。……それが例え華琳が言ったとしてもだ」

 

一刀の言葉が本気だという事がわかったのだろう。その場にいる凪達全員の顔が青ざめていた。

 

「二度は言わない。わかったな?」

 

「……はい」

 

「わかったならもういい」

 

一刀はそう言いながら風の頭を撫でる。そして風が落ち着いたのを見て一刀は気になっていた事を尋ねた。

 

「で、風はどうして俺を担ぎ上げたいんだ?」

 

「……今のお兄さんは危ういのですよ。何かで縛り付けて置かないと、取り返しのつかない事になると思っています」

 

「それが、民や地位という訳か……」

 

「……」

 

……不器用な奴だ。頭はずば抜けて良いのに、いや、ずば抜けて良いから遠回しな手を打つ。素直に死なないでくれと言えば良い物を……

 

けれど、それが天の邪鬼な風の自分に対する思い遣りなのだろう。ならば、自分のやる事は決まっていた。

 

風以外の皆も期待してる事だしな。

 

「……しょうがない。俺がそうする事で風が少しでも安心するなら、俺は立ち上がろう。凪達も俺に付き合ってくれるな?」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それと、軍師が必要になった。程仲徳、お前を俺の筆頭軍師に任じる。……引き受けてくれるか?」

 

「風の力が及ぶ限り、お兄さんの為に知恵を搾るのですよー」

 

皆の決意の顔を見た一刀は一度大きく頷き、未だ歓声を挙げ続ける民に向き直り己が言葉で語り始めた。

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