真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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命の答え

幼い頃から病弱だった。

 

心の臓の病。自分の家の医者からは二十までは生きられないと宣告されていた。

 

自分の家は漢王朝で代々続く名家で財産はある。母はその財産を使い自分の家の医者だけではなく、あらゆる所から医者を呼び寄せて、自分を診せたが、どの医者も答えは変わらなかった。

 

病は遺伝だった。父も自分ほどではないが、心の臓を患っていた。その父は末の弟を母が身籠っている時に亡くなっていた。

 

八人の兄弟、その中で病を患っていたのは自分一人。何故自分だけが、そんな思いを抱いたのは一度や二度ではない。

 

外で元気に走り回る他の兄弟、外に出る事すらほとんど出来ない自分。

 

心に鬱屈した物が溜まっていく。身体さえ動けば、他の兄弟に決して負けない。幼いながらもその自負はあった。

 

だが、自分がいくらそう思おうと現実は変わらない。刻一刻と迫り来る死と相対する毎日。

 

そんな身体だから友も居ない。母も自分の事は諦めたのか、使用人を一人付けて後は放置だった。

 

恨みはしなかった。無理もない。他に期待出来る子供が七人も居るのに、二十まで生きられない自分に関わっている暇はないだろう。

 

外にほとんど出られない自分にとって、書物だけが友と言える存在だった。幸い、自分の家は読む書物で困る事はない。家にない書物でも母に言えば、次の日には自分の部屋に置かれている。

 

書物を読むのは楽しかった。自分は乱読家らしく、史書、政書、兵法書、経済書、農法書、詩に至るまで、何でも読んだ。

 

知識が増える度、自分に出来る事が増えた様な気がして嬉しかったのだ。

 

それと同時に虚しさも感じていた。どれだけ知識を蓄えても自分がそれを役立てる事はない。

 

 

 

……絶望していた。

 

 

 

確かに自分は衣食住に困る事はない生活を送っている。それでも大抵の人に与えられる健康な身体と言う物がないのだ。

 

広い屋敷の中で耐え難い苦痛を感じながら死ぬ時を待ち続ける日々。

 

 

 

……彼女に出会ったのは、そんな時だった。

 

 

 

その日は、珍しく体調が良く、使用人を連れて自分は書物を求め街を歩いていた。

 

ふらりと立ち寄った書店。其処に二人のお付きの少女を従えた彼女が居た。

 

輝く様な金色の髪、それに負けない可憐な容姿、何より自分を惹き付けたのは、彼女から溢れる生命力。

 

自分とは正反対の彼女の存在に、一瞬で絶望で色を喪っていた世界が鮮やかに色付いていく。

 

人と会わない生活をしていた故に経験がなかったが、

 

 

 

 

……これが恋と言う感情である事は直ぐにわかった。

 

 

 

 

自分が見とれている事なんて、気が付かない様子で彼女は書物を何冊か購入し、去っていく。

 

そんな彼女の背中を見えなくなるまで見送った後、自分は使用人に頼み、彼女の事を調べる様に告げる。どうしても彼女の事を知りたかった。

 

死を待つだけの生を送る自分にこれほどの情熱があるとは思っていなかった。自分は冷めた人間だと思っていたからだ。

 

使用人の報告で彼女が曹家の令嬢にして後継ぎだと知ったのは、数日後の事。

 

その事を知った時は落胆の気持ちを隠せなかった。彼女の家が名家だからではない。確かに曹家は漢でも有数の名家だが、自分もそれに負けない司馬家の人間だ。

 

家の釣り合いは取れていた。問題は彼女が後継ぎだと言う事だ。結婚するとしたら間違いなく婿を取る事になる。自分は次男で婿に行く事自体に支障はない。

 

だが、二十まで生きられないと言われている人間を曹家は婿にしようとは思わないだろう。

 

 

 

……どこまでいっても自分の邪魔をする身体だった。

 

 

 

それでも今までと違い、絶望はしなかった。自分はまだ生きている。生きていると言う事は可能性があるのだ。

 

そこまで考えて我に返る。自分は彼女と一緒になれる方法を探しているが、彼女は自分の事を知りもしない。

 

先走りも良い所だった。されどお互いに顔も知らない相手と結婚するのは、名家の生まれなら当たり前の事でもあった。

 

その日から、身体を動かす事を始めた。やれる事から始めようと思ったのだ。

 

自分の身体は少し動かすだけで悲鳴を上げる。気を失う事も珍しくはなかった。

 

それでも辞めようとは思わない。どうせ死ぬにしてもやれる事を全てやってから死にたかった。

 

自分が必死に身体と戦っている間にも世は動く。漢王朝は腐敗し、大陸各地に賊が横行する。

 

乱世の始まりだった。彼女も陳留の太守としてその流れの中へと飛び込んで行く。

 

乱世が進むに連れて覇王の階を昇る彼女。その彼女を支えるのは天の御遣いと言われる北郷一刀。自分は見ている事しか出来ない。

 

 

……悔しかった。どうして其処に居るのが、自分ではないのだ!

 

 

自分は北郷一刀に嫉妬していた。だからと言って現状は変わりはしない。今の自分には何も出来はしないのだ。

 

自分が悔しさで歯噛みしている間に彼女は大陸を平定するという覇業を成し遂げていた。

 

 

 

……魏の覇王、曹孟徳。

 

 

 

彼女は既に自分の手の届く存在ではなくなっていた。唯一、自分の心を慰めたのは、彼女の覇業に重きを為した北郷一刀が天の世界に帰ったと言う事だけ。

 

そんな事で心を慰めている自分に反吐が出そうだった。北郷一刀が居なくなったからといって、自分が彼女と一緒になれる訳ではない。

 

周りが三国同盟に浮かれる中、一人屋敷で鬱ぎ込む。それから数ヵ月後、自分は十九になっていた。

 

医者から宣告された死まで一年を切っている。心にあるのは、焦燥感と諦観という相反する二つの感情。

 

……ここで死ぬなら自分の生は一体、何であったのだろう?

 

その疑問に答えてくれる者は居ない。故に自分に問いかける。

 

しかし、いくら問い続けても答えは出ない。思考はぐるぐる回って最初の疑問に行き着く。無限の回廊を歩いている様な物だった。

 

 

 

……命の答え。

 

 

 

今の自分にはわからない。いや、それを知っている人間など居ないのかも知れない。自分の生の意味を考えて生きている人間はそう多くはないだろう。ならば自分は土に還るその日まで問い続けよう。

 

そこまで考えた時、自分の中の焦燥感や諦観が消えた。

 

日が経つ事に弱っていく身体。寝台から見える窓の景色だけが自分の世界。外では雪が舞う。

 

凍える様な寒さの中、そんな寒さに負けずに咲く冬の花が自分は好きだった。

 

自分にない強さを持っていると思ったからだ。そんな冬の花を飽きる事なく眺める。

 

死ぬ覚悟は既に出来ていた。恋をした彼女とは話をする事も出来なかったが、それも自分の天命だろう。只、一つ気掛かりなのは、使用人の少女。

 

少女は自分の世話役にする為だけに母が引き取った孤児だった。自分が死ねばどうなるのか?

 

懸命に自分に仕えてくれた少女。どうか幸せになって欲しかった。

 

そういえば今日はその少女の姿を見ていない。普段はいつでも自分に近くに居るのに……

 

「八雲様!!」

 

たった今、頭の中に居た少女の大きな声に驚くと同時に安堵する。

 

自分の元へ姿を現した少女は一人ではなかった。少女の背後にはまだ若い赤髪の青年。

 

 

 

 

 

 

 

 

……それは自分にとって奇跡の始まりだった。

 

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