真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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想いの枷

街が賑わっていた。

 

商人達は通り掛かる人にしきりに声を掛けては売っている商品を薦めている。

 

一刀が辺りを見回すと、漢の商人だけではなく、越南の商人や仮想敵である五湖の商人の姿もあった。

 

仮想敵という事になってはいるが、一刀にとって、五湖の人間なだけで、敵になる訳ではない。

 

この大陸に住む者は五湖をひとくくりにして、目の敵にしているが、五湖の人間にも戦いを望まない者も多かった。

 

そういう人間に対しては、一刀は交州で市を開く許可を与えていた。

 

別に博愛主義に目覚めた訳ではない。五湖の品物と税収目当ての政策だった。

 

勿論、間者には細心の注意を払っており、一刀が視線をぐるりと回すだけであちこちに屍鬼隊の兵が民に紛れ混んでいる。

 

「隊長、異常はありません」

 

隣に居る凪が一刀にそう報告する。その顔は何処か嬉しそうだ。

 

一刀は今、凪と二人で交阯の街を巡回していた。

 

……二人だけの北郷警備隊。

 

それは一刀からすれば懐かしくもあり、物悲しくもある。本来居るべき人間が二人も居ないのだ。

 

「……なぁ、凪は後悔はしてないのか?」

 

……聞くつもりはなかった。それでも言葉が出てしまっていた。

 

一刀が何を聞いたのか、凪にはわかったのだろう。優しげな微笑みを浮かべ、

 

「後悔などしておりません。隊長の居る場所が自分の居るべき場所ですから」

 

「……そうか」

 

その言葉を最後に二人の言葉が途切れる。

 

人が行き交う街の中で立ち止まる二人、一刀はそっと凪の手を握る。一瞬の間の後、凪は一刀の手を握り返す。

 

握り返された手の暖かさが一刀にとって何よりも愛おしかった。

 

「……行くか?」

 

「……はい」

 

そこからは巡回という名の逢い引き。

 

「隊長、あれは何ですか?」

 

凪が指差したのは、越南料理の屋台。

 

「見てみるか?」

 

「はい!」

 

一刀は凪と屋台に向かった。

 

「らっしゃい!」

 

「親父、二人分だ」

 

「はいよ!」

 

店主が威勢の良い声を上げ、二人分の器に料理を盛り付ける。

 

「はい、お待ちどう!」

 

店主から差し出された乳白色の料理を見て、凪が固まる。

 

「……隊長」

 

「凪、言いたい事はわかるが、とりあえず食って見ろ」

 

「……はい」

 

凪は意を決して、料理を口に運ぶ。

 

「……甘い、甘いです隊長!」

 

凪の興奮した様子を見て、一刀も料理を口に運ぶ。

 

「これは、越南でも南の方の料理だな。ココナッツミルクと砂糖がふんだんに使われている」

 

「ここなつ?」

 

「あー、椰子の木はわかるか?」

 

「いえ……」

 

「越南にはその木が沢山生えていてな、その木に成る実の中に入っているのが、ココナッツミルクという液体なんだ」

 

「そうなのですか、でも漢の地ではその木は見た事ないです」

 

「椰子の木は一年中、暖かい気候でないと成長しない。恐らく、漢の地では冬が寒過ぎるんじゃないか?まぁ、俺もこの大陸の全てを見た訳ではないから断言は出来ないけどな」

 

と言うより、ベトナム料理自体がフランスの占領下時代にフランス料理の影響を受けて出来た料理で、この時代に此処にある事が既におかしいのだが、それは言わなかった。この世界でそんな事を突っ込んでいたらキリがない。……阿蘇阿蘇なんて物もあるのだから。

 

「味の方はどうだ?唐辛子ビタビタが好きな凪にはこの料理は甘過ぎるかも知れないが……」

 

「隊長、自分が辛い物しか食べない様な言い方は止めて下さい。自分も女ですから甘味も食べます。……確かに唐辛子ビタビタが一番好きですけど……」

 

少し拗ねた様な表情を浮かべる凪、一刀はそんな凪の頭をクシャクシャと撫でて謝る。

 

「それは、悪かったな」

 

「いえ、怒ってはいません。隊長がそう思うのもわかりますから」

 

撫でられながら、笑顔を浮かべる凪。一刀はその笑顔に心が動くのを感じていた。

 

それから、二人は色んな店を冷やかしながら、今日という日を堪能する。其処にいるのは、王と将軍ではなく、一組の男と女。

 

……夕暮れ、多くの店が店仕舞いを終えて、閑散とした街。

 

「凪」

 

一刀は隣の凪に話し掛ける。

 

「はい」

 

「左手を貸してくれないか?」

 

一刀はそう言いながら、返事を待たず、凪の左手を取る。そして薬指に買っておいた指輪を嵌めた。

 

「……隊長、これは?」

 

「……婚約指輪だ」

 

「……婚…約……指輪」

 

「天の世界では、結婚を約束する相手に指輪を送る風習があるんだ」

 

「隊長!それは!?」

 

「凪、全てが終わったら、俺と結婚してくれないか?」

 

……その時、一陣の風が吹いた。

 

一刀は思わず、腕で顔を覆う。風が止み、腕を下ろした一刀の視線の先には涙を流す凪の姿。

 

……そして

 

「喜んでお受け致します」

 

凪はそう、はっきりと答えた。

 

「そうか!……そうか…良かった」

 

一刀は心底ホッとする。断られる事はないとわかってはいた。指輪もかなり前に購入していた。

 

只、言う機会がなかった、いや、ずるずると引き延ばしてしまっていた。

 

プロポーズする事に臆していた訳ではない。一刀の心にあったのは罪悪感。

 

自分だけが幸せになる事を元の世界で死んでいった戦友達に何て言えばいい……

 

一刀の心に常にあったその想い。

 

その想いにようやく踏ん切りをつけて、今日、凪にプロポーズしたのだ。

 

「ですが一つ約束して下さい」

 

「……なんだ?俺に出来る事なら何でもするぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう、二度と自分を置いて、何処にも行かないで下さい。…………待ち続けるのは辛いですから』

 

 

 

 

 

 

涙で潤んだ目で、一刀を見つめる凪。

 

「わかった」

 

その目を見て、断る事なんて一刀には出来なかった。それと同時に自分に枷が付いた事を実感する。

 

今でも死ぬ事なんて、何とも思ってない。けれどそう簡単には死ねなくなってしまった。

 

……それでいい。凪が笑ってくれるなら、その枷を喜んで受け入れよう。

 

昼と夜の一瞬の隙間。夕焼けが二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




えんだぁぁぁぁぁ!!いやぁぁぁぁぁ!!





悪ふざけです。すいません(笑)
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