真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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輝く眼光

陽炎が揺れていた。

 

大地を焼く、灼熱の日差しの中、一刀は目にも映らぬ速さで駆ける。

 

何処へ向かう訳でもない。只、駆ける。それだけを繰り返す。

 

一体、どの位の時を駆けただろうか?気の枯渇を感じ、一刀は地面に倒れこんだ。

 

熱を持った土が一刀の肌を焼く、それを避ける為に身体を動かすが、その動きは先程までの動きとは正反対で緩慢な物だった。

 

「……やっぱり、そう上手くはいかないか」

 

自由の効かない身体をゆっくりと起こし、一刀は呟く。

 

一刀がやっているのは、瞬刻の弱点克服の為の鍛練だった。

 

瞬刻は目にも映らぬ速さで敵を惨殺する一刀の切り札の一つであるが、弱点がない訳ではない。

 

むしろ、弱点だらけの欠陥技と言える。

 

一つ、発動までのタイムラグ。気を脚に重点的に集めて爆発させ移動するまでの工程に二秒程の時間が掛かる。

 

二つ、戦いの中に組み込めない事。これは発動までのタイムラグと複合するのだが、気を脚に集めて発動するまでの二秒間、気を扱う事に集中する為、一刀自身が無防備になる。もし一騎討ちの最中に使えば、命は一つしかないが、三回は死ぬ事になるだろう。

 

そして最後は使った後の一刀のパフォーマンスの低下。体内の気を一気に消費する為、使った後、一刀の武は数分間、通常の状態の六割程に低下する。

 

言ってしまえば、瞬刻は初撃で敵を殲滅出来る時にしか使えない技で、それさえも春蘭や霞クラスが相手だと凌がれる可能性があった。現に鍛練の時に晶が一度防いで見せたのだ。

 

 

 

外から見れば、輝く黄金の様な無敵の技に見えても、内から見れば、金のメッキを貼り付けただけの弱点だらけの技。

 

されど、メッキさえ剥がされなければ、無敵の技に見え続けるのも、また、事実だった。

 

だが、一刀はその事実に満足はしていない。メッキを本物の金にする為に鍛練をしているのだが結果は芳しくはなかった。

 

自分が求め過ぎているのはわかっている。今の状態でもこの世界の戦いでは、ほぼ間違いなく自分は死なない。

 

 

……しかし、絶対ではなかった。

 

 

当たり前だ。戦争に絶対なんて物はない事は自分が一番良く知っている。

 

 

……そう、知っている。それでも一刀には死ねない理由が出来た。

 

だからこそ足掻くのだ、ほぼ間違いなくを絶対に近付ける為に……

 

暫くの時が経ち、一刀はようやく自由になった身体を動かし、城に戻る。

 

城は騒然とした雰囲気に包まれていた。それを尻目に一刀は自分の部屋に戻り、身体を拭き、黒の軍服に着替え、軍用リュックを背負う。

 

頭の中にあったのは、とうとう、この時が来た、それだけだった。

 

一刀がまず向かったのは調理場、そこで侍女を呼び止め、

 

「この二つを二刻ほど茹でて、玉座の間に持って来てくれ。あっ、こっちの方を茹でるのは芽を取ってからな」

 

と言付ける。

 

侍女に渡したのは、一刀が元の世界から持って来た、食糧面の切り札。腐らない内にこっそりと栽培していた物。

 

それを侍女に渡した一刀は玉座の間に向かう。背負ったリュックの中で金属がぶつかる音がした。

 

これから本格的に戦争が起きる。一刀は自重する気がなくなっていた。三国と晋と比べれば、自分の勢力は小さい。使える物は何でも使うべきだろう。

 

一刀が玉座の間に到着すると、既に凪達は揃っていた。リュックを背負った一刀に凪達は怪訝な視線をむける。一刀はそんな視線を受けながら、リュックを降ろし玉座に腰掛けた。

 

「評定を始める」

 

一刀のその言葉で場が引き締まる。そんな中で、真っ先に声を上げたのは風だった。

 

「……風からお兄さんと凪ちゃんに言わなければならない事があります。それは「司馬懿の事か?」」

 

風の言葉に一刀が口を挟む。一刀の言葉に風は僅かに驚きを浮かべ、

 

「……お兄さんは何処でその情報を?」

 

「さてな、そんな事より他の皆に説明してやってくれ」

 

一刀の言葉に風は納得いかない様な表情を浮かべていたが、それを言葉にする様な真似はせずに、魏で起こった事の説明を始める。

 

皆がその説明を真剣に聞く中、凪が一人、どこか落ち着かない様子を見せている。真桜と沙和が心配なのだろう、と一刀は思った。

 

暫くして風の説明が終わった時、一刀は風に問いかける。

 

「風、お前に聞きたい事が二つある」

 

「何でしょうかー」

 

「一つは司馬懿がどういう人間なのかだ。俺も俺なりに調べているが、面識のあるお前に聞くのが一番だろう」

 

「……そうですねー、一言で言えば華琳様しか見てない人と言うのが、一番わかりやすいのではないかと」

 

「それは主君としてか女としてか?」

 

「女としてですねー」

 

「……なるほどな」

 

「勿論、持っている才は素晴らしい物ですよー。魏での位は風より上でしたし、何より華琳様が婿に迎える程ですからー」

 

「……まぁ、司馬懿ならそうだろうな」

 

一刀は自分の世界での司馬懿を思い出し呟く。三国時代、最後の勝利者である男が無能な訳がない。この世界でもそれは同様な様だ。

 

「おや、お兄さんは司馬懿さんを知っているのですかー?」

 

「俺の世界の司馬懿ならな、この世界の司馬懿は知らん」

 

「……そうですか」

 

「風、お前の話を聞いて、納得出来ないのは、何故司馬懿は反乱を起こしたんだ?華琳しか見てないって事は地位や名誉に執着する男ではないんだろ?華琳と結婚した現状で反乱を起こす理由がない様に思えるんだが……」

 

「それは、風にもわかりませんねー。……只、推測する事は出来ます」

 

「……聞かせてくれ」

 

「まず、最初に言っておかないといけないのは、華琳様は今もお兄さんの事を想い続けています」

 

「……」

 

風の言葉を聞いても、一刀の表情は変わらない。只、微かに心が動いた様な気がした。

 

ふと、視線を逸らすと、凪が一刀を真っ直ぐ見つめている。

 

その視線には、一刀を包みこむ様な暖かさがあった。一刀はそんな凪の視線に自分は大丈夫だと言わんばかりに笑みを浮かべて返す。

 

「華琳様が結婚されたのは、お兄さんも察している様に、自分の立場を考えての事でしょう。……それだけが理由ではないですが」

 

「他に理由があるのか?」

 

「はい。……恐らく、華琳様はいつ、この世界に帰ってくるかわからないお兄さんを待ち続けるのが怖くなったのだと思います」

 

「……そうか」

 

「風から見た華琳様と司馬懿さんはそれなりに上手くやっていた様に見えましたが、華琳様の心にはお兄さんが住み着いたまま、華琳様を愛する司馬懿さんがそれに気が付かないはずがない。それでも結婚した以上、いつかは自分を見てくれると信じていたのでしょうねー」

 

「では、何故この時に反乱を起こした?」

 

「……お兄さん、この一年半で大陸に何が起きました?」

 

「何がって……」

 

そこまで言って、一刀はハッとする。

 

「……俺の帰還か」

 

「はい、司馬懿さんが華琳様の心に気付きつつ、今まで行動を起こさなかったのは、華琳様がいくらお兄さんを想っていてもお兄さんがこの世界に居ない。それが、わかっていたから、焦る事はなかったのでしょう。実際にお二方は結婚された夫婦ですし。……ですが、その前提がくつがえされたらどうなると思いますかー?」

 

「……なるほど、力を持って手に入れるという方法に出た事か。かつて、華琳も同じ様にして大陸を平定したしな」

 

「幸か不幸か、司馬懿さんはそれをやるだけの器量を持っていますからねー。そして司馬懿さんの一番の標的は……」

 

「俺って訳か」

 

一刀はそこまで言って、笑声をあげる。

 

そんな一刀を凪達は驚きの表情で見つめていた。

 

ひとしきり笑った一刀は、言葉を発する。

 

「一人の女の心を手に入れる為に、ここまでの事をするとはな。馬鹿だ、実に馬鹿だ。だがそんな馬鹿は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嫌いじゃあないぜ』

 

 

 

 

 

 

 

そう言い放った一刀の目は鋭く、そして光輝いていた。

 

 

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