真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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プロローグ 新たな絆 そして戦場へ

……生き残れた。

 

青年はそれ以外の事を考えられない。それほどに過酷な十日間だったのだ。

 

隣に立っているラキが青年の肩に手を置いて話し掛けて来る。

 

「何とか、生きて山を降りる事が出来たな。……カズには感謝している。カズが居なけりゃ俺は死んでいた」

 

ラキは三日目に滑落事故に巻き込まれそうになっていた。落ちる寸前、咄嗟に青年がラキを支えた事で難を逃れたのだ。

 

「何言ってんだよ、俺だってラキには助けられてる。夜、熟睡しそうになった時、何度も起こしてくれたじゃないか。ラキが起こしてくれなきゃ、そのままあの世行きだったさ」

 

青年自身も、実際に危ない場面は何度もあったのだ。二日目からラキとチーム組んで行動していなかったら、青年は今、此処には居ない。

 

「カズ、お前とチームを組めて良かったよ。訓練の途中で気付いたんだが、今回の訓練は他の人間と協力する事を前提に組まれた訓練だった」

 

……そうなのだ。今回の訓練は一人でクリアするのは、はっきり言って至難の技と考えていい。

 

走る事自体は初日から三日間位は苦しかったが、それ以降は身体が慣れて来てそれほどでもなかった。

 

一番苦しかったのは寒さと睡魔だ。寝たら死ぬとは言え、十日間、全く寝なくても死ぬ事には変わりはない。

 

残された方法は死なない程度に小刻みに睡眠を取るという方法。

 

だが、この方法は一人では無理だった。一人なら一度寝たら間違いなく二度と目覚める事はない。起こしてくれる人間が絶対に必要だった。

 

実際に一人で行動していた人間が朝になったら死んでいたケースが多発したのだ。青年とラキはこの方法でお互いに睡眠を取り生き残る事が出来た。

 

「それにしても、随分と減ってしまったな……」

 

ラキが周りを見渡し、悲しげな顔をして呟く。

 

今、此処に居るのは、青年とラキを合わせても五十人。

半数以上があの山で死んでいた。

 

生き残った者達も、身体は痩せて、顔を肉は削げ落ち、立っているのが、不思議な位にボロボロの状態。

 

……只、目の光だけは異様な輝きを放っていた。

 

 

「どうやら、ウジ虫から獣位にはなれた様だな」

 

 

生き残った男達の前に姿を現した教官がそう吐き捨てる。その言い方で一瞬、沙和の事を思い出したが、それ以上に殺意しか湧かない。

 

この訓練自体が効果的なのは認める。この後の訓練も並大抵の事では脱落しない自信も出来た。それでも思うのは

 

 

……一体、何人死んだと思ってやがる!

 

 

その一言だった。

 

身体の内から殴り飛ばしたくなる衝動が溢れ出そうになるが、何とかそれを堪えて教官の話を聞く。

 

「一先ず、生還おめでとうと言っておこう。終わった今だから話すが、この十日間はお前達の能力を見極める為に試させてもらった。この訓練で必要な能力は基礎体力、状況判断力、後は周囲の人間と協力出来るか、この三つの内一つでも欠けている奴は今、この場には居ない。逆に言えばこの訓練の目的に早く感付いた奴は優秀だと思っていい。……なぁ、カズ、ラキ」

 

いきなりの名指しに青年とラキの顔が一瞬強張る。

 

「特にカズ、お前は初日からこの訓練の最適解を最後まで出し続けた。はっきり言って俺達が今まで見てきた奴らの中で現段階ではお前はとびきりに優秀だ。……お前、過去に軍事訓練を受けた事があるんじゃないのか?」

 

「い、いや……」

 

「ははっ、そりゃないか。お前は日本人だもんな。まぁ、いい、お前には期待してるぜ、サムライボーイ」

 

そう言って、教官は青年の肩を軽く叩いた後、他の男達に向かって話を続ける。

 

「明日は一日の休日。明後日から本格的に戦闘訓練に入るからその積もりで準備しておけ。……あぁ、ラキ、お前も英語は理解出来たな。カズはアラビア語を話せないからお前が他の奴らに俺が言った事を伝えておいてくれ。スティーブンのボディランゲージでは上手く伝えきれないだろう。それと、明後日から通訳も頼む」

 

教官が去って行くのを見送った後、青年を含め、全ての男達がその場で崩れ落ちる。

 

……身体の限界が来ていた。宿舎まで歩くでさえ苦行に感じられ、外なのにも関わらず、五十人の男達は一斉に眠りついたのだった。

 

 

 

 

一日の休みの後に始まった訓練は青年にとってはそれほど苦しい物ではなかった。

 

体力的にはキツい物であったが、最初の訓練が命懸けの

ちょっと頭がおかしい訓練だったので、相対的に楽に感じてしまう。

 

それは他の者達も同じな様で、緊張感はあるのだが、何処か余裕を持って訓練に取り組んでいた。

 

一日の訓練内容は午前にボディランゲージをしていた方のスティーブンから火器の取り扱い、偵察の方法、トラップの張り方を学び、午後からは訓練兵に話し掛けていた方のレオナルドからはサバイバル訓練とあらゆる近接戦闘術を叩き込まれる。

 

青年は全体的に優秀な成績を叩きだしていたが、特に近接戦闘術の成績が他の訓練兵と比べてずば抜けていた。

 

それを見たレオナルドが全体の訓練が終わった後、個別で青年に訓練を施す様になる。

 

レオナルドの訓練は厳しかった。全体の訓練が遊びに思ってしまう位にしごかれた。

 

訓練中、自分は虐められてるじゃないのかと邪推したが、訓練の後に話し掛けてきたレオナルドから理由を聞いてその誤解も解ける。

 

どうやら自分は近接戦闘の才能があるらしい。正直、初めは信じられなかった。

 

あの世界で彼女達を見てきた立場からすれば、自分には彼女達の様な才能はないと思ってもおかしくないだろう。

 

けれどレオナルドは青年の才能をベタ褒めしてくる。半信半疑だった青年がレオナルドを信じようと思ったのはレオナルドとの模擬戦だ。

 

 

……強かった。流石は元グリーンベレーの腕利き。

 

 

青年が知っている強者と比べるなら、春蘭や霞には劣るが気弾なしの凪と同等か少し上と思える程に強かった。

 

そんな強者が自分を鍛えてくれると言うのだから断る理由はない。戦場に出る事が確定している青年からすれば強くなれるだけ強くなりたかった。

 

その日から全体訓練が終わった後の個別訓練が始まった。青年がレオナルドの持っている技の中で最も目を惹いたのは、細く長いワイヤー使ったサイレントキリングとその辺の石ころで野鳥などを仕留める投擲技術。

 

その技術を自分にも教えてくれる様に頼んだ、頭を地面に擦りつけて頼み込んだ。

 

レオナルドは引き吊った笑いを浮かべていたが、了承してくれた。

 

青年の訓練はより一層熱が籠る。かといって訓練だけをしていた訳ではない。空いた時間には積極的にラキや他の訓練兵と交流を図っていた。

 

初めはボディランゲージ中心の交流もラキからアラビア語を教わり、訓練開始から三ヶ月経つ頃には、一般的な会話は問題ないくらい上達していた。

 

いくら追い詰められている状況とは言え、三ヶ月で他国の言葉を覚えた自分を褒めてやりたい気持ちになる。

 

訓練にしても言語にしても一々、一喜一憂する姿が面白く思ったのか、いつしか訓練兵は青年の周りに集まる様になっていた。

 

 

 

そして訓練が始まって六ヶ月が経った頃……

 

 

 

青年の前で、レオナルドが崩れ落ちる。激しい息遣いの中、青年は言葉を絞り出す。

 

「……勝ったのか?」

 

「あぁ、お前の勝ちだ、カズ」

 

「勝った……俺が……レオナルド教官に……」

 

「ったく、才能はあると思ってたが、まさか半年で追い付かれるなんて予想外だ。……カズ、お前には俺の全てを叩き込んだ。もう、教える事はねえよ。明日の訓練期間の終わりの前に良い記念になったじゃないか」

 

「レオナルド教官……ありがとうございました!!」

 

「カズ、お前は三日後には戦場に赴く事になるだろう。俺からの最後の忠告だ。戦場では人を殺す事を迷うな!迷えばお前が死ぬ事になる」

 

「はい!自分には生きなければならない理由があります!だから……迷いません!」

 

「それで良い、……カズ、死ぬなよ」

 

レオナルドの言葉に青年は力強く頷く。それを見て笑顔を浮かべたレオナルドは青年の肩を叩き、宿舎に戻って行く。青年はその後ろ姿に頭を下げ、レオナルドの姿が見えなくなるまで頭を上げる事はなかった。

 

 

翌日、教官二人の最後の訓示が終わった後、訓練の終了祝いで訓練兵だけで宴会の予定が組まれていた。

 

宴会費用は二人の教官が出してくれるらしい。訓練兵が教官達にお礼を言おうと部屋に向かったが、二人の教官は既に訓練所を去った後で部屋の机の上には書き置きが置かれていた。

 

……今日は精々楽しめ。お互いに生きていたらまた会おう。

 

青年がその内容を訓練兵達に伝えると、皆、思う所があったのか、黙り込む者、涙を流す者、本気ではないが悪態をつく者とそれぞれ教官達との別れを惜しんでいた。

 

青年はそんな訓練兵達を暫く見守った後、明るい声で皆に声を掛ける。

 

「皆、せっかく教官達が俺達の為に用意してくれたんだ!今日はぶっ倒れるまで飲み明かそうぜ!」

 

青年のその言葉に皆が頷き、一斉に宴会の用意がしてある食堂に雪崩れ込む。

 

……そこからは大騒ぎだった。自分達はこれから戦場に行かなければならない。皆がそれをわかっていて今を楽しんでいた。

 

少し風に当たりたくなった青年はそっとその場を抜け出す。

 

「まだ夜は冷えるな」

 

今は三月の始め、冬から抜け切っていない夜の風が酒で火照った身体には心地良かった。

 

「……カズ、酔ったのか?」

 

どうやら抜け出す所をラキに見られていたらしい。

 

「少しな、ラキ、日本では俺の歳ではまだ酒は飲んじゃ駄目なんだよ。だから飲み慣れていないのさ」

 

ちょっとした嘘。あの世界で霞や春蘭、秋蘭の相手を良くしていた。

 

「此処は日本じゃない。だから問題ない」

 

「そういうのを屁理屈って言うんだよ」

 

二人は顔を見合せて笑う。そして少し沈黙。

 

「……なぁ、カズ。カズって兄弟はいないのか?」

 

「いきなりどうした?……いや、まぁ、妹はいるけど、兄弟は居ないな」

 

「俺は兄弟は居ない。……そこでだ、カズ、俺と兄弟にならないか?」

 

「俺とラキがか?」

 

「あぁ、俺は昔から兄弟が欲しかったんだ。カズとなら良い兄弟に慣れると思ってな。……駄目か?」

 

「いや、俺は構わないぞ。俺達は生死を共にしてきたんだ。その辺の血の繋がりだけの兄弟より信頼出来る兄弟になると思う」

 

「そうか!じゃあこれを持ってくれ!」

 

ラキから手渡されたのは杯。そこに酒が注がれる。

 

「日本では杯を交わして兄弟になるんだろう?」

 

「間違っていないけど、それはヤクザ……ジャパニーズマフィアのやり方だ」

 

「まぁ、細かい事はいいじゃないか。……今から俺達は兄弟。歳は俺が上だけど、そんな事関係ない五分五分の兄弟だ。……これからも宜しく頼む兄弟」

 

「此方こそ宜しく兄弟」

 

杯同士が軽く当たる音が辺りに響く。頭上には二人を祝福するが如く満天の星空が輝いていた。

 

 

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