真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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過去の残影

眼前に迫る賊。一刀はラキの加速をそのまま利用して抜刀、一太刀で四人の首が飛ぶ。

 

突然の乱入者に賊は反応出来ない。そんな賊の行動を待つ義理は一刀にはない。

 

ラキの手綱を引いて方向を切り返し、間近に居た賊を腹から頭頂部にかけて切り上げ、隣に居た賊の胸に刀を突き立てた。

 

ようやく、我に返った賊が襲っていた人間の元へ殺到する。恐らく人質にとるつもりだろう。

 

だが、それを許す一刀ではなかった。投げナイフ十本、立て続けに投擲、その全てが賊の急所に突き刺さる。

 

後、四人、一刀は駆けているラキの鞍に足をかけ跳躍、空中で刀を納刀、サバイバルナイフを取り出し、賊の一人の背後に飛び掛かり首筋をかっ切る。

 

その勢いのまま、地面を転がりながら、残った三人のアキレス腱を断ち切り身動き取れなくなった所で再び刀を抜いて首を撥ね飛ばす。

 

 

……僅か、十秒足らずの惨殺劇。

 

 

「気を使わずに戦えばこんな物か」

 

ぼそりと一刀は呟く。誰が見ても完璧に見えるであろう一刀の立ち回りだが、一刀自身は納得していなかった。

 

自分はまだまだ伸びるという確信。自分には背負う物がある。現状に甘んじるなんて選択肢はない。目指す頂きはまだまだ先にあるのだ。

 

今回、気を使わずに戦ったのも理由がある。この世界で気を使って戦っているのは凪だけだと以前は思っていた。

 

しかし、それが間違いだと気が付いたのは、晶と手合わせをする様になってからだ。

 

晶は間違いなく気を使っていた。一刀と同じ内気功をそれも無意識に……

 

それがわかった時、一刀の中で今まであった疑問が氷解した。どう考えてもおかしかったのだ。この大陸で名を馳せている武人はいずれも筋肉などない様に見える見目麗しい美女。

 

そう、そんな美女が通常あんな人間離れした力や速さを出せる訳がない。だが、気を使っているとなれば話は別だ。

 

気を使えば身体能力が数倍に跳ね上がる。今まで彼女達も気を使っていたのだろう。恐らく無意識に。

 

その事に気付いた時、一刀は気を使う事を控える様になった。

 

素の身体能力を上げる為だ。一刀の考察では気は掛け算。素の身体能力×気での上昇=気を使った身体能力。

 

ならば、元となる素の身体能力を鍛え上げれば、結果的に気を使った身体能力がさらに跳ね上がる。

 

そう考えた一刀はなるべく気を使わずに鍛練に取り組むようになった。この鍛練方法は内気功をコントロール出来る一刀にしか出来ない鍛練方法。

 

一刀から言わせれば、春蘭や霞は天才だ。初めから内気功を使えたのだろう。だが、その才に甘えて素の身体能力を鍛えていない。まぁ、彼女達からすれば無意識に内気功を使っているから甘えている自覚もないのだろうが……

 

それに比べ一刀は元の世界、気など概念でしかない世界で素の身体能力を鍛え上げた。そしてその鍛練はこの世界でも続けている。

 

もはや、今の自分と彼女達では素の身体能力は大きな差があると思って間違いない。

 

今にして思えば祖父、一心の凄まじさが良くわかる。一心は気など使っていないのに技だけとは言え、明確に春蘭や霞を上回っていた。

 

一刀も鍛えてはいるが、気を使うならともかく、素の状態では六十年以上鍛え上げた一心の技にはまだまだ及ばない。一心は一刀の腕が自分と同等と言っていたが、それが身内贔屓である事がこの世界に戻って来て実戦を繰り返していると良くわかる。

 

「……俺の爺さんはやっぱ、やべージジイだったんだな」

 

口元だけ笑みを浮かべてそう溢す。

 

自分の師が偉大である事が一刀は嬉しかった。

 

「あ、あの……」

 

自分達などいない様な雰囲気で一人言を言う一刀に、窮地を救われた男が何と言ったら良いかわからない様子で恐る恐る話し掛けてくる。

 

「ん、あぁ、悪い。斬って良かったんだよなコイツら?」

 

「は、はい!おかげで助かりました!」

 

「いや、気にしなくていい。俺はこの辺りで失礼させてもらおう」

 

一刀がそう言い残しラキに飛び乗り、(きびす)を変えそうとすると

 

「お待ち下さい!大したお礼は出来ませんが、是非とも私達の村にお立ち寄り下さい。精一杯のおもてなしをさせて頂きます」

 

男のその言葉に一刀は仮面を外していた事を後悔した。あの仮面を付けているだけで他人は距離をとってくれるのだ。

 

男は善意から一刀を誘っている様だが、一刀からすれば男の善意は面倒くさい事この上ない。

 

「……遠慮しておこう。別に大した事をした訳ではない」

 

「そうおっしゃらずに。村の者も心良く迎えてくれると思います」

 

男の言葉にその男以外の三人の男女も頷く。男達のそんな様子に一刀は此処から一人立ち去る事を諦めた。

 

 

……これは断れそうにないな。ラキ恨むぞ。

 

 

一刀は心の中でため息を吐き

 

「わかった。お前達のもてなしを受けよう」

 

一刀がそう言うと男達の顔に喜びの色が浮かぶ。

 

「では村へ案内させて頂きます」

 

男達の先導に一刀はラキを並足にして着いて行く。

 

「そう言えば、お前達の村は近くにあるのか?」

 

「はい、此処から五里(2.5キロ)程の場所にあります」

 

「そんなに近くにあるなら、先ほどの様に賊に襲われるのではないか?荊州は賊が多いと聞いたぞ」

 

「いえ、私達の村は賊の被害は受けていません」

 

「何故だ?賊が襲う村を選ぶとは思えないが」

 

「それは……」

 

「私達の村には慧姐さんが居るからです」

 

一刀と話していた男の言葉を(さえぎ)り、四人の中で唯一の女性、いや、まだ少女と言っていい女の子が口を挟む。

 

「……それはその人の真名なのか?」

 

「いえ、違います。ですから呼んで頂いて結構ですよ。慧さんは数年前に私達の村の近くの川のほとりで傷だらけ倒れていてそれを見つけたのがこの子なのですよ」

 

男はそう言って少女の頭を撫でる。

 

「その時に村へ運び、一命は取り止めたのですが、どういう訳か自分自身の事を忘れてしまった様で……」

 

記憶喪失。恐らく頭を強打するなりしたのだろう。

 

「それ以来、私達の村で暮らしているのです。ちなみに慧という名前もこの子が付けた名前です」

 

「その慧という女性の事はわかったが、その女性がいる事と賊が襲って来ない事は関係ないだろ?」

 

「それが関係あるのです。慧さんはもの凄く武の腕が立つのですよ。村を襲った賊を何度も返り討ちする程に」

 

「ほう、それは大したものだな」

 

「はい、最近では賊が私達の村を襲うのは避ける様になっています。今日、私達が襲われたのは運が悪かったという事になりますな……あっ、あちらが私達の村でございます」

 

男の言う方向に一刀が目を向けると確かに村の様な物が見えた。

 

「おい、お前は先に村へ戻って村長と慧さんに今日あった事と客人を迎える事を伝えて来い」

 

「はい」

 

一刀と話していた男が他の男にそう言って村へ向かわせる。

 

「では、私達はゆるりと向かう事に致しましょう」

 

「あぁ」

 

それからしばらく歩き、一刀達は村に到着する。それと同時に一人の老人が一刀に向かって頭を下げた。

 

「この度は我らの村の者の命を救って頂いた事をこの村の村長として深く感謝致しまする。何もない村ではございますが精一杯のもてなしをさせて頂きます」

 

村長と名乗る老人の深い謝意。だが、一刀には村長の謝意がまともに耳に入らない。

 

何故なら一刀の視線は村長の後から出て来た妙齢の女性に釘付けになっていた。

 

銀の長い髪、肉感的な身体に褐色の肌。

 

かつての敵の壮絶な最後が一刀の脳裏にフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

……生きて……いたのか

 

 

 

 

 

 

 

 

……黄蓋。

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