真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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鬼の一閃

一刀と慧が広場に出ると、其処で飲んでいた村人達が一斉にその場にあった酒樽や料理を片付けていく。

 

聞いてたのかよ、コイツら……

 

そのあまりの早業に一刀は苦笑するが、周りの村人は興味津々の様子だった。

 

確かにこんな都市から遠い村では娯楽がないのはわかる。村で手合わせをする以上、自分の武が他人に見られるのもわかる。だが、こんなあからさまな見せ物になるのは良い気分ではない。

 

かと言って、今さら中止も出来ないし、するつもりもない。やると言ったからにはやるだけだった。

 

「慧、一体、何で手合わせするつもりだ?」

 

「もちろん剣に決まっておる」

 

「弓でなくていいのか?」

 

一刀の言葉で慧の表情が僅かに引き吊った。

 

「……どういう意味じゃ?」

 

「さぁ、どういう意味だろうな?」

 

ニヤリと笑いながら惚ける一刀に慧の表情が険しくなる。これは一刀から仕掛ける心理戦だった。

 

言い過ぎだとわかっている。慧は自分の事を知っているのではないか?と間違いなく一刀を疑うだろう。

 

疑うならそれはそれで良かった。一刀からすれば別に慧の過去の事を教えてやってもいいのだ。

 

それを聞いて慧が一刀の敵になるなら斬ればいい。自分がやる事は何も変わりはしない。

 

そこまで割り切った一刀は刀を抜いて慧に斬りかかる。

刃と刃がぶつかり、火花を散らす。

 

「くっ!」

 

「動揺しているのか?反応が鈍いぞ」

 

「……言ってくれるのう」

 

慧が一刀の刀を弾き返して距離を取り、一刀に問い掛ける。

 

「小僧、お主は儂が誰であるか知っておるのか?」

 

「知っていると言ったらどうする?」

 

「……そうか、それさえ聞ければ充分じゃ」

 

そう言って、慧は持っていた幅広の剣を肩に担ぐ様に構える。

 

「自分が何者か気にならないのか?」

 

「気にならぬと言えば嘘になるのう。だが、今は勝負の最中じゃ。勝つか負けるか、知るのはそれだけで良い」

 

迷いない慧の闘気。それが一刀を圧倒しようと押し寄せて来る。

 

今まで、この世界で戦った人間とは比べ物にならない。当然だ、相手は記憶を失っているとは言え、孫呉の宿将黄蓋。

 

偽の投降の時、霞を始め、多くの魏の武将達をあしらって見せた武将なのだ。

 

……とは言っても、慧の実力が霞達とそれほどの差があるとは思わない。あの時の霞達は冷静ではなかった。差があるとするならばそれは経験の差だろう。

 

「では行くぞ!」

 

慧が一刀に向かって駆け出す。振り下ろされた剣からは凄まじいと言っていい圧力。

 

一刀はその剣を受ける事はせず、最小の動きで避ける。爆発音に似た大きな音が広場に鳴り響いた。

 

「流石にその剣を受ける訳にはいかないな」

 

一刀は先ほどまで自分が立っていた場所に出来た穴に視線をやりながら(うそぶ)く。

 

「随分と余裕のある様子じゃの?」

 

「まぁ、実際、余裕だからな」

 

「ぬかしおる。では続けて行くぞ!」

 

そこからは慧の圧倒的攻勢。次々と襲い来る刃を一刀は上体の体捌きのみで避けていく。

 

その動きはまるで風に揺れる柳の様、攻めているのは慧。しかし、余裕があるのは一刀だった。

 

「……面白い体術じゃ。だが!」

 

慧は一刀の足元を大きく斬り払う。

 

「ちっ!」

 

一刀は咄嗟に跳躍して慧の間合いの外に出た。

 

「やはり、足元が弱点じゃったか」

 

「……正解だよ」

 

風に揺れる柳なら根を切る。慧がやった事は最適解だった。

 

「で、次はどんな曲芸を出すつもりじゃ?」

 

「曲芸か……言ってくれる」

 

……あながち間違いでもなかった。この技の原型は元の世界にあった漫画の技。今の自分の身体能力ならば出来ると思ったから試してみただけ。破られたとしても惜しい技でもない。

 

それに一刀がこの技を使ってしたかったのは、慧の攻撃を避ける事ではない。……慧の剣を見て覚える事だった。

 

そしてその目的は果たされた。これでこの先、慧が敵になったとしても先読みで対処出来る。

 

はっきり言ってしまえば、もうこの手合わせは勝っても負けてもどっちでもいい。正確には手の内を見せない為にも負けた方がいい。

 

 

けど……

 

 

「負けるのは癪だな……」

 

 

ぼそりと呟いた言葉。それは一刀の本音だった。

 

「しょうがない、勝ちにいくとするか」

 

一刀は懐から仮面を取り出して被り、刀を鞘に納める。その様子に慧が怪訝な顔をして問い詰めてきた。

 

「何故、剣を納める!?まだ勝負は終わっておらん!」

 

「お前は俺の曲芸を見たいんだろ?だったら見せてやるさ」

 

一刀は大きく腰を落とし、刀の鯉口を切る。

 

「慧、先に言っておく。……死ぬなよ」

 

今から放つ技も元の世界の漫画にあった技。今の自分の身体能力を持ってしても成功は確実ではない。しかし、あえてその技を使うのは自分の限界を越える為。

 

「さて、龍は閃くかな?」

 

口元だけ笑みを浮かべ呟く。漫画の技を真剣に打とうとしている自分に思わず笑えて来たからだ。

 

駆け出す。間合いに入り、剣を振りかぶる慧の姿がスローモーションの様に映る。右足を踏み込み、さらに左足を大きく踏み込み抜刀。

 

 

 

……それは一瞬の龍の閃き。

 

 

 

 

「儂の負けか……」

 

「あぁ、俺の勝ちだな」

 

一刀の刀は慧が持っていた剣の刀身を真っ二つに斬り裂き、その切っ先を慧の首筋に突き付けていた。

 

沸き立つ村人達の歓声、それが耳に入っていない様子で慧は真っ二つに斬り裂かれた剣を暫しの間、呆然と眺めていた。

 

一刀はそんな慧を尻目に刀を鞘に納める。その音で我に返った慧は一刀に声を掛けた。

 

「……お主は妖しか?……気がつけば剣が斬られていた」

 

「妖しか……鬼が妖しと言うなら間違いではないな。それに斬鉄くらいお前も出来るだろ?」

 

「出来るか!確かに剣で剣を叩き壊す事は出来る。じゃが、剣で剣を斬るなんて真似が出来る訳なかろう!」

 

一刀としても全ての鉄を斬れる訳ではない。今回は慧の剣があまり良い剣ではなかったから出来た事で、これが春蘭の七星餓狼の様な名剣なら流石に無理だった。

 

「……それにしても惚れ惚れする様な切り口じゃのう」

 

慧は再度、剣を見詰め、感慨深そうに呟いた。

 

「……そうか。で、満足したか?」

 

「うむ、良い物を見せてもらった。その仮面の通り、鬼と呼ぶに相応しい男じゃお主は」

 

「期待に添えたなら良かった」

 

一刀はそう言い残し、村の出口に向かい歩き出す。

 

「何処へ行く気じゃ?」

 

「帰るんだよ。礼も受け取ったし、もう俺の用は済んだ」

 

「駄目じゃ!」

 

「はっ?」

 

「儂はお主が気に入った!今日はこの村に泊まって儂の酒に付き合え。まだまだ宴はこれからじゃ」

 

そう言って、慧は一刀の身体を引っ張り寄せる。

 

「それとも、儂と酒を飲むのは嫌じゃと言うのではなかろうな?」

 

言葉の内容とは正反対の子供の様な笑顔で一刀に迫る慧。

 

断る事は出来る。出来るが、憎めないその笑顔が妙に一刀の心に残り、断る気を無くさせる。

 

「……わかった、付き合おう」

 

一刀の言葉で気を良くした慧は喜色満面で天幕へ戻る。そんな慧の背を見ながら、一刀は今日、村に宿泊する事を何とかして辺りを巡回している屍鬼隊に伝えないといけないな、と考えていた。




一刀さんまだギリギリで人間でおさまっているはず(震え声)
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