真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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馬が結んだ縁

翌朝、一刀は村人総勢の見送りを受けていた。一刀自身、大げさにはして欲しくないのだが、自分の身分を明かした事でこういう扱いを受ける事は諦めている。

 

一刀を見送る村人達、その中に祭の姿はない。一刀の視線がさまよっている事に気付いたのか村長が話し掛けて来る。

 

「申し訳ありません。慧は何故か家から出て来ないのです」

 

村長の言葉に自分の内心が見透かされた様な気がして一刀は狼狽しそうになった。

 

「……そうか」

 

一言だけそう返す。それ以上の言葉は咄嗟に出て来なかったからだ。

 

「高長恭様、何もない村で御座いますが、またいつでもお越し下さい。村人全員で歓迎させて頂きます」

 

一刀はその言葉に頷き、ラキに飛び乗る。祭を待つつもりはない。記憶が戻るにしろ、戻らないにしろ、この村なら穏やかに過ごしていけるだろう。

 

記憶が戻って呉に帰って自分の前に立ちはだかる。その事は考えなかった。一刀にとって祭は大事な人間になり始めている。斬りたくはないが、状況がそれを許さないかも知れない。

 

結局はなる様にしかならないのだ。自分の敵とならない事を願うしかなかった。

 

ラキの腹を軽く蹴ると、それに呼応してラキが駆け出す。村人達の歓声が一刀の背中にぶつかる。今の自分には好ましいと思えない歓声。

 

 

……だが何故か、今日は嫌な気がしなかった。

 

 

駆けるラキの背で一刀が考えるのは、荊州戦線の事。今頃凪達は荊南を制圧しているかも知れない。そこからが一刀にとってのスタートだ。

 

綺羅星の如く有能な将が居る蜀との戦い。正攻法で戦えば簡単には勝てないだろう。

 

それでも負ける気はない。相手が誰であろうと何人居ようとどうでも良かった。やる事は元の世界でもこの世界でも変わりはない。

 

自分の前に立ちはだかる人間を殺していく。一刀自身、それ以外は出来ないし、自分はそれでいいと思っていた。

 

これからの事を考えていた一刀の前に不意に人影が現れる。

 

「遅いぞ!一刀!」

 

それは村を出た時にはなかった姿。数奇な運命を辿る孫呉の宿将。

 

 

……黄公覆、その人だった。

 

 

「……馬鹿が」

 

 

思わず溢れた言葉。

 

どうして自分の所に来る?そう思いつつも一刀の心に何か込み上げる物があった。

 

「確かに馬鹿じゃな。何せ、出会ったばかりの、それも自分を犯した男をどうしても放っておけないのじゃから。……それとも一度抱いた女は用済みとでも言うつもりかのう?この女たらしの種馬め」

 

「誰もそんな事は言っていない」

 

「ならば儂も連れて行け」

 

「……俺に着いて来るという事がどういう事かわかってるはずだ」

 

「わからん!!」

 

「なん…だと?」

 

「お主に着いて行く意味はわかる。じゃが、実際に呉の人間を前にした時、戦えるかはわからん。それでも儂はお主と行くと決めた」

 

祭の目が一刀を真っ直ぐ見据える。その目を見て一刀は諦めた。

 

 

これは来るなと言っても着いて来ると……

 

 

「……好きにしろ」

 

一刀は素っ気なく言い放つ。

 

「おう!好きにさせてもらおう」

 

そんな一刀の態度を気にする事なく、子供の様な満面の笑顔で祭は返答した。

 

その笑顔を見た時、一刀は自分の心の奥底で期待していた事に気付いた。……祭が自分と共に来てくれる。そういう期待を……

 

本来であれば出会う事はなかった。ラキの気まぐれによって生まれた出会い。

 

(ラキ)に結ばれた(えにし)

 

……悪くない。

 

一刀は祭に見られない様に笑みを浮かべて何となくそう思った。

 

 

 

黒鬼隊の野営地に戻る道中、一刀は祭に気になっていた事を聞く事にする。

 

「そう言えば祭、お前はいつからあそこで待っていたんだ?」

 

「夜が明ける前からじゃな。新しい事を始めると思うと年甲斐もなく気分が高ぶってのう。あの村は良い所だが、儂には少々退屈であった」

 

「お前は遠足前日の子供か」

 

「ん?遠…足?」

 

「いや、何でもない。それより村の人間に何も言わなくて良かったのか?」

 

「心配せんでも儂が住んでいた家に書き置きを残しておる」

 

「お前な……鬼なんて言われている俺が言うのも何だが薄情じゃないか?何年も住んでいた村だろう?」

 

一刀の言葉に祭は気まずそうに黙り込む。

 

「どうした?」

 

「……仕方なかったんじゃ」

 

「何が仕方なかったんだ?」

 

「儂が村を出るなんて言えば朱音が泣く」

 

「それは誰だ?」

 

「お主が賊から助けた女の童じゃ」

 

「……あの子か」

 

「朱音は儂になついておったからのう。泣かれるとわかっているから別れを言えなんだ」

 

「……逃げた訳だな」

 

「うぐっ!……そうじゃ!儂は逃げた!悪いか!?」

 

「俺に開き直ってどうする?それに逃げたとしてもあの子が泣く事には変わりはないだろう」

 

「お主に言われんでもわかっておる!……わからんのじゃ、子供に泣かれたらどうしたら良いかわからなくなる。お主にあんな事を言っておいて情けないのじゃが……」

 

ころころと変わる祭の表情の変化に一刀は笑ってしまう。

 

「笑いたくば笑えば良い!」

 

自分を笑う一刀に祭は憮然とした様子でそう吐き捨てる。そんな祭の姿が一刀には好ましく思えた。

 

昔の自分を思い出したからだ。魏に居た頃の自分は今の祭の様に常に感情を全面に出していた。

 

今の自分が本心から感情を全面に出したのは、この世界に戻って来てからは数える程しかない。

 

凪との再会、一昨日の夜。そして

 

 

 

 

……洛陽で華琳の姿を見た時。

 

 

 

 

自分が無くしてしまった物を祭は持っている。

 

「いや、悪い。子供の様に落ち込んだり、怒ったりするお前が可愛く見えてな」

 

一刀のその言葉に祭の顔に朱が差す。

 

「なっ!……この女たらしめ!」

 

「どうしてそうなる!?」

 

「では、女たらしではないと否定出来るのかのう?」

 

……否定出来なかった。

 

昔も今も自分の周りには自分に好意を抱く女性が居る。それは否定しようがなかった。

 

「そう言えば、天の御遣いは魏の種馬とも呼ばれておったらしいのう」

 

目を細めて見つめて来る祭に一刀が出した答えは……

 

「……」

 

沈黙を貫く事だった。

 

「都合が悪くなればだんまりか。男らしくないぞ」

 

「……」

 

そこまで言われても沈黙を貫く一刀。こういう時の女に対しては何を言っても駄目な事を一刀は理解していた。

 

「……もう良い。それよりお主の軍が居る所へはいつ頃到着するのじゃ?」

 

「この速さで行けば、夕刻前には辿り着くと思う」

 

「そうか、まだ時間はある訳じゃな。では、お主の周りに居るおなごの事を聞かせてもらおうかのう」

 

ニヤニヤと笑いながら一刀に迫る祭。もう良いんじゃなかったのかよ!と内心でツッコミを入れるもそれを祭に言える訳でもなく、黒鬼隊の野営地に着くまでの間、一刀は凪達の事を喋らされるのだった。




次回から荊北争奪戦に入ります。
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