真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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荊州争乱の序幕

金が有り余っていた。一刀は金蔵に詰め込まれた金、銀を見ながら暫し、呆然とする。

 

元の世界での知識をフル活用して自重しない領地経営をやった結果がこれだった。

 

一刀の基本的な金稼ぎの手段は交易。始めは南越(ベトナム)と五湖の一部の部族だけだったが、今では身毒(インド)辺りまで足を伸ばしている。

 

その交易で稼いだ金を一刀は躊躇なく、自身の領地に注ぎ込んでいた。

 

治安維持、治水工事、荒野開墾、街道整備などやるべき事はいくらでもある。

 

だが、ここで一つ問題が起こった。

 

金はあるが、人が足りないのである。その事に気付いた一刀の行動は早かった。

 

流民を片っ端から自身の領地で抱え込んだのだ。一刀の元へ行けば住む家と食事と仕事を用意すると屍鬼隊を通じて各地に流した結果、流民が続々と集まって来た。

 

一刀はその流民達を兵として雇い入れたり、堤防の建設や開墾、街道整備に割り振って行く。この時は10徹のデスマーチだった。

 

そんな中で一刀がやった政策の中で特筆すべき事と言えば、傭兵制度の設立だろう。

 

傭兵自体は以前から存在するが、それはあくまで個人による物で、一刀が設立した傭兵制度は国に属する傭兵で、まったくの別物である。

 

傭兵なんかにしなくても、正規軍として雇えば良いと思うかも知れないが、この大陸で正規軍を動かすのは、金と手間がかかる。

 

例えば、何処かの村が、近くに賊が出たから討伐してくれと陳情を出しても、その情報が一刀の元へ届くまでに段階を踏まなければならない。そんな事をしている間に村が賊に襲われる。

 

そんな事にならない為に設立したこの傭兵制度は民が直接、傭兵を雇う事が出来るのだ。傭兵に対する報酬は払わなければならないが、その辺の個人の傭兵に比べ格安だった。勿論、足りない分は一刀の持ち出しになるが、この制度が赤字になる事はない。

 

傭兵を領内だけではなく、他国に商売に行く商人に護衛として貸し出す事で儲けを出していた。ついでに各地の情報や流民を集めて来る様に言っている。

 

商人の評判も上々だ。何せ、一刀の軍の正規兵と同等の調練を受けている。賊程度では相手にならない。

 

傭兵制度は成功と言っていいだろう。元より一刀は失敗するとは思ってなかった。元の世界で同じ事をやって成功したロスチャイルド家という前例があったからだ。

 

傭兵制度以外にも様々な政策を行った一刀の領地は空前絶後の発展を遂げていた。人は人の集まる所に集まる。ましてそこがあらゆる環境整備がなされているとなれば尚更だろう。

 

流民を引き取った結果、激減した財は凄まじい勢いでVの字回復を果たしていた。

 

来た時は流民でも、生活基盤を整えてやれば市民になる。そして市民は税を落とす。

 

何より一刀の領地で商売をしている商家はほぼ全て一刀の息がかかっている。俗に言うコングロマリットだ。

 

市民はその商家で買い物をするのだから、一刀がいくら金を注ぎ込んでも、回り回って、結局は一刀の元へ金が返って来る。そして返って来た金をまた注ぎ込む。その金で領内は更に発展して一刀に莫大な財をもたらす。その繰り返しだった。

 

一刀の領地は現在、交州と荊州の半分だけであるが、築き上げた財は……政治は他国より勝っている自信が一刀にはあった。他の四国が一刀と同じ政策をとる事はないと確信もしている。

 

何故ならこの大陸の上に立つ人間は基本的に自分が一番という中華思想が蔓延している。それは華琳や司馬懿でも例外ではない。

 

そういう人間は地べたを這いずり回る人間を甘く見る。いや、見下していると言っても良いだろう。自分が守ってやっているという意識から逃れられないのだ。

 

一刀は自分がその立場から今の様になった故に地べたを這いずり回る人間の怖さを知っていた。

 

一人一人は大した事はなくても、集まれば侮れない力になる。それはこの大陸の上に立つ者なら知っているのかも知れない。けれど一刀からすれば知っているだけで、本当には理解はしていないと思っていた。

 

理解しているなら、先の戦乱で自分の誇りや理想というくだらない物の為にあれほど人を死なせたりはしない。

 

一刀は賊や敵には容赦はしないが、基本的に民を大事にしていた。未来の知識がある一刀はマンパワーの重要性を誰よりも理解しているからだ。

 

だから、一刀は民の為の政を敷く。必要とあれば惜しみ無く自分の財を使う。それが最終的に自分の力になるから。民は管理する物としか考えていない今の四国の王には一刀の政策の根本を理解出来ないだろう。王の付属物が数多の民なのではない。数多の民の付属物が王なのだ。

 

……まぁ、劉備は管理なんて考えてはいないだろうが諸葛亮辺りは間違いなくその様に考えている。

 

 

 

 

自身の持つ財を確認した一刀はこれまでの政策を思い出しながら、執務室に戻った。

 

そして執務室の扉を開けた瞬間、一刀は大きなため息を吐いた。

 

一刀の眼前には積み上がった書簡の山。そう、財が増えるのと比例して一刀の仕事も増えていた。

 

しかも、この仕事は一刀にしか出来ない仕事。いくら風や叡理が優秀でも流石に未来で行われた政策まではわからない。教えたくても今の一刀にはその時間すらまともに取れないし、二人も仕事を抱えている。

 

文官は募集しているが、なかなかこれと言った人材が来ない。それもそうだろう。求めているのが、風、叡理クラスの人材なのだ。その辺に居る物ではない。

 

かと言って、このままで良い訳がなかった。ただでさえ多い風の居眠りがさらに増えている。

 

「一刀様」

 

考え込んでいた一刀に声を掛けて来る者が居た。

 

「那由多か」

 

まるで影から突然現れたかの様な登場。那由多の間者の技のキレは最近になってますます磨きがかかって来ている。

 

一刀は今居る自分の仲間で那由多を一番高く買っていた。他の仲間は大事な仲間だ。しかし、一刀の意を汲んでどんな事でもこなす那由多に関しては今となっては自分の身体の一部の様な存在になっている。

 

「で、どうした?」

 

「来ました」

 

一刀はその一言で全てを悟る。

 

「旗は?」

 

「趙と馬、今は白帝城を越えた辺りを行軍しているようです」

 

「先鋒隊で趙子龍をぶちこんできたか。……蜀の本気具合が伺えるな」

 

「成都の方では本隊の編成が組まれ始めているようです。誰が来るのかはまだわかりませんが、劉備自ら動く事も考えられます」

 

「それについては、まだそれほど気にしなくて良いだろう。先ずは眼前に迫る昇り竜を倒してからの話だ。……ところで馬はどっちだ?」

 

「馬岱の方です」

 

「なるほど……馬岱の方なら大将が趙雲で副将が馬岱で間違いないな。馬超なら馬超の方が大将という事も考えられたが……」

 

そこまで言って一刀は暫し、黙り込む。頭にあったのはどの様な戦にすべきか……その事だけ。

 

正直、勝つだけなら、そこまで難しくない。問題は勝ち方だ。自分の最も利益になる勝ち方をしなくてはならない。

 

とりあえず籠城戦はなしだ。街に被害が出る。これ以上書簡が積み上がるのは、一刀は嫌だった。

 

野戦で形を付ける。戦う場所は長坂の辺りになるだろうが、一刀には一抹の不安があった。

 

 

……長坂で趙子龍。フラグじゃないだろうな?

 

 

自分の軍の中を単騎駆けされている事を想像して一刀は何とも言えない気持ちになる。絶対にそんな事はさせないが……

 

「まぁ、本人は自分の力に自信がある様だから、そこを利用させてもらうか」

 

一刀の独り言に那由多が疑問の表情を浮かべる。そんな那由多に一刀は問いかけた。

 

「那由多、戦に勝つ為に必要な事は何だと思う?」

 

「……敵より多くの兵を集める事でしょうか?」

 

「孫子の基本か。それは間違ってはいないが、正しくもない。現に俺は此処に至るまで敵より少ない兵で勝ち続けて来た」

 

「では、敵の策を読む事ですか?」

 

「さっきより正解に近いが、正確には違う」

 

「……私にはわかりません。答えを教えていただいて良いですか?」

 

那由多は暫く考えていたが、答えがわからなかったのだろう。一刀に正解を求める。

 

「いいだろう。答えはな……」

 

 

 

 

 

 

「敵に選択肢を与えない事だ」

 

 

 

 

 

 

一刀はそう断言する。

 

「選択肢を与えるから、敵はその中で勝利する為に策を練る。ならば、策など練れない様に思考を自分の都合が良い様に誘導してやればいい」

 

那由多は一刀の言葉に釈然としない顔をしていた。一刀は那由多の頭を撫で、

 

「今はわからなくても構わん。今回の戦でお前なら俺の言葉の意味が理解出来るはずだ」

 

そう言葉を掛けた。

 

「はい、学ばせていただきます」

 

「じゃあ、軍義を開くからお前は伝令を装おって凪達を玉座の間に集めてくれ。俺もすぐに行く」

 

那由多は屍鬼隊副隊長だが、表ではただの一般兵で通している。

 

「了解しました」

 

那由多の姿が出て来た時とは逆に影に溶け込む様に消えた。

 

一刀はそれを見送った後、軍服に着替える。その時、積み上がった書簡が目に入ったが、それから目を逸らして、戦に現実逃避するのだった。

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