真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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少し短いですが、切りが良いので投稿します。


風に遊ばれる鬼

総勢二万二千。一刀は凪の第一師団の半分と黒鬼隊を率いて、長坂橋を背に軍を集結させていた。

 

連れて来た将は凪と風だけで、晶と祭は江陵で守りを固めさせている。

 

その事に対して、晶は不満げな顔を浮かべ、祭は喚いていたが、一刀は相手にしなかった。

 

そもそも、一刀からすれば、凪の第一師団すら今回の戦に使う気はない。

 

趙雲が率いる先鋒隊二万。一刀はそれを黒鬼隊二千で打ち破る気でいた。凪の第一師団を連れて来たのは皆がうるさいからだ。

 

舐めている。そんな気持ちはない。この戦は自分にとっての試金石と一刀は思っていた。

 

いくら相手が名高き趙子龍といっても、ここで躓く様では話にならない。

 

「ここが長坂橋か……」

 

一刀は長坂橋を眺めながら呟く。この世界では長坂の戦いが起きなく、交州に行く時は別の所を通ったので一刀が長坂橋を見るのは、これが初めてだった。

 

三国志でもっとも有名な戦いと言えば、間違いなく赤壁だろうが、一刀はその前哨戦とも言える長坂の戦いが一番好きなのだ。

 

趙雲の単騎駆け、張飛の仁王立ち、この世界に来る前に三国志を読んでいた頃、その場面にワクワクした物だった。

 

その様な地で、そんな伝説を残した趙雲を自分は迎え撃とうとしていた。勿論、この世界が自分の知っている三国志とは違う事は承知している。それでもこの世界の趙雲も名将である事には変わりはない。

 

一刀がこの世界に再び戻って来てから初めて一線級の相手と戦う事になるが気負いはなかった。この程度の事は今の一刀にとって修羅場でも何でもない。趙雲がいくら強かろうが、元の世界では子供のゲリラが放つ銃弾一発で死ぬ。

 

自分は一発どころではない、無数の銃弾が飛び交う戦場を最前線で駆け抜けたのだ。彼女とは見て来た地獄が違う。

 

「お兄さん、どうかしましたかー?」

 

じっと長坂橋を見つめている一刀が気になったのだろう風が話し掛けて来る。

 

「いや、何でもない。それよりお前は大丈夫なのか?」

 

一刀は元々、風を連れて来る気はなかった。風が此処に居るのは、風自身の希望だ。理由はわかっている。相手が趙雲だからだろう。

 

一刀自身、趙雲に対して思う所はあった。何せ、この世界に来て、初めてまともに会話を交わしたのが彼女だからだ。

 

その前に賊に絡まれたが、あれはまともな会話なんて物ではなかったからな。

 

風と出会ったのもその時だ。あの時はすぐに別れたが、今は縁があったのか自分の隣に居る。

 

「大丈夫ですよー。星ちゃんと戦うのは初めてではないですからねー」

 

「そうだったな」

 

「ですが、お兄さんに余裕があるのでしたら……」

 

「殺すな……か?」

 

「……いえ、これは戦場で言うべき事ではないですね」

 

「構わんさ、お前がそれを望むなら」

 

一刀は薄く笑みを浮かべ、風にそう言ってやる。

 

「……」

 

一刀の言葉に風は僅かに顔を赤らめさせながら黙り込む。

 

「どうした?」

 

「……わかってはいましたがお兄さんはずいぶんとキザになりましたねー」

 

「別にそんなつもりはなかったんだが……」

 

「お兄さんにそのつもりがなかったといたしましても、今のお兄さんは懐が深すぎます。その優しさは風を駄目にしてしまいますよ」

 

「良いぞ」

 

「えっ?」

 

「駄目になっても良いと言っている。そんな風の面倒を見る人生も悪くない」

 

「もうー!お兄さん!」

 

いつも飄々としている風が感情を露にする。一刀は風をからかった訳ではない。本気で風がそうなったなら面倒を見るつもりでいた。

 

「風はお兄さんに依存するだけの女になる気はありません!最後まで共に歩む覚悟は出来ています」

 

一刀の目を見つめながら、風はそう宣言する。その瞳には強固な意思が存在していた。

 

「……風、悪かったな」

 

「良いのですよー。……ところで、凪ちゃんに渡した婚約指輪という物は風にも用意してもらえるのでしょうかー?」

 

 

……コイツ、このタイミングでそれを言って来るか!?

 

 

一刀の顔が僅かに引きつる。風は間違いなく、このタイミングを狙っていたとしか思えない。

 

ニヤニヤと笑う風に対して、一刀の選択肢は一つしかなかった。

 

「……蜀との戦いが一段落したら用意する」

 

「風は催促するつもりはないのですよー。お兄さんにとって、風が婚約指輪を渡せる様な女でないのなら無理にとは言いません」

 

「用意させて頂きます」

 

渡さないなんて言える訳がない状況だった。

 

「そうですか。では、ありがたく受けとりますねー。あっ、正室は凪ちゃんで良いですよー。風はそこまでお兄さんに求める事はしませんので」

 

「……心遣い、感謝する」

 

完敗だった。ここまで手玉に取られたのは久しぶりの経験だ。

 

 

……だが、悪くないな。

 

 

隣で機嫌が良い様子の風を見て、一刀は心からそう思う。

 

一刀と風はその後も他愛ない会話を交わしていた。戦の前とは思えない雰囲気。

 

だがその時、前方から砂塵が見えた。

 

「風、お喋りは終わりだ。布かなんかで顔を隠せ」

 

一刀はあらかじめ凪と風には顔を隠す様に申し伝えていた。二人が居れば自分が誰かわかってしまうと考えたからだ。

 

風は一度頷き、顔を隠し始める。

 

「隊長ー!」

 

軍をまとめていた凪が、砂塵に気付いたのだろう一刀の元へ駆け寄って来た。その顔は既に隠されている。

 

「蜀軍が参りました!」

 

「あぁ、こちらでも確認した」

 

前方の砂塵が徐々にそしてはっきりとその姿を映し始める。

 

掲げられた旗は趙と馬。先頭には見覚えのある美しい女性とポニーテールの微かに幼さが残る女性。

 

「さて、腕の見せ所だな」

 

一刀は被っている鬼の面を少し触り、笑みを浮かべながらそう呟いた。

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