真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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心の墓標

敗北の宣言。それは今まで生きて来た自分の人生の中で初めての事だった。

 

心にあるのは悔しさと諦念。星はその二つの感情と戦っていた。

 

自分は負けたのだ。それもこれ以上にないくらい完璧な敗北。そしてそれは今まで共に戦った仲間達との決別を意味していた。

 

もう、どうにもならない現実に戸惑う星に高長恭が近付いてくる。

 

……そしてそのまま星の隣を通り過ぎた。

 

見向きもされない。この男にとって自分は大した存在ではないのだろう。その事実に星は自嘲気味に己を嗤う。

 

星は自分の隣を通り過ぎた高長恭の背に視線を向ける。高長恭の向かった先は地に倒れ伏す黒の軍装を纏った兵の所。……自分が討ち取った兵の所だった。

 

高長恭はその中の一人をそっと抱き上げる。そこに先ほどまでの全てを圧倒する様な覇気に満ちた姿はなく、あったのは力の限り、戦い抜いて死んでいった部下に対する労りと慈しみに溢れた姿。

 

そんな主君の姿を見て、黒鬼隊から三名の兵が歩み出て、残った三人の亡骸を抱き上げた。

 

黒鬼隊が二つに割れる。その間を高長恭と三名の兵は胸を張り、しっかりと地を踏みしめて歩んでいく。

 

その様子はまるで一枚の絵の様だった。

 

歩んだ先にあったの大量の木々が積まれた小さな櫓。恐らく亡骸を火葬するのだろう。

 

櫓の上に四人の亡骸が並べられる。そして高長恭が口を開いた。

 

「勲功第一!唐盛!李彰!陳塊!楊籍!」

 

高長恭が四つの名を呼ぶ。星はそれが死んだ四人の名だと言う事はわかった。

 

 

「此度の働き、実に見事。……そう、見事のはずなんだがな……」

 

そこまで言って、高長恭の言葉が暫し止まる。

 

「見事過ぎて、俺はお前達にどう報いればいいのかわからんよ。お前達の家族に報いてやる事は出来る。けれどお前達自身には俺はほとんど何もしてやれない」

 

高長恭が語る言葉には哀愁がこもっていた。星が高長恭の顔を見ると、鬼の面から雫がこぼれ落ちている。

 

「そんな俺でもお前達にしてやれる事が一つだけある。それは……忘れない事だ。俺はお前達を忘れない。他の誰もが時と共にお前達の事を忘れても、俺は決して忘れはしない。そしていつか、俺もお前達と同じ所へ逝く。だからさらばとは言わん。……また会おう」

 

高長恭が木々に火をかけた。四人の亡骸は葬送の火に包まれる。その様子を見つめながら、高長恭は自分の背後に控える黒鬼隊に語りかけていた。

 

「黒鬼隊に形ある墓標などない。四人の身体は灰になり、風に乗って飛んでいき、落ちた場所の土に還るだろう。そこは誰も通らない荒野かもしれない。誰も行けない長江の底かもしれない。けど、それでいい。あの者達の墓標は俺の、いや……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺達の心の中にある』

 

 

 

 

 

 

 

 

「それを忘れるな」

 

「「「御意!!」」」

 

膝を付き、拱手する黒鬼隊。その目からは止めどなく涙がこぼれ落ちる。

 

男達の挽歌。いや、歌などという雅な物ではないのに、星にはその様にしか見えない。

 

この気持ちはなんなのだ!?つい先ほどまで戦っていた敵なのに、自分が討った者達の事のはずなのに、何故、自分の心はこれほどまでに熱くなっている!?何故、

 

 

 

 

……瞳からこぼれる雫が止まらないのだ!?

 

 

 

 

星は服の袖で無理矢理、涙を拭い、周りを見渡すと黒鬼隊の背後に居た高長恭の兵、そして僅かに残った自分の兵も黒鬼隊への憧憬(どうけい)の念を目に宿しながら涙を流していた。

 

その様子を見て、星は自分が恥ずかしくなった。自分はあの男に、あの軍に勝つつもりでいたのだから。

 

「私は井の中の蛙だったのだな」

 

数刻前の自分なら認められないその事実も今はすんなりと認める事が出来た。

 

四人の弔いが終わり、高長恭が星に近付いて来る。

 

「待たせたな、趙子龍」

 

「高長恭殿、私は……」

 

「そこから先は言わなくていい」

 

臣従の言葉を口にしようとした星を高長恭が止める。

 

「何故ですかな?」

 

「今のままでは役に立たないからだ。お前は賭けの勝敗に従って俺に仕えようとしているが、そんな人形の様な状態では役に立たん。俺が欲しいのは人形ではなく人だ。それにかつて仲間に槍を向ける覚悟が出来ていないだろう?」

 

「……それは」

 

「だから一月でいい。客将としてお前自身の目で俺を見極めろ。それでお前が俺に対して仕える価値があると思ったならば仕えてくれ」

 

「そうでなかった場合は?」

 

星の言葉に高長恭は微かに笑い、

 

「その時は蜀に帰ればいいさ」

 

何事もない様に言い放った。

 

「……高長恭殿は私に価値はないと?」

 

「そう思ってるなら、こんなまどろっこしい事はしない。お前は覚えていないだろうが、俺はお前に対して借りがある。蜀への帰還を許すのはその借りを返す為だ」

 

「借り…ですか?」

 

「あぁ、かなり大きな借りだ。お前がその借りの内容を知るのは俺に仕えた時だけだがな」

 

「……」

 

星は暫し、その借りについて思考を巡らせるが、覚えはない。というより、こんな男と過去に出会っているなら忘れるはずがなかった。

 

「じゃあ、今から江陵に引きあげるが、お前の兵はどうする?蜀に帰りたいならば止めはしないし、捕虜とするなら飯くらいは出してやるが?」

 

「蜀へ送り返しましょう」

 

「わかった。俺は撤退準備に入るから、お前はその事を兵達に伝えて来い」

 

高長恭の言葉に一度、大きく頷き、星は兵達の所へ向かう。

 

そんな星を迎えたのは、不安そうな表情を浮かべる自分の部下の姿。その中の一人がおずおずと星に自分達の処遇を尋ねてきた。

 

「趙雲将軍、私達はどうなるのでしょうか?」

 

「心配しなくとも良い。高長恭殿はお前達の帰還を認めて下された」

 

星の発言で兵達から歓声が上がるが、それは長くは続かなかった。

 

「ですが、趙雲将軍と馬岱将軍は?」

 

「我らは流石に戻る事は出来まいな」

 

「そうですか……」

 

「お主達は今回の戦いの事をありのまま桃香様達に伝えてくれれば良い。では達者でな」

 

それだけを言い残し、星は踵を返す。向かう先はあの男の所。自分の今の状況は決して良い状況ではない。それでも今まで出会った事のない様なあの男、高長恭を見極めるという事に、どこかで胸の高鳴りを感じていた。




星視点は次で終わります。




私事ですが、最近、なろうでオリジナルの投稿を始めました。その中で思ったのは、オリジナル難しすぎぃ!良く皆さん書けるなと感心しました(笑)
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