真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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偽りの王

「ちょっと成都に行ってくる」

 

「「「「「はっ?」」」」」

 

次の日、再び玉座の間に集まった凪達に向かって、一刀は近くに散歩に行く様な気楽な感じで言い捨てる。

 

「いや、馬岱を蜀に返す代わりに董卓を貰う事になったんだが、迎えはいるだろう」

 

「お兄さん、風達はそんな事、一言も聞いていないのですが……」

 

「あー、言うの忘れていた」

 

一刀の悪びれもしないその言葉に凪達は頭を抱える。

 

「そんな大事な事はちゃんと報告して下さい。それにしても董卓さんですか……それは晶さんの為ですか?」

 

「一刀様……」

 

風がニヤニヤした顔で、晶が瞳を少し潤ませて一刀を見つめてくる。

 

「あぁ、そうだ」

 

「一刀様、ありがとうございます!!」

 

頭を下げる晶に一刀は若干、罪悪感を感じる。確かに晶の為と言うのは嘘ではないが、一刀にはその他の目的もある。

 

一つは董卓の能力、先の乱世の時、賈駆の助力があったとは言え、あの魑魅魍魎が跋扈する洛陽を纏め上げた能力は傑物と言っていい。

 

それに彼女は元々、涼州の地方領主であった身、現代日本で例えるなら、田舎の市長がいきなり東京都知事になって仕事をこなして見せた様な物だ。はっきり言って半端ではない。

 

劉備の所では侍女の真似事をしているらしいが、能力の無駄遣い過ぎる。また、そんな事を許している劉備は馬鹿じゃないかとも思う。先の乱世の時は反董卓連合の後の生存を隠す為には仕方ない行動だとは思うが、反董卓連合を画策した袁紹が蜀にいる今になっては何の意味もない。

 

二つ目は董卓のコネ、涼州の地方領主だった董卓には五胡、羌族と付き合いがあった。一刀はそのコネを利用して涼州の先、康居、クシャーナ朝、パルティア等に使者を送り、交易の為にシルクロードの道を切り拓きたいと考えていた。

 

馬騰が生きていれば、彼女でも良かったが、彼女は既に亡く、馬超は知恵が足りない。馬岱では名が弱い。やはり董卓しか居なかった。

 

だが、一刀が董卓を求めている一番の理由は自分に万一の事がある可能性を考えての事だった。

 

一刀は戦場で死ぬ気はしないが、病で死ぬ事はあると考えていた。この時代、医療技術は未発達で、医学の学校も創設したが、一刀の医療の知識はあくまで医学書を読み込んだ程度の物で本職ではない。いや、本職であっても癒せない病は山ほどある。

 

平均寿命が80年を超えていた日本と違って、この世界では50年はない。故に後の事は考えないといけない。

 

一刀の考えでは自分がもし早死した場合、後は董卓に任せようと考えていた。一刀は董卓と話した事はないが、凪達に聞いた話では人格面も文句の付け所がないらしい。

 

董卓の能力、人格ならもし自分が死んだ場合でも、どのような形になるかはわからないが、自立を貫くにしろ、どこかに合流するにしろ、上手く軟着陸してくれると思っていた。

 

だが、それも全て董卓の信頼を得てからの話。故に一刀は自ら成都に出向くのだ。

 

「ですが隊長、隊長がご自身で行かれるのは危険です」

 

「虎口に飛び込む様な物ですねー」

 

「風、俺が虎如きでどうにかなると思っているのか?」

 

「そうは思わないですが、蜀の皆さんは侮れませんよ」

 

風の言葉に呼応する様に星が言葉を繋ぐ。

 

「風の言う通り、確かに主は虎如きではどうにもならんと思いますが、成都には恋、呂布が居ますぞ。それに呂布だけではなく、愛紗や鈴々、関羽や張飛も一騎当千の猛者である事は間違いありませぬ」

 

「呂布に関羽、張飛か、奴らが本当に俺より強いなら討たれてやってもいい」

 

「隊長!!」

 

一刀のどこか投げやりな言葉に凪が怒声を発した。一刀はそんな凪を宥める。

 

「凪、奴らが俺より強いならの話だ。前に言ったろう、俺は俺より弱い奴には負けてはやらん」

 

「ですが……」

 

「凪、心配せんで良い、一刀は負けんよ。……それにしても飛将軍呂布と一刀の一騎打ちは見てみたいのう」

 

「あぁ、私が月様の下に居た時は差が有りすぎて、呂布の武の限界はまるで測れなかった。一刀様に鍛えられて私も強くなった自負はあるが、それでも呂布には及ばんだろう。だが、一刀様が負ける姿も想像出来ん。一人の武人としては是非見たい勝負ではある」

 

「お前達の希望は叶うさ。蜀との戦、呂布とやるのは俺だ」

 

と言うより、一刀以外が呂布と戦えば間違いなく死ぬ。そんなリスクしかない勝負に仲間を使うつもりは毛頭なかった。

 

「先の事より、今は隊長の成都行きの話です。隊長、誰を連れていくおつもりですか?決まっていないなら自分が共に行き隊長を自分の命にかえてもお守りしてみせます!!」

 

凪が拳を握りしめ、真っ直ぐな瞳で一刀を見据えて宣言する。

 

「凪、それは駄目だ。お前には昨日任せた仕事をしてもらわないと。それに俺の為に命をかけるなんて真似は許さん」

 

「隊長!!」

 

「凪ちゃん少し落ち着くのですよー……ではお兄さんは誰を連れて行くのですか?」

 

「お前達の誰かを連れて行くつもりはないな」

 

「それは軍師として看過出来ませんねー。せめて黒鬼隊の人を連れて行って貰えますか?あの人達なら死に物狂いでお兄さんを守るでしょうし」

 

「俺は今回の件で黒鬼隊を動かす気はない。だが、まぁ、心配するな。ちゃんと手は打つ」

 

そう言った一刀の顔に浮かぶ表情は自信しかなかった。

 

「隊長、本当に大丈夫なのですね」

 

「大丈夫だ」

 

「……わかりました」

 

一刀が譲る気がないのがわかったのか、凪は渋々了承する。

 

「凪が言って駄目なら、儂らの誰が止めても無駄じゃろう。一刀よ、儂らは昨日言われた事をやればいいのじゃな?」

 

「頼む」

 

それで話は終わりだった。玉座を立った一刀は諸葛亮達の元へ向かう。

 

蜀へ戻る準備を整えていた諸葛亮達に一刀は一声掛ける。

 

「諸葛亮」

 

一刀の姿を見た諸葛亮は驚く。そして隣に居た馬超の表情に怯えが走ったのを一刀は見逃さなかった。

 

「……これは高長恭様、何の御用ですか?」

 

「いや、俺も成都に連れて行ってもらおうかと思ってな」

 

「えっ?」

 

「俺が返礼の使者だよ」

 

「はわわっ!高長恭様自らですか!?」

 

諸葛亮は信じられないのであろう。明らかに動揺していた。

 

「何か問題はあるか?」

 

「い、いえ、ですが私達の国は……」

 

「敵国だな。だが、俺にはそんな事どうでもいい」

 

「どうでも良くないですよ!!」

 

使者としての役目を果たすべく、一貫して冷静さを前面に出していた諸葛亮の仮面が剥がれるのを見て、一刀は笑う。

 

「諸葛亮、それでいい。表向きな場ならともかく、俺につまらん礼儀は無用だ。それと馬超、馬岱は連れて来ているから会ってやれ。一人で不安だったろうからな」

 

「あぁ、ありがとう……」

 

そう言って馬超は馬岱の居る方へ走って行った。

 

「少し立ち直った様だな」

 

そんな馬超の姿を見て一刀は呟く。

 

「元々、追い詰めたの高長恭様ですよね」

 

「そうだな、だが間違った事は言っていない」

 

「ですが、極論ではありました」

 

「それも否定はしない」

 

そう、一刀が馬超に言ったのは、あくまで一刀が馬騰の心を勝手に解釈した事。全てが間違っているとは言えないが、全てが正しいとも言えない。諸葛亮はその辺りの事を馬超に言ったのであろう。

 

「なるほど、上手く立ち直らせた物だ。流石は諸葛亮だな」

 

「あのままでは、暴走する可能性もありましたから」

 

「そうなってくれた方が俺としてはありがたかったが、仕方ないな」

 

一刀にとって、あの場での発言は星を庇う物であって、馬超がどうなるかは正直言ってどうでも良かった。利用出来るなら利用しようと思っていた程度の物だ。

 

「それより蒲公英さんを返して良かったのですか?月さんが貴方の下へ行くと了承した訳ではないのですよ」

 

「董卓は自分の身を惜しんで馬岱の命を見捨てる様な女なのか?」

 

「それは……」

 

「違うよな。ならば問題ない」

 

一刀と諸葛亮が話をしている間にどうやら出発の準備は整った様だ。

 

「じゃあ、出発するか」

 

一刀がそう一声掛けると諸葛亮は頷いた。

 

成都への道程、馬超と馬岱は一刀に近付こうとはしないので、一刀の話し相手はもっぱら諸葛亮だった。

 

「高長恭様は先の乱世の時、曹操さんの所に居たんですよね?高長恭様から見た曹操さんはどんな人ですか?」

 

「様はいらないぞ。……そうだな、俺はあの時、一部隊の隊長でしかなかったから、曹操と関わる事はほとんどなかった。だから客観的な視点で言うと、超世の傑と言っていい」

 

「高長恭さんから見ても、曹操さんはそれほどの方ですか……」

 

「この時代、この大陸で彼女以上の器と才を持つ者はいないだろう。過去を見ても光武帝辺りに匹敵するんじゃないか」

 

一刀の意見に納得出来るのか、諸葛亮が一度大きく頷く。

 

「だが、弱点がない訳ではない」

 

「弱点……ですか?」

 

「あぁ、何だと思う?」

 

諸葛亮は少し考える素振りを見せたが、わからなかったのか、顔を左右に振る。

 

「甘さだよ。お前の主君の劉備とは違った甘さ。彼女の能力故の慢心とも言ってもいい」

 

「慢心……」

 

「例を言うなら、先の乱世の時、お前達は袁紹の追撃から逃れる為に曹操の領土を通らせてくれと言って来た事があったな?」

 

「はい」

 

「その時、曹操は劉備を論破はしたが、結局、何も取らず自身の領土を通らせた。後々、敵になる事がわかっているのにだ。曹操は劉備の器を見て堂々と戦いたいと思ったのかも知れんが俺から見たら甘すぎる」

 

「……では高長恭さんならどうしましたか?」

 

「その場で皆殺しにしただろうな」

 

「!!」

 

「何か可笑しい事を言ったか?俺からしたらあの場でお前達を見逃す意味がわからない。あの場でお前達を殺しておけば、後のお前達の奇襲戦や定軍山、赤壁、成都攻略戦で死んだ数十万の兵も死ぬ事はなかった。死んだ兵の家族からすれば納得いかんだろう」

 

「それは……そうですね」

 

「そういう点で確かに曹操は英傑であるが、無駄に乱世を引き延ばした罪人とも言える。これは劉備も一緒だ」

 

「……」

 

「俺の曹操に対する評価はこんな所だな」

 

「では……桃香様をどう考えますか?」

 

「劉備か……」

 

一刀は少し考え、

 

 

 

 

 

 

 

 

『偽りの王』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言で切って捨てた。

 

 

「それは……どういう事ですか?」

 

「言葉の通り、劉備は王であって王じゃない。少なくとも俺は劉備を王とは認めていない」

 

「何故……?」

 

「劉備が見せかけだけの王だからさ。確かに彼女は器はある。理想もある。人徳、優しさもある。だが、それだけだ」

 

「それだけって……」

 

「じゃあ聞くが、劉備の優しさとは誰に対する優しさなんだ?」

 

「それは民「嘘だな」」

 

「嘘じゃありません!」

 

「じゃあ何でさっきの袁紹の追撃の時、関羽を手放す事をしなかった?あの時、曹操は領土を通る代価に関羽を求めたらしいな。だが、劉備は拒否した。自分に着いて来る数万の兵がいるにも関わらずだ。それとも何か?自分に着いて来る兵は優しさを向ける相手でないと言うつもりか?劉備はあの時、関羽一人の為に数万の兵を見捨てた。それを忘れるな。まぁ、曹操にも同じ事を言われた様だが」

 

「……」

 

「確かに劉備は優しいさ。けどその優しさはあくまで自分や自分の周りの者に危害が及ばない時だけに出る上から目線の優しさ。気まぐれとも言っていい。そんな劉備を優しさを信じて死んだ兵に俺は同情するよ」

 

「ではどうすれば良かったんですか!?」

 

「決まっている。劉備をもっと厳しい場に立たせるべきだった。彼女自身が理想の矛盾に苦しみ、苦渋を舐め、泥に塗れ、血に染まり、それでも立ち上がり、なお優しさを持ち続ける事が出来たのなら、その時、初めて劉備自身が夢見た理想の王になれただろう」

 

「……」

 

「まぁ、これに関してはお前達も悪い。劉備が理想が折れない様に理想の矛盾を見せない様にした。そして劉備の周りに居たお前達が優れていたから、劉備は現実と向き合わないまま、蜀の王という成功を収めてしまった。簡単に言えば甘やかし過ぎだ。もう矯正は効かんだろうな」

 

一刀の言葉に諸葛亮は黙り込んだまま何も言えない様子だった。

 

「俺が偽りの王と言った意味がわかったか?」

 

「私達が……桃香様を駄目に……してしまったんですね」

 

諸葛亮の瞳から雫が溢れる。

 

「いや、劉備も自ら気付くべきだった。それが出来ないのが劉備の限界なんだろう」

 

結局はそこだった。劉備は器はあるが、それは王になるべき器ではなかった。ただ、それだけの事。

 

「一刀」

 

そう言って、一刀は諸葛亮だけが見える様に仮面を外す。

 

「えっ?」

 

「俺の真名だ。昨日言った様に俺はお前を諦めるつもりはない。必ずお前を手に入れる。真名をお前に預けるのはその決意だ」

 

「はわっ!はわわっ!しょれは!?」

 

一刀の言葉に赤面しながら動転する諸葛亮。そんな諸葛亮に微笑みながら一刀は語り掛ける。

 

「答えはすぐじゃなくていい。もし、お前がもう一度やり直したいと思うなら、その時は俺の下へ来て、お前の真名、心を俺に預けてくれ」

 

「…………………はい」

 

暫しの迷い、それでも諸葛亮ははっきりと返事をしていた。

 

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