真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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鬼炎

半月ほどの成都への道程、一刀はかつて華琳と歩んだ時よりも、元の世界で成都に行った時の事を思い出していた。

 

あそこが自分の人生の分岐点。はっきり言って一刀は成都が嫌いだった。華琳との別れは吹っ切ったからまだいいとして、あそこを出て間もなく、拉致されゲリラにされたのだ。 

 

成都が悪い訳ではないが、成都には嫌な思い出しかない。子供っぽい感情である事はわかっていた。だが、嫌いな物は嫌いなのだ。

 

だから一刀は成都をろくに見る事はしなかった。見るべき物がないからだ。ただ、生活に困っている民を見ると、諸葛亮達の目を盗んでこっそりと荊州に来いと勧誘はしておいた。

 

 

 

 

成都の宮城の前で一刀は一人でぼーっと突っ立っていた。今頃、諸葛亮が劉備に報告を行っているのだろう。

 

暇な時間があるなら刀の鍛錬でもしたい所だが、生憎と愛刀は荊州に置いて来ている。一刀が持って来た武器の類いは元の世界である人から譲られた短刀のみ。ワイヤーすら装備していない。その持って来た短刀は取り上げられない様にブーツに装着していた。

 

諸葛亮が城に入って四刻(一時間)ほど経った頃だろうか、蜀の兵士が一刀を呼びに来た。その兵士に着いて成都の城内を歩く。途中で十歳ほどの女の子が侍女と一緒に散歩をしていた。

 

その女の子が一刀を見て、遠慮がちに手を振って来たから一刀も手を振り返しておいた。物騒な仮面姿の自分を恐れず手を振って来た女の子は良い子なのだろう。ただ、あんな無警戒だと美人に育ちそうな顔立ちをしているから若干心配になる。

 

一刀は子供は好きだ。中東でも戦争の中で近くの村の子供と遊ぶのは一刀にとって心の癒やしだった。

 

……だが、そうして遊んだ子供は戦争に巻き込まれ皆死んだ。

 

だから、子供に対しては好きと同時に苦い思いも湧き上がる。自分の領地の子供は自分を慕ってくるが、一刀は必要以上に自分に近付けない様にしていた。

 

自分と居たら死んでしまう。そんな錯覚に襲われるのだ。

 

凪達との間に子は欲しい。欲しいが、自分は父親として我が子を守り育てる事が出来るのだろうかと不安になってもいた。

 

「今、考える事じゃないな」

 

首を左右に振り呟く。

 

考え事をしている間にいつの間にか、一刀は玉座の間の扉の前に到着していた。

 

「高長恭様、到着致しました」

 

「入ってもらって下さい」

 

自分の案内してくれた兵士と耳触りの良い女性の声。扉が開かれ、一刀は玉座の間に歩みを進める。

 

そこに居たのは、関羽、黄忠、厳願、魏延、諸葛亮、鳳統。赤毛の美少女は見覚えがないが恐らくは張飛、先の乱世から七年以上経っているから子供の姿のままではないだろう。メイド服の様な服を着ている二人が董卓と賈駆。そして玉座に劉備。

 

一刀は董卓の姿を見た瞬間、思わず目を奪われた。

 

輝く銀髪、透き通る様な透明感のある美貌、触れたら壊れてしまう様な儚さを感じるのに、どこか芯の強さも感じる。何と言うか言いようのない雰囲気を醸し出していて、形は違えどその存在感は全盛期の華琳に劣る物ではない。

 

 

……蜀の人間の目は節穴か?どう考えても君が玉座に座るべきだろう。

 

 

玉座の劉備と見比べて一刀は強く思う。

 

劉備自体に魅力がない訳ではない。人目を惹き付ける美貌、男好きのする身体、纏う雰囲気は人を安心させる物を感じる。

 

ただ、董卓と比べると格が二枚か三枚落ちる。

 

そんな一刀の気持ちを知る事はなく、劉備が声を発する。

 

「貴方が高長恭さんですか?」

 

その声には怒気が混じっていた。

 

「お初にお目に掛かる劉備殿、俺が高長恭だ」

 

「貴方が高長恭さんなんですね。私は貴方に言いたい事があります。貴方はどうしてそんな酷い事が出来るんですか!?」

 

 

 

……………………………はっ?

 

 

一刀は劉備が何言ってるのか理解出来なかった。

 

「劉備殿、何の事を言っているか悪いがわからん」

 

「惚けないで下さい!!荊州を無理矢理奪ったり、星ちゃん騙したり、月ちゃんを攫おうとしたり……」

 

劉備の苦情を聞きながら一刀は思う。

 

 

……コイツそこまでか!そこまで馬鹿だったのか!!

 

 

過大評価していた。劉備は人徳と優しさを持った女じゃない。ただの馬鹿女だ。平和な時代が続いたからか多分、先の乱世の時より馬鹿になってる。

 

……アカン。コイツは殺さないと害悪になる。

 

一刀は明確に劉備に殺意を抱く。そして言った。

 

「お前、馬鹿だろ」

 

言っていた。言ってしまっていた。

 

「「なっ!!!」」

 

玉座の間に怒気が溢れる。それに構わず一刀は言葉を続けた。

 

「諸葛亮、お前、ちゃんと説明したんだよな?」

 

「はい」

 

諸葛亮が申し訳なさそうな顔をして一刀に応える。そのこめかみからは汗が流れていた。

 

諸葛亮の説明を理解してそうな面々は何とも言えない顔で一刀を見ていた。

 

怒っているのは、関羽と魏延くらいだ。それも隣の張飛と厳願に止められている。

 

「あー劉備、もう一回俺からちゃんと説明してやる」

 

一刀は外交の態度を投げ捨て素に戻る。馬鹿らしくなったのだ。

 

「まず、荊州だが、元々お前の領土じゃない。お前と孫呉が牽制し合っていたせいで、俺が荊州に入るまで豪族達が好き勝手し民が苦しんでいた。その間、何もしなかったお前に領有権を主張する権利はない!」

 

「でも!!」

 

「はいはい、次いくぞー」

 

一刀は劉備を無視して話を続ける。

 

「次は星の事だな」

 

「お前!星の真名を!」

 

「関羽はちょっと黙れ。……それで星を騙したって何の話だ?」

 

「貴方は賭けで星ちゃんを……」

 

「あぁ、その話か、確かに俺と星は賭けをしたよ。それが何か悪いのか?」

 

「悪いのかって……」

 

「あのなぁ、賭けの内容は知ってるだろ?一騎打ちで俺が勝ったら星を配下に星が勝ったら荊州を譲り渡す。なぁ、黄忠、この賭けってどっちが有利だと思う?」

 

「そ、そうね、内容は明らかに星ちゃんが有利ね」

 

声を掛けられると思ってなかったのか、黄忠が少し慌てた感じで一刀に返答する。

 

「そう、俺は明らかに不利な賭けに勝った。だからと言って、俺は無理矢理、星を配下にした訳じゃない。そうだろう諸葛亮?」

 

「ええ、星さんはご自身の意思で高長恭さんに従っていました」

 

「そんな!!星ちゃんが裏切るなんて……」

 

「劉備、お前さ、さっきから星の事ばかり言ってるけど、大事な事忘れてないか?」

 

「大事な事?」

 

「星の指揮下にあった二万の兵の事だよ。やった俺が言うのもあれだが、ほとんど帰って来なかっただろう?その家族に何かと補償はしてやったのか?」

 

一刀の言葉に劉備はしまったという顔をする。

 

「してないよな。その顔を見るに頭にもなかった様だ。働き盛りの男が死んだんだぞ。その家族が困窮しないと思っているのか?案の定、その家族達は俺の所に流れて来たぞ。殺した俺や、死んだ後、何とかしようとした諸葛亮や鳳統は恨んでなかったが、送り出して何もしなかったお前は恨んでいたぞ」

 

「あぅ、それは……」

 

「皆が笑顔で暮らせる国。お前の理想だが、どうやらその家族達はお前の中の皆には入らなかった様だ」

 

一刀の言葉に劉備の顔が青ざめる。

 

「それで董卓殿の事だが……」

 

「そう!アンタ!月をどうする気!?」

 

董卓の話題になった途端、今まで黙っていた賈駆が声を張り上げる。

 

「別にどうもしない。俺から見れば、劉備、お前に董卓殿は勿体無い。はっきり言って、その玉座を彼女に譲り渡せば間違いなく蜀を今より良い国にしたはずだ」

 

「……わかってるじゃない」

 

賈駆が小さくそう呟いたのを、一刀は聞き逃さなかった。

 

「董卓殿、俺の所には貴女を受け入れる準備がある。貴女が平穏に暮らしたいと言うならば、そう出来る様に取り計らうし、貴女が民の為にもう一度再起すると言うならばそれが出来るだけの役職を用意しよう」

 

「で、でも私は罪人です」

 

「反董卓連合の事を言っているなら、それは貴女の責ではない。あれは宦官と袁紹の責であって、あの時、洛陽に居たのが劉備なら反劉備連合、曹操なら反曹操連合になっていただけだ」

 

「わかっています。ですが……」

 

「董卓殿、申し訳ないが、貴女に選択権はないのです。貴女の身柄は馬岱の首と引き換えなのですから」

 

「そんな!!」

 

「黙ってろ劉備、俺は今、董卓殿と話をしている」

 

「貴様ぁ!桃香様に向かって!!」

 

激昂する関羽を董卓が精一杯の声を出して制止する。

 

「止めて下さい愛紗さん!……わかりました。私は貴方と共に行きます」

 

強い意思の籠もった真っ直ぐな瞳で董卓は決然と応えた。

 

「なっ!月!」

 

「月ちゃん!!」

 

「月が行くなら当然僕も行くわよ」

 

驚く劉備と関羽に、董卓の傍を離れない事を宣言する賈駆。

 

他の面々は馬岱の開放条件を理解しているので黙って成り行きを見守っていた。

 

「董卓殿、英断に感謝する。賈駆も共に来るなら歓迎しよう。俺の所は重役がかなり空いているからお前ほどの者なら役職は選び放題だ」

 

一刀が賈駆を褒め称えると

 

「そう……」

 

何とも言えない顔で赤面していた。

 

「俺の用事は終わった。これにて失礼する」

 

そう言って一刀は董卓と賈駆を引き連れて玉座の間を出ようとした瞬間、

 

「もう!我慢ならん!!」

 

魏延が得物らしき棍棒で一刀に襲いかかった。

 

「止めんか!焔耶!!」

 

振り下ろされた棍棒は厳願の制止によって宙で止まった。

 

「ですが、桔梗様!コイツは桃香様を馬鹿にしたんですよ!!」

 

「馬鹿にされる様な事を言う奴が悪い。それより魏延、お前、今、自分が何をしているのかわかっているのか?」

 

「何ぃ!」

 

「お前は今、外交の使者、しかも他国の王に武器を向けている。これがどういう事かわからないのか?……劉備!魏延を斬れ!それでこの一件はなかった事にしてやる!」

 

一刀が劉備に対し、最後の助け船を出すが、

 

「えっ、そんな、焔耶ちゃんを斬るなんて出来ない……」

 

「この盆暗が」

 

劉備はそれに応える事が出来ず、そんな劉備を見て一刀が小さく吐き捨てる。

 

「じゃあ、お前達の誰でもいい。魏延を斬って劉備を助けてやれ」

 

一刀の言葉に蜀の将が迷いを見せる。魏延が悪い事はわかってはいても、斬る事には躊躇するのだろう。

 

そんな中、得物を抜いたのは関羽だった。

 

「関羽、お前が斬るか」

 

「何を勘違いしている。私が斬るのは貴公だ!」

 

「止めるのだ愛紗!」

 

「鈴々!何故止める!?あの男を斬れば月や詠はここを離れずに済むし、星も戻って来る!」

 

「違うのだ!あのお兄ちゃんすっごく強いのだ!」

 

野性の勘と言っていいのか、張飛は一刀の力量を見抜いた様だった。

 

「劉備!これがお前の答えと言う事でいいんだな!?」

 

「ぐあっ!」

 

そう言って、一刀は魏延を蹴り飛ばして戦闘態勢に入る。

 

「董卓殿、賈駆、少し離れていてくれ。どうやら、やり合う事になりそうだ」

 

「高長恭さん……」

 

「月!行くわよ!」

 

二人が一刀から離れる。それを確認した一刀は中腰の前傾姿勢を取りながら、ブーツの中の短刀を宙に放り出し掴む。

 

短刀の銘は【鬼炎】

 

これは一刀が元の世界で戦争を終えた後、日本で出会った男から酒の中の話で自分が戦争帰りで鬼と呼ばれていた事を言った時、

 

『カズトちゃん、鬼、言われとったんならこれやるわ。儂が長年使こうとった相棒や。カズトちゃんにならやってもええわ』

 

と言われ譲り受けた物。

 

一刀は日本に戻った後、慢心していた。戦争帰りの自分に勝てる人間なんてそうはいないと。

 

その慢心を一刀をぶちのめし、へし折ってくれたのが、その男。一刀が出会った中でも一番の男。一刀は今でもその男を尊敬している。

 

そして一刀がこれから取るのはその男の戦闘方法(スタイル)

 

「使わせてもらいます」

 

それは嶋野の狂犬と呼ばれ、伝説となった男の戦闘方法(スタイル)だった。




いつか閉話で日本での半年を書けたらいいなぁ。
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