真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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オーパーツ

その場に崩れ落ちた劉備に興味を失った一刀は兵の治療を受けながら、いまだ、気絶している厳顔の元へ向かう。

 

「どけ」

 

その一言で厳顔の治療をしている兵を退けた一刀は厳顔の腹部を蹴り上げる。

 

「おい、起きろ」

 

「がはっ!」

 

「桔梗!!貴方、桔梗に何するんですか!?」

 

黄忠の咎める声、一刀はそれをさらりと受け流す。

 

「別に本気で蹴っている訳じゃない。ただ、こいつには聞きたい事がある。だから起きてもらったまでだ」

 

とは言え、一刀のブーツは鉄板が入っているからそれなりのダメージはあるだろうが……

 

しばらく咳込んだ厳顔は辺りを見回す。

 

「桃香様!!」

 

「……」

 

だが、劉備は厳顔の言葉に何の反応も示さない。

 

「あぁ、劉備に剣を突き付けているのは俺の部下だ。一言で言えば人質だな」

 

「お主!」

 

「まさか、卑怯とは言わないよな?お前達がやった事に比べたら卑怯でも何でもない」

 

「むぅ……そう言えば焔耶は?焔耶は何処におる?」

 

厳顔のその問いに一刀は軽く魏延の亡骸の方へ首を振る事で答えた。

 

「え、えんや……焔耶ぁぁ!!」

 

「うるさい。何を騒ぐ事がある?馬鹿が馬鹿をやって死んだ。それだけの事だ」

 

「おのれぇ!!」

 

「少し黙ろうか」

 

一刀はそう言って喚き立てる厳顔の首筋に鬼炎を添わせる。刃の冷たさを感じたのだろう厳顔が口をつぐんだ。

 

「……それでいい。お前には一つ聞きたい事がある」

 

「……」

 

「お前のその武器、誰が作った?」

 

「何故、そんな事を聞く?」

 

「いいから答えろ」

 

「誰がお主なんぞに!」

 

どうやら素直に答えてはくれないらしい。だから一刀は那由多の方へ視線を飛ばす。那由多も一刀が言いたい事がわかったのか、劉備に突き付けた剣を軽く押し込んだ。

 

劉備の身体から滴る鮮血。それを見た蜀の臣は顔色を変えた。

 

「「「桃香様!!」」」

 

自分の身体に軽くとは言え、剣先が突き刺さっているのにそれでも劉備は項垂れたまま、沈黙していた。

 

こいつ壊れたか……?一刀は一瞬、そう思ったが、今は劉備に関わっている暇はない。

 

「厳顔、もう一度だけ聞く。お前の武器を作ったのは誰だ?」

 

「ぐっ!…………馬均と申す者だ」

 

一刀はその名を聞いて、自分の頭の中の三国志の人物を探る。

 

馬均……確か正史で足踏み水車を開発した魏の発明家。どうやらこの世界でも発明家らしい。

 

「そいつはどんな奴で今、何処に居る?」

 

「姿形は風采の上がらぬ男。場所はワシもはっきりとは知らん。だが噂では衝山の麓の村落で色々なからくりを作っている様だ」

 

衝山とは長沙の近くにある標高千三百メーターほどの山だ。一刀も黒鬼隊や屍鬼隊の調練で何度か訪れた事があった。

 

「俺の領地に居るのか、手間が省けるな。那由多、こちらへ」

 

一刀に呼ばれた那由多は劉備を抑える役目を屍鬼隊の人間に任せて、すぐさま一刀のそばへ駆け寄る。

 

そんな那由多の耳元に一刀は小声で語り掛けた。

 

「那由多、ここを出たら、すぐにその馬均という男を屍鬼隊に命じて確保させろ。何ならお前自身が出てもいい。ただ、絶対に逃すな。確保に成功したらこちらに勧誘しろ。そして馬均が勧誘に乗るなら問題ない。だが、応じなかった場合は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

一刀のその命令に那由多は目で頷き、再び劉備の元へ戻った。

 

改めて、一刀は厳顔の武器を見つめる。……どう考えてもこの時代にあっていい武器ではない。

 

この武器は小型にして改良化すればリボルバー銃に、大型にして改良化すれば連装式の大砲になる。そんな武器がもし量産されてでもしまえばこの世界の戦争が一変してしまう。

 

何より一刀が懸念しているのは、こんな武器を作れる人間が誰の手綱も受けずに自由な状態でいる事。

 

「冗談じゃない」

 

心中の焦燥が思わず呟きとなって漏れる。一刀にとってこの世界に戻ってから初めてと言っていい明確な脅威。銃器の恐ろしさは自分が誰よりも知っていた。

 

一刀にとって幸いだったのは、蜀の人間が誰も、それこそ遣い手である厳顔でさえ、この武器の真価を理解していない事。

 

蜀の人間がこの武器の真価を理解し、馬均を招聘して改良、量産化していれば、自分はかませ犬に成り下がっていただろう。

 

一刀は何が何でも馬均を確保したかった。自分の管理下に置いて置かないと安心出来た物じゃない。管理下に置けないなら必ず殺すとも那由多に命令した様に決めている。

 

こんな伏兵がいるなんて思いもよらなかった。一刀が天下を平定すると決めた時、自分の敵になる事をもっとも恐れた相手は華琳でも劉備でも孫策や孫権でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

……一番に恐れたのは真桜だった。

 

 

 

 

 

 

 

一刀は正面からの戦争や国の経済力で他国に負けるとは思わない。自分が鍛えに鍛え抜いた黒鬼隊、諜報や工作員として他国を圧倒する屍鬼隊。国は交易により富み、食糧は一刀が元の世界から持ってきた芋類で民は最低でも飢える事はない。

 

まさに富国強兵。それを地で行く一刀の勢力をひっくり返す可能性があるのが、技術という物なのだ。

 

例えば真桜の螺旋槍。あれもこの武器と一緒でオーパーツと言っていい。この武器ほど、戦争で使える訳ではないが、量産すれば開墾や治水工事、道路整備などに破格の性能を発揮するだろう。

 

実際に張三姉妹の舞台をあっという間に作りあげた事でその事は実証済みだ。

 

だから一刀にとって真桜の身柄を確保するという事は、最優先事項に入っていた。それだけ技術者や発明家というのは重要だった。

 

一刀は厳顔の元を離れる。向かったのは魏延の亡骸。

 

そこで魏延の得物である棍棒を持ち上げ、再び厳顔の元へ向かう。

 

自分の気を棍棒に通し、その棍棒を上段に振り上げる。

 

「お、お主、何を!?」

 

真桜の螺旋槍はまだ良い。武器としてそれほど脅威ではないし、武器以外の使い道が山ほどある。だが、この厳顔の武器は違う。他の用途がほとんどない。あくまで戦う為の、殺戮兵器になる可能性が高い武器。

 

 

 

 

 

 

 

……故に一刀はこの武器の存在を許す訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

一刀は振り上げた棍棒を全力で厳顔の武器に叩き付けた。

 

強烈な破壊音と共に厳顔の武器が弾け飛ぶ。

 

その場に居る人間の視線が一刀に注がれる。それを気にする事なく、一刀は一仕事終えたと言わんばかりに棍棒を放り投げた。

 

「ワ、ワシの豪天砲が……」

 

「お前の武器はこの時代には早すぎる。新しい得物を探すんだな」

 

自分の得物が弾け飛ぶ様を見て、呆然と呟く厳顔に一刀はそう囁いた。

 

 

 


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