真・恋姫†無双 鬼龍伝   作:三十路のおっさん

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満月の帰還

一刀が日本に帰ってから、半年の月日が流れていた。

 

この半年間、一刀がやっていた事と言えば、剣術の鍛練とあの世界に行く為の銅鏡の情報収集、後はひたすら勉学に励む事。

 

勉学と言っても学校で学ぶ事ではなく、商業、農法、工業、医学、料理など、あの世界で使える知識を重点的に蓄えていた。

 

戦争に巻き込まれ、三年半もの期間、遠回りする事になってしまったが、それでもあの世界に行くなら悪い事ではないと考えている。

 

いくら、華琳が大陸を平定して、三国がそれぞれの国を治める事になっても、数年程度では、まだまだ治安も安定していない。賊も数は減っているが、普通に居るだろうし、自分が魏に居る時は戦う事はなかったが、五胡の事もあるだろう。

 

今の自分なら、そういった脅威があろうと、切り抜けられると考えていた。

 

本音を言えば、自分があの世界に帰った時には全て終わっていてくれるのがベストだと思うが、そこまで期待するのは、華琳達が如何に優れていたとしても酷な話だと思う。

 

戦争は勝つ事より、勝った後の後始末の方が大変なのだ。そう考えると、華琳の時は自分の力ではどうしようもなかったが、中東の戦争で後始末に参加しないで、日本に帰って来た事をラキに申し訳なく思ってしまう。

 

一応、一刀も日本に帰って来てから、パソコンで度々、あの国の情報を確認していた。独裁政治と長い戦争による傷痕は深いが、ラキの主導の下、順調に復興が進んでいる様子で、ラキ自身もパソコンにアップされている映像を見る限り、元気な様子で一刀は安堵していた。

 

只、一つ驚いた事がある。……国の名前が変わっていた。新しい国の名前はテンニーン。それはラキから一刀に向けてのメッセージだった。

 

一刀が居た証に一刀の異名を国の名前にする。つくづく情の深い男だと思う。そんな男だからこそ、一刀は兄弟になり、最後の最後まで共に戦う事を選んだのだ。

 

それと同時に一刀はその情の深さが仇になるかも知れないと心配もしていた。一人の人間としてなら美徳と言えるが、ラキは一国のトップだった。持っている優しさが甘さにならなければ良いが……

 

一刀はそう異国の兄弟分に思いを馳せるが、今の自分に出来る事はない。未練を振り切る様に二、三度首を振り、日課となっている剣術の鍛練を行う為に一心の道場へと向かう。

 

そして道場に着いた一刀を待っていたのは、正座をして瞑想する一心の姿。その傍らには一振りの日本刀。一刀の到着に気づいたのか、その目がゆっくりと開かれる。

 

「爺さん、今日も宜しく頼む」

 

「……」

 

「……爺さんどうした?」

 

「……一刀、儂がお前に教える事はもうない」

 

「何だ、いきなり。どういう事だ?」

 

「言葉通りの意味じゃ。お前も気付いておるじゃろう」

 

その言葉を聞いて、一刀の心中でやっぱりそうなのかという思いが駆け巡る。

 

「やはり、気付いておったか。お前の考えている通りじゃ」

 

「俺の気のせいではなかったか……」

 

「あぁ、お前の剣の腕は既に儂と同等、簡単に言えば、免許皆伝。それにまだ伸び代を残しておる。儂と違ってな。つまり、儂からお前にしてやれる事は後、一つだけじゃ」

 

一心はそう言って、傍らの日本刀を一刀に手渡す。その刀の鞘は鉄拵えで作られており、見た目以上の重さが一刀の手の内に掛かる。

 

「北郷流に代々伝わる刀じゃ。銘は無銘。切れ味はそこそこだが、頑丈さでは名刀と言われる刀に劣らん、むしろ切れ味を犠牲にしている分、この刀の方が頑丈じゃろう。鞘は本来は木の拵えだが、知り合いの鍛冶に頼んで作らせた。お前の戦い方を考えるとその方が良いじゃろ?」

 

「ちょっと待て!爺さん、俺は北郷流を継ぐつもりはないぞ。そんな俺がこの刀を貰う訳にはいかない」

 

「一刀、話は最後まで聞け。……本来、北郷流に伝わる刀は二振りあるのじゃ。一振りは北郷流の当主に代々受け継がれる刀。それは既にお前の伯父に渡している。そしてもう一振りは……北郷流最強の剣士に受け継がれる刀。それがその刀じゃ」

 

「……伯父さんはこの刀を俺に渡す事を納得したのか?」

 

「あぁ、あやつの腕は儂より下だからな。お前の腕が儂と同等と告げると納得したわ。思う所もある様だったがな」

 

「……そうか」

 

「北郷流の二振りの刀は開祖から今に至るまで、当主が受け継いできた。それは最強の者が当主になるという不文律があった故な。今回が初めてじゃ、当主とは別の人間がその刀を受け継ぐのは……」

 

「……」

 

「一刀、お前に今更、覚悟を問う事はしない。当主を継げとも言わん。……只、北郷流の魂だけは受け継いで欲しい」

 

「……わかった。爺さんの、いや、北郷流の魂、受け継がせてもらう」

 

一刀のその言葉に一心の顔に笑みが浮かぶ。

 

「……ふう、これで儂の役目は終わった。それにしてもお前の才能が羨ましいのう。まさか、半年で北郷流を極めるとは思わなんだ。……まぁ、お前は北郷流に必要な心技体の内、心と体は半年前の時点で既に儂を越えておったから、当然と言えば当然なのかもしれぬが……」

 

「強くならなければ死ぬ……いや、強くなっても死ぬ可能性が高い環境に居たからな。これ位の見返りがないと、俺の三年半が報われん」

 

「一刀、お前が言っている事はわかる。儂も太平洋戦争に行ったからのう。いくら鍛え強くなっても、銃弾が一発当たれば死ぬ環境。あの当時は自分がやっている鍛練が壮大な無駄な気がしてしょうがなかった」

 

「俺もそうさ。何度、徒労感に襲われたかわからない。それでも他にすがる物がないからな、鍛練をする事で少しでも生き残る可能性が上がると信じるしかなかった」

 

「それで一刀、鍛練を続ける事で答えは出たのか?」

 

「……己に宿る物が全て。そう思い定める事が出来たよ。実際に鍛練していなかったら、十回は死んでいたしな」

 

「……一種の悟りの境地じゃな。儂も似たような答えを出したわ。もっとも儂がその答えを出したのは、五十を過ぎてからであったが……」

 

「……」

 

「戦国の世であれば、名を残す事も可能であったろうが、今の日本ではお前は異端じゃ。くれぐれも持っている牙を人には見せるな。出る杭は打たれるぞ」

 

「心配しなくていい、元は甘ったれた学生だからな。精々、上手くやるさ」

 

「……そうか。それなら良い。…………ところで一刀、お前これはイケる口か?」

 

一心が酒を飲む仕草をしながら一刀に聞く。

 

「それなりにな。特別、強い訳じゃないが、弱くはないぞ」

 

「そうか!そうか!なら、今日は家に泊まっていけ。免許皆伝祝いだ。今夜は飲むぞ!」

 

満面の笑顔の一心にしょうがないなと思いつつも悪い気はしない。意気揚々と自分の家に向かう一心に着いていく一刀。しかし翌日、襲い来る頭痛と戦いながら、この時の判断を後悔するのだった。

 

 

 

ある朝、実家で朝食を食べながら新聞を読んでいた一刀は隅っこに小さく書かれた記事に目を惹き付けられる。

 

 

 

―――古代中国博覧会。

 

 

 

それは個人が所有する古代中国の品物を一堂に集め、展示するという物。それが今日から、隣町で開催されていた。

 

一刀はその記事に運命的な……いや、何か作為的な物を感じる。記事その物におかしな所はない。博覧会自体もありきたりな物だと思う。

 

只、自分にとって都合が良すぎる気がするのだ。考え過ぎかもしれないが、何かが引っ掛かる。

 

その記事を見詰め、暫く考えるが、何にせよ行かないという選択肢はない。日本に帰ってから銅鏡の情報は一切、集まってないのだから。

 

一刀は朝食を口に詰め込み、隣町へと出発する。博覧会の場所までの距離はおよそ十㎞。一刀は鍛練がてら走っていく事にした。

 

そして走り始めて三十分後、一刀は博覧会の会場に到着していた。平日という事もあって、客の数はそれほどでもない。

 

一刀はじんわりと吹き出てくる汗を袖で拭い、受付で入館料を払い会場に入る。

 

展示されている物は一刀にとって目を惹く物ばかりだった。宝剣、陶器、竹簡、装飾品など、何処か懐かしさを感じさせる。

 

いつしか、一刀は自分の目的と時間を忘れ、それらの物を見入っていた。

 

そうして楽しんでいた一刀の耳に館内アナウンスが飛び込んで来た。閉館十五分前のアナウンスである。

 

そのアナウンスを聞き、そろそろ帰るかと何気なく視線を飛ばした先にあった物に一刀の時は止まる。

 

展示会場の隅、順路から離れて、誰も見に来ない様な場所にそれは置かれていた。

 

 

 

……古ぼけた銅鏡。

 

 

一刀は慌てて、その銅鏡の元へ走る。そして間近でそれを見た時

 

「……これだ。間違いない」

 

一刀はそう呟く。この銅鏡であるという根拠はない。それでも一刀はこの銅鏡で間違いないと確信していた。

 

「あらっ!素敵なお方ね。その銅鏡が気に入ったのん?」

 

銅鏡を見入っていた一刀に向けられる声。驚きはしなかった。誰かが居る気配は感じていたからだ。

 

「……あぁ、とても気に入ったよ」

 

そう言いながら振り向いた一刀は、見てはいけないものを見てしまった。

 

その人?は全身が鍛えられた筋肉に覆われ、上半身の服は着ておらず、下半身もピンクのビキニ一枚で頭髪はスキンヘッドなのに何故か左右からおさげだけがある何かもう色々アウトな物体?だった。

 

一刀は驚きはしたが顔に出す事なく、心を整える。

 

「……えっと、人間?」

 

「だぁれが!放送禁止の筋肉ムキムキの汚れキャラですってぇーー!!」

 

「誰もそこまで言ってない。……所であんたは?」

 

一刀はその物体?に尋ねる?

 

「私は貂蝉って言うしがない漢女よん。ついでに言えばその銅鏡の持ち主でもあるわん」

 

……貂蝉!?この物体?が絶世の美女と言われる貂蝉!?いや、百歩、もっと言えば一万歩譲ってそれは良いとしよう。実際に自分は男であるはずの三国志の武将が女になっている世界に居たのだから。

 

だが、何故、その貂蝉がこの世界に居る?もう一つは何故、自分の探していた銅鏡を持っている?

 

わからない事だらけだった。そんな中、一刀が行ったのは

 

「俺は北郷一刀と言う。……所で貂蝉、外史って知っているか?」

 

……カマをかける事だった。その言葉に貂蝉の目蓋が微かにしかし不自然に動く。

 

「やはり、あの世界の関係者だったか……」

 

「ご主人様は随分と鋭いのねん。外史って言うのは……」

 

「いや、説明はしなくていい。あんたにご主人様と呼ばれる筋合いはないと思うが、あの世界の関係者だ、俺の知らない何かがあるんだろ。俺が知りたいのは一つ」

 

一刀は銅鏡に目をやり

 

「……この銅鏡を使えば、俺はあの世界に戻れるのか?」

 

そう尋ねた。

 

「……結論から言えば戻れるわん」

 

「……そうか、なら、この銅鏡を俺に譲ってくれないか?金が必要なら払う」

 

一刀の貂蝉は首を振る。

 

「駄目なのか?」

 

「いえ、銅鏡を譲るのはいい、お金もいらない。でもいいのん?この銅鏡を使ってあの世界に行けばご主人様は二度とこの世界に戻って来れなくなるわ。その覚悟はあるのん?」

 

「……あぁ、構わない。元よりそのつもりだったからな」

 

この世界にも心残りはある。両親や祖父の一心、それにラキ。特にラキはまた会う約束を破る事になるのは心苦しいが、それでも自分はあの世界に戻りたかった。

 

「そこまで言うなら、博覧会の主催者には私から言っておくからその銅鏡は持って行っていいわん」

 

「本当か!心から礼を言わせてもらう!」

 

「お礼ならご主人様の熱いベーゼでいいわよん」

 

「んっ?そんな事でいいのか?」

 

そう言って一刀は貂蝉に近づく。華琳と違って同性の趣味はないが、戦場で戦友に数え切れない程、人工呼吸をした経験がある一刀にとってはそれ位の事は苦でも何でもなかった。

 

貂蝉の目の前まで来た一刀は貂蝉の唇に自分の唇を重ねる。……そしてどれ位の時間が経っただろうか、一刀が重ねた唇を離した途端、貂蝉が腰砕けになって床に座り込んだ。

 

「……ぶるるぅわぁ!ご主人様は悪い男だわー!こんな純情な漢女の心を弄ぶなんってぇ!!」

 

「人聞きの悪い事を言うな。お前から言った事だろう。……それじゃ銅鏡は貰って行くぞ。……本当にありがとな貂蝉」

 

「いいのよん。ご主人様の幸せは私の幸せでもあるわん」

 

「……俺とお前がどういう関係にあるのかは知らない。だが、お前は俺の恩人だ。縁があったらまた会おう」

 

「……えぇ、またねん」

 

貂蝉は去って行く一刀の背中を見送りながら呟く。

 

「あの外史は他の外史と切り離されて独立した外史となった。私達、管理者もあの外史には入る事は出来ない。……幸せになってねんご主人様」

 

その呟きは一刀に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

……今宵は満月の夜。一刀は部屋で服を着替えていた。着る服は自分が戦場で愛用していた黒の軍服。ズボンのベルトには左に一心から譲り受けた刀。右にはサバイバルナイフ、手袋には一見では見えないの細さではあるが、車を持ち上げても切れない程の強度を誇るワイヤーを仕込み、軍服の上から着るベストには投げナイフ十本が装備されている。

 

準備が終わった一刀は向こうで役立ちそうな物を色々と詰め込んだ大きな軍用リュックを背負い、寝ている家族を起こさない様に玄関へ向かい、そこで足先に鉄板、左右にブーツナイフを仕込んだブーツを履き外に出る。

 

今の自分に出来る最強の装備を揃えた一刀であるが、あの世界での自分の代名詞と言えるフランチェスカの制服は部屋に置いて来た。

 

今の自分にはあの白の制服、天の御遣いは似合わないし、その資格もないと思っていたからだ。

 

パトロール中の警官に見付からない様に、目的地を目指す一刀。たどり着いたのは、街外れにある原っぱ。何が起こるかわからないから人が寄り付かない場所を一刀は選んだ。

 

原っぱで空を見上げると輝く満月。一刀はあの世界から自分が消えた夜の事を思い出していた。

 

……あの日から四年。自分は随分と変わってしまったが、彼女達へと想いは変わる事はなく、此処までたどり着いた。

 

「……やっと皆に会える」

 

そう呟き、一刀は銅鏡を月に翳す。

 

……その時、辺り一面に目を開けていられない程の眩い光が放たれる。

 

そして、その光が収まった時、その原っぱには誰も居なくなっていた。

 




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