レムと西谷の話の翌日、西谷はロズワールに呼び出された。
「わぁざわざ、呼び出して悪いねーぇ。」
「別にかまへんよ。それで、何の用なんロズ君。」
ロズワールの私室に入った西谷はロズワールに問いかける。
「まずは、先日の件礼を言っておくよーぉ。わたーぁしのいない間のゴタゴタを片付けてくれてありがとーぉね。用件は二つあるんだーぁよ。一つは、先日のお礼の件なんだーぁけど、休養だけではあんまりだろう?だーぁから、改めて一つ願いを聞くよ。なーぁんでも、言ってくれたまえ。」
「さよか。まぁ、気にせんでもええんやけど...せっかくやしお願いしとこか。せやな...早い内にどっかのタイミングで王都に行かせてや。」
ロズワールの申し出に対し、前から思っていたのかすんなりと返す西谷。
「...そーぉんな事かい?...理由をきいても?」
「実は、商売しよう思うねん。王戦にあたって、資金力はもとより傭兵雇ったり情報を得たり駆け引きに使ったり...ま、色々使い道があるさかい王都で商売したいんやけど、その下見っちゅうとこや。」
ロズワールの問いに商売をすると西谷が答える。
「なるほどねーぇ。でも、資金はどうするんだい?」
「そこは、ワシの手持ちのもん売れば開業資金にはなると思うから安心せえ。それとは別にタバコも切れそうなんや。これ、王都なら売っとるやろか?」
資金の話になり、そんな風に答えタバコを見せて切実そうに聞く西谷。
「タバコ...ああ、バタコの事だーぁね。王都なら売ってると思うーぅよ。」
「ほんまか!それは良かったわ。」
西谷はロズワールの返答に嬉しそうに反応する。
「もう一つの用件に入らせてもらうーぅよ?...君には、エミリア様の騎士になって貰いたいんだ。」
「その騎士っていうのはなんやねん?」
真面目な顔で二つ目の用件に入ったロズワールに問ひ返す西谷。
「騎士ってーぇいうのは、専属の護衛や用心棒みたいなものだーぁね。」
「さよか!よっしゃ!これから楽しなってくるでぇ!」
ロズワールの答えに目を輝かせて喜ぶ西谷。
用件を聞き、ロズワールの私室を後にすればエミリアの所へ向かう。
「エミィちゃん、パック君おるかな?」
「あぁ、ホマレ。今から日課だからパックに用があるならついてきて。」
エミリアの返答に庭園まで付いていけばパックが出てくる。
「やぁ、ホマレ。僕に用ってなんだい?」
「実はの、ワシにも魔法が使えるか教えて欲しいねん。ワシ、エミィちゃんの騎士になったやろ?せやから、戦闘で役立つ事は何でも知っときたいねん。」
「お、決心してくれたんだね。ありがとう。わかった。まずはホマレがどんな属性を使えるか見てみるよ。」
「ちょぉ、待って。属性なんなん?」
「あれ、そこから説明しなきゃダメ?えっとねマナにはそれぞれ属性があって、火、水、風、土の基本属性と陰と陽っていうちょっと特殊な属性があるんだよ。」
出鼻を挫かれてずっこけそうになるも、きちんと説明するパック。
「なるほどのぉ...ん?エミィちゃん氷使っとったで?エミィちゃんは何属性の魔法使いなんや?」
「ああ、あれは火の属性なんだよ。火属性は温度を操れる事も含まれるから氷も扱えるってわけ。ちなみにリアは魔法使いじゃなくて厳密に言うと精霊使いだから使うのは魔術じゃなく精霊術なんだ。」
「魔法使いと精霊使いってなんか違いがあるんか?」
パックの説明にまた新たな質問をする西谷。
「魔法使いは自分のゲートを使ってマナを取り込みゲートを使ってマナを取り出し魔法を使う。だけど、精霊術師は大気中のマナを使って術を使うのさ。」
「つまり、魔法使いは自分の中のマナしか使えんからゲートの大きさとか数がものを言うけど、精霊使いは外部のマナを使えるさかいゲートに関係なく魔法を使えるっちゅうことか。」
西谷はパックの説明にそんな風に納得して答える。
「ま、そんなところだね。ただ、精霊の強さに左右されるし精霊との契約もあまりない事だから一長一短なんだけどね。さて、説明も終わったしホマレの属性を調べるよ。...みょんみょんみょんみょん...」
パックは変な効果音を口で出しながら西谷の額に尻尾を添える。
「わかったよ。珍しいね君。陰属性だったよ。」
「その陰属性っちゅうのは、どんな魔法が使えるんや?」
パックがわかった属性について答えるとすかさず質問する。
「目眩しをしたり動きを遅くしたり音を遮断したり出来るよ。」
「そら、なかなか使えそうやな。で、ワシにも魔法使えるんか?」.
その有用性に目を輝かせながら問いかける西谷。
「うーん、すぐには無理かな。魔法の方は特別才能があるわけじゃないからね。でも、体験くらいならさせてあげられると思うよ。」
「さよか。で、体験ってどうすんねん?」
パックのすぐには使えないという言葉に少し残念そうにする。
「僕がホマレのマナを使って魔法を使うんだよ。僕は補助するだけだから、魔法自体はホマレのゲートから出るよ。簡単な魔法だと...目眩しの魔法、シャマクなんかいいんじゃないかな。」
「シャマクってどんな感じの魔法なん?」
「そうだなぁ...言葉にするより、体験してもらった方が早いからかけてみるね。シャマク!」
西谷の問いかけに、言葉より早いとシャマクを使う。
視界は暗闇に覆われて、あらゆるものが知覚できない。
音は消え、景色は消え、自らの肉体さえあるかどうか怪しい。
しかし、西谷は狼狽えず冷静に術者であるパックの気配を察する。
地球にいた頃、頻繁に命を狙われた西谷にとって気配の察知は自然と身についていた。
姿形がなくならない以上、見つけるのはそれほど難しい事ではなかった。
「パック君見ーっけ...っておろ、もう、終わりなんか。」
「流石に化け物じみてるねホマレは。気配だけで僕を捕まえちゃうんだもん。」
西谷の手の中にいるパックがちょっと悔しそうにそう評する。
「まぁ、色々との。それにしても、かなり使える魔法ちゃうか?かなり動きが制限されんで?」
「そうでもないよ。格下か同程度の相手じゃないと単純な実力差で弾かれちゃうし長持ちもしない。それにホマレが今やったみたいに気配で察知されたら意味ないし、そもそも集中力が必要だから、ホマレなら発動前に斬っちゃうとか出来るかもね。」
「なるほど、まぁ何かしら使い道があるやろ。」
パックの説明に頷きながら、まぁそんなもんかと納得する。
「じゃあ次はホマレの番だね。...じゃあ行くよ。」
パックがそう言うと不意に全身が熱くなる感覚を西谷は得た。
鬼神の加護の時とは違い、今度ははっきりと血とは別の奔流を感じる。
これこそが自身の体内にあるマナというものなのだろう。
パックから伝わる何かによって体内のマナが指向性を得たのが分かる。
「ホマレ、イメージしてごらん。今、君の体の中のマナの流れを掴んで動かしてる。その一部をゲートから、体の外へ吐き出すんだ。それは外で形をなす...さっきのような、黒い雲となって。」
「イメージか...こんな感じか...?」
パックのアドバイスに応じてイメージを固める西谷。
ゲートを身体の中心にイメージしてそこを通り現象へと昇華する。
「シャマク!」
西谷の詠唱とともにあたりに黒い霧が立ち込めた。
「うん。こんな感じかな。体験は以上で終了だよ。」
「おおきに。ええ体験させてもろたわ。特に体内のマナをイメージ出来たのは大きいで。マナの流れをイメージすれば、こんな風に...!」
パックのまとめに対してそう言えば、助走なしに10m近く跳ぶ。
「...なるほど、体内のマナを意識的に肉体に反応させたんだね。いいんじゃないかな。その方がホマレには合ってると思うよ。戦いに関しては本当の天才だね。」
「ま、これを呼吸するように出来んとあかんけどな。」
この日より、毎朝マナを肉体に反応させる訓練が西谷の日課に加わった。