「お、エミィちゃん!おはようさん。」
「おはよう、ホマレ。ところで...そのエミィってなに?」
扉をノックして入ってきたエミリアに気付いて、挨拶をすればそんな呼び方をする西谷。
「ん?あぁ、エミリアちゃんやとなんや呼び辛いし他人行儀な気ぃしてのう。こっちの方が愛着わくやろ?」
「昨日かなり傷を負ってた上にベアトリスから悪戯されたって聞いて心配してたんだけど、するだけ損だったのかも...」
西谷のその説明に少し嬉しそうな顔をすると、呆れた様な嬉しい様な複雑な表情を浮かべる。
「聞いてください、エミリア様。あの方に酷い辱めを受けました、姉様が」
「聞いてちょうだい、エミリア様。あの方に監禁凌辱されたのよ、レムが」
「ホマレがそんな事......やるかも知れないけど、されてないでしょ。レムもラムもあまりホマレをからかわないの。」
「はい、エミリア様。姉様も反省していますよ。」
「はい、エミリア様。レムも反省したと思うわ。」
呆れ顔で注意するエミリアに、反省の色を感じさせない反省の言葉を紡ぐ二人だが慣れてるのか気にした様子はなく西谷の方をむく。
「それで、身体の調子は大丈夫なの?」
「あったり前やん、ワシァ頑丈さが取り柄なんやで。ベア子ちゃんのお呪いもよう効いたしの。しかし、朝起きるっちゅうんも久し振りや。」
西谷はエミリアの問いにそんな風に答えれば、しみじみとそんな事を呟いた。
「それって、どんな生活を送ってるとそうなるの...?」
「ん?そやな...シマ内の見回りやろ、取り引きの時の接待やろ、経営しとったんも殆ど水商売やったし夜に行動するんが多かったんや。」
「なんか、いまいちわからないけど、仕事なら仕方ないのかな...」
西谷のそんな説明に、首を傾げながらもなんとか理解した様な様子のエミリア。
「ところで、昨日とは随分印象の違う格好やけどどないしたんや?」
「あー、格好にはあんまり触れないで...私も不本意だから...今から、朝の日課なの。」
エミリアはパウダーピンクの長袖のショルダーカットワンピースに付け襟と太ももまである白いロングソックスという格好で、その格好を不本意だと困った様子で苦笑いする。
「日課って何するん?」
「屋敷の庭を借りて精霊とお話するの。それが私の誓約の一つだから。良かったら一緒に来る?」
「なんやようわからんけど......せやな、着替えたらいくわ。」
エミリアの誘いに少し考えた後、後から行くと伝えればエミリアは部屋を後にする。
トイレに行ってから着替えようと部屋を出て用を足してから戻る途中で扉を開ける。
「ベア子ちゃん、おはようさん!やっぱここやったんやな?」
「なんで、朝からお前の顔見なきゃなんないのかしら...」
西谷が中にいたベアトリスに元気よく挨拶すると、ベアトリスは心底嫌そうな顔で答える。
「言うたやろ?また、来るって。忘れたんか?寂しいわー。」
「ベティーは一言もそんな事頼んでないのよ!」
西谷が戯けた様にそういえば、心外だと言わんばかりにベアトリスがそう切り返す。
「つれないのう、ベア子ちゃんは...そんなんじゃ、モテへんで?ワシが極意おしえたろか?」
「うるさいのよ!さっさと出て行くかしら!」
「なっ...!?ぬおぉぉぉぉ!?」
西谷の余計な言葉にベアトリスがカチンときたのか手を伸ばし魔法で吹き飛ばせば、窓から勢いよく落とされる。
「痛たたたた...もう、ベア子ちゃんは恥ずかしがり屋なんやから...」
「...大丈夫?...その...そこ、レムが昨日...動物の糞を撒いてたのだけれど...」
頭をさすりながらボヤく西谷に対し、服の汚れを目にしたエミリアが言いにくそうに伝える。
「うそやろ!?あかん、朝から最悪や......」
「こういうのは、運が付くって言い換える習慣が......パック、起きて?」
身体が汚れた事に落ち込む西谷を慰めようとするが、諦めてパックを呼ぶエミリア。
「ふぁ〜...おはよう、リア〜。」
「おはよう、パック。起きていきなりなんだけど、ホマレの身体洗ってくれる?」
眠そうにパックが朝の挨拶をすれば、早速西谷の服を洗う様に頼むエミリア。
「ホマレ...?...あぁ!わかったよ〜、それじゃあ洗うね〜?それー!」
「ぬおぉ!?おごごごごぉぉぉぉ!?」
パックが水流を西谷にぶつけると、そのまま水の竜巻を作り出し西谷を揉みくちゃにする。
(...閃いたで!......天啓が......来たでぇぇぇ!!)
西谷は水の竜巻の中でぐるぐると揉みくちゃにされながら回転すれば以前真島から受けたブレイクダンスを元にした攻撃と結びつく。
そして、自身の身体の動きがイメージとして脳内を駆け巡り技として昇華した。
「ほらー、綺麗になったー!よかったねー!」
「おごぉ...パックくん...実は楽しんどったやろ......」
ようやく水の竜巻から解放された西谷は息を絶え絶えにそんなふうに文句を言った。
「.........そんな事ないよ〜。心外だよ〜、ぷんぷん。......ふにゃぁぁ!?」
少し間が空いてから、軽い調子で態とらしく口を尖らせれば、西谷の強烈なデコピンが小さな額を打ち抜く。
「お返しパーンチ!」
「ぬおっ!...猫泣かせや!なかなか効くやろぉ?」
「にゃははははは!尻尾パーンチ!次は肉球グリグリだー!」
西谷とパックがそんな風にじゃれ合っているのを見てエミリアが思わず吹き出した。
「あはは! もう、ゴメン、ダメ。あは、ふふふふ! もう、二人してなにやってるの……ああ、お腹痛い。やだ、死んじゃうっ!」
「エミリアが笑っとるわ。フォローおおきにな、お義父はん!」
「誰がお義父さんか!君に娘はやらんよ!」
そんなコントを繰り広げていると、エミリアはさらに大きく笑い涙が滲む。
「でも、ホマレ本当にありがとう。君がいなかったらリアが危なかった。これは、大きな借りだ。何か望みはあるかい?」
「気にせんでええで。...ま、なんかあったらそん時頼むわ。」
笑い転げるエミリアを尻目にそんな事を話していると、レムとラムがこちらにやって来る。
「「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうぞお屋敷の方へ。」」
どうやら、当主が帰ってきたので呼びに来たようだが、ずぶ濡れの西谷を上から下まで見る。
「見てください、姉様。お客様が少し見ないうちにずぶ濡れの小汚い犬になっています。」
「ええ、見てるわレム。お客様が少し見ないうちに薄汚れて醜い家畜に成り果ててるわ。」
「言われんでもわかっとるわ。部屋で着替えてから行くさかい、ちょぉ待っとって。」
二人の息の合った罵倒を受け流せば、部屋へと戻り身支度を済ませ食堂の前に集まる西谷とエミリア達。
「やぁ、ベティー。4日ぶりだね。お淑やかにしてたかな?」
「にーちゃ!帰りを心待ちにしてたのよ!今日は一緒に居てくれるのかしら?」
パックがベアトリスを見つけそんな風に挨拶すれば、ベアトリスは嬉しそうに問いかける。
「うん、大丈夫だよ。久しぶりにゆっくりしようか?」
「わぁーい!なのよー!」
普段は小生意気な性格のベアトリスもこの時ばかりは見た目に添うように喜びを表す。
「おーぉんやぁ?ベアトリスが居るとは珍しい。久々にわーぁたしと食事してくれる気になったとは嬉しいじゃーぁないの。」
「頭が幸せなのはそこに居る奴だけで充分かしら。ベティーはにーちゃと一緒にいたいだけなのよ。」
ぬっと現れたピエロの様な奇妙ななりの男がそんな事を言えば、ベアトリスは辛辣にそう返す。
「まるでピエロやなぁ。おもろいやっちゃのうあんた?......あんたがここの主人やな?」
「そーぉだよ。よくわかったねーぇ?私が当主ロズワール・L・メイザースだーぁよ。よろしくねーぇ。......ニシタニ・ホマレ君。」
茶化す様に言葉を綴り最後の一言で貫禄を感じさせる西谷に、ロズワールも最後の一言で切れ者と感じさせる雰囲気を醸し出す。
そして、会話もそこそこに食堂に通されて、席に着けば食事を始める西谷達。
「...うまいやんけ。なかなかのもんやなぁ。」
「んふーぅ、こう見えてレムの料理はちょっとしたものだよ。」
西谷はレムの作った料理に舌鼓をうち賞賛の声をあげると、ロズワールが誇らしげに言う。
「さて、ホマレ君。君はエミリア様の置かれてる状況をどの程度把握していーぃるのかーぁな?」
「そうやなぁ...何かの跡目争いかなんかに巻き込まれてるっちゅう事くらいやな。」
ロズワールの問いかけに対し、あまり深くは知らないと態度にしめす西谷。
「ルグニカ王国では、国王がお隠れになってから流行病で王族は全滅、今は次期王を選出してるわーぁけさ。そして、エミリア様は王候補の一人ってーぇ話なーぁんだよ。」
「なるほどの、それであの記章がその証っちゅうことか。」
ロズワールの説明に納得した様にうんうんと頷き、そんな言葉を返す西谷。
「つまり君は王候補の恩人なわーぁけだ。望みを言うと良い、褒美はなーぁんでも思いのまーぁまさ。」
「せやったら...ワシをエミィちゃんのボディーガード...つまり、護衛として雇ってくれや?」
更新が遅れて申し訳ありません。かなり難産でした。